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2017-02

Assassin 13 - 2017.02.25 Sat

13
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   理玖12

13、

 聖堂に向かう道沿いには、様々な屋台が並び、売り子の生徒たちがにぎやかしく、客との接待を楽しんでいる。
 皆なんて、活き活きと生きる喜びに溢れた眩しい顔をしているのだろう。
 彼らには悩みや苦しみなどは、無いのだろうか。それとも、この学園での生活が、そんな豊かな笑顔を作らせるのだろうか…
 こんな学園生活をせめて一度だけでもいいから、遮那に味あわせてやりたかった。
 私は邨長を継ぐ者であったにも関わらず、あの子に…いや、邨の者たちに、何かを与えようとか、生きる喜びを味あわせたいとさえ、思いつく事もなかった。
 どんなに後悔しても、すべては終わった事だ。
 今や何ひとつとして私に叶えられるものなどない…。
 況や…
 この地は私自身を否定するような現実で溢れかえっている。
 私には、サマシティという街が、この学園が私を追い詰め、排除しようとしているとしか、思えない…。
 それも私の卑屈な心根の所為か…

 聖堂の中は、大勢の人々で溢れていたが、誰もが聖堂の美しさに、ただ魅了されている様が伺えた。
 確かに素晴らしい内装だと感じた。
 古い歴史的な意味のあるものばかりだろうが、私に詳しい事は知り得ない。
 だが、他の欧州の国々の聖堂は、宗教的な押し付けがましさを感じるが、この聖堂は石で作られているにも関わらず、あちこちに黒檀や紫檀などの木材障壁が目立ち、なにやら柔らかい感じがする。何より聖人や聖母の像などはひとつとして存在しないことで、決まりきった宗教観を排している。しかし、モザイクや円形の魔方陣が意味の分からない数文字が至る処に存在し、何らかの魔力の存在が、思考を惑乱させる。
 一番目立つ正面のステンドグラスは、無限ループのようなモザイク螺旋模様が様々な色ガラスに嵌め込まれ、虹色の光に輝いている。
 光は大理石の床へと射し込み、そこに描かれた銀のラテン数文字を淡く揺らめきながら浮かび上がらせているのだ。
 この聖堂の魔力の力強さは一体…どこから来るのだろう。
 
 サマシティの街は時空の狭間だと聞いたことがある。もしそれが事実なら、この場所がその入り口であってもおかしくない。それ程の魔力が満ち溢れている。
 …
 アスタロト・レヴィ・クレメント…
 もしかしたら、あの男は…時空を超えた者…
 まさか?
 …
 馬鹿馬鹿しい。そんな者の存在など、聞いた事もない。

 その時、傾いた夕暮れの陽が西側のステンドグラスに差し込み、聖堂の中を覆い尽くしたのだ。
 あまりの神々しさに聖堂に集うすべての人々が、一声に感嘆の声をあげた。
 私は思わず目を瞑り、顔を伏せた。
 とてもじゃないが、この光を真面に受ける精神力など持ち合わせてはいない。

 私は急ぎ足で聖堂を出た。
 どうして…誰もあの光を怖れないのだろう。
 どうして、私だけが光から愛されず、闇の中で生きなければならないのだろう…
 私が望んだんじゃない。
 私は…
 私だって、「光」も「愛」も欲しい。
 あの男に…
 アーシュに…
 愛されたい。
 そう願うことさえ、許されないのだろうか。

 聖堂を出て、目立たぬ柱の角に倒れる様に座り込んだ。
 気分が悪い。
 きっとあの光に打たれた所為だ。
 吐きそうだ…
 アーシュにも会えないまま、ここを去るしかないのか…

「君、どうかした?怪我?それとも、気分が悪い?医務室に案内しようか?」
「…」
 おせっかい野郎…
 煩わしいと思いつつ、見知らぬ声のする方を見上げた。
 この地域では見慣れぬ…でも見慣れた東洋の顔立ちをした眼鏡を掛けた男だ。
「…誰?」
「僕はここの教師でスバルと言うんだけど…。君…え?」
「…」
「あ、ちょっと神也くん」
「なんだ?」
 こんどは後ろに居た少年、これも東洋系の顔立ちだ。
「この人、気分が悪そうなんだ。悪いけど、あっちの出店であったかい飲み物かなにか、売ってたよね。買ってきてくれる?」
「…わかった」
 その子はスバルとか言う教師にお金を貰うと、急ぐ様子もなく、出店の方へ向かった。

 これ以上、ここの者たちに関わりたくないと思い、私は立ち上がろうとした。
 だが、思わぬ眩暈に足元がおぼつかない。仕方なく私はその場にまた腰を下ろした。

「大丈夫だよ。何もしないから。…君、昨日、アーシュを殺そうとしたアサシン君だろ?え~と、確か、名前は理玖王」
「!」
「そんなに驚かないで。僕はアーシュに聞かされただけだよ。今日、ここに君が来るだろうから、相手してやってくれって…。まあ、なんというか、あいつはいつもそう。自分以外で事足りると思った事は、全部他の奴に押し付ける悪い癖があるんだ」
「…アーシュ…」
「アーシュに会いに来たんだね。でもアーシュは仕事で居ないよ。朝早く出てった。ああ見えて、色々と忙しないんだよ。ごめんね。とんだ場違いの僕で。でも、アーシュは君が東洋から来たことを知って僕にこの役目を回したと思うんだ。僕も、さっきの子、神也くんって言うんだけどね、彼もニッポン人なんだよ。僕はあちこちで暮らしていたんだけど、彼は純粋なニッポン生まれのニッポン育ちなんだ。気兼ねはしないでくれ」
「私は…アサシンだ。おまえ達の大事なアスタロトを殺しに来た殺し屋だ。それを親切にしてどうする」
「さあ、アーシュの考えてることは、僕にはわからない。ただね、アーシュは誰彼も、人には何かの役割があると言う。アーシュを殺しに来た君にも、大切な役目があるのかもしれない。それが君を許す理由」
「…」
 眼鏡の奥の茶色い瞳に、翳りはない。この男の言葉は、真実だと判る。

「スバル、これ」
 先程の少年、神也が紙コップと小袋をスバルに渡した。
「これは?」
「ココアを買ったら、おまけにクッキーをくれた」
「そっか、良かったね」
「うん」
 ふたり見合わせた顔は、誰が見ても信頼と愛情に溢れ、ふたりだけの充足な空気が漂っている。そんな些細な事ですら、今の私の乾いた心には虚しさしか沸いてこないのだ。
 醜い嫉妬でしかない。それを自覚することさえ、煩わしいのだ。

「熱いから気を付けて」
「そんなもの、いらないっ!」
 目の前に差し出された紙コップを、私は思い切り振り払った。
「あっつ!」

 ものの見事に熱いココアが、男の腕と顔に飛び散った。
 それを見た私は、ワザとではないこの出来事に、少しだけ気分が晴れ晴れとしたことは事実だ。

「スバル、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、大したことじゃないから」
 慌てるふたりを横目で見届けながら、私は立ち上がり、門へ向かおうと急いだ。
 その時、後ろから声が聞こえたのだ。

「待ってくれ、理玖王」
「…」
 私はゆっくりと振り返った。彼らがどんな顔をして、私に怒りを向けるのかを、知りたかった。
 神也と言う少年が、まっすぐに私を見ていた。

「心配しなくていい。スバルなら大丈夫だ。火傷もしてない」
「…」
「理玖王、おまえは何も悪くない。だから、おまえは、苦しむ必要などないのだ」
「……」

 澄み切った少年の声が、私の汚れた擦りガラスの魂を、粉々に砕いた。

 私は…醜い。自分の愚かさに反吐が出る。だが、そんな自分を捨てる事はできないんだ。

 わかっていた。
 ここは、私の居る場所ではない。

 私はもう二度と振り向くことはしなかった。




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やっぱり好きだなあ~ - 2017.02.16 Thu

月刊フラワーで「ポーの一族」の連載が始まったので、エドガーが描きたくなった。

私の絵柄なので似てないけどね。

エドガーコート

ちょっと気取って、背を伸ばし気味な世話焼きエドが大好きなんだよね。

エドガーとアランペアが見れるなら、絵柄がどんなに変わろうとも、ついて行くわ~。

バイバイ サンキュー - 2017.02.14 Tue

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栄嗣漣2


バイバイ サンキュー

ずっと片思いだった恋が成就した時、こんなに幸福でいいものかと、この世のすべての人達に申し訳ないくらいだったんだ。
ホントだよ。
僕の大学が決まり、栄嗣が高専の寮を出て、一緒に暮らそうって言ってくれた時も、夢見てるみたいに幸せで一杯だった。
お互いの家族も仲良かったものだから、「今流行りのシェアハウスね」と、栄嗣と一緒に暮らす事に変な勘繰りなど一切なかったね。
逆に僕達以上に、良い部屋探しに奔走する母親たちの様子を見て、栄嗣と僕は罪悪感で一杯になったりねえ~。
でもさ、僕は栄嗣とのふたり暮らしが、めちゃくちゃ楽しみだったんだ。

そして、僕と栄嗣のふたりだけの生活が始まった。

2LDKの間取りだから、お互いの自室があったのだけど、夜はどちらかのベッドに潜り込むのが当たり前になってたね。
SEXはお互い初めてだったから、試行錯誤の毎日で、気持ち良くなるまでに時間がかかったりしたけれど、がっつり嵌るのも早かったね。
けれど、ずっと抱き合ってばかりでいられるわけもない。
僕はそうでもなかったけれど、栄嗣は元々ゲイではないから、時が経つにつれて倦んでしまうのがわかってしまったんだ。

僕はずっと怖かった。
君が僕に厭きてしまう事に…。
あのまま、君に告白せずに、親友のままでいた方が良かったんじゃないかと…ずっと不安だった。
栄嗣は優しいから、僕の想いに応えたいって気持ちは真実だとわかっているけれど、僕は栄嗣の未来を考えたりすると、不安だらけでさ。

「好き」って気持ちと「このままでいいのか」って気持ちが、僕の中でずっと拮抗してたのも事実だよ。
だから、君から「教授からアメリカのM大留学を推薦されているんだけど、漣、どう思う?」と聞かれた時、僕は「栄嗣が後悔しないようにやればいい」と、答えたんだ。だって、それが君が欲しい答えだって思ったから。
君は少しだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに「ありがとう」と、僕の手を握るから、僕は泣きそうになりながらも、必死で笑い顔を作ったよ。


今日、ふたりで暮らしてきた部屋を出ていく君に、僕はどうしたら巧い言葉で送り出せるか、ずっと考えていたけれど、なんだか、胸が詰まって言葉が出てこないんだ。

「漣、これ…」
と、栄嗣が僕の前に小さな箱を差し出す。
「今日、バレンタインデーだからさ」
そうだった。
今日は、二月十四日だったね。

「覚えてる?あの日、あの丘で、漣とふたりで食べた事」
「覚えてるよ」
「そのチョコを買ってきたんだ」
「…うん」
「今まで、ありがとな」
お礼なんて言うな。
僕の方がおまえに数万倍感謝してる。

「これが最後じゃないけどさ、しばらくは日本に帰れないと思うから…さ。漣、元気でいろよ」
「…うん、栄嗣も…元気でね」
チョコ、あの時みたいに一緒には食べてくれないんだな…
あの時の苦くて甘い味が、こんなにもはっきりと蘇るのに、僕達はもうあの時には戻れないんだね。

「じゃあ」
差し出された右手を、僕はじっと見つめた。
いやだ。
別れの握手なんかしたくない。
握りしめたら、離さなくちゃならなくなる。

栄嗣はちょっぴり困った顔をして「それじゃ」と、言い、スーツケースを手に、玄関のドアを開けた。
「下まで見送るよ」
僕は慌てて、後を追う。
緩やかな長い上り坂、夕日に向かってひとり歩いて行く栄嗣の後姿は、僕には遠すぎる。


栄嗣
行かないで…行かないでくれ。
ひとりにしないでくれ。
ずっと一緒になんて言わないからさ。
恋人みたいに甘えたりしないからさ。
栄嗣…。

スーツケースを引きずる音が、ふいに止まった。
影になった栄嗣が、こちらを振り向いた気がした。

「バイバイ!漣。サンキュー!」
手を振る栄嗣の声が、辺りにこだました。

「栄嗣…」
馬鹿だな、あんなデカい声出してさ。
周りに迷惑だろ…
そんな必死に手を振らなくたってさ。
わかってるよ…
……




本当に、本当に好きだったよ。
友達になってくれて、好きって言ってくれて、愛してくれて、一緒に居てくれて、心から感謝している。

これからの君の未来が、君の望むものであるように、いつだって僕は心から祈っているからね。

バイバイ…

バイバイ、栄嗣…

バイバイ

サンキュー。


                          2017.2.14



これは「バレンタインデー」という、以前アップした作品の続きです。
現実に恋愛ってハッピーエンドになる確率ってどれくらいなんだろうねえ~
成就しても、その後ずっと続くのは、男同士は難しいんじゃないかな~って思ってます。

栄嗣と漣の物語は、左のカテゴリ「バレンタインデー」から、どうぞ~
こちらからでも、いけますよ~(*^▽^*)
「バレンタインデー」 1へ


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Assassin 12 - 2017.02.07 Tue

12
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理玖王10


12、

 目が覚めた時、私は泊っていたホテルの部屋に寝ていた。

「起きたか?理玖」
「私は…どうしてここに居る?」
 ベッドから身体を起こすと、椅子に座っていた弦十郎が急いで私に寄り添ってくれた。

「怪我した様子は見当たらないけど、どこか痛いところはないか?」
「…大丈夫…だ」
 弦十郎はホッとした顔つきで、テーブルのポットから温かいお茶を煎れ、私にカップを渡してくれた。
 それを一口飲み、これが現実だとやっと理解することが出来た。
 
「…ったく、ひとりで勝手に行くから、こんなことになるんだよ。『天の王』には一緒に行こうって、あれほど言ってたのに」
「…」
「アーシュがホテルまで連れてきたよ。おまえを背中に抱えて、部屋の前に立ってて、すげえビックリしたんだぜ」
「私を?あの男が?」
「ああ、めちゃくちゃ嫌味を言われたよ。こんなクソ面倒な奴を連れてくるな、とか、ガキのしつけぐらい、ちゃんとしろ!とかさあ。まあ、こっちは以前のお礼やらなんやらと、ゆっくり話せて、結果オーライってとこ、あったけどな」
「奴は私の事を…なんと言ってた」
「色々と、さ。…アサシンなんて辞めさせろって。平穏に生きることの意味を教えてやれって…言ってた。おまえ、本当にあいつを殺そうとしたんだな」
「…」
「アーシュがおまえの邨を滅ぼした敵だったのか?」
「…違う。私は…あの男を殺したかっただけなのだ。アサシンとしての誉れを得たかっただけ…。でも、まるで相手にならなかった…。私は…彼の足もとに這いつくばるだけだった…」
「そっか…。まあ、あいつは魔王とかバケモノとか言われてるからな。おまえが弱いわけじゃないさ。気にするな…って、言っても無理か。理玖はプライド高いからな」
「…」
「なあ、もう、いいんじゃないか?別の人生を歩いても。おまえはまだ十五なんだぜ?未来の道は無限に選べるんだ」
「…」
「一生俺と一緒に、とは言わないけどさ、少しばっかり同じ道を歩いていくってのも有りだと思わないか?」
「弦十郎…」
「武器商人なんて汚ねえ商売やってる奴が、何マトモな事を言ってやがるって言われそうだけど、俺はこの世界には必要悪だと信じて、この仕事を続けている。理玖が傍にいてくれたら俺も何かと心強い。恋人が嫌なら、俺のボディガードってのはどうだ?ちゃんと給料は払う」
「…」
「世界中を旅して回るから、厭きることはないし、ほら、理玖、ニッポンへ行ってみたいって言ってたろ?おまえの大事な『魔斬』の里へ案内してやるよ。良い刀鍛冶も知っているんだぜ」
「ありがとう、弦十郎。私の為に色々と考えてくれて、本当に感謝している。…少し…時間をくれないか?これからの事を、私も真剣に考えてみたいんだ」
「そうだな。大事な事だし、考えるのも必要だよな…」

 その夜、私は一睡もできなかった。
 弦十郎の温かい腕に抱かれながらも、私の頭の中は、アスタロト・レヴィ・クレメント、あの魔王の事ばかりだった。
 奴の姿、声、顔、私を見つめる瞳、私に触れた口唇…何度も何度も、あの時を繰り返し思い出す。
 あの男が私をおぶってここまで連れてきた?
 あの男の背中に…。
 私はどんな顔をしていたんだろう。
 奴の背中は、温かだったろうか。
 
 あの男は……
 憎しみでも呪いでも殺せないと言った。
 自分を殺すのは「愛」だけだと…。
 言い換えれば、あの男を愛さなければ殺せないと言う事なのか?
 それとも、すべてがあの男の妄言なのだろうか…


 翌日、弦十郎は仕事に出た。
 遠方からの急な取引の話があり、二、三日は戻れないと言う。
「出来るだけ早く帰るつもりだけど、理玖、ひとりで大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「また変な無茶やらかすなよ」
「もう同じ事は繰り返さないよ。心配しないでくれ。これでも一応、邨では成人扱いされる歳だ」
「なら、いいけどさ」
「弦十郎が戻ってくるまでに、弦十郎への答えを見つけておくつもりだ」
「そっか…」
「いってらっしゃい、弦十郎」
 私はできるだけ明るい顔で弦十郎を見送った。
 
 実際、私は迷っていた。
 これからの未来を、アサシンとして生きるべきなのか、それとも弦十郎と一緒に生きて行くべきなのか…。
 守るべき家族も帰るべき邨もない私にとって、私を大事にしてくれる者と生きる未来は、人並みの平穏な日々を繰り返す事だ。それは幸福と呼ばれるものだろう。
 しかし、私がそれを心から望んでいると言えば、嘘になる。
 「忍宇海」の邨の暮らしは、世間一般で言う、普通の生活とは違っていたかもしれない。だが、邨人たちの表情は決して不幸を背負って生きてきた者の顔ではなかった。
 アサシンを稼業にしてきた「忍宇海」の生き方を、私は否定する気にはならない。
 だからと言って、ただの人殺しになる気はないつもりだ。

 弦十郎が出かけた後、私は遅い朝食を取る為に、ホテルのレストランへと、出向いた。
 すると給仕たちが、昨日までとは打って変わって、異様に愛想が良くもてなすのだ。
 一等良い場所の席を案内し、朝食もサービスにとフルーツのデザートまで並べる。
 この街が異邦人に優しい土地ではないとは、弦十郎に聞いていたから、ホテルに着いてからのそっけなさにも驚きはしなかったけれど、今日の変わり方は一体何なのだ。

「デザートを注文した覚えは無いのだが…」
「お気になさらずに。これは当ホテルからのサービスです」
 若い給仕とは違うタキシードを着た老年の男が、ポットを手に、優雅な仕草で紅茶を注いだ。ネームプレートには「支配人」と、書かれてある。

「もうお身体の調子はよろしいのですか?」
「え?…ああ、大丈夫だ」
「それはよろしゅうございました。昨日、お客様がアーシュ様に背負われてお見えになった時は、ホテル中の者たちが驚きましたよ」
「アーシュ…」
「本当は学長とお呼びすべき所なのですが、アーシュ様は私共にも、名前で呼ばれる方が好きだと申されて…。ホントにこのサマシティはアーシュ様のおかげで平穏な幸福を授けられているのですよ。」
「…」
「アーシュ様は気さくで、誰にでもお優しいんですけど、かと言って、普通の者は恐れ多くて近寄れないもので、遠巻きに眺めているだけでして。お客様のようにお近づきになる勇気のある方が羨ましい。相当に仲の良い関係でおありになるのでしょうねえ」
「そう…でもない」
「ご謙遜なさらずともよろしゅうございますよ。アーシュ様自ら私共に、あなた様の事をよろしく頼むと申されまして、私共も精一杯務めさせて頂きます」
「…」
 深々と頭を下げる支配人に、私はもう何も言う言葉を持たなかった。
 結局、この街の人々は、皆アーシュに支配されているのだ。

「今日のご予定は?」
「別に…何も決めていない」
「では、『天の王』に行かれてみてはいかがですか?四旬節と言って、季節毎に学園の開放日があるのですが、今日がその日なのです。誰もが『天の王』学園を自由に見て回れるんですよ。普段はなかなか入れないものだから、観光の目玉にもなっているぐらいなんです」
「そう」
「アーシュ様目当てに行かれる方も少なくありませんからねえ~」
「…」
「本当にアーシュ様は私達の守護神のような方で、あの方を見ているだけで、幸せになると言うか…。前学長のトゥエ様も当代一の魔術師だったのですが、アーシュ様はそれを凌ぐ御方で、本当にサマシティの…」

 私は席を立って、急いでレストランを出た。
 それ以上、奴を賛美する言葉を聞きたくなかった。
 それが子供じみたつまらない行動であっても、私のプライドが耐えられなかったのだ。

 それでも…
 それでも、もう一度あの男に会いたいと願う。
 …
 会いたくて、会いたくてたまらないのだ。
 あの男の姿を見たい。声を聞きたい。話したい。見つめられたい。触れたい…

 私の足は勝手に「天の王」学園に向っていた。
 昨日の今日だ。
 もし、会えたとしても、アスタロトは私を相手にはしないであろう。
 私の顔を見るのさえ、嫌気がさすかもしれない。

 学園の門は昨日と違って開け放たれ、想像より多くの人々が行き交寄っていた。
 私と同じような若者が多く、皆、楽し気に笑いあっている。

「ようこそ『天の王』学園へ。今日一日ごゆっくり楽しんでくださいね~」
門前に立つまだ若い学園の生徒が、弾んだソプラノの声でパンフレットを私に手渡した。
「どこに行ったらよいか、わからないんだが…」と、私。
「それなら聖堂へ行けばいいよ。めっちゃ古いんだけど、すげえ綺麗なんだから」と、褐色の巻き毛の少年が親しげに言う。
「ばっか、ルディったら。お客さんにはもっと丁寧な言葉使いでって、先輩に言われたろっ!」
 巻き毛の子の背中を軽くひっぱたきながら、短めの金髪の少年がすまなそうに私に頭を下げる。
「いいじゃん。こいつ大人じゃないし。ねえ~、君、この学園、受験するの?アルト?イルト?ここは相当な能力ないといじめられたりして大変だよ」
「もう、馬鹿ルディ。余計な事は言うんじゃねえよ。君、気にしないでゆっくり楽しんで行って下さいね~」
「聖堂は真ん中の道をまっすぐだからねえ~!」
 巻き毛の子が、金髪の子に引っ張られながら、私に手を振る。
 …
 なんだか、羨ましいな。
 こんな学園生活、一度でいいから、味わってみたかった。

 私は…なんて愚かなんだろう。
 楽しい未来なんて、私に許されるはずもないのに…
 


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理玖がどんなふうにアーシュに惹かれていくかを、書こうと思った結果、長い…('ε`汗)

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