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2019-09

母の手紙 - 2013.05.13 Mon

今回のお話はBL的な要素は全くありません。

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「母の手紙」


お父さん、ごめんなさい。
色々と心配ばかりかけて…私はもう、どうしたらいいかわかりません。
昨日のことは、私の早合点だったのでしょう。
人間は感情の動物です。
玄関の戸を強く閉めて、何も言わず出ていったことは悪かったなあと思っています。
迎えに来た夏海には、色々言い聞かせながら帰ってきたのですよ。

茶碗に一度よそった御飯を、ジャーに戻したことも、一旦皿に注いだ魚を手もつかずに鍋に戻したことも、あなたはきっと気づいていないでしょう?
あなた方ふたりが、何と言ったかわかっていますか?
テーブルについて、食べようと箸を持ったけれど、食べられませんでした。
「今度の病気のことだって、どんなに堪えていると思うか!」と、お義母さんが言ったことです。
何も言われなくても、心苦しくて、本当にどうしていいのかわからずにいる私に、その言葉はあまりに残酷でした。
人間は自分の欠点がわかりすぎる程わかっている時、そこを突かれる位、辛いことはありませんから。

私だって突然の入院宣告に本当にショックでした。もちろん自分の身体のことです。近頃おかしいなあ、と勘づいてはいました。でも今までだってそれなりに誤魔化してこれたので、今度も大丈夫だろうと思っていました。
C型肝炎と言う治り難い病気に、どう立ち向かっていけばいいのか…混乱してしまって私にはもうわかりません。

私は今まで自分なりに頑張ってきたつもりです。
賢く欠点のない、そして全く隙のないお義母さんと、何もかも出来過ぎた優等生のあなたには理解できない事と思います。
そうでしょう?
頭の良い人に、愚かな人間の考えていることがわかる筈はないのですから。
私は、自分は馬鹿な位正直者だから、思ったことをつい口から出てしまうけれど、割と人のことは悪く言わないできました。そんな私を周りのみんなは「馬鹿正直もほどほどに」と言うのです。でも私はそんな人間です。
良い方に、良い方にと考えなければ…と、思う性格です。

私達夫婦は一度でもケンカをしたでしょうか?
他愛ない夫婦喧嘩が、どんなに素晴らしい事なのだろう…と、私はいつも思っていました。でもそれも私達にはできなかったでしょう。
何故だかわかりますか?
取り留めのない些細な諍いでも、お義母さんが介入して事を大げさにしてしまうからです。
ケンカの原因は大体が私にあるでしょうね。でも夫婦喧嘩の理由には女の甘えもあるのですよ。
けれどお義母さんが私たちの中に入ってくると、一方的に私が怒鳴りつけられ、私はもう引き下がるだけしかないのです。
元々大して意味もない夫婦喧嘩なのですから、理屈であれこれ言われたら、適う筈もなく、お義母さんに謝るしかありませんよね。

世間では夫婦喧嘩のことをなんと言っているのか知っていますか?
仲の良い夫婦のレクレーションとか、仲の良い証拠とか言うのですよ。
私はそれを負け惜しみの言い様だと思っていました。でも近頃はそうではなく、私の方が間違っているのでは?と、思うようになりました。

あなたとわたしとお義母さんは三人合わせて夫婦なのかもしれませんね。
あなたとは滅多な事ではふたりだけの内緒話というものさえなかった気がします。結婚して二十年以上も経つのに…

世間では「賢いお姑さん」と「立派すぎる息子さん」と「明るくてそそっかしいけれど、ほがらかなお嫁さん」と、言うことになっていたのでしょうね。
でも私は身体が弱いと言うハンデがあることをずっと気にして生きてきました。
あなたとお義母さんが考えている以上に、悩んでいたのです。
死んだ方がマシだと考えたのは、何もあなた方ふたりへの当てこすりではないのですよ。只、心配をかけてしまうのがとても辛いことと、気兼ねの所為です。
この「気兼ね」というのは本人でなければわかりません。人に対して気兼ねしたりする風には一見して見えなかったかもしれませんね。
生来ののん気者の上に、そんな風に見せてしまえば家の中が暗くなってしまうもの。
家の中で私がひとり、ドジで馬鹿でオッチョコチョイだとわかっているのですから。
結局はそんな私は、賢くて優等生のあなた方に精一杯頑張ってもついていけないと言うことでしょうね。その上、身体が弱いという事で、私自身焦りが出るし、焦れば焦るほど何とかしなければと頑張ってしまい、また熱がでてしまう始末だし…
良くできる奥さんのフリなどせずに、当たって砕けろ!と、正直に行動すれば良かったかもしれませんね。

死ぬ事はそんなに難しいことではないのですが、子供たちのことが気がかりなのと、お義母さんとあなたの立場を思うから出来ないだけなのです。
いくら自分ひとりの我儘からすることでも…
と、すると何か他に選択があるのか…と、今まで考えてもいなかったことに辿りつきました。
あなたとの「別れ」です。
だってこれ以上息をつめた生活は、とてもできないもの。
何の会話もなく、無言で生活していかなきゃならないことに耐えられなくなりました。
44歳にもなってやっとわかったの。
「あの位のことで馬鹿なことを言うな!」と、あなたは怒るでしょうね。でもね、昨日のことだけじゃない。
時々思っていたのです。50歳になってもきっと今のままの生活だと思うと、何だか私がとっても可哀想…馬鹿みたいにいつもヘラヘラとして…
「何を言ってる。今まで病気ばかりしていたクセに!」と、言われればそれまでですが…

一度真剣に考えてみてください。そして決まったら最後にお義母さんに話してください。そうでないとまたヒステリックに怒鳴られるだけですから。

私のことは心配いりません。
死ぬ事に比べたら、どんなことでも耐えられるでしょうから。
実家にも帰りません。迷惑はかけないでひとりで生きていくつもりです。

お義母さんが良い人で、あなたがまた特別に良い人だから、今からでもどんなにか素晴らしいお嫁さんが来るかもしれないわね。
今度は身体の強い人を貰ってね。そうすればお義母さんはどんなに喜ぶだろうと、想像します。
皮肉ではなく、心からそう思っているんです。

別れたいと両親に話したら、お父ちゃんからは思いきり叱られたけれど、お母ちゃんはちっとも叱りませんでした。少し嬉しかった。

心残りは子供たちのことです。
陽彦はもう大学生で、独り暮らしだからあまり生活が変わるとはおもわないけれど、夏海は高校二年生で、今が一番難しい時期です。このことであなたたちに反感を持ってしまったらどうなるかと…私より利口で、学校の生活態度や成績などは、先生から一番だと言われています。女の子だからわからないことも多いでしょうけれど、もう少し長い目で見てあげてください。急いては事を仕損じるということわざもありますから。
私に愛情が残っていたら、その分を夏海にお願いしたいと思います。だって、私たちが別れた後、一番の被害者になるのは夏海なのですから…


人間って不思議ね。
今まで考えてもみなかった事なのに、急に気持ちが固まるものだなあと思いました。
何事も人の目、隣近所の目のために、皆が我慢することはないですね。
人生やりなおしはききませんから…
早い話、堅物の健全な家庭向きの女ではなかったのではと思います。
どんなに背伸びをしても、まだまだ未熟であり、とても届かないことに、今更気がついたのです。少し遅すぎたみたいだけど…

二、三日のうちにあなたの会社がえりに待ち合わせをして、話し合いましょう。

最後に…

あなたは最高に優しい人です。またとない素晴らしい人です。
でも絶対私の気持ちを理解できない人です。
これ以上一緒にいたら、息が詰まるような気がしてならないのです。




先日、祖母が亡くなりました。その夜、十年前に亡くなった母のタンスから、偶然手紙を見つけました。
誤字脱字を直し、すこしばかりわかりやすくしましたが、すべて母の文章です。
母は…私が絵を描いたり、小説を書いたりすることを喜んでいましたし、その頃はブログなどはしていなかったんですが、してみたら?と、当時から母が薦めてくれたものでした。
きっと母はこの手紙が、こうして私の手に渡り、ブログ小説として読まれてもいい、と、思っているのではないかと思い、アップしました。
この手紙はこの時の感情まかせに書かれたものであり、その後も母が死ぬまで、両親は仲よく暮らしていました。だけど、こういう時もあったのだなあ~と、子供心は複雑なものですよ。
ただ、生きてる時はほとんど私を褒めなかった母が、書き残している文章では結構褒めてくれていることが、嬉しいですねえ~


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● COMMENT ●

その当時、その時の サイアート様の母さまの心情が汲み取れる手紙ですね。
きっと 今まで言えなかった事を 最後だと思って 吐く露されたのでしょう。

文章から察すると とても可愛らしい女性だったのかなぁ~と、感じました。

私の母は、ずっと会社員として 外で働いていても 家事も上手で 何事もテキパキ出来て 社交的な人です。
内に溜め込まない人で 私には 舅と姑、親戚、会社関係など あらゆる話しを聞かされてましたね。(苦笑)

そんな人でも ストレスから自律神経失調症になりましたから サイアート様の母さまの様に 愚痴も言わない人は 溜め込み過ぎて 心労も大変だったでしょう。

あっそれに 私の父も 祖母には いっさい口ごたえしない人でしたし、祖母は 孫たちより 息子である父を溺愛してましたね。

ちょっと 色々と思い出しました。。。(*^ω^)ノ" byebye☆

けいったんさん、コメしにくい記事にわざわざありがとうね~

そうですね。私から見てもかわいい女性だと思います。
田舎にしてはオシャレだったし、オシャレも自分のセンスで自分で服をデザインして作っていたくらいだから、娘の私としては、誰にでもいばれるお母さんでしたね。
うちも私が小学校に入ったころから、高校生になるまでぐらいは働いていましたね。
死ぬ半月前に、その頃働きに出たのは、祖母と一緒に家に居る時間を避けたかったから…と、初めて私に本音を言いましたね。
色々考えると…やっぱりもっと幸せになって欲しかった…と、思ってしまいます。


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