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2017-01

Assassin 11 - 2017.01.23 Mon

11、

「ほら、あれがこの学園の中心に建つこの街で一番古い聖堂。その向こう側にこの街一番の巨大な図書館がある。まあ、サマシティはこの天の王学園を中心に栄えた街だから、いわばサマシティの縮図みたいなもんさ。年代物の宝庫だよ」

 私の前を歩く男が、世を震わす稀代の魔術師、アスタロト・レヴィ・クレメント…。
 この男を美少年だと豪語した弦十郎の記憶よりも、年嵩に見える。長兄とまでは言わないけれど、次兄と三兄ぐらいには見える。だが背丈は兄達よりも高い。
 極上の布地に仕立ての良いコート、よく磨かれたブーツと赤いマフラー。
 眼鏡を掛けて地味に見せているが、「普遍的な美」と言う造形に、私も異論はない。
 彼は必要なだけの愛想を振りまきながら、私を案内する。
 初めて会う私にも、緊張は見せてないし、何かを疑う気色は見当たらない。
 
「そんで右側が養護院と初等科。左が中等科に高等科。それぞれに学生用の寄宿舎と食堂と教員宿舎が整っている。ところで、君幾つ?」
「え?…十五」
「じゃあ、高等科志望だな」
「…」
「うち、結構、レベル高いから、沢山勉強しないと受からないよ。と、言っても学長である俺のコネがあれば、誰も文句は言わないけどね」

 学校の事を聞かれても私にはわからない。
 長の息子に生まれた者には、専門の家庭教師が居た。
 沢山の知識を学んではいたが、孤独だった。
 それを恨んだことは一度も無いけれど…
 そんなことより、この学校の景色はどうだ。
 建物や校内の広さと大きさにも圧倒されるが、何よりも清潔だ。
 足元の石畳は、彼の言う聖堂へと一直線に伸び、両側に並んだ街路樹の黄金に紅葉した木々が、時折射す日差しにトパーズのように輝いている。
 見惚れている私に気づいたのか、アスタロトは「気に入った?ここは魔力が強いから、木々も他よりも落葉が遅いらしい。季節に怯えないんだよ。だが誰もが自然には逆らえないもんさ。枯葉の寝床も充分に用意がある。お客様にはとっておきの場所を教えるよ。こちらの方が近道なんだよ」と、言いながら、石畳の道を離れて、林の方へと案内する。
 生徒たちが残したであろう路を歩くアスタロトに、不審な所など見当たらない。
 やはり彼は私を只の見学者と認識しているのだろう。

 私はアスタロトの後ろを付かず離れずの距離を取って歩いた。
 近づきすぎて私の考えを読まれでもしたら、元子も無いし、かといって、腰に隠した「魔斬」でいつでもこの男を殺せる距離にいたい。

「さっき、養護院って言ったけど、俺、赤ん坊の時この学園の門に捨てられたんだって。で、先の学長に拾われて、養護院で育ったんだ。ここは親を知らない子供も多い。君、親御さんは」
「…母はいません。父も…先日亡くなりました…」
「そう、兄弟は?」
「…」
「まあ、それぞれ色々な事情があるものさ。複雑な生い立ちほど、自分を助ける魔力は強かったりする者も多い。勿論使い方次第だけどね。そうそう、この『天の王』の養護院に世話になるには、それ相当の魔力が必要でね。俺は『天の王』始まって以来の天才魔術師だから文句なしの優等生なんだぜ。で、君は魔法は使えるのかい?」
「…多少は」
「そう。でもさ、まだまだ全然使いこなせてないね。『天の王』で本気で学びたいのならともかく、俺を殺しに来る腕前じゃあない…ぜ…」
「!」
 私はアスタロトの言葉が終わる前に、「魔斬」の鞘を抜き、奴の喉元を目がけて飛びかかった。
 私の正体を気づいた驚きよりも、暗殺者としての本能が動いたのだ。

理玖王78

 
 足元の枯葉が木々の間に激しく舞い上がった。
 私は身を低くして、次の姿勢を取る。
 手ごたえはあった。
 次に見るのは、首の無い奴の身体だけのはずだ。

「…ったく、これだから、出来の悪いガキは嫌いなんだよ。なんだってこう、乱暴者なんだろうかねえ~。躾がなってねえ」
「……」
 私は顔を上げて、奴を見た。
 アスタロトは、なんでもなかったように同じ場所に同じ姿でただ立っていた。
「折角のお気に入りのマフラーを台無しにしやがって。おい、赤羽理玖王、どうしてくれるんだ!」
「…」
 赤いマフラーの切れ端が、奴の前に落ちている。
 そ…そんなバカなことがあるのか?
 私の「魔斬」が狙ったものを外さないわけがない…。

「そんなびっくりした顔しなさんなって。君を見た時からわかっていたよ。だって、殺すオーラ出まくりだもん」
「ど、どうして私の名を?」
「どうしてって…。あのな、俺を見縊ってもらっちゃあ困るんだよ。一応ね。この世界で一番のスーパー魔術師なんですよ。つうか、よく弦十郎は君みたいな危ないガキに惚れたもんだなあ。あの頃は金髪を毛嫌いしてたクセして、結局金髪の美少年に入れ込むんだからさあ。これだからショタ好きのおっさんは信用ならない。まあ、俺も君みたいな綺麗な子は嫌いではないんだがねえ~」
「……」
 
 私は自分の力をどこかで過信していた自身を詰った。
 父親や兄達をいつか越えていけるのだと信じていた。
 私は頂点に立つ者だと自惚れていた。
 だが、どうだ。
 今の私は、散らばった枯葉に跪き、魔切を持った右手は冷汗に濡れ、左手は恐怖に震えている。
 アスタロトが枯葉を踏みしめながら、這いつくばった私にゆっくりと近づいてくる。
 私は身動き一つ出来ないままでいた。
 遥かに凌ぐ者の存在に慄いていたのだ。

 彼は身動きできない私の眼前に腰を下ろし、眼鏡を外して、私を見下ろした。
「悪いが結界を張らせてもらったよ。校内で刀を振り回してもらっちゃ困る。運悪く見つかったら、生徒たちの格好のネタになるし、保護者も五月蠅いしね。君が思い通り動けないのも、俺の魔法の所為だよ。まあ、なんつうかさあ、俺を殺したいっていう理由が知りたいんだが…」
「…」
「全く見当たらない。君の邨を襲ったのは俺じゃないし、君の不幸も俺の所為じゃない。まあ、兄貴たちには幾らか恩があるけどね」
「兄…を何故知ってる?」
「三人とも俺を殺しに来たよ。次男と三男は一緒だった。その後、長兄がやってきた。先に来たふたりの方はマジに殺る気だったけど、色々諭したら、納得して帰っちゃった。長兄の方は…殺しより、お悩み相談だな。自分の生き方を迷っていた。ありゃ、アサシン稼業より、学者向きだね。そう言ったら、お礼を言って帰ったよ」
「…」
「なんつうかさあ、金で雇われた殺し屋に、俺が殺(や)れるわけないんだよね。だって憎しみも愛情もない殺意など、到底意志を全うできるわけがないじゃない。彼らは人の優しさを求めている」
「ち…がう」
「いや、違わないさ。君もそうだ。ホントはアサシンなんてやりたくない。殺し屋稼業の邨を憎んでいる。邨ごと無くなって、長(おさ)の重圧も無くなって、ホッとしてるってのが本音。でも死んだ者たちを報いる為に、嫌々敵を探してる。誰だっていいんだ。自分を納得させてくれる強い者なら、誰が敵であろうとも構わない。…という、とてもいい加減な目的で俺を殺しに来たところで、そんなもん成就するわけねえし」
「…」
 
 私は彼の顔を凝視した。いや、させられたのだ。
 人の子とは思えない美貌に、魂が震えた。彼の瞳の黒い宇宙に見える銀河に私は投げ込まれた気分で、眩暈がする。
 それでも私の眼は、彼から逃れられない。

 彼の手が、私の頬を包み、彼の指が、私の口唇を撫でた。

「俺を殺したいなら、本気におなり。憎しみだけでも呪いだけでも、俺は殺せないよ」
「わ、私は…」

 私の言葉を遮り、彼は私の口唇に、接吻をした…。

 彼は私に笑いかける。
「残念だが、君は不合格。『天の王』に中途半端なアサシンを入学させられない。君さあ、余計なお世話だけど、さっさと殺し屋なんぞ辞めて、弦十郎と仲よく幸せに暮らした方が良い人生になると思うぜ」

 身体の中の力と言う力が抜けていく。
 私には自分を支える腕も足もない。
 ただ、彼の足もとに這いつくばるだけの無能な子供でしかないのか…

 枯葉の音と共に、彼は私の目の前で立ち上がった。
 しかし、今の私には、彼を見上げる力はなかった。

「それでも、俺を殺したいと望むなら…君にチャンスをやろう。いいかい?俺は『愛』でしか殺せない。よおく意味を考えるんだよ。アサシンの赤羽理玖王くん」

 彼の言葉が遠く響いた気がしたが、私はそれ以上意識を留めることができなかった。





アーシュ秋


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なんというアーシュの美味しさ横取り~。
ここは描くのを楽しみにしてたのだが、案外難しかったよお~('ε`汗)


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Assassin 10 - 2017.01.10 Tue

10
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


  理玖王7-1


10、

 弦十郎と共に、シュテーンの街からサマシティを目指していた頃になると、辺りの風景は秋から冬に変わりつつあった。
 私もいつの間にか、成人となる十五歳を過ぎていた。
 忍海の邨が未だ世に在ったならば、新しき邨の長の為に、きっと華やかな祭りで私を祝ってくれたのだろう。
 二度と叶わぬ空事は、思うだけでも虚しさが募るものだ。
 そう呟くと、弦十郎は私の想いを汲むように、私を抱き寄せてくれた。
「俺じゃ役不足だろうけど、嫌じゃないならずっと理玖の傍にいてやるよ。少しは寂しさも減るだろ?」
 弦十郎の優しさに打たれながらも、私の心を占めるものは最早、あの男の事しかなかった。
 きっと弦十郎にはわかるまい。
 私には拠り所が必要だ。それがアスタロト・レヴィ・クレメントを殺すことなのだろう。
 何故なのかはわからない。
 何故こんなにも彼を求めてしまうのか…わからない。
 私は会う前からすでに、彼に惹かれていた。
 彼に会えば…
 彼が私を受け止めてくれたら…
 私は、今の私を変える事が出来るのだろうか。
 

 パリという華やかな街で、弦十郎は私の為に冬物の服やコートと、革靴を揃えてくれた。
「さすが、俺の惚れた男だけのことはあるなあ。なんでも似合って選ぶのに悩むよ、理玖」
「こんなにしてもらう理由などないのだが…」
「遠慮するなって。理玖の誕生日プレゼントだ。まあ、おまえが金に困っていないのは知っているけどなあ。あんまり身だしなみに気を付けてないというか…。せっかく美形に生まれついてるんだから、もう少し恰好つけろよ」
「恰好を気にしても、意味がないだろう」
「馬鹿だね。人は最初の見た目から判断するの。汚いより綺麗な方が、好まれる。好きか嫌いっていうのは、人の感性だろうけど、美しさは意外と不変なものだからね。理玖の見た目は誰もが美しいと認めるよ」
「『美』が特になるとは一概に言えまい」
「屁理屈じゃねえの。俺が綺麗な理玖を見ていたいってえのっ!」
 上機嫌であれやこれやと私のコートを選ぶ弦十郎を、私は嫌いではない。
 私を愛してくれる者が傍に居る安らぎは、敵を討つためだけの宿命を背負わされた私の重荷を、軽くしてくれる。

「それにな、サマシティってところはさ、見た目重視の街だから、理玖が甞められない為にも、身だしなみは大事だぜ」
 結局、私は弦十郎の勧めに従った。
 新しいスーツやコートは慣れるまでは少々窮屈に感じたが、オーダーで作った皮の靴は、今までの物よりも数段に足に合うものだったから、素直に礼を言うと、弦十郎は破顔しながら喜んでいた。


 サマシティに着いた夜は雪がちらついていたが、明け方には止んでいた。
 雪は残っていなかったが、曇天の暗さが気持ちを沈ませた。
 弦十郎は朝から商売の取引関係の客に挨拶に行くと、ホテルを出て行った。
 午後からアスタロト・レヴィ・クレメントのいる「天の王」学園に一緒に出向こうという約束だったが、私は独りで行くことに決めていた。

 店で地図を買って、街並を歩く。
 私の知らない街。
 何ひとつ縁も所縁もない、見知らぬ街。
 忍海の邨とはまるで違う。
 これまで旅した街とも、どこかが違う。
 なんというか…足元の煉瓦の歩道も並木道を走る車も出店も、ゴミひとつない清潔さを纏い、歩く人々は緩やかに柔和な顔で語り合い、笑いあっているのだ。
 こんなに安心しきった人の顔を、邨は勿論の事、他の街でも私は見た事が無い。
 何より、どんよりとした空にも関わらず、街全体を清冽な空気が満たしている。
 …
 アスタロトの所為なのか?
 魔王と崇められている奇談の魔術師のおかげなのだろうか…
 彼の統治が、街の人々を安心に生かせているのだとしたら、彼は街の者にとっては良い魔術師なのだろう。
 況や、力を持つ者とは、見る者にとって、正義にも邪悪にもなり得るものだ。
 だが、私は哲学者でも夢想家でもない。
 私にとって、アスタロト・レヴィ・クレメントは、殺す者…それだけなのだ。

 目的である「天の王」の学校は、私が想像するよりずっと広大なものだった。
 どこまでも続く赤レンガの塀に沿って歩いていく。
 相当な距離を歩いてやっと正門が見えてきた。
 締め切った門の中を覗いてみるが、高い建物があるぐらいで、先は果てが無い。
 ひとつの学校が、忍海の邨など歯牙にもかけない巨大さに私は面食らってしまう。
 一体どれだけの学生が、何の目的を持って、何の為に勉強をしているというのだろう。
 頑丈な正門は重く閉ざされ、高さも見上げる程にあったが、中に入り込む術は私には容易いものだった。
 だが、忍び込んだその先を、私が未だに想像できずにいた為、躊躇してしまう。
 偽の受験生として学校の見学希望を示し、校内に入る手筈は弦十郎と決めていたのだが。
 上手くあの男と出会うかどうかはわからないけれど、この中に入らなければ、私の望みは叶わない。

 通用門にある呼び鈴を鳴らそうとした時、ふと後ろから声がした。

「『天の王』に、なにか用事?」
「は…はい。あ…の、一度この学校を見学したくて…」
「へえ~、今の時期に珍しいね。ま、いっか。じゃあさ、学長である俺が自ら案内してやるよ」
「…」

 彼…アスタロト・レヴィ・クレメントは、運命の如く私の前に現われ、優美な笑みを私に投げかけ、そして、通用門の鍵を開け、私を門の中へと手招きする。
 私は吸い込まれるように、狭い通用門を潜り、彼の元へとゆく。




アーシュ背広
 

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明けましておめでとうございます。 - 2017.01.01 Sun

2017年、平成二十九年が始まりました。

今年も、イラストと小説共々、ぼちぼちやっていこうと思っていますので、よろしくお願いいたします。

まずは最近のお気に入り、髭切さんで。
というか、もう私の中では理玖王なんだけどね。

higekiri1-22.jpg

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Author:サイアート
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