FC2ブログ
topimage

2017-04

Assassin 17 - 2017.04.28 Fri

17
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


  理玖白黒



17、

「早速だが、君の邨の事を仲間に調べさせたのだが…かなり辛い報告になるが、聞くかね?理玖王」
「お願いします」
 
 私は約束通り、二か月ぶりに「灰色の魔術師」イスファール・ファルマーンの居る「ホーリー・スピリット・コミュニオン」を訪問した。
 イスファールは以前と変わらない穏やかな表情で、自ら私を部屋へ案内した。
 前の部屋とは違って、誰が見ても豪華なクラシックの応接間だった。
 中央のソファとは別に窓際の机の向こう側に金髪の男が居た。
 イスファールは、彼がこの組織の代表であるハールート・リダ・アズラエルだと紹介した。
 彼を見たのは初めてだ。なるほど、噂通りの選ばれた者が持つカリスマが表に出過ぎるぐらいの見栄えの良い青年だ。
 白人の持つ気品、金粉を撒き散らしたような豪奢な金髪とサファイア色の瞳、容易に他者を受け入れぬ自己顕示欲の塊さえ、彼に魅入られた者ならば、引力となるだろう。
 だが私にはハールートに惹きつけられる魂の余白は、すでに持ち合わせてはいなかった。
 紹介された当人も吾関せずと言った風情で、私の方を一度も振り向くことなく、外の景色に目をやっていたのだが…

 イスファールは、私をソファに座らせ、お茶を勧めた。
 一息つくと、邨を滅ぼした者たち、即ち父や兄達の事をひとつひとつ丁寧に詳しく私に説明してくれた。ほとんどの事柄については、私にはもう決着の付いた話だった。だが、すでに知り果せた情報だったと言え、イスファールの話を聞いているうちに、走馬灯のように思い出され、段々と胸が詰まり自然と涙があふれ出した。
 心から同情するように自分のハンカチを私に差し出すイスファールを、ただ人好きのする優しい男とは思わなかったが、今度は差し出された行為を突き放すことはしなかった。

「君の父親の千寿王の事だが…君の母親と共に殺されたらしい。家諸共焼かれてしまったのだが…。長兄の遺体もまた同じ街のホテルで見つかった。こちらは毒殺だった。おそらく殺ったのは君の兄達だろう。身内の殺し合いなど、君には辛い話ばかりになるのだが…」
「…真実であるならば…認めなくてはなりませんね。龍泉王も、真蔓王も、私にとっては大事な兄です。彼らが邨を攻め、父達を殺したとは思いたくはないが、同時にアサシンである以上、ありえないことではないのだと…理解できる…のです…」
「なんとも…痛ましい事だと、同情するよ」
「自業自得…と、言えるかもしれないけれど…」
「それで、理玖王。君はこの先どうするつもりなのだ?」
「兄達と決着を付けなければならないと考えているけれど、今の私の力では、彼らに太刀打ちなどはできないだろう。彼らは百戦錬磨のプロフェッショナルだから。彼らを打ち負かす為には、もっと腕を…能力を向上させなければならないと考えている。だが、どこで修行すればいいのか…。所詮私は井の中の蛙でしかない…」

アイザックとハールート

「赤羽理玖王。俺はおまえの真意を聞きたいんだが」
 それまでただ黙って窓の外だけを見ていたハールートが、ゆっくりと立ち上がり私に近寄った。
「…真意とは?」
 私は目の前に立ったままのハールートを見上げながら問うた。

「あの男、アスタロト・レヴィ・クレメントに会ったんだろ?それで、どうだった?奴はおまえに何をした?何を言った?奴はおまえを気に入ったか?おまえは奴に惚れたのか?心を奪われて、それからどうなった?」
「…」
「落ち着いてください、ハールート様。理玖王はまだ十五しかならない子供なんですよ」
「馬鹿だな、アイザック(ハールートはイスファールを必ずこう呼ぶ)、十五ならもう大人だよ。少なくとも俺は世界がくだらないことを知っていた。そして、あの男はくだらない世界を自分のおもちゃのように好き勝手に楽しんでいる。全くもって気に喰わないね」
「…あなたは、ア-シュ…アスタロトをどう思っているのですか?」
「俺か?俺は気に入らないだけだよ。奴が魔王であっても神であっても、そんなもんどっちでもいいさ。奴がこの星の者じゃない事だけが真実さ。そんな奴にこの星の運命を決めさせてたまるものか。戦っても勝てない相手な事ぐらい知っている。バケモノだからな。なら、奴と交わることなく対峙するしかない。奴の思い通りにさせない運命を作り上げるしかない」
「私は…アスタロトを…アーシュを殺したい。兄達の事なんか本当は大して気に留める事柄でもないんだ。私は…アーシュの心臓をこの手で、この魔斬で切り刻んでやりたいだけだ」
「面白いな。それは憎しみか?それとも…愛か?」
「…両方だと思う。多分…いや、私も本当はわかっていないのだ。こんなにも心を突き動かすこの衝動の実態が何なのかを…」
「ふ~ん」
 ハールートは白い顔を少しだけ紅潮させ、私を睨んだ。

「それならば、我が組織の一員になるのが、一番手っ取り早いな」
「ハールート様。この子はまだ子供ですよ」
「馬鹿者。この男は充分に大人の男だよ。すべてを失い、憎しみも愛する事も知っている。自分の運命もな。そんな男に力を貸すのは、当然の事だろ?アイザック」
「…」
「必要なものを彼に与え、十分な修行ができるよう面倒を見てやれよ」
「了解しました」

「赤羽理玖王。このホーリー・スピリット・コミュニオンは自らの目的を為す為に、自らを鍛える場所でもある。まずは何をしたいのかを決めて、精進しろ」
「私は…私の『呪い』で、アーシュを殺す。私の『呪い』は『愛』だ。アーシュはそれを求めている…」
 ハールートは今度は声を上げて笑った。それは嘲弄ではなく、純粋な好奇心だと私は理解した。

「これから楽しくなるな。理玖王、期待しているよ」
「…」
 私は返事をしなかった。この男を満足させるために、目的を果たす義務など微塵もない。
 だが、今は彼らの力に頼るしかない現実は充分承知していた。
 私は「よろしくお願いします」と、ふたりに深く頭を下げた。
 

 部屋を出ようとする私に、ハールートは声を掛けた。
「ああ、忘れるところだったよ。おまえに手紙を預かっていたんだ。アイザック、渡してやれ」
「わかりました」

 イスファールはハールートから手紙を受け取ると、私に差し出した。
「十日前、熊川弦十郎が君に渡してくれと、うちの受付に置いて行ったそうだ」
「弦十郎が?」
「君は何も言わずに、彼と別れたのだね。弦十郎は君が必ずここを訪れるだろうと言ってたらしいよ。君は存外…幸せ者なのかもしれないね」
 私は手に取った白い封筒が、何故か怖くて、でも、大切な、誰にも触れられたくない宝物のように思えて仕方なかった。

 係りの者から宿泊する部屋を与えられた私は、部屋に閉じこもり、すぐに弦十郎からの手紙を読んだ。
 文字を追いながら、私は自分を責めずにはいられなかった。
 もう戻る事の出来ない自分の運命を嘆いた。
「弦十郎、弦十郎…」
 二度と会えぬ、愛しい人の名を繰り返す。
 今夜は、選びそこなった運命をどんなにか悔いる事だろう。
 私は一番大切なものを、自分で捨てたのだから。


理玖

 おまえの事だから、俺がホテルに戻った時、きっともう居ないんだろうと予測してた。
 でも、まあ…悲しかったよ。
 俺には懐いてくれてたから、ひょっとして俺と一緒にってさ…期待してたんだ。
 だが、おまえにとっての運命の男ってのは、やっぱりアーシュだったんだな。

 アーシュの事をおまえに話したりしなきゃ、こんな事にはならなかったのか?って、自分の馬鹿さ加減にウンザリしたものだが、でも な、まあ、俺が話さなくても、きっとおまえはアーシュに繋がっていたんだろうって、思うよ。
 勘違いするなよ。
 俺だってアーシュは好きだ。大好きだ。でも、そんなもん理玖と比べ物になるかってえの。
 俺にとっちゃ、おまえが一番なの。
 甘えるのが下手なくせに、寂しがり屋の世間知らずのお坊ちゃん。たまんねえぐらい可愛くて、どんな宝石より大事に扱いたいし、 ずっと…ずっとさ、おまえの傍にいて、おまえを守りたかった。ホント、マジでそう思ってる。

 アーシュを殺ろうなんて、おまえには絶対無理なんだから、さっさと俺のとこに戻ってこい!
 おまえの顔を見たら、俺は説教するだろう。そんでおまえは俺の言う事なんか聞く耳を持たない。
 それの繰り返し。だから、おまえは俺から逃げた。
 そう、青春はいつだって青臭いもんさ。

 なあ、おまえの居る場所は生きやすいか?
 今更そんなもん望んでないって言うのか?
 でもいつか…いつかな、俺が恋しくなったら…ならねえか。
 じゃあ、アサシン業に飽きたなら、俺のところに戻ってきな。
 いつまでも、俺はおまえを待ってるからさ。
 だから、な、理玖。
 絶対に死ぬなよ。
 死ぬんじゃないよ、理玖。
 苦しかったら俺を呼ぶんだぜ。
 わかったな、理玖。

 それまで、しばらく世間の荒波に揉まれてきな。
 じゃあな。また、会う時まで、元気でな。

                  過保護の弦十郎より


 ありがとう、弦十郎。
 いつかの春に、あんたとニッポンで、サクラを観たかったよ。
 本当に、観たかったんだ…
  

        assassin 終

2017.4.28



Assassin  16へ

なんとか思い通りに終れて、ひと安心…。結構大変でした。理玖王がこれからどうなるのか。
マトモになれないけど、アーシュへの執着は留まらることを知らず…。運命を決するのは五年後だね。
次回は…まだ決めてない。


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

Assassin 16 - 2017.04.15 Sat

16
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


      紀伊王と理玖王

16
 夜は更け、窓の外から酔っぱらった労働者たちの歌声が喧噪に混じりつつ、部屋に響く。
 紀威王は私に二杯目のお茶とビスケットを勧めるが、私は断った。

「理玖、きっとお前は私を殺したいほど、憎んでいるのだろうね」
「…」
「おまえになら私は殺されても仕方がないと、思っているのだよ」
 兄の言葉は美しいものであったが、邨に関するすべてが、どこか空虚なものと感じ始めていた私には、心を支配する程ではない。
 だが、しかし、同時に私は昔からこんな刹那的な兄が好きだった事を、思い出している。

「私にとって、遮那も邨人も大事な守るべき者たちだった。私は長(おさ)になるべく者として、彼らを、邨を、心から守りたかった…。だが、すべてはもう取り返しなどつくはずも無い事。邨を滅ぼすと長が決めた事ならば…死んだ邨人たちも逃れられない運命(さだめ)だと、受け入れるでしょう。忍宇海の邨とは、そういうものでありましたから…」
 多少芝居がかったとはいえ、私は込み上げてくる涙を止める事ができなかった。
 私も相当なロマンチストだと言えよう。

「理玖…それでいいのかい?それで納得がいくのか?」
「今更…誰の為に、誰を恨めば良いのでしょうか?すでに兄上たちが長を殺し、憎むべき者は、この世に居ない。兄上たちも私も沢山の大事な者を失った事には変わりないではありませんか」
「理玖がこんなにも物分りが良い男だとは思わなかったよ。おまえは兄弟の中では一番の頑固者で人情家だ。非道を行った私達を簡単に許せるはすがない」
「諦めることを覚えたのですよ、兄上。邨を出て、この世が自分の思い通りにいくものではないことを知りました。本当に何ひとつも…私は知らなかったのですね。これまでの兄上の言葉も思いも、私は深く考えることもしなかった。ただ信じていれば良いものだと思い込んでいた…」
「…あの夜、邨人を一人残らず殺せと命じた長だったが、私はおまえを殺さなかった。否、出来なかった…」
「あの時、隠し部屋に居た時…私の部屋に火を付けたのは…兄上なのですか?」
「おまえの存在には気が付いていた。そして、あの隠し部屋が隧道に通じていたのも知っていた。無事に逃げおおせてくれるものだろうと…信じていた。私にはそれしか出来なかったのだよ、理玖」
「兄上…」
 紀威王の言葉全てを信じるには、私は人を疑う事を覚え過ぎたと言ってよい。だが、今は、今夜だけは兄上の言葉に酔いたかった。

「何故私の命を救ったのです。あのまま邨共々、私も死んでしまいたいと、何度も願いました。冷たくなった遮那の身体を土に埋める時、私も遮那の傍に横たわりたかった。長と兄上たちに何と言えばいいのか…あなた方の目の前で死んでお詫びするしかないと…。でも怖くて…怖くて、私は逃げる様にあの邨を出たのです」
「理玖、私はおまえが愛おしかったのだよ。愛することを教えぬ邨で、私はおまえを愛しいと感じていたのだ。勿論、何かに心奪われる事を許す邨ではないが故、本心を語る気など無かった」
「私は…幼いころから私は周りの者たちと毛色が違っていて、随分情けなく思っていました。遮那だけが私の味方だったけれど、頼りなくて…。兄上は私を見守ってくれた。龍泉王や真蔓王が私を苛めても、兄上は私を庇ってくれた。どれだけ心強く思ったことか…。兄上は私の憧れでした…」
「理玖、これからの未来、私と一緒に生きて行くことを考えてみないか?ひとりにするにはおまえはまだ若い。私ならおまえを守れる」
「私と一緒に?…どうやって生きて行くのですか?」
「アサシン業は辞めだ。マトモに…かどうかはわからんが、まずは足を洗うことから始めようと思う」
「学者を、目指しますか?」
「そうだな。心理学の勉強でも始めるかな」
「良いですね。兄上にピッタリです」

 私は屈託のない笑いをする。
 紀威王は和やかに笑い返す。
 兄上とこんな風に過ごせるのか。
 こんなに安らいだ気持ちになれるのか…

 笑いながら私は涙した。
 紀威王は流れる私の涙を吸った。

「愛している、理玖」
「兄上…」

 紀威王の告白は、愚かな私の心に殺意を産んだ。
 
 私はあなたとはちがう。
 私はあなたのようには、ならない。

 その夜、紀威王は私を抱いた。
 
 紀威王は以前よりも、紳士に私を扱った。だが私は抗うように、彼の手を弄んだ。
 頼りないベッドの上で、上に下になりながらも、私は紀威王をじっくり味わう余裕すらあった。
 兄は私の放埓な姿に、少しだけ戸惑っていた。
 私は時折処女のように恥じらい、しかし執拗に兄を求め離さなかった。
 
 「半年もたたないうちに、おまえは熟れた娼婦の様に惑溺するのだね」「兄上は私に悦楽という遊戯を教えてくださいましたね。私はそれに報いなければと思っているのですよ。兄上が望むものは、何でもして差し上げますよ」「誰がおまえをこんなにしたのか、気になるよ」「旅で出会った…ニッポン人。彼は本当に良い男でしたよ。世間知らずの私を、可愛がってくれました。ですが何より私の心を奪ったのは…いいえ、止めときましょう。兄上の悋気を煽ってしまいますからね」「おやおや、私を弄んでいるのだね」「いいえ、兄上が私に真の享楽を与えてくれるのですよ」

 確かに、より多くを望んだのは、私の方だ。
 私は紀威王に抱かれたかった。
 そう、
 死ぬ前に、もう一度だけ。

 日の出前の始発の列車に、私はひとり飛び乗った。
 紀威王はぬるいベッドの中で、二度と覚めぬ眠りを楽しんでおいでだろう。
 魔斬で切り刻まなかった事は、せめてもの私の情だ。

 さよなら、紀威王兄上。
 私は学者のあなたに興味はない。
 そして、
 私はアサシンであり続けたいのです。



Assassin 15へ /17へ
 
次回で終わると思うんだが…('ε`汗)

お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


八年目の誕生日 - 2017.04.14 Fri

今日は凛一の誕生日なんですよね~。
「greenhouse」は2009年の2月に始まっているので、まるっと8年経っちゃいました。
もう随分昔のような気がします。
自分の絵も色々変わっていますけど、それはそれで自然の成り行きでしょう。
つうか、昨日誕生日って気が付いたので、適当になっちゃったイラです。

rin99.jpg
リンは高校生の時が一番、好きだな。未完成な少年と青年の狭間って感じが好みです。


去年の今日、熊本地震だったんだけど、あの日の昼間は偶然にも熊本城を観光してました。
10年ぶりぐらいで、マジ懐かしいなあ~とか、思いつつ適当に観光してたんですけどね。
まさかね…
自宅に帰ってその夜、地震だったんですよ。
熊本城の天守閣から煙幕のようなものが立ち上がっているのをテレビで観て、そりゃ驚愕したもんです。
地震は翌日の深夜の方が恐ろしかったです。
スマホが鳴りっぱなしで、寝付けなかったし。

熊本も熊本城も復興は大変だろうけど、シンゴジラじゃないが、スクラップ&ビルドで生き抜いてきたから、これからも皆で頑張っていきましょう。

Assassin 15 - 2017.04.05 Wed

15
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


   紀威王2-1
15、
 アーシュの忠告を信じた私は、両親が居ると言う「ウルデール」という街を探した。
 だが、この大陸には同じ名の街も多く、簡単には見つかる気はしなかった。
 ESPを増大させるチョーカーを使い、父であり忍宇海邨の長である千寿王の記憶を辿ろうと最大限の能力を使っても効果は見えず、途方に暮れようとした時、駅前の出店で目にした新聞に同じ名を持つ街の大火事の記事が、小さく載っていたのを見つけた。
 記事は昨日付だった。私は急ぎその街へ向かった。

 ウルデールの街はアイルという島国の北部の港町だ。
 雑な入り江のある古くからの造船業の盛んな工業地帯で、古びた建物が並び、人口も少なくないが、街から少し離れれば長閑な牧草地帯が広がる。
 例の火事の現場は、海岸沿いに並んだ家屋を何件も焼き払ったようで、まだ焼け焦げた残骸がそのままに、わずかな煙が立ち上っていた。
 
 焼けた家をひとつずつ確認しながら巡っていると、酷く焼け落ちた場所に、黒いコートを羽織った男が独り佇んでいた。
 無造作に編んだ長い黒髪が、北風に揺らぐ。
 その後ろ姿は、私に驚きと懐かしさを沸き起こしてくれた。

「兄上…紀威王兄さまではありませんか」
 彼は振り返り私を見ると、心から驚いたような顔をした。
「理玖…おまえ、何故ここに?」
「長(おさ)が…父がここに居るかもしれないと…伝手があったのです」
「…」
 私は紀威王の傍に走り寄った。懐かしさに安堵と苦痛が一度に胸に広がり、押し潰されそうになる。

「兄上…。私には…何もわからないのです。長は死んだと聞かされていました。なのに何故、今になって…」
「父とおまえを産んだ母親が、この家に隠れ住んでいた。それを知った龍泉王と真蔓王が、ふたりを抹殺したのだよ」
「どうして…」
「経緯は些か長くなる。とにかく、ここでおまえと会えたのも、天の運命(さだめ)なのだろう。おまえも私に聞きたいことは山ほどあるのだろう?」
「はい」
「ここは寒い。別な場所でふたりだけでゆっくりと話そうか」
「ええ、そうしましょう」
 紀威王は、港に近いホテルへ私を案内した。
 途中、こんな見知らぬ土地で長兄の後を歩いている自分自身がおかしくなり、小さく笑うと、紀威王は「何が可笑しい?」と、不可思議な顔をする。
「いえ、これも運命だと思うと、天に弄ばれているとしか思えないのです。そんな自分を嗤ったのですよ」
「私も同意するよ」
 以前と変わらぬ微笑をくれる紀威王を、私は愛おしく思った。

 ホテルの部屋は古めいた外観とは違い、十分に洗練されていて、ライトからテーブル、寝台も年代物の凝ったものばかりだった。
「この街の産業はすでに頭打ちらしいが、プライドだけは昔のままに見栄を張りたがる。長が好きそうな場所だ」
「兄上、私がお聞きしたいのは…邨の事です。御存じなのでしょう?忍宇海の邨がどうなったのか…」
「…知っているよ」
 紀威王は私を窓際のソファに座るように命じ、そして慣れた手つきでお茶を煎れ、私に勧めた。

「まずは一息入れなさい。時間はあるのだろう?」
「私は…やるべき事なら、手に余るほど多い。敵討ちもそのひとつです」
 紀威王は何も言わず、紅茶のソーサーを優雅に持ち上げ、ゆっくりと味わう事に専念しているように見えた。
 私は多少苛立ちながら、続けざまに彼に問うた。

「兄上は、邨の者たちがどうなったかご存じですね。そして、忍宇海の邨を襲った者達が誰なのかも…」
「…」
「すべての邨人たちは、亡くなりました。遮那王も…。独り生き残った私は、彼らを埋葬しました。私にはそれしか出来なかったからです。私は…邨を出て、邨人たちの敵を討つために今日まで生きてきたのです。私にはわからない。何故一夜のうちに、我々の邨が滅ぼされなければならなかったのか…。何故、長も兄上たちも、私に何も教えてくれなかったのかを…。私には…辛い日々だった…」
「理玖…」
「教えてください、兄上。私が知るべき事を。私の敵が誰なのかを。それが父や、あなた方であっても、何らかの理由があるはずだ。それを私にお聞かせください」
 
 紀威王は、飲みほしたカップをテーブルに置くと、手を組み、私をじっと見つめ、そして話し始めた。
「邨を…邨人すべてを滅ぼすように命じたのは、長だ。長を筆頭にして龍泉と真蔓、そして私がそれを実行した」
「やはり…そうでしたか…」
「理由は…長は詳しく私達に語る事はしなかった。ただ…人殺しを続ける邨は私の代で終わりにしなければならない…と、語っていた。私たちは感情で仕事をしたことはない。雇い主が長であろうと、見合った報酬で動く。今回のターゲットが忍宇海の邨と言うだけだ」
「だからって…自分の生まれ故郷を、仲間を、兄弟を殺せるのですか?兄上には邨人たちの泣き叫ぶ声が聞こえなかったのですか?」
「アサシンに殺す相手を慮る感情など、一切ない。私はおまえにそう教えてきたはずだ」
「…」
「少なくとも龍泉や真蔓は容赦なかった。彼らは殺す事を楽しんでしまうからね。だがね、彼らも馬鹿ではない。邨を滅ぼした後、すぐに消息を絶った長を、彼らは許さなかった」
「長が…行方不明?」
「長は邨を滅ぼした後、我らに、今後は自分たちの好きなように生きろと命じた。出来るなら人殺しなどは止めて、真っ当な道を歩いて欲しいと…。嗤うしかなかったよ。故郷や守るべき邨人を殺させておいて、妄言も過ぎるだろうと、軽蔑するしかなかった。だから、ふたりは、長とおまえの母親が、まるでまともな人間の様に暮らしているのが許せなかったのだろう」
「…兄上もそうだったのですか?私の母を恨みましたか?」
「いや、長の身勝手を承知するわけにはいかなかったが、それ以上にささやかな幸せを守る為に、生きたいと願った長を憎む気にはなれなかった…。私は彼らほどアサシン向きではない。ある男に人殺しより学者になった方が似合いだと言われたが、そうかもしれないと、思う事もある」
「そう…ですか」

 私は嫉妬した。
 アーシュと出会い、話したという紀威王を、今ここで殺したいほどに…

 アーシュの好奇心が私以外の誰かに向けられるのが、許せない。



Assassin  14へ /16へ

ふたりの会話が長くなりそうなので、一旦ここで切る。
今年の桜は、満開がまだ遠いなあ~


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する