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2019-09

人魚姫 (♂) 7 - 2013.08.20 Tue

7.
乃亜人魚1-34
7、
それからすぐに、乃亜の携帯へ電話を掛けた。
けれど、なんど掛けても応答はなく、俺の不安は段々と募っていくばかりだった。

あんなに乱暴な言葉をぶちまけてしまって…。
純粋な乃亜をどれほど傷つかせてしまったのだろう。
こんなに愛おしいと思っているのに、どうして「信じられない」…なんて言葉を吐いてしまったのだろう。
今更ながら、俺はとんでもないクソガキの大馬鹿者だった。

乃亜…どうして電話に出ない。
俺を罵ってくれてもいいから、ただ一言だけでも声を聞かせてくれないか?

「乃亜…」
俺に愛想を尽かして、兄貴たちのところへ帰ってしまったのだろうか。
それならば、仕方ないことだ。
俺が諦めれば済む話だろうけれど…

携帯をテーブルへ置き、俺はまた水槽の中でのんびりと泳ぐ魚たちを眺めた。

終わりなのだろうか…
こんなに愛おしいと思える相手に出会えたのに。
初めて愛し合う意義を見つけられると、感じ始めていたのに。

…いや、やはり諦めきれない。

俺はテーブルに投げ出した車のキーを掴み、立ち上がると、乃亜の自宅へ向かう為、家を出た。

避暑地である山林の中腹にある乃亜の家まで、俺の自宅から車でどんなに急いでも一時間はかかる。その間にも乃亜の携帯へ、何度か呼び出してはみるが、一向に返事はなかった。
焦りながらも乃亜の家の門に車を寄せ、玄関から乃亜の名を大声で呼んだ。
しかし、応答も出てくる様子もない。鍵はかけられているから、外出しているのかもしれない。
それでも俺の不安はぬぐいきれなかった。
北側の裏口の鍵はかかっておらず、俺はそこから家の中へ入った。

乃亜の名を呼びながら、リビングや寝室、風呂場などと覗いてみるが、乃亜の姿はない。
肩を落とし、リビングのソファに座った時、テーブルに置かれた一枚の便箋と、俺が乃亜に贈った指輪のケースに気がついた。
ケースの中には真珠の指輪が綺麗に収まっている。そして、便箋には…
「尚吾、尚吾」と、俺の名前が繰り返し書かれ、最後に「ごめんなさい」と、だけあった。

ぞっとした。
本当に乃亜は…童話の人魚姫なのか?
俺の不誠実さに絶望し、泡となって消えてしまったんじゃないのか?

「乃亜っ!」
俺は指輪を掴み、立ち上がった。
落ち着いて部屋を見渡し、半分だけ開け放たれたテラスに続くドアを見とめると、急いでそのドアからテラスに渡り、そのまま階段を降りて、庭の先に続く小道に立った。
ここから先は、見知らぬ場所でしかない。
小道は緩やかな下り坂。
両脇には背の高い白樺の林が続き、強い西陽の長いいくつもの影が、道を縦断していた。
汗を掻きながらでたらめな縞模様の小道を降りる。
鳴りやまぬ蜩の声に渓流の音が交り、道の先に川肌が見えてきた。
息を吐き、急いで降りると、川に沿って少しだけ広い緑の道が続いていた。
何かに引き寄せられるように、俺はその草の道を走った。
そして、
その先に…乃亜がいた。

大理石の石に凭れたように倒れている乃亜を見つけ、俺は一瞬足が止まった。
大理石にはローマ字で乃亜の祖父の名前が刻み込まれていた。

まさか…死んでいるのでは…と、嫌な予感を拭いきれないまま、乃亜の名を呼びながら俺は乃亜に近づいた。

「乃亜…乃亜?」
乃亜の細い身体を抱き起こし、俺は乃亜の名を呼ぶ。
鼓動も呼吸も確認できたけれど、どれもが弱々しく、顔色も口唇も色味を失い、返事もなかった。
俺は焦った。
このままでは本当に乃亜は…死んでしまうかもしれない。
いや、乃亜は死のうとしているんじゃないのか?
あの残された俺への「ごめんなさい」の言葉は、生きる希望を失った人魚姫と同じじゃないのか?

そんなのは嫌だ。
そんなことは絶対にさせない。

だから、俺は乃亜の名を呼んだ。

「乃亜!乃亜っ!俺だ!尚吾だ!…俺が悪かった。乃亜を信じられずに、酷いことを言って、乃亜をひとりにさせてしまった。ごめん、乃亜。君を愛している。これからもずっと変わらずに愛し続けると誓うから…どうか、死なないでくれ!」

俺の声に僅かだが、閉じた乃亜の両目の瞼が震えた。
俺は乃亜の左の薬指に、真珠の指輪を嵌め、俺の胸に引き寄せた。

「乃亜が何であっても構わない。君が言う…人魚であっても、俺は乃亜を変わらず愛していると誓うよ。だから…どうか頼むから、乃亜、目を開けて俺を見てくれよ…」

俺は自分では気づかずに泣いていたらしい。
幾粒もの水滴が青白い乃亜の顔を濡らしていた。

「…しょう…ご…」
「乃亜…」

乃亜の口唇がとぎれとぎれに俺を呼び、乃亜の瞳が焦点をぼかしながら俺を見つめた。

「尚吾…泣いてる…の?」
「ああ、弱っている君を見たら、どうしていいのか…わからなくなっちまった…」
「…」
「ごめん、乃亜。何度謝っても許してもらえないかもしれないけれど、俺はもう絶対に君を裏切ったりしないから…。だから俺と一緒に生きて欲しい」
「僕は…決めたんだ。兄たちのところへは戻らないって…。人魚にもならない。人間の姿で、尚吾の愛した姿のままで…死んでいきたい…それでいいと思ったんだ…」
「乃亜、死んでは駄目だ。死なないでくれ。どうか俺の為に…生きてくれ」
「…尚吾…でも、僕は…」
「いいよ。人間でなくても…人魚の乃亜であっても、俺は乃亜を愛せるから。ね、乃亜は言ったろ?夜の間だけ人間になれるって。そうさ、これからだって俺たちは愛し合える。乃亜が人魚なら、俺はダイバーになるよ。そしたら一緒に海へ潜れる。…ねえ、そうだろ?」
「尚吾…」
「だから死ぬなんて言わないでくれ。俺を信じて生きてくれないか?乃亜」

俺の必死な願いに、乃亜は力なく頷いた。

「でも…もう…無理かも…」
「何故?」
「薬…捨ててしまったの。副作用で…限界に近づいていたみたい。人間の姿でいられる時間が短くなってて…」
「どうすれば元気な乃亜に戻れるんだ?」
「…海に還って、人魚に戻れれば…いいのかもしれない…。だけどそうなったら…もう尚吾と…」
言葉に詰まった乃亜は、しゃくりあげながら泣く。
俺は乃亜を抱きかかえ、立ち上がった。

「言っただろ?乃亜が生きてくれるなら、どんな姿だろうと、俺は乃亜を愛し続けられる。俺を信じてくれ。君を死なせたりしない」

そこから先は一目散にゴールへ向かった。
迷いはしなかった。
目指すべきゴールは、海だ。
この山中から一番近い海岸まで、どんなに急いでも小一時間はかかるだろう。

車に戻り、苦しそうな呼吸を続ける乃亜を助手席に乗せ、俺は海に向かって全速力で走りだした。

だが、残された時間は短かった。車内の乃亜は時折苦しそうな息を乱し、「尚吾…手を…つないで…いて…」と、言った。
俺はその手をしっかりと握りしめ、乃亜を励まし続けた。

やっと海岸線が見えてきた。
日没の寸前の陽の色は、立ち登る入道雲に消され、瞬く間に辺りを暗く翳らせていく。
夕立の雨粒が、フロントガラスを打ち始める。
俺は、「もうすぐだから」と、乃亜に声を掛けるが返事はなかった。
繋いだ手も力なく、皮膚が段々と冷たくなっていく様をはっきりと感じた。

海岸の路肩に車を止め、乃亜を抱き上げた俺は、土砂降りの雨に打たれながら、浜辺に向かった。
辺りは立ち込めた雨雲に包まれ、時折稲光が光る。
「ごめんな、乃亜。雷、苦手なのに…。でも俺が傍に居るから怖くないだろ?」
夏の海辺だったが、陽が落ちる時刻とこの夕立の所為か、人影は見当たらなかった。

どんなに名前を呼んでも動かなくなった乃亜を俺はただ抱きしめ、荒れた波をかき分けながら、海の中へ進んでいく。

息を止めた乃亜を生き返らせる奇跡を…

それだけを祈り続けた。



6へ /8へ


暑くて暑くて、干からびてしまいそうですう~((人д`o)
次回は最終回の予定~




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● COMMENT ●

何事にも囚われず 卒なくこなす世渡り上手な尚吾
今までは それに不便も後悔も感じなかったでしょうに 乃亜だけは 特別な存在

最初から 異種のモノを好きになった乃亜の覚悟を 少し甘く見ていたのかもしれませんね!

海まで辿り着いたけれど、間に合うのかな~┣¨‡(∀ ̄;)(; ̄∀)┣¨‡


まだまだ 炎暑と呼べるレベルの この暑さ!
日中の暑さもそうですが、大阪は 最低気温が28度と 毎夜続いて 体がバテバテです。
電気代の事なんか 言ってられません!(苦笑)
ほんと 年々 夏や冬の季節が長引き 春と秋が無くなって来てますよね。
四季が美しい日本は もう無くなっちゃうのかな?
~~☀~~((o(´;゚;Å;゚;`i|i)o)) 紫外線は 強敵だわ。。。...byebye☆

ニュースでも今年の暑さは異常だって言ってました。
毎朝の天気予報で、福岡が日本で一番最高温度が高かったりすると、ぐったりきます~
雨は降らないし…それでいて東北の方は雨ばっかりでしょ?
やっぱり地球も病気になっちゃってるのかなあ~
うちらはもう先も短いからいいんだけど、子供たちの未来を考えると、ほおってはおけないんですよね。

私は原発推進派なんですよ。安全なものをより安全にして使っていくのは、仕方ない。
人間が勝手にこれまでやってきて、文明をここまで進めてきて、人口が増えたことを、今更元に戻せない。
人口を十分の一にしたら。原発も必要ないけどね。
今更そんなことできないしねえ~

なんつうか、こういうことをクナーアンを書いてる時、色々考えてたなあ~あ~懐かし。


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