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2019-03

Again 13 - 2019.03.29 Fri

13

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ハル-97

ハールート 5

 この世界で、一番愛しいと思っていたルスランが「天の王」を卒業し、僕の前から居なくなってしまった。
 居なくなってわかる喪失感…。
 ああ、僕は失恋したのだなあ…
 その哀れな心のうろたえ様に、自身の弱さを初めて認めざるを得なかった。
 誰かを好きになる愛しさも、愛してもらえない悲しみも、会えない寂しさも、ルスランが僕に与えたもの…
 そして、欲しいものは与えてもらえなかった…。
 きっとルスランは、僕を忘れてしまうだろう。
 彼の中では、必要としない、他愛もない、ただの一時の恋人…それが僕なのだ。

 何がどう間違っていたのだろう。
 僕のルスランへの愛は、真実(まこと)だったのに…

 中等科を卒業した夏休み、帰省した実家の歓迎ぶりは、いつもの事だけれど、僕の心は少しも動かなかった。
 独りにして欲しいのに、世話人たちが僕の気を引こうと、やたらとうろつく事にイラついて、怒鳴ち散らす毎日に嫌気がさす。
 それでも僕から離れない連中から逃れるため、田舎の小さな別荘にひとり移ることにした。
 近所の女に食事の用意だけをさせ、過ぎていく時間の中、僕はひたすら失恋の痛手を癒そうと心掛けた。
 だけど、どうしても何故ルスランが僕を愛してくれなかった理由が、わからない。

 僕の何が悪かったと言うんだろう。
 僕には愛される資格がなかったのか。
 それならば、ルスランの求めるモノは一体何なのだろう。
 それを得られれば、僕はルスランに愛されるのだろうか。
 それは、今からでも遅くはないのだろうか…

 いや、違う。
 ルスランは「宿命」と言った。
 「宿命の誰かが自分を狂わせてくれる、その時を待っている」と…
 そして、僕はそれ「誰か」ではないとはっきりと示したじゃないか。
 諦めるしかないんだ…

 僕は…ルスラン以外の「誰か」を、僕を心から愛してくれる「誰か」を、探さなきゃならない…。

 高等科に移り、少しばかり大人になった僕は、抱かれるばかりじゃなく、肉体的な支配欲に興味が出てきた。
 少しばかり従順そうな可愛い中等部の子を誘ってみると、苦も無く捕らえられた。しかも、大体アルトの奴。
 彼らは日頃、自分がイルトよりも立場が上だと勘違いしているらしく、初めは魔力のない僕に対して横柄に構えるが、一旦僕の魅力に取りつかれると、下僕のように僕の言う通りになる。
 僕のお抱えの魔法使いよりも、彼らは精神的幼さから、僕を尊敬し崇める。
 僕は彼らの魔力を少しも怖がる必要もなく、あまつさえ、それを利用し、言うがままにできるのだ。
 なんという優越感。
 無力が人間が、魔力を持つ奴らを操ることができるなんて!

 そうやって誰ともなく戯れながら迎えた二年の秋。
 僕はあの悪魔に出会った。
 否、僕だけが奴の本性を見抜いたのだ。
 
 僕は自分が善人だとは思っていない。
 自己顕示欲は高く、気取り屋で横柄、我儘と評される。その通りだ。
 だが、僕が欲しいのは、僕を見下さない信頼するパートナーであり、僕が求める高みへ共に連れ沿って行きたいと願っているだけなのだ。
 それが高望みだとは、到底思えない。
 具体的に何をどうしたいという具体的な図面は、はっきりとはわからない。
 父の仕事を継ぐ事も考えないわけじゃない。
 生きていくのにお金は必要だし、莫大な資金は多くの人を従わせることができる。
 だが、それは僕より弱い人間でなくてはならない。
 上に立つ者にはすべての力が必然だからだ。
 その為の理解者が、僕の願いを叶える僕の魔法使いだ。
 ルスランと同等の、いや、それより強い魔法使いが、僕は欲しい…。


「ねえ、ハル。また次もここでやろうよ。寂れた地下室で抱き合うのも、燃えるものでしょ?」
「そうだね。まあ、ベッドが固すぎるのが難だけど」
「スプリング壊れてるしねえ~」
 中等科三年のマチューが、ケラケラと笑う。
 淡いアッシュの髪が気に入って付き合ってみた。
 身体の相性も中々良く、近頃はよく寝る事が多い。そのマチューが今は使わなくなった納屋の地下室に良いねぐらがあると、僕を誘い、セックス三昧。
 余韻を楽しんだ後、そろそろ帰ろうとした時、何人かの声がした。
 壁際にある机に上り、天井近くの狭い明かり窓から、外を覗いてみる。
 ここからは地面しか見えないが、足元のズボンの形から中等科の生徒だろう。
 酷く詰るような数人の声と「許して」と泣くじゃくる甲高い声。

「ハル、どうしたの?」
「来てごらんよ、マチュー、面白いものが始まりそうだ」
 僕はマチューに手を差し伸べ、彼を引き寄せ、顎で外を見るように促した。

 目の前の窓際のすぐ傍に立った三人の足元に、小さな子…初等科の子供が投げ出され、泣いている。
「おまえが俺の財布から金を盗んだんだろ?」
「ぼ、僕やってない…」
「嘘だ。俺は見てたぜ。おまえが盗むとこ。保育院上がりはこれだから…」
「泥棒は犯罪だぜ?俺たちが罰を与えても、先生は怒りはしないさ、なあ」
 一人が少年を足で蹴り上げた。
「や、やめて…やめた方がいいと思う」
「なんだと!」
「僕、アルトでも力が無いから…あの、その…」
「なんだよ!アルトであろうがなかろうが、泥棒は泥棒なんだよ!」
 その声と同時に、倒れた少年を交互に踏みにじる三人の足が見えた。
 少年は「ひぇ!痛いっ!助けてっ!」と泣きながら叫んでいる。
 これ以上は、いくら何でもやりすぎだろう。
 
「助けに行こう。マチュー」
「待って、ハル…何か…来るよ」
 俺はマチューを見た。
 セックスの最中よりも目を輝かせ、窓の外をじっと見つめ続ける。
 そうだ、こいつはアルトだった。
「何だっていうんだ?」
「しっ……来た!」

 マチューが指さす先を見ても、僕には何も見えない。
 だが、声が聞こえた。

「ちょっとやり過ぎだぜ、中等科のにーさん達」
 まだ声変わりのない、よく通る少年の声だ。
「誰だ?」
「痛がってるじゃない。暴力はよくないな。俺も嫌い」
「木の上で高みの見物とは、良いご身分だな。降りてきて姿を見せろ!」
「俺たちは泥棒を捕まえて、罰を与えているだけだ。正当な理由による処刑だっ!」
「親も居ない孤児のくせに、俺たちと同じ『天の王』に居る事自体、おかしいだろ?こいつら、痛い目に合わせなきゃわかんねえんだよっ!」
「ばーか。おまえらと違って、俺たちは選ばれた子供って証拠なんだよ。才能の欠片も無いイルト諸君!」
「なんだと!」
「正当防衛という学校法に基づき、その子の受けた痛みは、数倍にして返させてもらおう」
「なにを!」
 言う間もなく、叫び声が続けざまに聞こえた。
 何が起こっているのか、ここからでは見えない。
 だが、目の前にはバタバタと倒れのたうち回る少年たちが居る。
「さて、降参する?それともまだ足りない?今度は目玉か?それとも脛の骨でも折ってみる?医療室で治して貰えるけどさ、すげえ痛いんだって」
「わ、わかった!もう止めてくれっ!も、もうしない!」
「じゃあ、自分の陣地へお帰りよ。知ってた?ここは俺の管轄なんだぜ…」
 彼らは何か恐ろしいものを見たような大声を出しながら、走り去っていく。

「…彼だ」
「何?」
 マチューが瞳を輝かせながら、外を見つめる。
 だが、僕には何も見えない。
「…噂は、本当なんだ」
 彼は夢み心地の顔で、そう呟く。

 倒れた少年が、ゆっくりと立ち上がり、近づいた少年の足と重なった。
「大丈夫かい?サリュ」
「うん、魔法で防御してたから、何ともないよ。それより、バレるように盗む方が難しかったよ。ほら、財布」
「中身を抜いたら、焼却炉に捨てておけよ」
「まったくもってねぇ、新しい魔法を使いたいからって、僕をこき使うのやめてくれる?ルゥやベルにやらせればいいじゃん」
「俺もあいつらも顔が知られてるんだよ。さっきだって俺の顔見ただけで即効で逃げだしたじゃん。まあ、おかげでこのビー玉の攻撃力もわかったし、サリュも懐があったまって良かったんじゃね?」
「まあね」
 ふたりの笑い声が重なり合いながら、次第に遠くなった。

 僕は薄ら寒くなり、思わず両腕で自分の身体を抱きしめた。
「なんなんだ、あれは!あいつらがすべて仕組んだ茶番って事なのか?」
「多分ね」
「…」
 さっきの様を眺めていながら、平然と楽しんでいるマチューにも、空恐ろしいものを感じていた。

「初等科に凄いアルトが居るって噂があってね。アルトの王とか魔王とか呼ばれてて…でも見たのは初めてだ」
「何の事だ」
「彼はアーシュだよ。…不思議だ。同じ学校に居るのに、初めて見るなんて…ふふふ、いいもの見ちゃったね」
「何の話だ。僕には何も見えなかった。一体何が起こったと言うんだ」
「アーシュが、あの三人を魔法でやっつけちゃったんだよ。ほら、見て」
 マチューが手の平を僕に見せた。小さなビー玉がひとつある。
「このビー玉をコントロールしながら、あいつらの急所に当てたのさ」
「いつの間に…」
「これは転がってきた奴を拾っただけ。なんだ。ハルには見えなかったの?」
 その言い方が気に障り、僕はマチューの頬を軽く叩いた。
「僕を軽んずるなよ、マチュー」
「ごめん…そういうつもりじゃなかった。怒らないで、ハル」
 マチューは素直に頭を下げ、恐々と僕の機嫌を垣間見つつ、僕に媚びる視線を送る。

「別にもういいじゃない。アーシュの事なんかさあ。僕にはハルだけしか見えないんだから」
 そう言いながら、キスを求めるマチューの本心は、僕には何一つわからなかった。
 

黒アーシュくんの顔。大体十二歳くらいかな~
アーシュ眼鏡1

Again 12へ14へ

すっかり花見の季節ですわ…時が過ぎゆくのってはや~い(;^ω^)

このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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Again 12 - 2019.03.04 Mon

12
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シリウスとアーシュ

ルスラン 8

 バケツ一杯のリンゴを、食堂のシェフに頼んで、アップルパイを作ってもらった。
 勿論一人で片付けるのは不可能だから、生徒たちの食後のデザートにしてもらったのだけれど。
 出来立てのアップルパイを二切れ貰い、ハルの部屋へ持参した。
 なんとなくだが、ハルに優しくしてやりたかったのだ。
 ハルは意地っ張りだから、折角のアップルパイも予想通りに素直に喜んではくれなかった。
 僕はそういうハルも嫌いじゃない。
 それに…もしかするとアーシュに似ている所があるんじゃないかと、ハルを見て確認したかったのだ。
 驚く程の傲慢さや自己顕示欲の強さ、上目線の強情さと垣間見る無垢さ、など…。
 だが、比べてみると根本的な資質が全く違っていた。
 ハルはいつも誰かに愛されたがっている。
 誰かに必要とされたり、自分と同じ道を歩んでくれる誰かを求め、希っている。
 でもあの子は違う…。
 あの子は、誰も到達した事のない高みをたったひとりで挑んでゆく…孤高の者のような気がする。
 どれほどの孤独も、彼を壊すことはないだろう。
 あの子の持つ天賦は、僕が今まで出会ったことのない感覚だった。

「恋じゃないのか?」と、失笑しつつミカが僕に言う。
 ミカは僕と同じアルトであり、「天の王」で数人しか選ばれないホーリーでもある。
 真名は「ミカル・アンテ・ユーティライネン」。
 因みに僕はホーリーではない。
 学長のトゥエ・イェタルは、僕をホーリーには選ばなかった。だからと言って、僕がミカより劣っているとは全く思っていない。
 勿論、ミカも十分認識している。
 彼はとても優秀なアルトなのだ。

「恋?僕が十歳の子に?さすがにそれはないよ。本当にまだかわいい子供なんだから」
「でもときめいたんだろ?」
「ときめいたわけじゃなく、楽しかったんだよ」
「この上もなく、だろ?そりゃ、恋だな」
「…」
「もっとも、君がそういう話を僕に打ち明けるってことがね、青天の霹靂って話でね…」
「おい、笑うなよ」
「笑っていない。喜んでいる。中々見れない親友の朗らかな顔を見れて、心から喜んでいる」
「勝手に楽しんでいやがるけどね、僕はあの子を欲しいと思ってはいないんだよ。なんというか…あんな年下の子相手に自分でも意外なんだけど、一緒に喋っていると、楽しくてたまらなくなる。ときめくというより、高揚するって感じかな。好奇心をそそられる。あの子と共に生きられるならば、人生に退屈の文字は無いだろう」
「そこまで言うかね。まあ、僕も交際範囲は広い方だから、君のかわいいアーシュ君とやらの身元調査はまかせておきたまえ」
「いらぬおせっかいとも言うけれど、ありがたくお願いするよ。とにもかくにも、ハルにだけは言ってくれるなよ。あの子は嫉妬深いから」
「承知しているよ。言っておくけど、ハルの性分については、君よりマスターだ。それにどうせ、半年もしない内に、僕らはこの天国の監獄から釈放だし。今のうちに外で得られない悪事を経験しなきゃ損ってもんさ」
「君って奴は…」
「ところで、卒業後の行く先は決まった?進学?それとも故郷へ帰るのかい?」
「そうだな…」
 当座の問題は、それだ。

 進学したいのは山々だが、公妃は勿論、父も僕の帰還を望んでいるだろう。
 これ以上、我儘を通すわけにはいくまい。

 三日後の夜、ミカが僕の部屋へ来て、アーシュの事を教えてくれた。
「あの子って、初等科では有名でね。とにかく目立ちまくっているらしい。身体を使ってのケンカは弱くて、つっかかる相手には魔法で徹底的に叩きのめす…周りには恐ろしがられてるよ。その上、トゥエのお気に入りらしく、好き勝手に学長室に入り浸って、おもてなしってね…何をおもてなしされてんだが」
「学長がアーシュを可愛がっているのは、赤ん坊のアーシュを拾ったからなんだろう。学長はあの子の父親代わりなんだから、甘えてもおかしくはない」
「おいおい、この『天の王』で、そんな道徳がまかり通るものかい。あの子はトゥエの特別なお稚児だって噂されてるんだぜ」
「…」
 そんな感じは微塵もなかった。アーシュは誇り高い子だ。
 それに、学長は僕の知る限り、ただ唯一の信頼に値する人だ。

 それからしばらくして、僕は学長に呼び出された。
 聖堂の裏にある階段を登った奥の部屋が学長室だ。
 学長室は「天の王」に入学した以来だったから、懐かしさがこみあげても来たが、それよりもしかしたら、アーシュに会えるのでは、…という淡い期待があった。
 それと言うのも、あの林檎を収穫した日から、アーシュの姿を見つけることができなかった。
 同じ敷地に居て、彼が初等科の生徒だってわかっているのに。
 会いに行こうにも、彼がそれを望んでいないと思ったら、自分から行く勇気が持てない。
 偶然のふりをして、彼を見つけ出したいが、不思議と僕の魔力は彼には通じないのか、役には立たなかった。
 終いには、本当に彼はこの「天の王」にいるのかすら、疑ってしまう。

「ルスラン、今日、君を呼んだのは、君の進路の事なんだ。実は君の国からふたつの手紙を私宛に頂いている。ひとつは君の国元の宰相殿からの訴状。もうひとつは君のお父さんからだ」
「父から?」
「君に見せるかどうか迷ったけれど、どちらも大切なことが書かれているから、ここで読みなさい」

 僕はその手紙を受け取り、学長が勧めたソファに座り、手紙を広げた。
 メジェリ国の宰相はアッカドという気の良い老人だが、手紙の文字は公王妃のものだった。言葉は丁寧だが、要するに卒業したらすぐにでも帰国し、「天の王」で身に付けた魔力で、メジェリの役に立つ働きをしてくれと言うことだった。
 彼女の願いは最もだし、嫌な気分にはならなかった。彼女は国の為、自分の大事な息子(ユーク)の為に僕の力が必要だと、頼んでいるのだ。
 だが父の手紙は、彼女とは真逆の事が書かれてあった。
 卒業した後は、国の事は気にせずに、自分の未来をよく考え、好きな道を選びなさい…と。
 父の愛情に僕の野心は負けてしまう。

「…の言うとおりだな」
「え?」
「いえ、あの…初等科の子にしっかりしろって怒られたんです。善人すぎるって…」
「アーシュにかい?」
「…はい」
 やっぱり学長は、すべてお見通しなのだな。

「彼に『シリウス』ってあだ名を貰いました。ペットか何かみたいなノリなんだろうけれど。でも一度会ったっきりなんですけどね」
「名前までもらうとは、気に入られたのだね。そうか…」
「なにか?」
 トゥエは楽し気に私を見ながら笑みを浮かべた。
「アーシュは一度気に入った者は、色々と念の入れようでね。いや、変な意味ではなく。君が彼を求めれば、彼は君の望むものを与えるかもしれない。勿論、彼の気分次第なんだがね。何しろ彼は我儘でね」
「…」

 望み?一体、僕がアーシュに何を望んでいるというのだ。
 僕はただ、彼に会いたいと…
 会って、この窮屈な現実から逃れたいと…?

 その夜、父あてに短い手紙を書いた。
 卒業後はすぐに帰国し、父の仕事を手伝い、メジェリ国の為に生きていくと。

 春が過ぎ、あっという間に卒業の日を迎えた。
 式の翌日、学生寮を去っていく友人を見送り、粗方片付いた部屋を後に、あの林檎の木に会いに行った。
 僕が居なくなった後は、きっとあの子が見守ってくれるだろう。
 それだけで、僕はアーシュと繋がっていけるような気がした。

「さよなら。いつまでも枯れないでくれよ」
 咲き誇る小さな白い花を心に留め、僕は「天の王」を出発する覚悟を決めた。
 荷物を部屋へ取りに行くと、片付いた部屋のベッドに誰かが横になっている。
「君、ここは空室だよ…」と、息を呑む。

「アーシュ…」
 横になり目を閉じた少年が、僕の声でゆっくりと目を開け、僕を見た。

「やあ、シリウス。元気?」
 ニヤリと笑う表情が、とてつもなく僕を楽しませた。
「ここがよくわかったね」
「だって、俺、天才だもん。今日おにーさんが『天の王』から出ていくって聞いたから、会いに来てやったんだ」
「そう、ありがとう。また会えてうれしいよ」
「…」
「ホント!変な意味じゃなく、ね」
「ま、いっか。ほら、卒業祝いに俺の頭撫でさせてやるから」
 そう言って、アーシュはポンと起き上がり、僕の前に立ち、下を向き頭を差し出した。
 
 なんと言ってよいのか…
 予想もしない吉兆ってこんな感じなのかな。
 
 僕はおずおずと、アーシュの頭を撫でる。
 クセのある柔らかい黒髪が、僕の指に絡まり、梳け、また絡み…なんだか楽しくてわちゃわちゃと撫でまわしてみた。アーシュは何も言わない。
 その姿が愛おしくなり、細く小さい身体を引き寄せ、壊れないようにゆっくりと抱きしめた。

 彼は驚きもせず、「ちっ!」と舌打ちした後、暢気な声で「そこまでサービスする気はなかったんだけどなあ~」と。
「僕は自分の国に帰るんだ。そこは、とても遠くて…もう、これきり君には会うこともないだろう。だから、少しだけこのままで…」
「ばーか!」
 アーシュは僕の胸を押しやり、ふてくされた顔を見せた。
「誰がこれっきりって決めた!誰が会えないって決めた!シリウスに会うも会わねえも、俺が決めるんだよ。そんで、今日が最後にならねえって、この魔王さまが予言してやってんのっ!」
「え?」
「だ~か~ら、シリウスが俺を呼べば、ちゃんと会いにきてやるって言ってる。気が向けばの話だけどさ」
「あ…ありがとう、アーシュ。嬉しいよ、そんな言葉を貰えて」
「別に、礼は要らねえし…」
 アーシュは照れ隠しなのか頭を掻きながら、口を尖らせた。
 まるで普通の十歳の子供のように。

「まあ、いっか。じゃあね、シリウス。今度、会った時は本当の名前を呼んでやるよ」
 そう言うとアーシュは空いた窓に足を掛け、いきなり外へ飛びだした。
 二階とはいえ、僕は慌ててアーシュの姿を追う。
 窓の下を見ると、彼は振り向きもせずに脱兎のごとく走り去っていく。

「ありがとう…ありがとう」
 そう何度も言わずにはいられなかった。

 何故なら、アーシュは僕に生きる希望を与えてくれたのだから。



Again 11へ /13へ

もはやアーシュが主役の座を奪い取ったな…大丈夫かな、ハルとルスラン…(´・ω・`)

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三月表紙イラスト - 2019.03.01 Fri

今月はカサノヴァを予定していたんだけど、あんまり気に入らなくて、急遽「ロミオとジュリエット」にしましたよ。

はい下書き。
ロミオ1

で、完成。

romio-2-2.jpg

実は明日海さんの「ロミジュリ」はまだ観てないんですよ。
でもめちゃくちゃ期待してます。
いつかスカステであるでしょうからねえ。
ロミジュリは若くてなんぼの世界であって、それなりの年齢になったら、似合わないと思うんです。
あの月組で、トップになったばかりのまさみり役替わりだから、魅力が倍増すると思うんですよね。

で、それから八年ほど経つと、カサノヴァがめちゃ似合う舞台人になれるんだろうね。

カサノヴァ-5-1
結構好きな絵だけど、鉛筆書きだから、表紙にするのはやめました。
これを厚塗りにするか、別に描くか…悩みますね。

文章の方も、頑張ります…(´;ω;`)ウッ…

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Author:サイアート
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