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2017-12

君に還る日 - 2017.12.24 Sun


 この物語は「夜を駆ける」の後日談となります。

 イラストはサムネイルでアップしております。
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君に還る日-2

君に還る日

 宇宙開発技術者の仕事ってものは、危険と隣り合わせ。
 いつ命を失ってもおかしくない状況にさらされているわけで、給料も待遇も良いが、帰りを待つ家族は不安で仕方ない。
「そんな事は初めからわかって、一緒になったんだから、文句言うなよ!」
「わかっていても、心配せずにはいられないのが家族なんだよ。おまえがこの仕事を止められないのはわかっている。でも言いたいことは言わせて頂く。絶対死ぬな。死んだら許さない」
 光流(ひかる)の声は、俺を守り続けた。
 光流がいるから、俺はどんな危険もなんとか潜り抜けて、戻ってこられた。
 「不死身の男」なんて、周りは勝手なあだ名で持ち上げるけれど、俺だって不安が無かったわけじゃない。
いつだって、冒険心と光流への愛は、シーソーのように行ったり来たりで、止まる事も忘れ…
 火星開発作業中、深いクレバスに落ち込んで、遭難。氷漬けになった俺は死に、そして二十年後、俺は救いだされ、日々進歩する医学のおかげで生き返った。
 「不死身の男」に「奇跡の男」が付け加えられてしまった。


 死んでいる最中、おまえの夢ばかり見ていた…なんて、言ったら、また光流に罵倒されるに決まっている。だけど、本当なんだから仕方ない。
 クレバスに落ちる瞬間、死を覚悟した時、おまえに何と言って詫びようか、と、そればかり浮かんで…怖かったよ。
 今だって、おまえの顔を見たら、どうやって謝ったら機嫌直してもらえるだろうか、と、不安満載、情緒不安定、やっとまともに動くようになったばかりの身体のあちこちが痛む有様だ。

 目が覚めた時、最初に聞いた声は光流ではなく、俺のクローン、葛城ヒロのテレパシーだった。
 クローンの存在は驚かなかった。
 危険な仕事への保険みたいなもので、遺族が望めば、死んだ者のクローンが誕生する。しかしクローンを望む遺族は、案外少なく五割も満たない。何故なら、クローンが再生されても、生まれたての赤ん坊なわけで、決して、死んだ時の姿で甦るわけじゃないからだ。
 まあ、パートナーだった相手が赤ん坊で甦ってもらっても、非常に困惑この上ない状況なわけで、救われるかどうかは、残された者の想いによるだろう。
 俺は光流が俺のクローンなんてものは望まないだろうと、思っていたから、俺のクローンの存在を知った時は、少しだけ複雑な気持ちになった。
 だけどヒロはそれ以上に良い奴だったし(俺のクローンだから当たり前だ)、取り敢えず、身体の動かない状態の俺が唯一理解をしてもらえる相手だったから、有難かったよ。

 目が開き、ちゃんと目の前が見えた時は、養女の月華の泣きはらした顔が一番こたえた。
 あの可憐な娘が、ちゃんとした大人の女になった事にもショックだったけどな。
 知らぬ間に俺達の子供が、月華の他にヒロとアスラのふたりも増えてて驚いたけれど、これなら光流も寂しくなくて良かったなんて思いつつ、俺の事は忘れてしまったのかな…と、一抹の不安。
 肝心の光流はコロニーには居ず、地上の片田舎で独りぼっちで暮らしていると言う。
 そして、月華は言いにくそうに俺に言った。
 光流は不治の病で、もうそんなに長くは生きられない。こちらに戻ってと頼んでも、言う事を聞いてくれない…と。

 なんだか可笑しかった。
 この上もなく、光流らしい。
「そうか…決めちまったか。じゃあ、俺には何も言えねえな」
「そんな事言わないでよ。燿平は生きてるじゃない。だったら、由良じいだって…。簡単に諦めないでよ…」
「諦めたわけじゃないさ。俺も光流も…。なんつうかさあ…運命とか宿命とかは横に置いて、愛しあいたいってわけで…」
「まーた、始まった。ふたりだけのエンパシーって奴。昔から私をほったらかしにして、ふたりでイチャイチャ…。呆れて言葉も挿めやしない」
「一生を誓った相手だからな。光流は…多分俺を試してるのさ。愛してるなら会いに来いって」
「まだ歩けもしないのにね」と、月華が少し笑う。
「まあ、これだけプレッシャー掛けられたんじゃ、みっちりとリハビリ頑張らなきゃならねえな。こっちが歩ける前に光流に死んでもらっちゃ困るからな」
「…ったくもう、いい大人ふたりして、信じられない」
 月華は呆れたものだと、諌めるけれど、光流の気持ちがわかるから…
 きっと…俺を本気で怒っているから。


 どうにか歩けるようになり、なんとか光流に会いに行く許しが出た時には、俺が生き返ってから、半年が過ぎていた。
 種子島の宇宙港まででいいと言うのに、心配性の月華は鹿児島まで付き添い、知り合いの船長に頼んでおいたからと、冨樫船長のコンテナ船に乗り込むことになった。
 冨樫さんは俺が普通に生きていたら、これぐらいの歳恰好になるだろうという感じの方で、ヒロとアスラの恩人でもある。
 月華が預かってきたとふたりからの手紙を渡した時、とても嬉しそうな顔を見せた。月で暮らす冨樫さんのお孫さんのビデオレターを殊更喜び、俺も一緒に見ろと五月蠅い。
 ヒロとお孫さんが映る画面を観ながら、不思議な縁だなあ、と繰り返す冨樫さんにお礼を言った。
「礼を言うのはこっちの方だ。ヒロもアスラも不思議な力を持ってて何かと大変だろうけど、何より二人とも良い子だ。育て方が良かったんだな。心配だったアスラの身体の具合も良くなったって聞いて安心した。俺はあいつらが好きだよ。いい息子が居て、あんたも幸せ者だな」と、言われ、一緒に暮らした事も無いのに、あいつらを褒められるのがこんなに嬉しいものかと、苦笑した。

 四日間の船旅は予想以上に居心地が良く、暇があれば船長や船員たちと飲みながら、たわいのない話を続けた。
 危険な仕事に従事する男の辛さとか、帰りを待つ家族を思う気まずさとかさ…みんな、飲みながら泣いてたよ。

 神戸からは電車で名古屋を目指し、そこからディーゼル機関車を乗り継ぎながら高山に出て、バスで白川へ行く。
 天上へ飛ぶ前は、光流と日本中を旅するのが楽しみで、ひと夏を白川の天文台で過ごしたこともある。
 二人で見上げた天の川が美しかった。
 戦乱で地上が汚され、天上から見ても気の毒なほど枯れ果てた山野も、今は昔見た時と同じ木々で埋め尽くされ、飛ぶ鳥を見つけたりすると、本当に戦争があったのかとさえ、疑ってしまう。まあ、電気を使わないディーゼル車しか動かせないって事自体、俺達が居た頃と比べたら、あり得ない話なんだけどな。
 
 混みあった車内には、余り裕福そうに見えない若い家族が多く、小さい子供たちに手こずりながらも、楽しそうに笑いあっている。
 なんだか…なんだかさ、コロニーで見る風景よりもずっと幸福そうで、人間はやっぱり天上を目指すよりも、この地上で重力に押し潰されながら、生きて行くのが、自然なのだと、改めて感じたりして…
 それでも、やっぱり、見上げてしまう。空の向こうを見たいと思う気持ちは一体なんなんだろうなあ…。

「お父さん、今日はクリスマスだって先生がおっしゃるんだけど、クリスマスって何?」
「そうだね。クリスマスってのは…昔の偉い人が生まれた日をみんなでお祝いするお祭りのようなものだよ。子供たちは親からプレゼントをもらうのさ」
「そうかあ~。だから今日は家族みんなで旅行するんだね。でもお父さんとお母さんにはプレゼントは無いの?」
「家族みんなでこうやって一緒に居られるのが、一番のプレゼントさ」
 片側に座る四人家族のなごやかな会話に、思わず微笑んだ。

 そうか今日はクリスマスか…
 宗教観のない俺達でも、クリスマスのプレゼントの交換は若い頃やったもんだ。月華を養女にしてからは、月華の為に何のプレゼントを用意しようかと、悩んだり…

 昔はホワイトクリスマスだと言って、冬には雪が当たり前だったが、戦争の後、気候もすっかり変わってしまい、今は山地でも雪を見る事は少ないと言う。


 白川に着いたのは、すっかり陽も落ち、山々の影の向こうに、星明りが輝き始めた頃だった。
 ここらへんは戦火の被害も無く、家屋も以前と変わりない様相。
 川を跨ぐ橋を渡り、合掌造りの家屋の間を歩く。
 ガス灯もない暗い砂利道に、家々の障子からの灯りがほんのりと道を照らしてくれる。
 観測所は村の高台にあり、そこへの坂道を登り始めた。
 勾配は急で、引き摺った足が痛みだす。
 少しよろけながら、杖に掴まり、なんとか歩を進める。
 
 息が切れる。
 宇宙と違って呼吸も心配しなくて済むのに、なんで思うように身体が動かないんだろう。道は悪く、身体も重いし、風は冷たいし、足が動かない…
「はあ~」
 堪りかね、地面に座り込んだ。
「ざまあねえ…」
 これがついこの間まで「奇跡の男」と、賞賛されていた葛城燿平の本当の姿なのだと、自戒した。
「光流…」
 急に込み上げる想いに胸がつまり、涙が込み上げた。
 泣くまいと顔を上げたら、天上に輝く星々が、俺の中に落ちてきた。

「光流、ごめんな…」

 ずっと光流を独りにしてしまった。
 身勝手に宇宙へ出ていく俺を、ただじっと待ち続けた。
 その寂しさ、悲しみ、心細さを理解しても、自分の好奇心を捨てる事も出来ず、光流を泣かせてしまった。
 光流は…どれだけ、この天上を見上げたのだろう…。
 俺を想って泣いた事だろう…。
 
 紛れもなく死にゆく光流に、俺は何をしてやれるのだろう…

「光流…好きだよ。だから…頑張る!」
 立ち上がり、足を前に出す。
 出した分だけ、光流に近づける。それだけを思って、坂を登った。
 
 月華が連絡をしているはずだろうから、きっと光流は俺が来るのを知っている。
 この寒空の中、追い返しはしないだろうけれど、歓迎されるとは思わない。
 でもさ、やっぱりお前に会いたいから、おまえが好きだから…

 頂上に観測所のドームと合掌造りの母屋が見えた。
 玄関の前のガス灯の灯りが、辺りをうっすらと映し出している。

 坂を登り切り、敷き詰められた木道の向こう、影が見えた。
 光流だ…
 ひとり、天上を見上げている。

 足元の板に杖を打ちながら、俺は光流に近づこうと必死に歩く。
「光流」と、声を掛けても、あいつは天上を向いたきり、こちらを見ようともしない。
 やっと手が届く距離になり、俺は光流の肩を掴む。
 光流はゆっくりと俺へ顔を向き、「クリスマスに間に合ったな」と、呟いた。

「おまえにそこまで宗教心があるとは思えないが、その言い方じゃ、俺がおまえのプレゼントと思ってもいいのか?」
 そう言うと、光流は目を丸くし、
「いや、おまえみたいな面倒な奴、絶対欲しくない」と、にべもなく。
「でも、愛してるだろ?」
 そう言って、杖を投げ出した俺は、思いきり光流に寄り掛かった。
 病気の事もすっかり忘れて…

 少しよろけながら、でも当たり前のように、俺を受け止め、光流が俺の耳元に囁く。
「おかえり、燿平…」
 俺は何も言えず、泣いた。

 そうさ、クリスマスなんか関係ないさ。
 今日は、俺が、おまえに還る、特別な日。



          2017.12.24



なんとかクリスマスに間に合って良かった~
 
ヒロとアスラのお話はこちらから。
夜を駆ける  1へ


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天の軌跡と少年の声 10 - 2017.12.04 Mon

10
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   イールと神也


10、

 イールの日々の主な仕事は神事や祭祀で、それ以外は自由。何をしても、何処に居ても、何もしなくても誰も口を挟む者は居ない。
 愛しいアーシュが居れば、他に望むまいと思うものの、結構な割合で単身出張のアーシュの居ない時をひとり過ごす日々は寂しく。
 クナーアンの神様だから、住人たちの生活をリサーチするのも仕事のひとつではあるが、いちいち気に掛けてやる性分でもない。
 アーシュもイールも悟りを知る者ではなく、クナーアンを好き勝手にしてよい者達なのだ。
 だから気にかかるものが居たら、贔屓にするし、許せない者が居たら、容赦なく痛めつける。
 ただアスタロトと居た頃のイールは、彼に比べたら人々の前に現われる機会が少なかった為か、アスタロトのように人間の諍いや揉め事に関わりあうのを避けたい性分。
 雲の上に浮かぶヴィッラでひとり過ごす時間が多くなる。

 だが、神也が神殿に来てからは、アーシュに頼まれた所為もあり、神殿で過ごす日々が多く、暇を見つけては神也が入り浸る図書室にそっと忍び込み、神也の臨時講師となる。
 好奇心旺盛な神也は、大喜び。これ幸いとありとあらゆる疑問をイールに問う。
 イールに答えられぬものは無く、彼は少年の為に、わかりやすく教え。
 目を輝かし、素直に応え、機知に富み、臆することない神也はイールにとって新鮮だ。
 
 クナーアンの住民はすべからく、クナーアンの神に傅く魂を持って生まれてきた者達だ。善人であろうと悪人であろうと、イールとアスタロトへの従属は植えつけられたもの。
 彼らの二神への信仰は、生きる為の糧、至高の宝、救いの道標そのもの。だからこそ、クナーアンはイールとアスタロトの為の惑星なのだ。
 だが、神也はクナーアンの者ではなく、何事にも囚われる事も無くイールと接している。
 彼のイールへの敬意、信頼、友情は、イールの心を優しくさせる。
 信仰心の無い温かな感情が、心地良いのだ。

 神也は無口なように見えて、意外とお喋りだ。特に「山の神」であった頃の話をイールに聞かせたがる。
「こうやって気兼ねなく『山の神』であった頃の話ができるのが、ちょっぴり嬉しいのだ」
「何故?」
「う…ん。私がレイやスバルに話し出すと、なんだかねえ…。困った顔をするのだ。私を心配しての事なのはわかっている。私が『山の神』の役目を終えた時に、それまで守り役だった者達から殺されかけたから…。それを思い出させるのが可哀想だと思ってくれるのだ。でも、でもね、私は可哀想でもなんでもない。殺されかけたとはいえ、私はこうやって元気で生きてるし、『山の神』として生きた十二年間は、私の大切な思い出なのだ。どれもこれも思い出しては、懐かしさで一杯になる。そりゃ、埋められた時は怖かったけれど…。時々思う。柩の中で死んだと思っている巫女や世話人たちが…私を…死んでないのに死んだと思って悔やんでいないだろうか、とか、何年かたって柩を開けた時、私の死骸が無かったら、どんな想いをさせてしまうだろうかとか…そちらの方がちょっと心配。私は元気に生きていると伝えたいなあ。あ、でもそうなるとあの村のしきたりが破られることになるから、私は生きてちゃ駄目なのか…」
「彼らには…おまえの事は過去の思い出になっているだろうと、私は思うよ。人間は良い思い出だけを記憶したがる。そして都合の悪いところは忘れる。それが人間の良いところ。きっと神也が立派な『山の神』であった事だけが残るだろう」
「…私は良い神ではなかった。イールやアーシュみたいに何かの力があるわけでもない。村が嵐で家々が壊れた時も、雨続きで作物が取れなかった時も、病気の人々の祈りも、僅かな願いさえも、私は何も叶えることはできなかったんだ。でも村人は一心に祈り続けた。…多分、私が居てもいなくても彼らは、あの社に祈り続けたのだろう。そうなると私の存在は一体なんだったんだろうなあ…」
「おまえは『山の神』だったのだよ。人々の祈りを聞く。それがおまえの役目だったのだ。おまえが居たから救われた者も居る。それが事実だ」
「そうかな」
「おまえは何もしなかったというが、昔ね、アスタロトも同じことを言った。民が望むのは、神がそこに居るというという事だと。それだけで十分だと…」
「何もしなくても?」
「私は些か異論があったが、案外真意かもしれないね。だが今のアーシュにはそれは当てはまらない。あいつは、自分の能力をフルに使い、あちらこちらと伝説を打ち立て、瞬く間に民衆の英雄だ。神様業だけでは事足りないらしい」
「アーシュはあちらでもヒーローなんだ。サマシティだけじゃなく、あちこちと飛んでいる。まさに文字通り空を飛んでね。空を見上げてアーシュの姿を見かけると、子供は手を振り、歳を取った者は、手を合わせて祈るんだって」
「似たり寄ったりだな。中身が一緒だから仕方ない」
 イールはあちらでのアーシュの様を想像して笑う。神也はこちらのアーシュを想像して笑う。そして、お互いの顔を見て、更に大きく笑った。

 まるで同志だな。このような人間に接したのは、初めてかもしれない。
 神也は人間の質が良い。
 何事にも囚われず、己の見たままを己の中で真理を求め、消化しようと努める。
 簡単に見えて、難しい。
 それにしても 「山の神」として生きてきたこの少年に、信仰心が皆無とは面白い。
 あちらの世界では、このように自由でシンプルな者ばかりなのだろうか?
 そうだとしたら…アーシュがあちらに執着する気持ちもわからないではないけれど…。
 アーシュも…去りがたかろう…。


「ね、イール。ここはどんな意味なのかな?」
 気にする風でもなく、イールの腕にすがったり、白絹の手に重ね合わせたりと、以外にも神也は甘えたがる。それには性的なものは一切なく、雛鳥が親鳥に温められたがるような。
「そろそろホームシックかい?それとも恋人が恋しいのか?」と、問うと、神也は少し恥らい「うん、スバルはセックスしない日も、必ず一日一回は強くハグしてくれるのだ。何も言わなくても、スバルの想い…今日も一日、元気で、病気にならないでとか、事故に遭わない様に、残さない様に沢山食べて、友達と仲よくして、愛してる、大好きだよ…って、聞こえるのだ。私はスバルの気持ちが嬉しくてたまらなくなる。それがないと落ち着かなくなる。スバルが仕事で居ない時は、寂しくて泣いてしまう時もある。いつまでもそんなんじゃ駄目だなって思っているけれど…。ごめんなさい。イールに甘えたいわけじゃないんだ…」
 少しだけ寂しく俯いた神也の身体を引き寄せ、イールは優しく抱きしめた。
 神也も嬉しくなり、両腕をイールの腰に巻きつけた。
 イールからは懐かしい…春の香りがした。

「スバルは良い人間なのだな…」
「うん、とても優しい」
「神也を一生守り続ける覚悟がある」
「うん、とても強いんだ」
「神也だけしか恋人にしないと心に誓っている」
「うん、絶対に浮気はしないんだって…。全部わかるの?」
 思わず顔を上げ、イールを見上げる。
「おまえの頭の中のスバルを見ているだけだ。本物はどうか知らないけれど…」
「本物はもっと素晴らしい。いつか、イールに会ってもらえたら良いのだけど…」
「そうだね。そんな日が来ると良いのだけど…」

 神也はイールの胸に顔を埋め、深呼吸をする。

 昔を思い出す…
 春になると、山肌が一斉に桜色に染まり。
 散っていく花弁を、社(やしろ)の奥の小さな庭で追いかけた。
 転んで泣いた私を、年老いた巫女が慌てて起こし、土を払って、「怪我はないか」と思わず問うた。
 私は普段口を利かない巫女が喋ったのに驚いて、嬉しくて、巫女の胸に飛びついたのだっけ。

 思い出はいつでも愛おしく懐かしい。
 ホントだね、イール。
 嫌な思い出は、いつしか薄れて、忘れてしまうんだね…




天の軌跡と少年の声 9へ /11へ

もう十二月だなんて…
笑いごとじゃないわ~((人д`o)



アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
それぞれ左のカテゴリから、どうぞ~


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