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2018-08

Again 3 - 2018.08.19 Sun

3
 イラストはサムネイルでアップしております。
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ハル-11

ハールート 2

 「天の王」では魔力を持つ者を「アルト」と言い、そうでない者は「イルト」と呼ばれる。
 異なる者たちを理解し、お互いを信頼しあい、より良い社会を創る基礎を身に付けるこそが、「天の王」に理念であるが、生まれもった能力の差があるのに、平等なんて、建前だけのしゃらくさい偽善に過ぎない。
 僕は魔力を持たない人間。だからこそ、自分を守る為に、財力や自身を売り込んで、より強い者を味方にし、権力を持たなければならない。
 
 正直、アルトの能力を見せつけられた時、僕の自尊心は酷く傷ついた。
 確かにそれまでも御屋敷の中に父が雇った魔法使いを見ていた。
 僕の家庭教師だって、物を動かしたり、占いをしたり…快楽に導く技がとても上手かったり…そういう特殊な妙技は目にした。だが、「天の王」のアルト達は、見せびらかす事も無く、こっそりとこの魔力を使う。
 具体的に言えば、まあ、学生らしくカンニングやら、宿題を誤魔化したり、掃除をサボったり…(大体が先生たちにバレて酷いお仕置きが待っている)
 彼らは魔法を自分の為だけに楽しんでいる。
 他人の考えを読む事もできるが、ほとんどの奴らは他人に無関心なので、実行することはない。彼らによれば、人の考えを読んだところで、メンドクサイだけで何ひとつ有益になるものはないそうだ。
 ところで、僕には魔力はないが、意志の強さで、魔法を受け付けないところがあるらしく、僕を陥落させようとする誘惑者の魔力に、怖気づくことが無い。
 彼らは僕を「イルトの英雄」と讃え、僕の為にならなんでもする、と軽口を叩く。勿論僕はそれが冗句だと知っているし、お互い楽しめるのなら、利害の一致する方法を選ぶのだ。
 セフレを選ぶ条件は、僕のナイトとなるくらいの強い魔力を持つアルトである事、床上手である事、それに、僕にふさわしいくらいの容姿端麗である事…なんてね。

 「天の王」での一年目は、僕の好奇心を満足させるものだった。二年目は学園生活を楽しむ術を覚えた。
 中等科最期の学期を迎える直前の休暇中、僕は御屋敷に帰省していた。
 長期休暇毎に実家へは帰っていたが、しばらくすると母の過剰な執着や、少しも成長しない使用人たちの田舎臭さに辟易したものだった。
 だから日がな一日を、一人きりで遠乗りする事が多かった。

 御屋敷の湖をぐるりと回った奥の森の中。誰もいない静けさが身体にしみ込む。乾いた落ち葉を踏みしめる音だけが聞こえ…。
 ひとりでいると、「天の王」を思い出す。校内にも良く似た林があり、地面に寝転がり、よく空を見上げていた。
 校内で僕は人気者だったが、それが僕のお金や身体目当てや奴らも多かった。僕はお山の大将に過ぎない。でも…それさえも僕への好意は、僕を安らがせ、心地良い空間に導くものだった。

 思ってもみなかった事だが…僕は案外、「天の王」の学生生活を楽しんでいるらしい。

 うとうとしていたら、名前を呼ばれ、いきなり目の前に銃口が突きつけられた。
 驚いて周りを見回したら、数人の(四人…いや五人だ)男が僕の周りを囲み、すぐに僕の身体を縛った。
 目隠しと猿ぐつわを咬まされ、乱暴に抱えられ、どこかへ連れ去られた。
 つまり誘拐、拉致…。
 犯人のひとりには見覚えがあった。
 僕に執心していた家庭教師の男だ。あまりにしつこかったから解雇した。だが二年以上も前に話だ。今更、僕になんの恨みがあるのか、さっぱりわからない。

「よくも私を辞めさせやがったな!何が気に入らなかった!おまえをあれだけ気持ち良くさせてやっただろ!」
 元家庭教師は過去の恨みを晴らすように、僕を乱暴にレイプした。さすがの僕も殺されるかも…と、思った程だ。だが彼に僕は殺せない。
 何故なら、彼は僕のカリスマに抗う事の出来ない魔法使いだからだ。

 僕のカリスマがどの魔法使いにも宛てはまるわけではない事は、「天の王」の学生たちで実験済みだった。だが、僕のそれに惹かれるアルトも少なくはなかった。その差がなぜ生じるのかは、未だに解明できてはいない。

 連れ去られた狭くて汚い山小屋で、僕は三日間、彼らの嬲り者。あいつらから弄ばれた。
 奴らは小さな僕を嬲りながら、今の政府と特権階級を罵り、自分たち、魔法が使える者達は特別な価値があると大仰に叫び、バカのような理想郷をまくし立てた。
 あげく「革命は聖戦だ。我々に有利な国を創る為には、只の人間、そう、魔力を持たない王が必要だ」と、僕に仲間に加わるようにと言い、最後には革命の王になってくれと、泣きながら頭を垂れた。

 好きなようにレイプしておいて、信用できる筈もない、と、怒鳴りたかったが、怒らせて殺されでもしたら、こちらが本当の馬鹿になる。
 だから従順なフリをし、めそめそと泣いていた。
 時間を稼ぐ必要があった。
 助けはすぐに来るだろう。

 拉致されて三日目の朝、僕は解放された。僕を誘拐した奴らは、父親が雇った魔法使い等によって、皆始末された。

 連れ戻され、僕がベッドから目を覚ました時、傍には誰も居なかった。
 気が付くと僕の身体には包帯が巻かれ、それと共にあちらこちらと痛みが走った。
 召使を呼ぶと、いつものメイドが少し緊張した面持ちで、僕に水を飲ませた。
 しばらくして母が顔を見せたが、今までの溺愛するような態度ではなく、どことなく軽蔑する素振りで、僕を冷ややかに見下げていた。

「マイスリンガーの跡取りが、こんな恥辱を受けるなんて…とても、表沙汰にはできない不始末ですよ。いいですか、コンラート。これからはひとりで遠乗りなんて…いえ、このお屋敷にいる限りはひとりで外へ出かけてはなりません」と、言い放ち、早々と部屋から出ていく。
 母親は穢れた僕を見放したらしい…。

 父親は傷だらけの僕を見て、「おまえを失わなくて、良かった…」と、溜息を吐いた。
 その言葉に僕は幾分救われた気がした。

「いいか、コンラート。おまえはこの家を継ぐたったひとりの跡取りだ。これからも危険な目に合う事もあるだろう。だから自分の身を守るために、強い魔法使いや魔術師を味方に付けることが大事だ。おまえを『天の王』に行かせたのも、優れた能力を持つ魔法使いをひとりでも多く探して欲しいからだ。おまえのカリスマなら、命を賭けておまえを守ってくれる者もいる事だろう。わかるね」
「…はい、父上」
 父親の言う事は理解した。
 僕は力の無い人間であり、魔力を持った者に守られてしか生きられない、と言うことなのだ…。

 この事件は僕を酷く傷つけた。
 身体だけじゃなく、精神的にやるせないものを感じ、どうしても拭いきれない汚泥が心の底に溜まっていく。
 
 僕は誰からも尊敬され必要とされる支配者でありたかった。だが、ただの人間の僕は、あいつら…自分の能力で乱暴に虐げる奴らに敵わない。その事実を突きつけられた上に、自分を守るためにあいつらの能力を充てにしながら、生きて行かねばならない?
 こんな…不実なものがあるものかっ!

 僕が拉致され暴行された事件は、屋敷の者以外は誰も知る事のない汚点として残った。


 新学期が始まり、「天の王」に戻った僕は、機嫌取りの奴らを遠ざけ、信頼できる者だけと付き合うことにした。

 恋人のひとり、三学年上のミカは、陽気な金髪碧眼のコーカソイドだ。母親がジプシー出身らしいが、ミカは品が良く、我儘な僕にも文句ひとつ言わない。勿論、優秀なアルトであり、僕と同じく選ばれた「ホーリー」だ。
 ホーリーだけに与えられる真名は「ミカル・アンテ・ユーティライネン」。
 真名は「天の王」の学生にとって、「誇り」以外の何ものでもなく、一生付きまとう「紋章」なのだ。

 最上級生の彼は、大学進学を望んでいる。
 父親はノルマン王国の子爵らしいが、彼は親を頼らずに、大学に行くつもりだ。
「奨学金を充てにしているけど、成績優秀者にしか貰えないから、今期は頑張らなきゃね」
「それじゃあ、僕と遊ぶ暇が無いってこと?」
「そうは言ってないよ。ハルとのセックスは最高だから、手放すつもりはないさ。苦学者にも息抜きは必要だ。まあ、君から別れたいっていうのなら、仕方なく諦めるけどさ」
「すごくいい加減で、気分悪い!」
「だったら謝る。さ、機嫌直せよ、お姫様。折角の昼休みを何もしないで終わるって事は無いだろ?」
「…」

 学生は放課後までは寮に戻る事は基本的に禁止だから、逢引は図書室にある十二の自習室が一番人気。狭いけれど防音付きの個室だし、何をしようが部屋の外には判らない。小さなのぞき窓はあるが、それも情欲のエッセンス。勿論、他の奴らも同じ穴のムジナで、二時間の長い昼休みは、盛った学生の性欲の捌け口となる。

 ミカはセックスが上手い。
 いつもは紳士なクセにセックスとなると、サディステックに僕を翻弄する。
 ミカよりむしろ夢中なのは僕の方だった。
 それ以上に僕がミカを離したくない理由があった。
 いつの間にか僕は、エモーショナルなセックスの相手が、信用できる相手だとわかるようになっていたんだ。
 下心だけの奴と寝ても、少しも感じない。
 だから、ミカは特別だった。
 ミカが僕をどう思っているのかはわからない。
 彼のような優秀なアルトの本音を引き出すのは、僕には難しい。けれど、ミカが信頼に値する相手だとは確信している。

 資料を探したいからと、三十分もの休憩時間を残して、ミカは自習室を出ていこうとする。
「悪いけどどうしてもやらなきゃ宿題があってさ。ハルはしばらく立てないだろうから、休んでいろよ」
「僕も…行くよ」
 情欲の波がまだ納まっていなかったけれど、置いて行かれるのが嫌で、慌てて僕も服を着て追いかけた。

 自習室を出ると地下と上段の図書庫に繋がる階段、それに自習室を使えなかった学生の為の机と椅子が並べられている。
 ミカの姿を探すと、一番端の窓際に居た。
 少し屈んで何やら、見たことがない学生と懇談中。
 僕には見せない真面目な顔で、相手と話している。
 少し僻みながら、彼らに近づいた。

「僕を残してひとりで行っちゃうなんて、酷過ぎない?ミカ…」
 ミカと話している男子学生に、なんとなく目を移した。
 流れるような白髪が窓からの日差しに輝き、思わず目を細くした。
 ゆっくりと僕に目を移した彼は、僅かに口の端で笑っただけ。
 アルビノかと思えるほど白い肌、だけど、口唇は赤く、その目は澄んだ琥珀色に染まり…一瞬で惹きつけられた。
 
「悪いな、ハル。探してた資料をこいつが持ってたんで、交渉してたわけ」
「ついでに論文を写させろ、だろ?」
「悪い!ルスラン。今回は頼む!自分で調べるには時間が足りないんだ。ミューク教授は特に厳しいからな」
「気にするな。次回は僕がミカに頼るから」
「任せとけ。じゃあ、これ借りておくよ」
「ああ」
「勉強中のところ、邪魔して悪かったな。自習室なら、俺達の後が空いてるから、遠慮なくどうぞ」
「ありがたいが…。まだ図書の方に用事があるから、自習室に籠る時間はなさそうだ。じゃあ…」
 そう言うと、ルスランと呼ばれた彼は、(彼はミカと同じくらい背が高かった)僕の前を擦り抜け、書架が並んだ地下の階段を下っていく。

 その姿が消えるまで、僕はただ茫然と彼の後姿を見つめるだけで…。
 
 僕の心に永遠に枯れない花が、咲いたような気が、したんだ。




Again 2へ4へ

少しずつ暑さが和らいでいますね。このまま秋に突入~って事には、なりませんよね~(-ω-`*)

このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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お盆も暑い! - 2018.08.13 Mon

早々とお墓参りも済ませたんですが、なんつうか…暑い!
暑くてパソも前にもいられん!
でも、折角買った「エリザベート」のブルーレイは、毎日観てます!

と、いうことで、みりおトート様描いてみた~

トート5

なんか「死の帝王」と言うより、まだまだ青臭い帝王…
そうそう摩夜峰央の「アスタロト」みたいなみりおトートでした。
「アスタロト」やる時は、是非みりおさんにやって欲しい…やるわけないだろうが!

夏バテしそうな暑さですが、とにかく秋までもう少し…だと、思う。
がんばろ~(`・ω´・)ノ"



宝塚徒然 - 2018.08.04 Sat

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宝塚徒然

これまでの私の人生において「宝塚」などに興味が一切無かったけれど「ポーの一族」の舞台化で、とうとうブルーレイを買う羽目にまでなってしまいました。
七月は、ただとは言え「スカイステージ」の視聴に勤しみ、宝塚の色々な舞台や、その他を視聴、あとヅカファンのブログなどを覗いたりして、ファン心理の理解にも努めました。

結果…明日海りおさんは、トップスターにしては非常な稀有なキャラだと言う事がわかりました。
私が惹かれたのも仕方ありません。

組のトップ男役さんはそれぞれ、色があり、ファンは自分の好みに合わせて、どの方を選んでも良いのですね。
いわばアイドルのどの方贔屓という事でしょう。
皆さん、アダルトで色っぽく、まさに女性が惑わされる憧れの男性像…なのでしょう。
だけど明日海さんは男と言うより、少年、それも感性の鋭い、不安定な少年っぽさがキャラに似合う。
「ポーの一族」が舞台化された一番の要は、明日海さんのビジュアルなんでしょうけれど…
演出家は、とにかく明日海さんにエドガーをやらせたかったのでしょうね。
確かにエドガー役になりきった明日海さんおのポートレートの凄まじさよ…
まあ、多少は老けたエドで、十四というより十八…ぐらいか?
男がやるよりは、全然おkですよ。

「ポーの一族」に言及するならば…
衣装、セリフ、舞台設定など良く漫画通りに再現されています。すげえなとも思います。
でも、なんつうか…やっぱり宝塚ならではの「何か」が欲しかった気がします。
漫画が完璧に芸術品なので、それをトレースするのではなく、それとは違った…美意識とでも言う「何か」が欲しかった。
また一年ぐらい見続けたら、感想が変わっていくかもですが…

私は三島好きなので、明日海さんが月組で演じられた「春の雪」のDVDを買って、観たんですが、これは原作越えとも言うほど、演出、曲、キャラのすべてが素晴らしかった。
多分映画化された時期に、舞台化されたんでしょうが、とにかく主人公の「清顕」のキャラ付けがこの作品を高尚なものとしています。
「豊饒の海」は、一巻の二十歳で死ぬ清顕が、親友の本田によって英霊化され、翻弄されていくんですけど、この小説、誰一人いい奴いません。ロクでもないキャラしか出てきません。
それは三島の作品全編に言えるんですけどね。
その中でも清顕はめちゃくちゃロクでもねえ未完成で馬鹿なお坊ちゃんです。
私は本を読んだ時、どうしてもこのキャラが好きになれなかった。
これに比べたら四巻の文字通り天人五衰になってしまった透の方が、キャラとしては魅力的にさえ見える。
だけど、明日海さんはこのロクでもない清顕を、むちゃくちゃ魅力的に演じてくれる。
狡猾で未熟で我儘でどうしようもないのに、魅力的ってどうなんだ?つうぐらいに、清顕に惹かれる。
なので、年上の聡明な聡子の気持ちもわからんではない。保護したくなる頼りなさなのだ。

明日海さんの清顕は、他の誰がやってもこうはできまいという出来でした。
では明日海さんの一番の魅力はなんでしょう。
それはやっぱり声だと思いますね。
演技も歌も「声」の表現で、そのキャラの色が決まる気がします。
なので、ダンスや容姿が幾ら上手くても、声が良くないとトップスターの魅力には欠ける気がします。

「宝塚」のトップスター制には、私はあまり興味がありません。
演目にあったキャラ(研究生)を、様々に使いこなしていく方が、色々な舞台を楽しめる気がしますから。
と、言ってもこれから先「宝塚」の舞台を観劇するかどうかは、わかりませんので、あまり偉そうに言う権利はないですね。
けれど、明日海さんが教えてくれた世界を、これからも楽しんでいければいいなあ~と、思いますわ。

これからも機会があれば、明日海イラストを描きたいですね~
アリスの恋人のルイス・キャロルとか…

今日は私の誕生日ですが、別に特別な事もありませんね~+.゚(*´∀`)b゚+.゚

Again 2 - 2018.08.02 Thu

2

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ルスラン-1-1
  
 母は時折、父の居ないところで、幼い僕に「ラファ、あなたには本当の名前があるの。だけど特別な言の葉だから、粗末に口に出してはいけないわ」と、優しく僕の頭を撫で。
「お父さんにも言っちゃいけない?」
「そう、お父さんにもその名を呼ぶ権利は無いのでしょうね」
「じゃあ、誰が呼んでくれるの?」
「あなたが必要とする誰かが…その名前を呼ぶわ、きっと…」
「だれ?どんな人?」
「それは…お母さんにも視えないけれど、その人は、ラファを導いてくれる…。お母さんの精一杯の未来視よ」

 母の祖先は、特別な力を持つ。
 直系である母もまた未来を視る事が出来る魔女だった。
 彼女は、僕が十歳の時に、死んだ。
 死ぬ間際、彼女は僕にこう言い残した。

「ラファ、良い魔法使いになってね。その力は自分の為にあるのではなく、他者を幸せにする為のもの。だから、皆に尊敬される人になりなさい…。それがお母さんの願い」
 
 十七の僕には、未だ、母の望んだ者への道は遠い。



ルスラン 1

 小さい頃、僕達家族は大きな街の裏通りにある煉瓦造りの二階に住んでいた。
 母は大家さんが営む一階の仕立て屋で、お針子として働いていた。
 父は絵描きだったが、自分の作品が売れるわけでもなく、映画館の看板やポスターを描いていた。
 慎ましい生活の中で、僕は父と母の愛情に育まれて育った。

 僕が六歳の時、父はいなくなった。
 それはあまりに突然の事だったから、よく覚えている。
 外から帰ってくると、部屋には父と母、そしてスーツを着た男が二人。
 泣いていたのか、父は僕の姿を見ると両手で目を拭き、僕を手招き、抱き上げた。
 そして、二人だけで小さなバルコニーへ出ると、こう言った。

「お父さんはお仕事で、しばらく遠くに行かなきゃならなくなったんだ」
「…お父さんだけ?」
「そう。だからラファに頼みがある」
「なに?」
「ご飯を一杯食べて、沢山遊んで、勉強して…お母さんを守って欲しいんだ」
「そんなにいっぱい…僕、できるかな…」
「大丈夫。ラファは特別に良い子だから、出来るさ」
「じゃあ、頑張る」
「うん…。ごめんね…ずっと一緒に居たかったのに…ごめん…」
 父は顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
 僕はその涙を小さな掌で、拭ってやったのだ。

 父は二人の男たちに連れ去られるように、家を出た。
 バルコニーから見送った母と僕に、父は精一杯の笑顔で手を振っていた。

 その夜、寝室でひとり泣いている母を見て、僕はどうしていいかわからなくて、そのままドアの外で蹲り、泣いてしまった。
 それに気づいた母は、僕を抱きしめ、そして何度も「ごめんね」と、言った。

「お母さんが泣くと、お父さんが悲しむから、泣かないで。ね、お母さん」
「うん」
「お父さんはお仕事に行ったのでしょ?いつか帰ってくるんでしょ?それまで僕、良い子で待ってるから。お父さんに約束したから…泣かないで」
「そうね…。明日からは、泣かないから…」
 母の悲しみと寂しさ、何よりも父を労わる気持ちが、僕の心に流れて、僕は泣くまいとしたけれど、涙が止まらなかった。

 しばらくして、母と僕はその街を出た。父との思い出が辛かったのだ。
 大家さん夫婦は、本当の孫みたいに僕を可愛がってくれたから、別れは辛かったけれど、母の意志は強かった。
 僕らが次に住んだのは、海の見える小さな港町。
 そこの裏通りで小さな仕立て直しの店を開いた。
 港町の往来は多く、腕の良い母は仕事に困る事は無かった。そして、夜は占いの仕事も。
 母の占いは良く当たると評判だった。
 天候や漁場の予想はお手の物。恋愛から夫婦の愚痴まで、母は彼らの幸いの為に能力を使った。
 時折疲労の為か、食事も取らずにベッドに横になる母を見て、僕は「仕事を減らしたら」と、頼んだが、母は「大丈夫」と、言うばかりだった。
 お金に困っているはずは無かった。
 ふたりが暮らせるだけの生活費は、父から送られていた。
 母は毎月決まった日に届く父からの便りを、何よりも楽しみにしていた。
 特に父の手紙は、何度も読み返し、僕にも見せてくれた。
 だけど、母は父の手紙を読みながら泣くことがあった。
「どうして?」と、聞くと、「お父さんは文字にはしないけれど、お母さんには見えてしまうのよ。お父さんがどんなに大変な仕事をしているかが…」
 僕は母が見ていた手紙を覗いてみた。

 父の文章に弱音は無い。だけど、僕にも見えた。
 文字の隙間から、頭を抱えた父の姿や泣いてる姿が…。

「そんなに辛いなら、帰ってくればいいのに、ね」
「ラファ、お父さんはお父さんにしか出来ないお仕事を一生懸命続けているのよ。お母さんはね、お父さんの健康と仕事の成功を祈るだけ…」
「でも…」
「ラファが大きくなったら、お父さんの仕事を助けてやって欲しいの。その為にはちゃんとした教育が大切だわ。もう少し大きくなって、もう少しお金が貯まったら、ラファは寄宿学校に行くのよ」
「寄宿…学校」
「そうよ。立派な魔法使いになる為の学校、サマシティにある『天の王』学園にね」
「でも…寄宿学校ってお金がかかるんでしょう?お母さんが苦労して働かなくても、僕、普通の学校でいいや」
「ラファの為に働くのは、お母さんの為でもあるのよ。その白い髪と黄金の瞳…。強い直系だけが持つ魔力があなたには備わっているの。お母さんはあなたの未来が楽しみなのよ。だから、お母さんの楽しみを奪わないでね」

 僕は不条理なものを感じていた。
 父も母も僕も幸福ではないのに、立派な魔法使いになって、何の意味があると言うのだ。

 
 母は死んだ。
 原因は頭の腫瘍だと医者は言ったが、過労が過ぎた所為だろう。
 父に電報を打ったが、間に合わなかった。
 母は町の人達に愛されていたから、沢山の参列者が葬儀に来てくれたが、父の姿は無かった。

 その数日後、母の墓の前で号泣する父を見つけた。
 恨み言のひとつも言ってやりたかったが、人の目も気にする事なく、泣きじゃくる父の後姿を見ていたら、可哀想になってしまった。
 ふたりは愛し合っていた。
 それは僕にもわかる。だけど、そうであるなら、何故もっと良い方法を見つけられなかったのか…
 僕には理解できなかった。



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