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2019-11

輪舞曲4…「セレナーデ フィナーレ」 - 2013.03.23 Sat

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イラストはサムネイルでアップしております。
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チェロ2



セレナーデ 終曲(フィナーレ)


「アルペジョーネ・ソナタ」の楽譜を能見響へ差し出した時、ポーカーフェイスの彼は一瞬強張った顔をした。
しかし、すぐに元の柔らかい笑顔を見せ、俺と合わせるのが楽しみだと言ってくれた。…半分は御愛想だろう。
彼はプロのピアニストだ。
たかが趣味で続けている俺と、比べようがないのはわかっている。それでも、能見響を理解し、その心に沿っていくには、まず俺の努力が必要なのだと思う。

チェロの練習をしながら、俺の胸で泣く響の顔を思い出した。
あれもまた彼の偽りの仮面だろうか。
それとも…

恋とは知らない者同士が惹かれあい、愛し合い、幸福な日々を送ることを目的とするものだろう。その過程にお互いの過去を知る必要性はどれだけあるのだろう。
俺が能見響の過去を知らないように、彼もまた俺が生きてきた過去を知らない。
それを無視したまま、本当の幸せを掴むことはできるのだろうか。
それとも相手がそれを望まないのならば、互いの過去など知った事ではないと、割り切るべきなのだろうか…


外回りの仕事からオフィスへ戻ると、机には沢山のメモが積み重なっている。そのひとつに目が留まった。
「河原修一様よりTELあり」とあった。
河原…思い当たるのは「バイロン」のマスターだ。何故彼から…と、頭をよぎったがすぐに連絡先へ電話をした。
会社の近くまで来ているから、都合が良ければ会えないだろうか、と、河原氏に言われ、俺はすぐに場所を指定し、彼に会いに行った。

「仕事中に申し訳ありません」
河原氏はいつもの店で見るダークスーツとは違い、ラフなシャツに紺麻のブレザーという恰好で、俺に深くお辞儀をした。
「いえ、ちょうど昼飯に外へ出るつもりでした。昼飯はまだですか?」
「はい」
「ゆっくり話ができる店を知っているので、僕が案内してもよろしいでしょうか?」
河原さんはにこやかに承諾した。
そして、よく使用するビルの見晴らしの良い静かな和食の個室へ、河原さんを案内した。

「良い所ですね。私は田舎育ちだもので、こういう高いビルは少し怖い気がするが…それでも素晴らしい景観には見惚れます。ところで神森さん…」
「聡良と呼んでください」
「いいえ、私にはあなたを呼び捨てになどできません。…それより、時間は大丈夫なんですか?お仕事の邪魔になるようだったら遠慮なくおっしゃって下さい」
「大丈夫ですよ。それに営業なので結構自由がきくんです。お気になさらないでください」
「そうですか…安心しました。長年水商売ばかりなので、歳は取っても知らないことばかりで、気がつかないまま、失礼なマネをするのじゃないかと…実は恐々なんです」
「まあ、敬語はやめてくださいよ。マスター…じゃなかった河原さんは、僕の親父と同じ年齢ぐらいにお見かけしますし、今日はマスターとお客の関係じゃないので」
「そうですね。…でも、今日はあなたにお願いがあって来たのです。だから、年配面するわけにはいきません」
「なんでしょう?」
「…響のことです」
「響さん…の?」
「神森さんは、私らとは違う…豊かな世界に生きておられる。違うと言うと語弊があるかもしれませんが、少なくとも毎日借金で追い詰められたりは…経験ないでしょう」
「…」
「店の経営なんて、いくら儲けた、いくら損した…そんな金勘定ばかりの毎日です。ジャズクラブなど格好つけて、一生懸命頑張っても、儲けはたかが知れています。あの店は…『バイロン』は多額の借金を抱えています。あの店と土地を手放せば、なんとか借金は返済可能でしょう。でも、そうなった時、響の居る場所がなくなってしまう。……『バイロン』は私と響の父親で開いた店でしてね。響の父親は私の親友で…存分に演奏できるライブ専門の店を持ちたいから協力してくれと頼まれましてね。私は能見のピアニストとしての才能を信じ、奏でる音に惚れていたので、彼のピアノがいつも聞けるのなら、こんな幸せなことはないと思って、すぐに彼の話に乗りました。…幸せだった。毎晩、能見のピアノを誰よりも近くで聞ける喜び。…能見が死んでしまった後、一旦は店を閉めようと思ったんですが、自分が父の代わりにピアノを弾くから、店を続けてくれと響に懇願され…。その頃から店の経営は順調だとは言えなかった。だから響は…」
口を噤んだ河原さんの思いは、俺にもわかった。

「店を続けることを条件に…響さんはオーナーと契約したそうですね。彼の口からそう聞きました。そしてオーナーの愛人だから、僕の想いを受けることはできないと言われました」
「神森さん…」
「俺は…自分でも驚くぐらい、響さんに惹かれている。これが、本当の愛ではないのかと…俺自身戸惑っています。彼と寝て、彼の涙のわけを知りたいと思った。でも…響さんが店の為にオーナーとの関係を望んでいるのなら…俺にはどうすることもできません。響さんが自分からすべてを話し、俺にすがってくれるのならまだしも…。彼はそんなことを望んではいないでしょう」
「響の目的が神森さんの財産なら、響もこんなに混乱はしていないでしょうね」
「混乱?」
「ええ、混乱です。本人は気がついていないけれど私から見ればね。これでも親代わりなんですよ。それなのに…ずっと見て見ぬふりをして響を…。あの子が泣くなんてね…あなたの前だからでしょうね。そう…そうですか。神森さんも響を…慕ってくださっている…」
「ええ、響さんを愛しています。彼の未来を導くため、俺は響の本当の力になりたい」
「…私はそれを知りたかったんだ。…ありがとうございます、神森さん。そしてあの子をよろしくお願いします」
河原さんは立ち上がり、再び俺に深くお辞儀をした。
俺もあわてて、席を立ち、頭を下げる。

「こちらこそ…でも、響さんの心はまだ解けていません。今、彼と一緒に弾くためのソナタを練習しているんです。音楽が彼の支えであるのなら、俺もそれを理解し、共有したいと思っています。…それが正しいのかどうかわかりませんが…」
「それは、あの子が一番求めていることかもしれません。店のことは、私の方ですべて片づけるつもりです。借金もオーナーのことも全部…。これから響は縛られた鎖から放たれるが…音楽家としては、その後が大問題だ。なにしろ芸術家ほど勝手放大なくせに繊細で、扱いにくいものはない」
河原さんは眉間に皺をよせ、渋い顔をしながらも、どこか嬉しそうな表情を見せた。俺は微笑ましくそれを見つめた。
彼は彼の愛する音楽家のすべてを理解している。

「響さんの父親もそうでしたか?」
「え?…ええ、あいつは響以上に我儘で、その上に我が強くてね、私を困らせてばかりで…だが、少しも嫌な思い出にはならないんです。本当に良い思い出だけで繋がっていられることが、今の私の心の糧になっています」
「俺も河原さんと響さんのお父さんのように、響と一生繋がって生きていけるように頑張ります」


響との約束の日時を河原さんに伝えると、その日はいつでも店に入れるように鍵を開けているから、と、言われ、俺は当日、約束の時間より二時間ほど早めに「バイロン」へ行き、前もってチェロの練習をすることにした。

「バイロン」へ入ると、河原さんが待っていた。
彼はいつも響が弾いているグランドピアノの前へ俺を案内し、まるで響の父親に俺を紹介するように話しかけるのだ。
「なあ、昭雄。この方が神森聡良さん。響の大事な人だよ。彼はきっと響を幸せにしてくれる。…私はそう信じれる気がするんだ。だからおまえも…このピアノは人手に渡ることになったけれど、怒らんでくれ。おまえの奏でた音は一生忘れないと誓うから…」
「…河原さん」
「店の売り手が決まりましてね。来月いっぱいで『バイロン』は閉店です」
「河原さんは…どうされるんですか?」
「長野の佐久の田舎が私の実家でね。母ひとりで花なんかを栽培しているんですが、こんな私でも役に立つらしいから、手伝おうと思います」
「そうですか…」
「落ち着いたら神森さんにも連絡しますよ。季節の良い時にでも響と一緒に遊びにいらっしゃい」
「…ありがとうございます」
「ピアノは弾かれるのでしょう?」
「ええ、一応は」
「では、どうか弾いてやってください。…昭雄と声楽家であった響の母親が、共に奏でるハーモニーは、夢のように美しく艶やかで、天に登るようにときめいたものです。私も妻も夢心地でそれを眺めていた。私は、決して忘れない。あの時の音楽を…」

俺は河原さんの思いを受け、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」を弾いた。
歌詞の無い歌曲だ。
切なさとノスタルジーの気だるさと情感の漂う調べ。
河原さんは目を閉じ、祈るように手を合わせ、じっと耳を傾けている。

曲が終わると、河原さんはにっこりと笑顔を浮かべ、「素晴らしい讃美歌でした。昭雄も妻も喜んでいるでしょう。響の母親は…麻由美さんには私から連絡することにしますよ」
「…響さんの母親って…生きていられるんですか?」
「ええ、昭雄と離婚した後、イタリアで幸せに暮らしていますよ。時々私にハガキが来ます。彼女も気が強いから本音は言わないけれど、響のことは気がかりのようで…。響が幸せになることを、彼女も遠くから祈っていたことでしょう」
「そう…ですね。きっとそうですよ」
何故か見たこともない響の母親と俺の母親の顔がだぶって見えた。
いつの日か、母親同士を合わせてみたいな…なんてね。


俺は響のピアノを弾き続けた。
思いのままに、頭に描くメロディを奏で続けた。


なあ、響。
俺たちの前にはまだ何も書かれていない五線譜が四方に散らばっている。
それをひとつずつ拾い集め、ああだ、こうだ、と言いながら、ふたりが奏でるメロディをその五線譜に書き込んでいかないか?

そう、ふたりのハーモニーを。

ふたりだけのセレナーデを…



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終ろうと思ったけれど、次は「アンコール」を~



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● COMMENT ●

そうか… とうとう バイロンを閉め 売りに出すのね
ピアノだけでも 手元に置く事は出来ないのかな
残念です( ´-ェ-` )シュン

「後書き」を読んで吃驚!
響が登場しなかったのに 今回を 最終話の予定だったの?
最後は やはり 聡良と響の2人の登場は 必然ですから そこの所 宜しく~です♪
お願いね! 人ゝε・*)^☆CHU♪...byebye☆

ホントはこの後、おかあさん主催のパーティシーンがあるんですけどね、その前に、ふたりが愛を育んでいくシーンを描きたいと思ったんです。
そしたら結構長くなりそうなので、一旦ここでフィナーレにして…まあ、セレナーデは愛の告白なので一応成就したということで…

なので、次はザ・パーティ!あいつもあいつもあいつも出てくるぞっと!

響さんたち影が薄くならないか…心配ですけどねえ~((人д`o)


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