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2016-03

夜を駆ける 5 - 2016.03.18 Fri

5
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


ヒロとアスラ5

5、
 当初、天上へ向かう種子島の宇宙港までの旅路を、ヒロはそう難しいとは考えていなかった。
 由良から渡された行程表どおりの道のりで、神戸港へ向かうまでは、順調だったのだ。
 それまでの地上の鄙びた山村での暮らしが、見慣れない巷の復興具合を見て、戸惑わせたのは間違いないが、生活すべてが機械で補われている天上の暮らしを知っているふたりには、まだ発展途上である街並が、どこか愛おしくさえもあった。
 
 ヒロとアスラは、神戸の港から乗るはずの船を何度見送ったかわからない。

 当初の予定通りに旅がいかなくなったわけは、由良から持たされた旅費が無くなったからだ。
 失くしたわけでもない。
 ただ街の片隅に佇む自分たちを同じような歳の子供たちが、ボロボロの服を纏い、生き延びる為に店で食べ物を盗み、警察に捕縛される場面に出会った時、それを無視できなかっただけだ。
 ヒロとアスラは彼らに同情し、持っていたお金で、食べ物や服を買い、彼らに与えたのだった。
 タカトはふたりの行動を知り、自分たちの仲間にならないかと誘った。
 ヒロとアスラはタカトの志を知り、一時的にでも彼らの助けになろうと決めたのだ。

 由良の言いつけを忘れたわけでもない。アスラの身体の事もヒロの頭から一時さえも消えた事はない。けれども、必要とされる力を懇願されたら、拒む強さも無かった。
 昔見た、映画のヒーローになりたかったのかもしれない。

 予定よりも大幅な遅れはあったが、タカトのおかげでヒロとアスラはなんとか鹿児島の志布志港まで辿りつける手筈が整った。
 ヒロ達が乗船するコンテナ船は中型のセミコンだった。
 はしけに繋がれた船を確かめたアスラは、案外に気に入ったらしくはしゃいでいる。
「あれの乗るの?結構面白い形してるね」
 確かにその船はデッキにクレーンも装備され、ランプウェイの付いたロロ船に近い形をしている。船体には大きく「鬼切丸」と示され、ヒロはその雄々しさに思わず笑ってしまった。
「見かけは古い割に面白そうだけど、船員たちの動きを見ていると隙が無い気がするな。アスラ、おまえを荷袋に入れて荷物と紛らわせるから、船内に入り込んだら俺が来るまでじっとしているんだよ」
「じっとしてるの、苦手だけど仕方ないね。その代り早く迎えに来てね」
 信頼の笑みを見せるアスラに、ヒロは力強く頷いた。

 コンテナには多くの密航者が忍び込むため、船員たちは用心深くコンテナをひとつひとつ調べながら積み込んでいる。だからヒロは作業員のフリをして、アスラを忍び込ませ、ヒロ自身は船がパージを離れた隙に、岸壁から船のハッチへ飛び移ったのだ。
 辺りは陽も暮れ、暗闇に紛れたヒロの姿に気がつく者は居なかった。
 思うよりも鼻腔を突く潮の匂いが、ヒロの神経を逆なでたが、「どうせすぐに慣れる」と、自分に言い聞かせた。
 ヒロの順応性は、特異能力のひとつかもしれない。
 どんな環境でもヒロの身体の機能は乱れることが少なかった。
 ヒロはそれが嬉しいも悲しいとも思わない。彼は望まれて生まれてきたには違いないが、奇跡のシロモノではないと、自覚していたので。

 ヒロはアスラを隠したデッキの隅の棚に近づき、アスラを荷袋から出した。
 ヒロの顔を見たアスラは、緊張した顔を弛ませ、両腕をヒロの首に巻きつけた。
「怖かった?」
「少しだけ…」
 ぐっしょりと汗を掻いたアスラを抱きしめ、「もう大丈夫だから」と、両頬を撫でた。
 
 ふたりが忍び込んだコンテナ船は鹿児島の志布志港を目指し、定刻通りにゆるやかに神戸港を出航した。

 予定通りの航行なら、二日後には鹿児島へ着くはずだ。それから種子島までは月に居る月華に連絡した後、定期船に乗り込めばいい。
 きっと月華は怒るだろう。このひと月の間、何も連絡をしていないのだから。
 由良じいはどうしているだろう。具合が悪くなっていなければよいのだけれど…
 天上に居る燿平はまだ眠ったままなのだろうか、それとも目を覚まして由良じいの事や俺達の状況を知ってしまっただろうか…。
 早く天上へ行かなきゃならないのに、燿平の事を考えると、心が重くなる。
 一刻も早くアスラを天上の医療施設へ連れて行かなきゃならないのに…。

 積まれたコンテナの片隅で持たれるアスラの体重を愛おしく思いながらウトウトとしていたヒロだったが、ふと抱きしめたアスラの身体が熱い事に気がついた。
 アスラの呼吸が乱れて、ぐったりとしている。
 水筒の水を飲ませてやるが、アスラは「大丈夫だよ」と、力なく呟くばかりでどう見ても重症だ。
 どこかで休ませてやらなければならない。出来るなら安全に休める温かい部屋のベッドに寝かせてやりたい。
 二日分の水と食料は持っていても、デッキの上では身体も冷えるばかりだ。
 ヒロはアスラを背負い、船内への階段を探し、空き部屋を探した。
 
『ヒロ、誰か来るよ…』
 アスラのテレパシーがヒロの頭に聞こえてくる。
 人の気配ぐらいわかってはいるが、この場合どうみても非常事態だろう。
 この船の船員の誰かに少しでも良心があれば、子供ふたりの密航ぐらい許してくれないだろうか。そんな甘い世界ではないことぐらい、わかってはいるのだけれど…

 くそっ、PSI能力があれば、もっと楽に片づけられるのに…。中途半端な特殊能力なんて、役にも立たない。

 ヒロは堂々と人影のある方に歩いた。
 船員はふたりの子供の存在に驚き、すぐに捕獲した。
 デッキに連れ戻されたヒロとアスラは五人ほどの船員に囲まれたが、どれも一目ありそうな面構えでとにかく人相が悪い。
 しかも各々の腰に拳銃やナイフが見える。

「どうした。海に出たばかりだぞ。なんか起きたか?」
 一番奥から体格の良い髭面で強面の男が歩いてきた。
「親分!子犬?いや、鼠が二匹忍び込んでいたんでさあ。潰してやろうと思ったんですが、あんまり小せえので、どうしたもんかと」
「こっちのガキは見慣れねえ髪と肌の色してますぜ。人買いに高く売れるかも」
「ばかやろ~。今更人の道に外れるようなしちめんどくせえことはするなって親分からさんざ言われているだろうがよお~。海に投げ込んでしまうのが一番てっとりばえぇ」
「でもこっちチビ、具合が悪そうだぜ?」
「知るか!密航した奴らに同情はいらねえって親分が口が酸っぱくなるぐれえ、言ってるじゃんかよ」
「うるせ~、親分親分言うな!俺たちゃ、もう海賊じゃねえんだ。お上にも認められたいっぱしにコンテナ船のオーナーさまで、おまえらは船乗りなんだからよお。俺の事は船長って呼べって言ってるだろうが!」
「「「はいっ。船長!」」」
 どうみても船長というガラではないのだが、ヒロは親分と呼ばれた男の顔をじっと見つめ、取り敢えず自分たちの敵ではないと理解した。
 恐ろしい程の悪人面だが、滲み出るオーラは澄んでいる。
 昔、由良じいはヒロとアスラに「身の危険を感じた時、相手の人柄を見極めることは、大切な事だ。その際、見かけは大した問題じゃない。法に従う者でも、自分にとって敵となる者もいれば、悪行に生きる人間でも心底悪い奴かどうかわからないからね。幸運なことにヒロもアスラも感応力がある。自分にとって味方か敵か、決して見た目で惑わされてはいけないよ」と、教えてくれた。その時のヒロは、見かけが綺麗なら心も綺麗なはずじゃないのかな…と、思ったものだが、郷(さと)を出て、タカトたちと暮らしたひと月で、随分と物の見極め方を学んだものだ。
 「知らないものを知る意義は自らの活力を高める事にある」と、由良じいは言ったが、この危険極まりない事態の最中、そういう悠長な気分にはなれそうもない。
 そう思ったら、なんだか可笑しくなった。

「なに笑ってやがる、チビども」
「いや、なんか、ガラが悪い割に、みんなイイヒトそうだから、少し安心したんだ」
「いいひと?俺達が?…だとよ」
 全員が品の無い声で笑った。
「そう、見た目で判断しちゃいけないって、養い親から教えられてるんだ。それに俺達はチビどもじゃないよ。俺は葛城ヒロ、十七歳。こっちは由良アスラ、もうすぐ十五歳。俺たちは天上に行く為に種子島の宇宙港まで行きたいだ。タダ乗りで黙って乗船してたのは悪いけれど、持ち合わせのお金がなかったんだ。今はお金が無いけれど、天上の月のコロニーには家族がいるから、必ず船賃は払います。この子が、アスラが…病気なんだ。どうか、彼だけでも休ませて下さい。頼みます」
 ヒロは親分と呼ばれている男に両手をついて頼み込んだ。

「…おめえら、天上から来たのか?」
「十年ほど前に…天上から降りて、北陸の山の里で暮らしていた。でも、アスラが…この子には天上のラボでメンテナンスが必要だって…。そうしなきゃ…」
 この先、アスラの身体がどうなるのかさえ、俺にはわからない。ただ、こいつの笑顔だけは、守りたいって…ずっと俺の隣で笑っていて欲しいって願うから。
 その為なら俺は…

 親分は腕組みをしたまま考え込み(多分フリだけだろう)他の船員たちに「おい、このチビは病気だとよ。こんな可哀想なガキを海に投げ出せる奴はいるか?まあ、三倍分の船賃は当然頂くものとして、港まで載せてやれねえわけもねえ。なあ、、皆」
 親分の言葉に船員たちはしぶしぶと「しょうがねえな~」と、言いつつ、各自背を向けてデッキから消えて行く。

「ほんとに?本当に載せてもらえるんですか?親分」
「船長と呼べ。まあ、仕方ねえさ。天上に行きたいなんて、変わり者、ほっとくわけにもいかねしな。それに…おまえら、能力者だよな。それもそれでようよう生きにく世の中だよなあ~」
「船長…」
「うちの船には船医が居るから、そのガキ、見てもらえ。まあ、五日間の船の旅だが、楽しむといいさ」
「五日?」
「そうさ、この船は一旦志布志の港に貨物を卸すんだが、そこから種子島まで別の荷物を輸送する予定だ。おまえらはついでの荷物って事にしてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「運賃ははずんでもらうぜ」
 そう言ってブリッジに帰っていく船長、冨樫十蔵の大きな背中にヒロは深く頭を下げた。

 由良じい、やっぱり世の中棄てたもんじゃないね。こんなに良い大人だっているよ。
 きっと、あの人は俺とアスラを導くひとりになるよ。
 そして、俺はきっとあの人を救うことになるよ。
 そんな気がするんだ。



夜を駆ける…4へ /6へ

そう、そんな気がするだけ…
いやいや、あと、三回ほどで終わる予定だし~
次回は親分との会話中心だろうね、きっと…そんな気がtね


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02:45 - 2016.03.15 Tue


02:45


「ハルくん。実は俺、好きな奴が出来たんだよね。だからさ…悪いけど、ハルくんとは別れるね」
と、笑顔全開の顔であっさり言われた。
俺は余りに突然な事で、固まったまま動けなくなった。
口はポカーン、目は瞬きを忘れた。
開いた口が塞がらないとはこの事らしい。
ミナトに対しては大概の事なら饒舌になるこの俺が、何の言葉も出ない。
つうか…突然すぎるだろっ!それはっ!
昨日までは上手く行ってたはずだろっ?俺達。
…ま、待てよ。そう思い込んでたのは俺だけ?って、世間一般に聞く…あ、あれか?
熟年離婚?
…熟年って歳でもねぇし…

「わ…かれるって…なに?…好きな奴…って…ミナト…嘘だろ?」
自分の声の情けなさに別の俺が笑った。
「ホントだよ。俺、ハルカより好きな奴いんの」
笑顔を絶やさないまま、能天気にミナトが返した。
「…信じねぇよ…んなの」
「だって、ホントだもん」
「だ、誰だよ、そいつ…は」
「ジャーン!俺だよっ!ハルカくん!」と、突然目の前に現れた見慣れた奴。
「あ、アキラ!?」
「そうだよ」
「なんで?」
「だってね、ハルカよりアキラの方が楽しいし、優しいし、面倒見良いし、いつでも側に居てくれるし。ご飯も美味いし、掃除とか片付けとか、俺が頼まなくてもやってくれるし。それにね、車の運転もすげぇ上手くて、すぐに行きたいとこ連れてってくれんの」
「なぁ~。ミナトはさ、ハルカに気ぃ使うの疲れたって。俺の方が本音で付き合えるってさ。そりゃね、ハルカより俺の方が付き合い長いし、何よりね、ハルカみたいな気分屋とずっと一緒じゃ疲れるもんな、ミナ」
「うん、そういう事で、ハルくん、ゴメンね。ああ、バンドは俺もアキラも今まで通りちゃんとやるから心配しなくて良いよ」
「じゃあ、俺達これからちょっと夜のドライブでも楽しんでくっから」
「バイバイ、ハルくん」
「…ち、ちょっと…ミナトっ!」
嘘だ…嘘だろ?こんなの…絶対…嫌だーっ!


「待てって!ミナっ!」
…自分の声で目が覚めた。

夢だ…夢だったんだ…と、理解するまで数十秒…呼吸が正常に戻るまで数分かかった。
ベッドの上、まだ半分寝ている身体を起こす。
身体中汗でびっしょり濡れていた。身体だけじゃねぇ。顔も…涙でぐしょぐしょになっていた。
「なんて夢…見んだよ…」
最低最悪の気分だった。

夢は自分の深層心理を描くものとは聞いた事あるけれど、あれが俺の心の中に潜む形だとするなら、俺は心のどっかでミナトの事を疑ったりしているんだろうか…。
…選りにもよって相手が…「アキラ…って…なんだよ」
冗談にも笑えねぇぐらい…「リアルじゃんかっ!」
それに、その内容ってのが…全部が全部、俺がいつもミナトとアキラに対して思ってるわだかまりや僻みや卑屈さそのものであって、それは全部真実であって…そこを突かれたら、俺はひと言も反論できねぇ気がする。

「夢なんだし…気にすんなって」無理に笑ってみた。
乾いた笑いが暗闇に消えた。

今、何時?と、時計を見る。
午前二時…過ぎ…まだ夜は長い。

仕方なくベッドに横たわる。
眠れるはずも無い。
ミナトは…どうしているんだろう。
寝てるか、普通…。それともどこかで誰かと飲んでる?いや、明日も朝から仕事だからそれはない。
まさか、アキラと…?
おいおい、考えすぎだ。疑り深いのも度を過ぎると嫌われるんだって。

…今日、なんか変わった事あったか?
…いや、なにも…ねぇだろ…笑ってサヨナラした。

「アキラ、送ってよ」って、ミナトが言った。
「おまえ、いっつもそうやって買い物まで付き合わせるじゃんか」
「いいじゃん。アキラもどうせ買うじゃん」って、じゃれながら帰るふたりの後姿を見送った。そん時は…そうか、今日もあいつら一緒に帰るのか…ぐらいにしか思わなかったのに…。

こんな夢見るって事は案外重く引っかかってんだな、俺。
…いや…引っかかってるどころじゃねぇよ。
引き摺ってんじゃねえか。

ミナトに会いてぇ…

焦りが感傷に変わっちまうのは造作もない事だった。
こうなってしまったら、自分自身でどうしようもないのも、判っている。

枕元にあるはずの携帯に手を伸ばす。
無い…無い?どこやった?…あっ、リビング。
そういや風呂入った後、直行でベッドに潜り込んだんだっけ…

携帯を探しにベッドを降りる。
ドアに向かうつもりで大股で踏み出したら、脱いだまま、放り投げてた自分の服に足が絡まって…見事にすっ転んだ。ついでにドアノブに頭までぶつけた。
「…いっ…てぇ…」
足と頭を抱えて、痛さを堪える。
涙が出そうになった。
「何やってんだ?」
…俺は馬鹿か…情けないにも程がある。
くだらねぇ夢見たぐらいで、ひとりで落ち込んで、泣いたりして…こんな男、ミナトだって呆れて捨てたくもなるさ。
「ミナ…」
這い上がってやっとの事でリビングに辿り着く。
テーブルに置いた携帯を手に取る。
ミナトの番号を見つけて、通話ボタンを押す。

こんな時間に傍迷惑な事ぐらいわかってる。馬鹿にされる。呆れられる。
駄目な男だって笑われる。
…わかってるって…でも…我慢できねぇの。
ミナトの存在を確かめなきゃ気が済まない…

…早く、出てくれよ、頼むから。
涙混じりの鼻を啜る。
「ミナ…」
呼び出し音は鳴り続ける。
…居ないのか?もう、俺なんか嫌いになった?ねぇ、ミナトっ!
…プツ…画面表示が通話中に変わる。

『…い…』
「…ミナト?」
『…か…ん?…ど…した?』
「ゴメ…寝てた…よな」
『…ん…』
緩い空気が纏うミナトの寝ぼけ声を聞いて、馬鹿みたいに安らいだ。

「家に…居るの?」
『…そ』
「ゴメンな、夜中に…」
『う…ん…あっ、今何時?…二時…半…か…どしたの?ハルくん』
少しずつ覚醒していくミナトの声を聞いていると、無理矢理起こしてしまった事に申し訳なく思う気持ちと、どうしても確認しておきたい欲求が止められなくなって…
「え…アキラは?」
『へっ?アキラ?…さぁ…家に居るんじゃない?何?ハルくん。アキラに用事だったの?…えっ?俺んちと間違えた?』
「ば…違っ…」
下らな過ぎて、もう説明する気にもならねぇんだけれど、馬鹿みたいに安心しちまったから…すると、急に目の奥がジンとしてしまい…
『ハル?…ハルカ、な、なんかあった?』
普通じゃない俺の様子に、ミナトが慌てた声を出す。
違う…違うって、只のひとりよがりなんだって…下らねぇ嫉妬心なんだって…
『大丈夫か?…俺、行こうか?ハルんち』
「ち、ちが…違うの。夢…見ただけなんだ…って話なんだけどな」
『夢?』
「ん」
『どんな?』
「…」
どんなって…おまえが浮気したんだよ、アキラと。そんで俺と別れるって…そんなの言えねぇし…

「なんでもねぇの…ただちょっとさ。ミナトが恋しくなったって…ね」
『ホント?』
「うん」
『そうなんだ…俺もねぇ、夢見たよ。今さっきまで』
「へぇ、どんなの?」
『フフ…あのね、ハルくんとね、飛行機乗ってんの』
「飛行機?」
『うん。ほらジブリのさ「紅の豚」にあったじゃん。二人乗りのプロペラ飛行機みたいなさ』
「わかる」
『そんでさ、地平線見ながらすっげぇ飛んでるの。夕焼けがすげぇの。真っ赤でさぁ…でさ、俺が前でハルカが後ろに乗ってね。気持ち良かった~』
「ホント?」
『うん。んでね、ハルくんさ、すげぇ笑ってたよ』
夢の場面を思い描いているのだろう。
話しながらケラケラと笑うミナトの声が、耳に響いた。
「…」

不思議だった。
俺がこんな悲しい夢見て落ち込んでるのに、ミナトの夢の中の俺はすげぇ笑ってたのかって思ったら、不思議で仕方なかった。
ミナトの中では、疑いようも無い俺が住んでいるのにね。俺はミナトを疑ったりして…罪悪感で一杯になる。

「ミナト、ゴメンな」
『えっ?何が?』
「いや…夜中に電話しちまって、悪かったね」
『別に、気にしてないけど。それより…さ…なんだか嬉しいよ。おまえ近頃忙しそうだったし、あんま…連絡くれなかった…からさ』
「ん…」
そうかも知れない。
忙しさにかまけておまえの事、気に留めてなかったのかも知れない。
いっつも一緒に仕事して、当たり前のように側に居るのにな。
「恋人」としてのおまえの事を大切に思う余裕が少なかったのかも知れない。
ああ、だから熟年離婚か…

「思いやりは大切だよ」なんかちょっと前に、ミナトがそう言ってた気がしてきた。
ああ、あれは俺に対する牽制の意味が込められていたのかも知れない…ゴメン、気がつかなくて。全くもってデリカシーつうもんが欠けてた。
うん、マジ学習した。反省した。ほっんと悪かった。

「ミナト」
『ん?』
「今から行ってもいい?」
『えっ?こんな時間だよ?』
「かまわないし」
『寒いよ?』
「タクシーで行くから」
『明日…会えるのに?』
「今会いてぇの。ミナトが…恋しくてたまんねぇの」
『…じゃあ、すぐ来てよ。俺もね…ホントわね、ハルカの夢見たからさ…会いたくなっ…ちゃった…』
そんな飛び上がるほどに嬉しい言葉を貰う資格、今の俺にあるのかな。
ねぇ、ミナト。正直に言っていいんだよ。
おまえの事、本当にわかってあげてる?…頼りがい無くねぇ?うざかったりしねぇ?
俺、本当におまえに安らぎを与えてやれてんのか?

『ハルくん?…どうかした?』
「…ミナト、ありがとな」
『フフ…いいから早く来いよ。フトンあっためとくからさ』
いつもの柔らかく笑うミナトの声で、フトンに入らなくても心はあったまって…満たされてしまいそうになる。

ああ、早くおまえに会いたいよ。
顔見たら、すぐに抱きしめて一杯キスして、離さないんだ。
そんでめちゃくちゃ抱き合って、あったまろう。その時にバラすよ、夢の話。
だってね、人に話したら悪い夢は正夢にならないって、迷信かなんか知らねぇけど、聞いた事あるしね。
まあ、聞いたら呆れる事間違いねぇけどな。
反省の意味も込めて、情状酌量の余地ありって事にしてくれ。

「ミナト、好きだよ」
素直な気持ちを言葉にして、携帯を閉じる。
午前二時四十五分。
ああ、そうなんだ。
俺の見る夢はいつだっておまえの夢なんだと、気づかされた時刻だった。





久しぶりのハルカ×ミナトシリーズ。つうか2006年に書いてた奴。
ホワイトデーだったもので、うpしてみました~。
今じゃスマホなんだけど、携帯しかない時代だね。懐かしいね。
次週は絶対ヒロ×アスラを再開させるそ!



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