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2018-11

Again 9 - 2018.11.29 Thu

9
 イラストはサムネイルでアップしております。
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  ハルとルスラン-3


ルスラン 6

 僕は中等科二年になった。と、同時に「特待生」の資格を得た。これで故郷の父からの送金を抑えられるし、公妃や国の者達に感じる負い目も少なくて済む。
 先生方や司書の手伝いを志願し、自分で使う小遣いぐらいは稼げるようにした。
 勿論、恋に浮かれる余裕も暇もない。でも、そんな事は僕には不要に思えた。
 リノへの思慕は続いていたからだ。そして、それを思い出にする努力も…

 上級生から誘われる機会も増え、僕は出来るだけ断る事をしなかった。
 リノは本物の恋を探せと、僕に言い残した。
 今の僕にはそれが必要とは思わなかったけれど、元来人との付き合いは苦痛ではなかった。何より、人間は面白い。その魂の奥深さ、軽率さ、邪さ、純粋さ…
 すべてを解くことはできない。けれど、人の感情の機微を知る事は、自分の心の襞を重ね、智慧となり、僕の魔力の源になるような気がした。

 自分より大人の上級生との接触は、刺激的であり、滅多に味わえない食事をするようなものだった。
 「天の王」の生徒たちの大方は、色恋沙汰に長け、楽しむための恋をしている。
 それは新鮮で魅惑的で、冒険に富み、甘美な痛みと歓びを味わう青春の一時。
 僕は身持ちの堅い修行僧になる気はなかった。
 リノのように飄々と生きるのも一興。
 今この時が、僕の人生で、最も自由な瞬間なのかもしれない…そんな想いが慎重だった僕を大胆にした。
 自分の宿命がどうであれ、僕は僕の欲求のままに生きてみてもいいのではないか、と、自分に言い聞かせていた。

 リノのくれた林檎の木は、リノが卒業した後、実を宿してはくれなかった。肥料をやっても土を変えても、白い花をちらほらと咲かせてはくれるが、実を見ることは無かった。

「リノはどんな魔法でこの林檎の木を育てていたのかしら。僕には生命を宿す魔力はないらしい。せめて枯れないように…祈るしかないね」
 木々の間を自由に飛び移る術を覚え、少しずつでも飛行時間を伸ばし、木々の天辺までの高みなら飛ぶ事さえできるのに、林檎の実を成らせることすらできないなんて…。


 中等科を卒業して、高等科へ進学する夏休みに、僕は久しぶりにメジェリ国へ帰った。
 三年ぶりに見る父は、すっかり老けてしまって、何だか申し訳なく、公妃の態度は随分と柔らかくなり、城も召使たちも何もかもが、とてつもなく古びたものに思えた。
 そんな中で、七つ下の弟のユークの成長は、思いがけない喜びだった。
 相変わらずの純真さで僕を慕い、絶対的な尊敬の眼差しは僕を幸せにした。

「兄上は特別に成績が良いんだって父上に聞いたのだけど、どうしたら、そんなになれるの?僕、あまり勉強が好きじゃないの。いつも先生に怒られちゃうんだ」
「そう、でも大丈夫さ。そうだな…うん、ユークが興味を持ったものから、学んでいけばいいんだ。好きな科目はある?」
「僕、お花を育てるのが好き。綺麗なお花を見ると、幸せになるの。綺麗なお花をたくさん育てて、みんなを幸せにしたいな~」
 無邪気なユークの言葉に、僕は心打たれた。
 彼の思考もまた、甚だ無垢なものであり、僕にもこんな時があったりしたのだろうか、と、苦く思ったものだ。

「ねえ、兄上。僕ももう少し大きくなったら、兄上みたいに『天の王』に行ってはいけない?母上に頼んだら、とんでもない!って怒られちゃったけど…兄上みたいに立派になれるなら、頑張って勉強するのに」
 公妃の言葉は尤もだと、僕は思わず声を出して、笑ってしまった。
 僕にとっては居心地の良い「天の園」であっても、ユークには「悪魔の園」になる事は請け合い。とてもじゃないが、お勧めできるはずもない。

「ユーク、お母様のおっしゃることは正しい。『天の王』じゃなくても、立派な人間になれるし、ユークはいずれ、このメジェリ国の公王になるのだから、この国の為に何ができるかを学ぶことが一番大切だよ」
「そうかなあ~」

 僕は己の事しか考えていないのに、弟にはこの国の責任を都合よく押し付けている。
 これだけでも「天の王」の教育の罪は重いんじゃないか?
 いや、罪は己のもの。生まれ持った魔力に対する罰とも言えるもの。
 誰の所為でもない…

「兄上?どうかしたの?」
「え?…なんでもないよ。とにかくユークがこの国を花で一杯にしたいのなら、土壌を育てたり、温室を広げる事やら、色々とやるべきことはある。たくさん勉強しないとね」
「うん!兄上も学校を卒業したら、この国に戻ってくるのでしょ?僕と一緒にたくさんのお花を育てるのを手伝ってね」
 そう言って満面の笑みを湛える弟に、僕は返事が出来なかった。

 この国に戻りたくない。
 今更何を言っているんだ。
 これは契約だ。
 今の自由は、未来の束縛の代償でしかない。
 僕は父やこのかわいい弟の為に、僕の魔法を役立てる為に、ここまで育ててもらった恩を返さなきゃならない…

 「天の王」の自由な生活が、僕の魂を怠惰にした。
 同じように智慧を知るにつれ、メジェリ国の為に生きる喜びを探せなくなっていた。
 二年生、そして三年になり、卒業後を考える時が来る。
 先生方は大学への進学を勧めた。
 どこの大学へ入学するにしても推薦を貰えるし、奨学金も得られる。
 だが、国の父はそれを望んではいないだろう。元より相談する気は無かった。
 これ以上、僕への教育費など、頼めるわけも無い。
 おのずと決められた未来に、僕はうんざりしていた。
 だから、素行も悪くなる。

 昔から、一度身体を躱した相手と、二度目は無いと決めていた。
 理由は簡単だ。
 相手に触れた時に、僕は未来をある程度予見できた。
 相当な手練れのアルトには通じないが、大方の感情は知ることができる。
 セックスで昂ぶった相手の心の中なんか、すこぶる単純な感情しかない。
 相手を自分のものにできるか、否か、だ。
 僕は、誰のものにもなる気が無い。
 そして、誰を嫌う事も、心から好きになる事も望まない。
 彼らの僕への好意は、単純に心地良かった。それ以上、求めようもない。
 
 僕は、自分が誰かを幸せにできるとは、思えなかった。
 誰かの幸せを祈る事は出来ても、僕がそれを与えられるとは、到底思えなかった。
 だって、僕は…
 僕は…


 ハールートは三つ下の美しい男の子だ。
 蜂蜜色の巻き毛を揺らし、サファイヤの瞳で誰をも魅了し、その優雅な身のこなしは選ばれた貴公子。
 裕福な貴族の典型的な若様らしく、我儘と権威と自己顕示欲を振りかざしては、他人を軽んじる。その癖に、それが我が身を傷つけているのも知らずに、懸命に自分の道を探す姿は、滑稽を通り越して、哀れにさえ思えた。

 ハルは僕を「心から愛している」と、言った。
 彼の一途な熱情と、隠れ見える計算と、僕への期待は、同情を付加させた上の愛しさとなった。
 ともかく、身体を躱す相手は一夜とばかり決めていた僕を、仮初とは言え、恋人にさせた事実は、彼の膨大な自負を充分に満足させただろう。

 隣に眠るハルの思念を、僕は何度覗いた事だろう。
 魔力を持たないイルトである事を幸運だと自らに言い聞かせながら、アルトを羨み、あわよくば、自分の為に動くコマにしたい、と、願う幼い計略は、僕を楽しませた。
 なるほど、彼のカリスマは確かに強力ではあった。
 だが、真実の愛はもっと根源な感情に寄り添わなければならないのではないだろうか。

 僕はその幼さに敬意を表した。
 なんにせよ、ハルは魅力的だったのだ。
 「天の王」を卒業するまでの一時の熱病に、僕は浮かれていたかった。

 僕は誰かを愛したがったのだ。
 この内なる孤独から逃れたかったのだ。


 秋が深くなり、僕は久しぶりにリノの林檎の木に会いに行った。
 今年も林檎を実らしてはくれないのだろう…と、憂いていても、リノからもらった愛情の証を大切にしたかった。

 日が傾き、林檎の木の影が、足元の落ち葉に長く映し出され、その影が、少しだけ揺らめいて見えた。
 顔を上げて、林檎の木の上を眺めた。
 信じられない事に、紅い実がたわわに垂れている…
 そして、その枝の上で蠢く人の影。
 良く見ると、子供が林檎を食っている。

「こらっ!勝手に林檎を食うんじゃないっ!これは僕の林檎の木だ!」
 普段、滅多な事では感情を剥き出す事はない僕だが、リノから貰った木がやっとの事で実を付けたのだと思ったら、思わす怒鳴ってしまったのだ。

「はあ?誰の林檎だって?勝手な事ほざいてんじゃねえよ。これは俺が見つけたんだ。俺の林檎だ。文句あるなら、ここまで来てみやがれ!」
 良く透るソプラノの声には、恐ろしい程の生命力があった。
 僕は影になったその少年の姿を、見定めようと目を見張った。

「こいつでもくらえっ!」
 僕に向って勢いよく投げられる林檎をひとつひとつ受け止めながら、僕はこの少年の正体を一刻も早く知りたいと願った。

「ちょっと待ってくれ。君、わかったから、むやみに投げつけるのは止めてもらえないか?林檎は好きなだけ君にあげるから。これ以上僕が林檎を受け取ってしまっても、持ち帰れない」
「あ、そう?じゃあ…」
 あっさりと彼は言い、相当な高さのある枝からすらりと飛び降り、地面直前にクルリと一回転をし、僕の目の前に立ち上がった。
 僕の胸元程しかない背。きっとユークと同じくらいの年の子だろう。
 黒髪に色白の…見事な美貌と、恐るべきオーラに満ち溢れ…。
 その子の黒眼が僕をキツく見上げ、威嚇した。

「ここは保育院管轄の庭だせ?何勝手に入ってやがる。おにーさん、見慣れねえ顔だな。不法侵入で訴えても良いが、あの林檎を自分のものって言いやがったな。理由はなんだよ?」
「…」
「おい、どうした?…ああ、俺の顔に見惚れてしまったのかい?まぁね、仕方がねえや。俺は類まれなる選ばれし者だからな。しかも、今日は特別に眼鏡無しの日だ。(壊して修理中だけの話)いいかあ、この俺さまはなあ、世界一の魔法使い、つまり~この世の魔王になる者さ。俺はアーシュ。未来永劫、俺の名前を忘れる者は、この星のどこにもいなくなる。俺の予言だ!わかったかい?白銀のおにーさん」

 僕は言葉を失ってしまった。
 全くもって、彼の言う様に、ただただその存在に、僕はすっかり参ってしまったのだった。
 


アーシュ十歳

Again 8へ /10へ

次は絶対ハル編に行きますから~
それにしてもアーシュはおいしいとこどりやな~(-ω-`*)


このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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Again 8 - 2018.11.04 Sun

8
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ルスラン-1


ルスラン 5

 冬が来た。
 春を迎え、そして、夏が来る前には、リノは「天の王」を卒業してしまう。
 僕はリノが好きだったが、この気持ちが恋なのかどうかは、分かりかねていた。
 第一、リノは僕を恋愛対象には見ていない。
 その方が良い気もした。
 彼は「愛される」事を嫌がっていたから。

 年の終わりから始めは「天の王」も休暇中で、先生も学生も自宅に帰省する。
 僕も帰るようにと、父から手紙を貰っていたが、旅費がかかるからと、帰省しなかった。
 事実、この「天の王」の自由な空気を知ってから、僕はあの国には帰りたいとは一度も思ったことがなかった。
 寄宿舎には僕の他に数人がいたが、食事は食堂で各自自炊するようになっていた。
 中等科の食堂だけが使えるようになっていたから、高等科の生徒も数人いた。そこにリノの姿を見つけたんだ。
 嬉しくなって駆け寄ろうとしたけれど、邪魔になるのは僕の望むところではない。
 遠巻きに見ていたら、手を招いてくれ、「どうせ料理するんだから、皆で一緒に作ろうぜ」と、周りの生徒達全員を巻き込み、腕を揮う事になった。
 慣れない料理に右往左往しながらも、素人シェフ十二人全員で作ったミートボールシチューは美味しかった。

「あれ?初等科の生徒は見当たらないけど…」
「初等科の奴らは保育院が世話してくれるからな」
「そうなんだ…」
「学園に残ってる奴らは、よっぽどの事情がある奴か、保育院出だぜ」
「リノは?」
「俺も保育院出身。それより、ルスランは何故帰らなかった?」
「う…ん。なんか、ここの方が居心地良いから…かな」
 薄々気づいてはいたけれど、リノの口から保育院出身だと聞いて、可哀想に思ったのは事実だ。リノがそんな同情を望んでいない事も、わかっていたけれど。
 

「聞いちゃいけないかもしれないけど…リノは、どうしてここに来たの?」
 雪が積もった朝、リノに誘われて、僕らは校庭を散歩した。
 林の向こうまで、ただ歩き続ける。
 雪は珍しくなかったけれど、雪を踏み鳴らす音を、こんな風に鮮やかな気分で聞いた事は無かった。
 きっとリノが傍に居るからだろう。

「…あまり人には話さないけど、ルスランは俺の弟子みたいなもんだから、教えてやろう。ルスランみたいに親の愛情を受けた子供に聞かすには、少しハードな話だけどな」
 リノは僕に自分の生い立ちを教えてくれた。

 ここサマシティとは遠く離れた海沿いの町で、リノは生まれた。
 リノの両親は貧しい暮らしに嫌気がさし、何度も職を変え、家を変え…思い通りにならない人生の鬱憤を小さな息子にぶちまけ、虐待し続けた。
 何日も食うものを与えられず、棒で殴られた時も多々あったと言う。普通の子供なら死んでいたかもしれないが、リノは生まれながらに治癒の能力が備わっていた。
 どんなに酷い目に合っても、翌日には痛みが引き、寝込む事も無かった。そんなリノを、両親はバケモノを見る様に気味悪がった。そして、より以上に、彼をいたぶった。
 暴力に打ちのめされた彼は死を覚悟した。
 彼は絶望の意味も、親への憎しみさえわからず、自分の死を願った。
 或る時、リノの前に彼の救世主が現れた。
 「天の王」学園の学長、トゥエ・イェタルだ。
 彼は両親に金を渡し、リノを引き取り「天の王」へ連れ帰った。
 そして、五歳のなったばかりのリノは「天の王」保育院で暮らすようになった。
 この保育院はいわゆる身寄りのないアルトを引き取り、力のある魔法使いとして正しく養育する為にトゥエが特別に創らせたと言う。

「要は、トゥエが自分に都合の良いアルトを増やしたいだけかもしれないな」
「でも、そんな人には見えないよ。学長は立派な御方だと、思う」
「立派さ。立派過ぎて…太刀打ちできねえし…」
「リノは…学長が嫌いなの?」
「嫌いなわけがない。何と言っても命の恩人だ。だけど…それが悔しいって気分にもなる。愛情の欠片すら知らなかった俺に、ここの住人たちは愛を注ぎ続けたんだ。うっとおしくなるぐらいに…心からの愛情を。保育院の先生や小さな仲間たち、トゥエが、今の俺を育ててくれた」
「それって、無償の愛って言うんじゃないかな。親子の情みたいな…あ、ごめん」
「いや、ホントそれだと思う。ルスランが当たり前に感じた愛を、俺は貰わなかった代わりに、トゥエ達はそれと同じ分の愛情をくれたのだと思うよ。俺は…どうやってそれを返していいかわからない…」
「でも、学長は…親の愛は返さなくても良いって言ってた。親は当たり前に子の幸せを祈るものだからって、僕に教えてくれたよ」
「わかっている。でもそれは親の言い草。こちらは恩着せがましく感じてしまう。その上、本当の親でもないんだからさ…」
「でも…」

 でも、きっとトゥエはリノに幸せになってもらいたいって…願っているよ。

「ほら、あっちが保育院の敷地だ」
 こちらとは低い塀と網のフェンスで仕切られている向こう側の景色は、こちらと変わらぬ雪化粧された白い林。
射し込んだ光にキラキラ輝いて、見知らぬ土地へ迷い込んだ様。

「誰もいないね」
「まだ、朝だからな。まあ、ここはこちらとの境目だから、幼い子には近づかない様に先生にきつく言われている。何しろ上級生たちは、飢えた狼だ。可愛い羊を食べられては折角育てた甲斐が無いってもんだ」
「…リノは、天邪鬼?」
「へ?…そうだな、保育院出は、大概天邪鬼になる。なんせ、貧乏で親無し子で、帰る家も無い。自分たち以外の生徒はお金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんで、俺たちが欲しいものを持っている奴らばっかりだ。ひねくれないでどうするよ」
「でも、リノは優しい。口は悪いけど、魂が綺麗なんだ。頭も良いし、人気もあるし…」
 リノはフンと嗤い、フェンスを軽々と登り、向こう側に飛び降りた。
「良いの?勝手に入って」
 俺はここが家みたいなもんだから良いんだよ。さあ、今日は特別だ。おまえもさっさとこっちへ来な」
 僕は急いでフェンスをよじ登り、先を歩くリノを追いかけた。

「保育院で暮らしてる奴らは、総じて能力のあるアルトばかり。それに家庭事情が複雑で、さすがの俺でさえ、ここに居る時には引け目を感じることは少なかったよ。でも、皆一応にクセが強くてね。先生たちも扱いにくかっただろうなあ。今更ながら同情するよ」
 思い出を話すリノの表情は柔らかく、幼い頃の傷は癒されているようで、僕は心から安堵していた。
「今でも保育院には行くの?」
「たまにね。お菓子を持っていったりすると、あいつらめちゃ喜ぶんだ。それに毒があっても可愛い子が多い。なんせトゥエのお気に入りばかりだ」
「リノも…お気に入りの子がいる?」
「え?そうだなあ~。まあ、居てもガキ過ぎて、犯そうとか思わないけど」
「…」
 そういう意味じゃなかった。

「ほら、あの端にあるだろ?あれは俺がここに居た頃に植えた林檎の木。幹ばかり伸びやがって、大した実を付けないが、昼寝には良い塩梅の枝成りだ」
「…」
「卒業する頃には白い花が咲く。秋には小さな実がなる。なかなか美味いぞ。こいつをルスランにやるよ」
 学園を囲う高塀のこちらに、すっくと立つ一本の林檎の木。その幹を叩き、積もった雪が落ちるのを、リノは無邪気に楽しんでいる。
 僕はリノの口から卒業と言う言葉を聞いて、急に寂しくなった。

「リノ…僕…あなたが好きだ」
 そう言うと、リノは驚きもせず、「俺もおまえが好きだよ。友情と信頼の情愛だ」と、応えた。
「僕は…あなたに、恋をしているんだ…」
 そう、僕のこの想いはきっと恋なのだ。

「…前に俺はおまえに言ったね。愛されるのは苦手だと。本当は…苦手と言うより、怖いんだ。人の感情は虚ろうものだろう?本当の恋だと信じても、時が経てば、または別の魅力的な人が現れたら、本当の恋だと信じていた心は、変わっていくだろう。どうする事も出来ない運命だと、自分を納得させるだろう。俺はね、ルスラン。もうずっと…苦しい恋をしている」
「…」
「真実の愛という石を、じっと胸の奥底で温めているんだ」
「相手の人に…告白しないの?」
「叶わぬ恋とわかっている。そして…苦しい恋心が募る程、この石は結晶となり、輝きを増していく。俺はそれをただじっと…見つめているのが、好きなんだ」
「…」
「ルスランも俺への恋が本物なら、もっと苦しんでご覧?でも多分、おまえは俺を思い出に変えるだろう。俺もそれを望んでいる。美しい思い出になる事を…」

 リノはただ一度、僕に口づけをくれた。
 それは僕の涙で、しょっぱかったけれど、悲しくて、悔しかったけれど…確かに美しいと思えたんだ。
 


 リノは卒業した。
 大学に進学して、「天の王」の先生になるのだとばかり思っていたが、彼は大方の予想を裏切って、いつ帰るともわからぬ旅に出たのだった。
「ここで守られたまま大人になるのもどうかと思ってね。色んな世界を見渡してみるよ。狭間から行けるパスポートも特別にトゥエに貰ってしまったからね。こうなりゃ、期待に応えるしかないさ」
「リノ…」
「いつか、また会える時が来るかもしれない。来ないかもしれない。俺の予見でもそれはわからない。ただね、ルスランとの思い出は、俺を温めてくれるものになっているからね。出会えて良かった。ありがとう」

 差し出されたリノの大きな掌を、僕は両手で掴み…離さなかった。
 涙は止まらず、「離れたくない」と、何度も呟き、リノを困らせた。
 
「ねえ、この俺がさ、ひとつだけ予見してやる。おまえは…人を幸せにする魔法使いになれる。だから頑張れ。遠い天の下で、祈ってやるから…」

 僕は、あなたの言葉を、ずっと信じていたかった…



Again 7へ /9へ

ルスラン編が長くなってしまいましたが、次回はハールート編かな~

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11月表紙イラスト - 2018.11.01 Thu

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ここのところ、毎月表紙は変えております。

今月からしばらく、明日海りお特集イラストでお送りいたしますわ。

まず第一段目~
「雪花抄」から「鷹と鷲」の鷹さん。

鷹と鷲-1
最初は適当に描き始めたんだが、途中で、あ、これ表紙にしよ~って思い始めた。

鷹と鷲-2
顔は線画なしで、どんどん描いていく感じ。
着物は案外苦労した。

鷹と鷲-3
背景とかどうしようか~っていつも悩むぜ。

鷹と鷲5
適当に光散らせて、できあがり~

三次元の人間描くのは、全く得意じゃないけど、美形描くのは好きだから、楽しく描けました~。

予定としては十二月はトート。一月はカサノヴァ辺りでがんばろ~
なんかリクあったら、どうぞ~

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サイアート

Author:サイアート
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少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

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