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2016-09

Assassin 3 - 2016.09.24 Sat

3
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理玖王4

3、
 あの日、私の目の前で起こった惨劇がどんなに私を壊しても、私は死ぬ事を許されなかった。
 降り続ける雨の中、私は焼け残った家屋をひとつひとつ覗いて、生存する者を探した。
 だが、生きている邨人など、ただひとりも見つけることが出来ず、見いだせたのは死者ばかりだった。
 皆、愛する者同士、互いを庇うように抱き合ったまま、横たわっていた
 私が守るはずの邨人の死は、悲しみよりも虚しさが募り、私は自分を責めた。
 せめてもの償いにと、林の奥にある村の墓場に穴を掘り、ひとりひとりの死者を丁寧に埋葬した。
 遮那の身体を沈める時、遮那の左手首の腕輪を自分のそれと交換した。
 父が私と遮那にくれた家宝のひとつだった。
 「己の身を守る護符として、大切にせよ」と、言った父の言葉は一体何の意味があったのだろう、と、それを握りしめ、父を恨んだ。

「遮那、ごめんね、一緒にいられなくて…ごめん」
 何度も何度も私は遮那の遺体に繰り返し謝った。
 返事は無かった…

 全ての者たちの埋葬が終わったのは、あの日から五日を過ぎた頃だった。
 生きる為の食料は焼け残った土蔵の床下に隠されていたし、畑の井戸で飲み水は充分に確保できていた。
 このままこの邨に居て、仕事から帰らぬ邨人や兄たちを待つ事は可能だった。
 帰り着いた彼らに事の詳細を話し、今後の行く末を相談するのが、残された私のするべき道だったのだろう。
 だが、私は怖かった。
 何もできずに、独り生き残った私を、彼らは決して許すまい。ならば、私はこの邨に居る事はできない。
 いっそ死んだ者として、一刻も早くこの邨から去るべきではないのか。
 どのみち無責任だと責められようと、私はこの邨を破壊した奴らと対峙しなければならない。
 だが、私は自信が無かった。
 この年までこの邨から一歩も外に出た事はないのだ。
 世間に疎い私が、世の人々に紛れて生きることができるのだろうか。

「兄さま…」
 私は首元のチョーカーを指で撫でた。
 ひと月前、長兄の紀威王が私に授けたものだ。
 紀威王は弟の龍泉王と真蔓王からの連絡を受け、急遽、彼らの仕事を助ける為に旅立つ事になった。
「思ったより事が難しい方へ向かうかもしれない。傾国の術は簡単にはいかない生業だ。すぐには戻れないかもしれないな。邨の事は理玖に任せることになるが、おまえももうすぐ成人なのだから大丈夫だな」
「はい、ご心配なく、兄上さま。どうぞ、心置きなく為されます様。御武運を」
 長兄は私を見下ろした後、ポケットから何やら取り出し、私の首に結んだ。
「このチョーカーはESPを増大させるものだ。いずれ必要になると思い、理玖の成人祝いとして渡そうと思ったけれどね」
「私の能力は乏しくて、あまり役に立たないと兄達も宇奈沙も言います。これを頂いたところで、皆の期待に応えられるのか…自信がない」
「自惚れるよりいずれのコンプレックスを持った者の方が、生き残る確率は高いものさ。理玖は何があっても生き残って、この邨を守るのだよ。手を下すのは私達で十分さ」
「…」
 紀威王は私を優しく見つめると「大丈夫だ」と、言うように肩を叩いた。
 私は何だかひとり前の大人の気分で、旅立つ兄を邨の門前で見送ったのだ。
 あれから、兄達の連絡は一度もないままだった。
 今、どこに居るのか、何をしているのかさえ、私は知る由もない。
 邨を守れなかった私を、紀威王はどんな目で見るのだろう…
 そう考えると、私は居ても立ってもいられなかった。

 遮那の墓に別れを告げ、陽が山陰に隠れると同時に、私は邨の門跡に深く頭を下げ、山を下りた。
 兄からのチョーカーと遮那の腕輪、そして父から授かった魔切だけが、私の頼るものとなった。

 急いで降りたものの、港街までは二時間もかからなかった。
 こんなに近場ならば、今までにいくらでも来る機会はあったものだと、少し悔やみはしたが、同時に人々の騒々しさは慣れない所為か、勘に触るものだった。
 繁華街の通りには屋台が並び、夕食の時間の為か、大勢の人が飲み食いを楽しんでいる。
 饅頭屋で饅頭を一つ買うと、店主が訝しげに私を観る。
「珍しい顔をしてなさるな。どこから来なさった?」
「…」
 私は急いで外套のフードで頭を隠した。
 自分が見えてないので、忘れがちになるが、金髪で白い肌の私の姿はこの地域では異人に見えるのだろう。

 繁華街を足早に抜けて海の見える港へ向かった。
 海の姿は邨の崖の上から、覗くことはできたが、こんなに近くで本物を見るのは初めてのものだから、少し胸が騒いだ。
 波音は静かに私の耳に届き、慣れぬ潮の香りに何故か涙が出た。
 もう、邨に戻る事はできまい…。
 この海を渡って、どこかに行かなくてはならない。

 守り役の宇奈沙は、この世界の事を様々な様式を持った国が沢山あるのだと教えてくれた。
 幼い頃、邨の暗殺者たちの仕事ぶりを、宇奈沙は物語を読むように私に語った。
 一度たりともしくじることもなく、暗殺者たちは完璧な仕事を熟してきた。この忍宇海の邨は永遠に語り継がれるものとなる…と、何度も言った。
 しかし、旅から戻った邨人にこっそり世間の話を聞いたりすると、世界はこの邨と比べようもない程に発達し、目が回る程の速さと支離滅裂に彩られていると言う。
 よく理解出来なかったが、彼らの話を聞く度に、邨を出て旅をするその日が待ち遠しくなったものだ。皮肉なことに、こんな風に邨を離れることは望んではいなかったものに…
 
 宇奈沙が井戸の中の蛙を知らないとは思わない。
 彼は自分たちの仕事を肯定したかっただけではないのか…と、思う事もある。
 金で請け負う暗殺者など、誰がどう見てもロクでもない商売だ。
 だが私は忍宇海の邨を、邨人達を愛していた。
 彼らの望む強いアサシンになりたかったのは、事実だ。
 
「こんなところで迷い子かな?」
 不意に肩を叩かれ、振り向くと、初老の男が立っていた。
「親御さんは?…まさか、独りなのかい?」
 優しげな顔をしたその男だ。
「あの船はどこに行くのか、知っているのか?」
 港に接岸する船舶のひとつを指差して尋ねてみた。
「ああ、手前の船はインド洋を回って、ペルシア行だ。向こうの奴は日本海を横断してロシアに行く船だな」
「…」
 インド洋、日本海、ロシア…。私には耳慣れない言葉だった。

「あの船は貨客船だな。おまえさん、船に乗って外国にでも行くつもりなのかい?」
「そのつもりだ」
「旅券(パスポート)は?旅券を持ってないと、外国船には乗れないんだよ」
「…」
「うむ、仕方がないね。あんた、金はあるかい?」
「一応持っている」
「少し高くつくが、すぐにパスポートを作る手立てはあるよ。正式に申請するとなると、一週間はかかるがね。どうするかい?」
「出来るなら明日にでも、ここを出たいんだ」
「じゃあ、決まりだな。儂に付いてきな。巧い偽造屋を教えるよ。ついでに今晩の宿屋も紹介しよう。なあに、大したサービスはできないが、腹が膨れるもんぐらいは出るさ」

 私は何も言わず、頷いた。
 男は嬉しそうに笑って、手招きをする。
 闇に消えそうな港の向こう、狭い路地裏に向かう男の足取りは軽い。
 私は澱んだ足取りで、その背中を追った。
 路地裏の入り口には、化粧の濃い女が煙草を吸いながら立っていた。
 女は私を見ると、何の興味もない様に後ろを向いた。

「こっちじゃよ」
 再び男が愛想笑いで手招きをする。

 通りの端の錆びた赤いカンテラが、潮風に揺れていた。




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もうちょと早く更新できたらなあ~。頑張らねば…

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Assassin 2 - 2016.09.13 Tue

2
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理玖王9-1-1
 
2、
 忍宇海(おしうみ)の邨(むら)は、海に面した険しい丘陵の峰にある小さな集落だ。
 地形が不便で交通手段が少ないことから、人の行き来はなく、崖下の海沿いの街のにぎわいとは無縁の土地だ。
 ただ、ある目的の為にこの険しい道を越えて、忍宇海の邨を尋ねてくる者が居る。
 彼らの願いは「敵への仕打ち」だ。
 敵はあらゆるものを指す。
 単なる敵打ちから始まり、スパイ活動を得ての混乱の発端、国を滅ぼす為の手立て、邪魔者の暗殺。
 それに相当する金銭のやり取りが為され、請け負った契約は必ず執行される。それは時を経て忍宇海の名を闇に広めていく。
 忍宇海の邨はそうやって生き延びてきた。
 二百人ほどの邨人は、それぞれに何かの技に特化し、その多くは暗殺に関わる技だった。
 仕事はひとりで担う場合もあるし、数人のグループの協力で成り立つ事もある。
 どちらにせよ、彼らは日々の鍛練を怠らない。

 しかし、毎日暗殺や革命の請負があるわけでもなく、日々の多くは農耕に従事する。
 田畑を耕すには厳しい土地柄でもあるが、彼らは苦労を厭わない。
 高低差のある棚田や痩せた土地を必死に耕し、邨人は尽力し、どうにか餓えないほどには実りを得ることができた。
 
 私は赤羽(せきは)理玖王、間も無く十五歳になる。
 その日を迎える時、この邨の十代目の長(おさ)になる決まりだ。
 私にはそれぞれ母親が違う三人の兄と、弟がひとりいる。
 長は婚姻することはなく、勧められた邨や街の女と交わり、子供が生まれたら、長の家に引き取り、世話人が子供を育てる仕組みだ。
 しかし、私の母は些か珍しい外国の女だった。
 父の千寿王長が、旅の途中で母と恋仲になり、邨へ連れ、そして私が生まれた。
 母は異国の民であった為、白い肌に金色の髪と橙色の瞳だったと言う。
 物心つく前に、邨を出た母の思い出は、私の記憶にない。
 私の見目は他の兄弟とは違い、髪は金色、目は朱に近い蘇芳色をしている。きっと母の血を濃く受け継いでいるのだろう。
 邨人のほとんどがモンゴロイドの特徴を持ち、黄色の肌に黒髪、黒目の姿だった為、私は幼い頃から、周りとは異なった見目に殊更コンプレックスを抱いていた。
 見目だけではなく、私には暗殺者としての精神が欠けていた。
 世話人の宇奈沙は「理玖王さまはお優しすぎます。それではアサシンとしての仕事など務まりません」と、何度も私を叱った。
 私は自分が優しいとは思った事は無い。ただ、暗殺者に必要な狩猟も武術も呪術も嫌いなだけだった。
 私の望みは平穏に生き延びる事だ。
 父はそんな私を不憫に思ったのか、特別に目を掛けてくれた。多分、母への想いが私に注がれたのだろうと、私は考える。
 そうでも思わなければ、取り柄の無い私などが、長の後継者に選ばれるはずはないのだから。
「理玖はとりわけ姿形が美しい。それは人を引き付ける為の最も必要なカリスマだ。長になったら神子のように尊かろう」
 父が私に何を求めていたのかはわからないが、暗殺者の首領としたならば、かなりのロマンチストと言えよう。

 暗殺者(アサシン)の邨として、生き残る為の厳しさは想像するに難しくはない。
 仕事とはいえ、命を落とす者も少なくなく、それは私達、長の子供も同様だ。
 上に立つ者は、命を賭してでも、下の者たちを守らなければならないのだ。
 よって、後継者は多い方が良い。
 私が長より後継者の地位を授けられたのは十歳の時だが、兄たちは不満を口にしなかった。
 私が死んだら、次は彼らの誰かがこの責務を担うのだ。
 それは誰しもが望む高座などではなかった。

 長兄の紀威王とは十歳、次兄の龍泉王は七つ、三男の真蔓王は六つも離れているためか、私には少し遠い存在に思えた。
 彼らはとても頼もしく私を可愛がってくれるのだが、強引さや高圧的な物言いに、私の卑屈さは増していくばかりだった。
 兄達と狩りに行く時などは、彼らの当たり前の残酷さに私は疲弊してしまう。
 それが私の弱さだと受け入れる事は容易ではなかった。
 命のやり取りは悪とか善ではなく、目を瞑るか、真実を見つめる事が出来るのか…のような気がする。
 邨の食糧事情の為には野兎や鹿、また家畜を育て食べるのは必定であり、最低限の生活を続ける為には、技を持った者たちが、契約により他国で暗躍するのは仕方のない現実だった。
 守る為に他人を殺す事の正当性はなくとも、事実、我々の邨が契約した国や人の滅亡により生き永らえて来たのは叛けてはならない歴史だった。

 過ぎゆく幼い時の中、もっぱら私と共に過ごしたのはひとつ違いの弟、遮那王だった。
 物心つく頃より遮那は私と暮らし、お互いが足りない何かを求め合うのは、自然の成り行きだったと思う。
 何時の時も、遮那は私の後を必死で追った。
 少し大きくなると「おれが兄さまを守るんだ!」と、息巻いた。
 実際のところ、遮那は私よりも過酷な修行を自分に課し、少しでも私が苦痛に思えるものは、進んで自分が請け負っていく性質(たち)に育ってしまった。
 私としてはもっと自分の事を考えて欲しいと願ったのだが、遮那は「兄上の為に生きるのが、遮那の幸せなのだ」と、満面の笑顔で言い放つから、私もそれに甘えてきた。

 遮那と契りを持ったのは、遮那が十二になった日だった。
「十二のお祝いに欲しい?」と、尋ねたら、遮那は「兄上に抱かれたい」と、いつになく真面目な顔をする。
 私は少し困惑したが、そうなる事は前から覚悟していたから、一面に咲く菜の花畑で遮那を初めて抱いた。
 遮那は「こんな風に兄上に愛されるのを、ずっと夢みていたんだ…」と、私の胸で泣いた。
 日頃、私の盾となり前を歩く強気の少年が、目端に涙を溜め、熱い眼差しで私を見つめるのだ。邪見になど扱えるものか。
 ああ、遮那はなんていじらしくも愛おしい子なのだろう。
 この子の為なら、私は命を賭しても惜しくないとさえ思った。
 私達は一生涯、互いの傍から離れたりしないと誓った。

 その半年後、仕事に向かった父、千寿王が急死したとの一報が邨に入る。
 事の次第は一切わからず、父の遺体も見つからなかった。
 個々の仕事の内容は仲間内でも聞かされることはない。
 誰もが怖れる闇の「死神」は、誰にも知る事もなく、ただの「死者」になったのだ。

 長の居なくなった邨に不安が広がった。
 三人の兄たちは、頼りない私に代わり、邨を先導していくことになった。

 顧みるに、それが悲劇の始まりだったのかもしれない…。

 いや、すべては私の宿命が招いたものだったのだろう…。




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暗い…まあ、暗殺者のお話なので明るいわけにもいかず、ずっとこんな調子ですかね~
この子はまだひよっこなので、これから段々と大人になっていくつもりですけど、かなり歪んた方向へ行きますね、きっと。



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イラスト行程 - 2016.09.02 Fri

久しぶりにトップ絵を頑張ったので、そのイラストの行程を載せます~

まずは下書き
紙に描くことも多いけど、今回はSAIで。
イールがけだるげにベッドに横たわる雰囲気で。

イール表紙1

ここまで下書きがきっちり出来てると、後はかなりスムーズに行きます。

イール表紙1-2

今回は線画を描かずに、厚塗りにしてみました。
線画は線画の良さがあり、私も線を強めにした絵は大好きですが、厚塗りの重い感じも大好きです。
どっちが難しいとかはありません。どっちも難しい~

イール表紙1-3
色は出来るだけ抑えめで、ポイントで印象的に。
イールは赤色が彼の色なので、帯はそれに。

イール表紙1-4

背景は雲にしようかと迷ったけど、そういやクナーアンって双子月だったと思って、咄嗟に描いてみた。
お互いをクルクル回りながら惑星クナーアンを回ってる感じなので、常に一緒。

イール表紙1-5

花は何にしようか~って考えたところ、そういや、イールとアーシュの家庭教師セラノが死んだ時、睡蓮の花に蘇らせたのを思いだし、それにしてみた。

イール表紙1-7

ほぼ完成なんだけど、夜なのにちょっと明るすぎなので、影を入れてみた。
なんとか夜っぽくなったかな~

絵を描くのは楽しいけど、やっぱり終わりがないというか…センスや才能の限界を感じながらも、描き続けることが大事だと思って続けております。

これからも精進ですね。



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