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2018-10

Again 7 - 2018.10.23 Tue

7
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リノ・フォリナ


ルスラン 4


 翌日、トゥエ・イェタル学長は、僕にひとりの生徒を紹介した。
 新学期から最終学年になるという「リノ」と言う彼は、背が高く、一見して真面目を絵に描いたような男子学生。濃い褐色に眼鏡の奥から垣間見えるヘーゼル色の瞳が知的に輝く。

「彼がルスランだよ、リノ。君の教えで新学期までに、彼に十分な学力を付けて欲しいんだ。やってくれるかな」
「そんなの、本人のやる気次第だと思いますけど、引き受けた限りは、ちゃんとやらせますから、心配ご無用」
「うん、リノに任せていれば、私も安心ですから」
「彼をトップクラスにさせたら、バイト代上げて下さいよ」
「はは、考慮するよ」
 
「よ、よろしくお願いします」
 学長のトゥエ・イェタルへの、リノのぶっきら棒な言い方に戸惑いながら、僕は深々と頭を下げた。
「じゃあ、行こうか」と、リノは学長に挨拶も無く、部屋を出ていく。
 僕は慌てて学長にお辞儀をして、彼の後を追った。

 大股の早足で歩くリノを追いかけるのにも、こちらは必死。
 五分ほど歩いて着いた所は、圧倒するほど立派な図書館。入口の重厚な扉を開けるにも、相当な力がいる。

 リノは顔見知りなのか、慣れた態度で司書から鍵を貰うと自習室へ向かい、僕の方を振り返り、顎で部屋に入るように命じた。
 自室と同じくらいの部屋には机と数脚の椅子が置いてあるだけ。
 リノと対面するようにテーブルを挟んで座ると、間も開けずにリノが口を開く。

「ルスランって言ったっけ。学校は行ってなかったのか?」
「あ…十歳までは公立の学校へ…。でも、その後は、色々と家の事情で…」
「あ、そう。なんでもいいんだが、俺はスパルタで行くから、そのつもりでいるように」
「はい、頑張ります」
「そんなに緊張しなさんな。まあ、気に入った新入生は贔屓したがるのが、トゥエの癖だ。きっとおまえさんにも、相当な能力があるんだろうよ」
「…」
 能力って言ったって…僕自身でさえよくわかっていないのに…

「ちょっと待て…」
「は?」
「あのな、おまえ、アルトだろ?」
「…アルト?」
「へ?知らないのか?」
 僕は黙って頷いた。
「そこから教えないといけないのかよ~」
 リノは頭を抱えながら、それでも丁寧に、説明してくれた。

「天の王」では、魔力を持つ者を「アルト」と呼び、そうでない者を「イルト」と呼ぶ。
 これは今では、世界で認められる呼び名として定着しつつあり、どの国でも通用する称号だ。ただ僕の国のような田舎では、ほとんどがそう言う特権階級的なものに関心が無い為か、あまり知られていないのだ。

「天の王」が掲げる理念とは、互いが互いを尊重し、信頼しながら生活する社会を創る為の基礎となるものを学ぶ事。

「要は、アルトとイルトがお互いの能力を認め合い、助け合って生きて行く方法を模索していく…、ぶっちゃけ、ラボみたいなもんさ。見方を変えれば、俺らは哀れなモルモットとも言える」
「そんな…」
「悪いとは言っていない。アルトの能力のコントロールは必要不可欠だし、イルトのカリスマも俗悪に染まっては困るからな」
「…よく、わからないけど…」
「そのうちわかる。それより問題なのは、おまえ!」
「は?」
「おまえねえ!今、言ったろ?アルトならコントロールしろって!」
「え?…何を?」
「おまえの考えてる事、こっちに全部筒抜け!俺みたいな優秀なアルトじゃなくても、おまえの頭の中を見通してしまうっって話だぜ。これがどんなにやばい事かわかるか?」
「…」
 考えてることがわかる?今の僕の頭の中が…?僕に触れもしないで?

「全く、そんなことも知らねえで、よく今までのんびり生きて来られたものだ。だがここじゃあ、ロクでもねえ奴らに、すぐに取って食われるぞ。まあ、俺には関係ないけどね」
「あの…」
「とにかく基本中の基本だ!良く聞け!表の思念と裏の思念の使い分け。本音と建て前って事。それから嘘も方便。そして真実は心の奥に!最低限これだけでもすぐに覚えろ!わかったか!」
「わ、わかりました…」
 何のことか、どうすればいいのか、わかるはずもなかった。それでも、リノの言葉には信頼させる力を感じた。
 僕は彼の教えを懸命に理解しようと努め、乱暴な彼の言葉の中の温かさに触れ、彼を失望させまいと猛勉強した。
 
 リノは勉強だけじゃなく、気が向くと、広大な学園の構内を案内してくれた。
 大部分の生徒達が知らない古びた蔵の地下室、鍵のかかった秘密基地、生い茂った林の向こう、その端にある小さな池から湧き出る清水、美味しい果実の見つけ方。
 それから、彼は木々の間を魔力で飛んでみせてくれた。

「本当は自由に飛べるようになればいいのだけれど、そこまでの能力は、俺には無いみたいだ。ルスランなら、もしかするとできるかもな」
「僕…無理だよ。リノみたいに上手く木登りもできないし…」
「これくらいは繰り返し練習すればできるさ。問題はその先。おまえがその力を望むか望まないか、だ」
「どういう意味?」
「魔力って奴は、元々備わっているものであり、その力量はひとりひとり違う。だからいくら一生懸命頑張っても、限度があればそこまで。そして、能力がある者は、見えない山の頂上を目指す。だが高みに行こうとすれば、それなりの覚悟がいる。もし足を踏み外せば、己を見失い、狂人に成り果てる…。俺達はいつだって、自分なりの善悪や道徳、理想や絶望を選択する覚悟を持って、己の魔力と対峙しなきゃならないんだ」
「なんだか、大変そう…」
「そうさ。能力をもった者の宿命って事だろうね」
「僕は…母の願いを…。母は人を幸せにする為に魔力を使って欲しいと僕に願った。僕はなれるだろうか…」
「親の願い…重そうだな。人の為の魔法か…。そう考えている奴はこの『天の王』じゃ、奇特だろうが、悪い事じゃないと、俺は思う」
「本当?」
「ああ、俺もさ…能力はさ、俺以外の誰か…、好きな奴だったりするとテンションも上がるけどさ、その為に使って喜んでもらったら、俺が幸せになれるんじゃないかって、思っている。まあ、自己満足って言うんだろうけどさ」
「…」
 リノの言葉は僕を勇気づけた。共感してくれたことが、何よりも嬉しい。
 いつの間にか、リノは僕の目指すべき「天の王」の生徒になっていった。


 誰もいない森の奥の木陰。青い草の匂い。
 キラキラと零れ落ちる光の珠。
 掬い取ろうと手を伸ばした。
 リノは伸ばした僕の掌の中に、幾つかの光を落とした。
 虹色に輝く光の眩しさに、僕を思わず目を閉じる…。


 新学期が始まり、新しい友人達と過ごす日々に僕はすぐに溶け込んでいた。
 どの授業も十分に理解する事ができ、またたく間に成績も上がり、先生方からも褒められた。
 すべてリノのおかげだ。
 何より、新学期が始まっても、リノは時々、僕の勉強を見てくれたのが嬉しくて…。
 
 リノは、授業料が免除になると言うひとかけらの成績優秀者がなれる名誉なる「特待生」だった。
 名誉はいらないが、授業料免除は魅力的だ。
 父や公妃へのコンプレックスが少なくて済む。
 僕は家の事情を話し、どうしたらリノみたいになれるかを相談した。

「そりゃ、馬鹿みたいに必死に勉強するしかないさ。他の奴らが恋や遊びに浮かれている時、ひたすら図書館で、未知な物事を頭に詰め込む孤独な作業。それに特待生は学習だけじゃなく、すべての科目に『特優』の結果を出さなきゃならない。運動も芸術も万遍なく努力を怠らず…。よって友人は少なくなり、恋をする暇さえなくなる。俺みたいに」
 そう言ってリノはあっけらかんと笑った。
 リノが友人が少ないなんて嘘だ。
 時折構内で彼の姿を見かける時、必ずと言っていいほど、沢山の友人に囲まれているし、恋人だって…

 この間、図書室の資料室のロフトで、女子生徒と抱き合ってたのを見た。
 衝撃だったけれど、嫌な感じはしなかった。
 暗がりの部屋の隅で、女子生徒の綺麗な金の髪が揺れる度に、屋根の窓から差し込む淡い光も揺れ、幻想的ですら思えた。
 
「リノはあの子が好きなの?」
 その女子が帰った後、僕はリノに聞いた。
「好きじゃなかったら抱かないよ。でも、さっき知り合ったばかりだから、先はわからないね」
「会ったばかり?」
「一度でいいから、抱いてくれって。すごく良かったからって、お礼に金までくれた。こっちも良い思いして、ついでに小遣いまでもらったら、嫌いにはなれないだろ?」
「でも、それって恋とか愛じゃないよね」
「じゃあ、ルスランは恋やら愛の定義は知ってるのか?」
「…」
「俺は少なくとも…まあ、十八年生きてきた経験で言うと、『愛』なんてもんはどこにでも転がっている石みたいなもんで、色んな形や色があって、気に入ったもんを拾って懐に温めて満足するようなもんだ。石の感情なんて、俺には関係ない。俺が探して、見つけて、選んで…誰にも渡さなければ、それが俺の『愛』になる。俺の定義でしかないが」
「片思いで終わってしまう。そんなの寂しくない?」
「…片思いでいいんだ。愛されるのは、苦手なんだ…」
 そう言って、リノは苦い笑いを浮かべた。

 僕はもっとリノを理解したかった。
 彼の拾った石ころに、なりたかった。




Again 6へ /8へ

ルスラン編、続いてしまうのか?…続きそうなのよ~。すいません(;´Д⊂)

このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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Again 6 - 2018.10.03 Wed

6
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  セーレ2


ルスラン 3

 厳しい冬を乗り越えた後の、春の暖かさの幸福感と言ったら、まるで厳しさを耐えたご褒美のようにさえ思える。
 馬鹿みたいに暢気で穏やかで、寂しさや辛さも忘れてしまえるほどに…

 いつものように城で使う食料や日用品を港に取りに行く。
 荷馬車の扱いにも慣れたもので、年寄りの黒馬、ロビンとも仲良しだ。
 月に二度、決まって通う港町にも知り合いは増えて、僕を見ると「ごきげんよう、白の公子さま」と、お辞儀をしてくれる。
 僕の髪が白いからそう呼ばれるんだが、荷馬車に乗り、汚れたサスペンダーを着ている公子など、どこにいるものかと、笑ってしまいそうになる。けれど、この国では父である公王でさえ、畑でクワを持つ時もあるのだから、嫌味でもなく、彼らは心から僕を公子と崇めているんだ。

 本当は、僕は公子とは認められていない。
 父の妃であるカロリーヌ公妃は、「あなたはメジェリ家とは関係ない血筋です。あなたをここに置くのは温情だと言う事を忘れないで頂戴」と、はっきりと僕に言った。
 僕もこの国の継承など関係ないものと思っていなかったから、彼女の宣言は気にする程ではなかった。寧ろ、縛り付けるものがなくて、ホッとしたくらいだ。

 早く大人になって、この国からも全てのしがらみからも逃げ出して、広い世界を自由に旅したい。

 積荷を終え、城に帰ろうとする時、身なりの良い紳士が僕に声を掛けた。
「ちょうど良かった。お城に行くなら、私を連れていってもらえないでしょうか?」
 訝しがる暇もなく、その人は軽々と飛ぶように手綱を引く僕の横に座った。
 馭者席は戸板を置いただけの粗末なものだったから、彼の綺麗なスーツが汚れてしまわないか心配だったが、荷台に案内するわけにもいかず、取り敢えず布を敷いて、席を譲った。

 荷物が重い為、帰り道ではゆっくりの坂道に、いつもロビンの息は上がり気味。
 陽気にほだされ、ムチを打つ気もならず、ロビンの行くままに任せている。

「すみません。この馬、年寄りだから馬力が無くて…。お城まで少し時間がかかるかも知れません」
「構いませんよ。春の日差しは、どの国に行っても暖かくて優しいから、のんびりしてしまいますしね」と、笑う。

 歳は父と同じ位だろうか。髭は無く、濃いグレーの髪を綺麗に整え、山高帽を被り、ステッキと小さ目の旅行鞄を膝に抱えている。
 …この人、多分魔法使いだ。それも相当に強い。
 でも少しも危険な感じはしない。

「この国は初めて足を運んだのだけれど、どんな感じなのかな?」
「感じ?」
 景色の良い場所や特産物なら言えるけれど、「感じ」と聞かれると…

「悪くない、です。あまりこれと言ってお勧めできる物も場所も無いけど、皆、実直で質素で…」
「楽しい?」
「…」
 楽しいかと問われたら…そうでもないかも知れないけれど、これ以上を望んでも贅沢だと言われそうで…。
 黙り込んでしまったら、彼は気にする風もなく、見渡す限りの景色を褒めてくれた。
 
 半時ほどして慣れない馬車に腰が痛み、少し休みたいと紳士が言うので、僕は馬を止めた。
 木陰に座る彼の隣に座り、遠くに見える城の様子を説明していたら、ふいに彼は僕に問いかけた。

「君は、私が誰なのか、何処から来たのか、ひとつも聞かないのだね」
「そう…ですね。何だか悪い人には見えないんだもの。この国を訪問する人で、そんなに綺麗なスーツを着た人は珍しいし…」
「私は君のお父様に頼まれて、君に会いにきたんだよ、ラファ」
「え?…僕?」
 教えてもいないのに名前を呼ばれたのにも驚いたが、父の頼みって…

「私は『天の王』学園のトゥエ・イェタル。一応ね、学長の仕事に携わっています」
「『天の王』…学長…」
 いつも母が言っていた学校の?

「父が…頼んだ?」
「丁寧な手紙を貰ってね。とても才能のある息子だから、『天の王』に入れたいのだけど、サマシティまで連れて行く余裕がないから、どうしたらいいのか…ってね。で、直接私が来たわけなんだ。ああ、特別じゃないよ。私は世界中を回って、『天の王』に相応しい子供達を探しているんだ。勿論、趣味の旅行も楽しみながら」
「『天の王』って…魔法使いになる為の学校…なんでしょ?僕にそんな才能があるのかな」
「充分に。それに、今の君には勉強や友人が必要だ。自由な時間もね。違うかい?」
「…」

 この人は、僕が何を求めているのか、知っている。
 この人は、僕の求めているものを与えようとしてくれている。
 
 心から嬉しいと思った。
 この国に来て、僕は誰かから僕を理解しようとしてくれる人には出会わなかった。
 皆、優しかったけれど、僕の欲しいものは、誰一人気づかなかった。
 父は僕を思ってくれたけれど、公妃に遠慮してばかり。一度たりとも家族で食卓を囲む事は無かった。
 僕が居て欲しい時に、父が居てくれたことはほとんどなかった。
 話したい友人も居ず、勉強だって、全然不十分だ。
 母と居た頃の方がどれだけ楽しかったか…それさえ、口に出来なかったのだ。

 トゥエ・イェタル学長の申し出は嬉しかった。でも…

「僕…『天の王』には行けません」
「どうして?」
「だって…僕だけ、この国から逃れて自由になるなんて…出来るわけないもの…。この国は貧しいけれど、この国の人達が嫌いなわけじゃないし、我慢できないこともない。『天の王』は寄宿学校でしょ?とてもお金がかかるって、お母さんが言ってた。僕の為に父が苦労したら…お母さんが悲しむ…」
「でもお母さんは、ラファが『天の王』に通う事を望んでいたんだよね?」
「…うん」
「じゃあ、お父さんもお母さんも君の為に頑張るのは当たり前だと思ったんじゃないかな。親の愛ってそういうものだよ。ラファ」
「…愛?僕は…愛されているの?」
「充分にね。そしてこれからも沢山の愛を知っていく。人はその為に生きて行くと、言っても良いくらいなんだ」
「僕は…人を愛したら駄目だって…お母さんが…。魔力を持つ者は、好きな人の心を強いてしまうからって…」
「そうか…。お母さんはとても賢い人だったのだね」
「…」
この人に母を褒めてもらえた事が、僕は素直に嬉しかった。母が生きていたら、どんなにか喜んだだろう。

「でも大丈夫だよ、ラファ。『天の王』はそれをコントロールする術を教えているんだ。それに…まあ、恋は魔物って言うものだから、強いられるのは、もしかしたらラファの方かも知れないよ」
「本当に?」
「人は誰かを愛すると、魂を賭けて、その人を自分に振り向けさせたくなる。魔法使いじゃなくても、誰だって…そうなんだよ。だから、今はね、怖がらないでいいんだ」
 そう言って、知らぬうちに流れていた僕の涙を指で優しく拭いてくれた。
 僕は心から信頼に値する人とは、こういう方なのかもしれないと、思った。

 この人が居る「天の王」…。それなら僕も行ってみたい。
 そう願わずにはいられない程の引力が、トゥエ・イェタルにはあった。
 だけど、僕は自身でその意志を父に告げる勇気は持てなかった。
 それに…きっと公妃は反対するだろう。
 僕の為にお金を掛ける事を嫌がる人だ。この国の財政は自分の生まれ育った故郷の国のおかげで賄っていると思っている人だ。
 僕は期待すまい、と、自分に言い聞かせた。

 だが、父はトゥエ・イェタルが帰った次の夜、僕を呼んで「天の王」への入学を勧めてくれた。
 僕は初めて父の前で泣いてしまった。
 父が僕の事を、本当に考えてくれていたのだと、知ったからだ。

「頑張りなさい、ラファ。応援しているよ」
「お父さん…」
「おまえが傍に居なくなるのは、やっぱり寂しいけれどね。これで、やっと、お母さんとの約束を果たせそうだ」
 そう言って、父は母と誓ったマリッジリングを、僕にくれた。

「ずっと大切に持っていたんだ。けれどカロリーヌの手前、もうこれを指にすることもないだろう。君の左指にはお母さんの…ロレーンの指輪があるね。それを見つけた時から、僕はラファに僕の指輪を渡したいと思っていた。これを君の右手に嵌めて、君の両手の中で、僕とロレーンが一緒に居てくれたら…ねえ、幸せになれるだろ?」
「…お父さんは、ロマンチスト過ぎるよ」
「うん、昔からね」
 
 僕は父が好きだった。
 でも父の様になりたいとは、一度も思わなかった。

 
 僕はメジェリ国とはずっと離れた国、サマシティにある「天の王」の寄宿学校の中等部一年へ入学することになった。
 だが、学力不足を補う為、新学期が始まる前の夏休み期間、ひとり特別に勉強をしなければならなくなった。
 勿論、僕には有難かった。
 その頃の僕は、メジェリ国での閉鎖された変わらない日々に飽きていた。
 一刻も早く「天の王」へ行き、新しい世界の息吹きを感じたかった。

 初めて足を踏み入れたサマシティは、僕が想像したよりも素晴らしく立派で、都会で、美しい街並にため息が出た。そして「天の王」はそれ以上に、なんというか…ゴシックであり甘美であり…清冽だった。
 最初に案内された聖堂は見たことも無く荘厳で息が止まるほど。
 どこもかしこもゴミひとつなく美しく、生活の余裕が感じられた。
 石畳の両側に並んだ木々の碧さ、そこから零れる光は様々な文様を見せる。
 建物のひとつひとつが、歴史を刻んでいて、そこから漏れる魔力の欠片に、僕は興奮した。
 ああ、ここは本当に魔法学校なのだ。
 僕はこの学校の生徒として、生きていけるのだ。
 心地良い空気の扇動が、僕の中にある魔力…のようなものを活性化させている気がした。

 トゥエ・イェタルは、言う。
「魔法を操る者等は口々に、この地は故郷のように懐かしいと言うけれど、それは、この場所が様々な星への航行の狭間にあるからなんだ。真実かどうかは、自分で確かめるしかないけれどね」
 この星ではない、どこか遠くの星への航行。
 何だろう。この胸を締めつける高揚感は。
 トゥエの話は、いつも僕に未来を見せてくれる。
 僕は、今までとは違う未来を夢見ることができる。

 トゥエはここで暮らす為の新しい名前を、僕にくれた。
 それは過去に囚われない為の、「天の王」で生きる為の呼び名だと言った。
「ルスラン。暁(あかつき)と言う意味だよ。本当なら君には、別の真名があるのだが…」
「真名…」
 母が言っていた僕の本当の名前の事?
「今は告げる時ではなさそうだ」
 トゥエがそう言う以上、問いただす理由は無い。
 トゥエが、僕の為に生きる意味を教えてようとしているのだと、感じていた。
 多分僕だけではなく、彼は「天の王」の生徒達一人ひとりに、人生の道標となるものを教えているのだと思う。
 もし、そうであるなら「天の王」で生きていく事は、幸福に違いない。
 

 案内された学生寮の部屋は、メジェリに居た事とあまり変わりない広さだった。
 だがすべてが違って見えた。
 机やベッド、クローゼットなどアンティークな調度品は使いこなされ、味のある色になっていたし、刺繍を凝らしたカーテンにパッチワークのベッドカバーも決して新しいものではない。けれど、どれもが温かい。なんだか、幼い頃読んだ絵本の挿絵を集めたみたいで、ワクワクした。
 これからの六年間をここで過ごすと思うだけで、天に昇る気持ちになった。

「お父さん、お母さん、ありがとう…」
 僕は見たことも無い象の刺繍が入ったクッションを抱きしめながら、幸せな眠りについた。



Again 5へ /7へ

すっかり涼しくなりました。皆さま、体調には気を付けましょう。
ハールートと時系列を並べる為に、次回もルスラン回になります。


このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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ハロウィンイラスト - 2018.10.01 Mon

十月になったので、表紙もハロウィンにしてみました。

モデルはアーシュです。
とにかくこの子は描きやすい。
2018-10hyousi-1.jpg

最初は普通だったんですけどね、なんかヅカ的化粧をしているうちに、ハロウィンでいいか!ってなりましたよ。

2018-10hyousi-2.jpg

途中で、イラストブログ用も考えて、頭の上まで描くことにしました。
黒翼もつけて、悪魔風に~

2018-10hyousi-123.jpg
クリックすると意外とでかかった…
PC待ち受け用にはちょうどいいかもなあ~

まあ、表紙はちょこちょこ変えるので、一応、イラストにまとめて保存しておきます。


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サイアート

Author:サイアート
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少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

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