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2019-09

人魚姫 (♂) 最終回 - 2013.08.27 Tue

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乃亜表紙



 最終回

日が暮れたどしゃぶりの海へと、俺は乃亜を両腕に抱き抱えたまま、進んで行った。
顔を打つ雨は強く、雨雲と暗闇が覆う天が俺を責めているようで、辛かった。
「乃亜…乃亜」
何度呼んでも、返事はない。
胸元まで浸かった俺は、動かない乃亜の身体を海に浮かべた。

「乃亜、海だよ。さあ、泳いでごらん。君は人魚なんだろう?…乃亜。俺はここにいるからね。逃げたりしないから…、本当の君の姿に戻っていいんだ…」
乃亜の身体はぷかぷかと波打つ海に浮かび、俺の腕からゆっくりと波にさらわれていく。
俺はそれをじっと見守り、乃亜が再び生き返ることを祈るしかできなかった。

「乃亜っ!」
俺は叫んだ。

その声に応えたかのように、海の中からひとりの男の姿が現れた。
辺りは暗闇と言って良いほどに暗く、打ち続ける雨に霞んではいたが、その姿はなぜか浮き上がって見えた。
裸の上半身に青白い肌と、長く黒い髪。
際立った美貌の青年の青く光る両の目が、俺をじっと睨んでいた。

「乃亜は死んだ。…殺したのはおまえだ」
「…」
「私はおまえを許さない」
彼が誰なのか、すぐに理解した。
俺は以前に乃亜が見せてくれた写真で、こいつの顔を知っていた。

「俺もだ」
「乃亜は可愛い僕たちの弟だった。おまえが乃亜を不幸にした」
「許さない…」
彼の声に呼応するように、俺の周りに上半身裸の男たちが次々と海から浮かび上がる。
合わせて五人。俺の位置から三メートルほど離れて、俺を囲んでいた。
彼らは乃亜の兄たちだ。

…乃亜の自宅で会った次兄のヨシュアが、俺を指差した。
「ほら、見たことかよ。…だから俺は反対したんだよ。こんな奴に騙されちまった乃亜にも責任の一端はあるが、乃亜はまだ甘っちょろい子供で、てめえは大人だろうが。責任の重さは比べようもねえな。しかも乃亜が、殺されたんじゃ、見逃すわけにはいかない」
怒りに任せた激しい怒号に、別の男たちが呼応した。
「だけどさ、殺しちゃうにはちょっともったいない気がするよね。想像したより、随分男前じゃん。僕好みだし…」
「ルイっ!おまえ、俺の目の前で色気だしてんじゃねえ!こいつは俺たちのかわいい乃亜の処女を奪って、捨てて、殺した奴だぞ」
「あ、そうだった…。じゃあ、やっぱり死んでもらうしかないよね」
「あたりまえだ!」
「でも…僕も、ちょっぴり~好みなんだよねえ、このヒト…」
「リオン、てめえまでっ!」
「おまえら、いいかげんにしろっ!こいつをどうするかは、すでに審判が出ている。こいつが処刑されなきゃ、乃亜は浮かばれねえんだよ」
「ヨシュアの言うとおりだな…」
五人の兄の言い分は理解できた。
彼らの怒りが俺に向かうのも、当然だ。
乃亜を…死なせたのは俺の所為でしかない。

「俺は…俺はどうなってもいい。だから乃亜を、頼むから乃亜を生き返らせてくれ!」
「おまえがそれを言うか?…一度死んだモノは二度と生きかえることはできない。ヒトも人魚も同じだ」
俺の必死の頼みにも、正面にいる長兄、ヴィンセントは表情ひとつ変えずに冷たく言い放った。

「だが…おまえがそこまで言うのなら、やってみる価値はある。おまえの死と引き換えに、乃亜を生き返らせることができるのか…天に問おうではないか…。やれっ!」
ヴィンセントは右手を挙げた。
それが合図なのだろう。
俺はいきなり両足首を掴まれ、海の中へ引きずり込まれた。

泳ぐのは苦手じゃない。
海に近い家に住んでいたから、浜辺も海で泳ぐのも恰好の遊び場だった。
高校時代には何人かの友人たちと、禁止されていた夜の遊泳をこっそり楽しんだことも何度もあった。
だが、こんな雨の降る夜の海で、潜水なんかする馬鹿者はいない。

俺を海に引きずりこみ、溺れさせようとする奴らが、乃亜の兄貴だってことはわかっている。乃亜が言うように、彼らが人魚であるのなら、海の中を自由に泳ぎまわるのは至極当然だろう。だが、俺はここに来ても、彼らが本当に人魚であるのか、百パーセント信じることができなかった。
先程までは見えなかった下半身を、この目で確かめる時までは…

…夜の海の中だからって、光がないなんて、ありえないんだ。
光はどこにでもある。
その光が水のなかでいくらでも反射して、綺麗なプリズムを作り、ゆらめかせ、実在をぼやかせていく。
けれど、本当は見えている。
真実は目の前にある。

その姿、泳ぐ様、光る鱗の模様とその感触…俺を嗤う奴らは…確かに人魚…だった。

五人の人魚に手と足を掴まれ、渦の中で弄ばれ、俺は本物の暗黒の海へ引き摺られていく。
…その不思議さと、死への恐怖、息苦しさに、俺は僅かな抵抗すらできなかった。
「乃亜…」
もし、本当に俺の「死」で、乃亜を生き返られられるのなら、たった三十年間の人生だったけれど、きっと意味があったのだろう…と、思った。
そして、愛する人魚を救った王子が俺であるならば、天国の母さんも、笑って許してくれるだろう…なんて…

「…ご!尚吾っ!…尚吾!」
…ああ、乃亜の声がする。
俺は意識の薄れた自身の目を精一杯の気力で開けた。

海面から乃亜が、俺に向かって泳ぎ近づいてくる。
その姿は…上半身は見慣れた裸の乃亜だったが、腰から下は七色に変わる銀の光を放ち、優雅にしなる長い魚の姿だった。
長く半透明な尾ひれと、青白く波打つ腰と背中にもヒレが見えた。
…人魚の乃亜は、昔、母さんに聞かされ、俺が想像した人魚よりも、ずっと…ずっと美しかった。

「乃亜…乃亜…どうか、元気で…」
俺は精一杯に、人魚の乃亜に手を伸ばした。
さよならを言う為に。
「尚吾…」
手を伸ばした乃亜の指の真珠が、キラリと光った。
ああ、最後に見たのが、俺を見つめる乃亜の笑顔で、本当に良かった…。



…どれくらい意識を失っていたのかわからなかった。
静かに繰り返す波の音が聞こえた。
眼を開けると、夜空に輝く数多の星々が見えた。

仰向けに寝そべった俺は、大きく息を吐いた。
両手を目の前に揚げ、掌を裏表にしながら、存在を確認した。

どうやら…俺は死んではいないらしい。
あいつらが、俺を殺すことを諦めたとは思えないが。
最後に見た乃亜が、もし本当に生き返った乃亜ならば…きっと、彼が俺を助けたのだろう。
そう考えるのが一番自然だった。

俺はゆっくりと起き上がった。
夕立は去り、夜天は晴れ、満月が今は静かな海原に光の道を輝かせている。

深い群青色の澄みきった世界。だけど締めつけられる胸の痛みは、少しも消えない。

乃亜は…人魚になった乃亜…。もう俺達は会えないのだろうか…

「なあに、生きてくれていればそれでいいさ。そうさ、乃亜が生きてさえくれれば…」
そう吐いた途端に涙が零れた。

乃亜を失うことがこんなに寂しいなんて…
ああ、もう一度だけ抱きしめて、何度でも愛していると叫びたい。
乃亜…

涙でぼやけた所為か、月の光に反射した波の揺らめきが少し荒立っているように見えた。
そいつが段々と酷くなり、人の形をした影が見えた。
海の中から上がってくるそいつは、俺のいる浜辺に近づいてくる。

俺は海を歩くその影に向かって、走り寄った。
「乃亜っ!乃亜っ!」と、何度も繰り返した。

「尚吾っ!」
その影は俺の名を呼んだ。

月の光がその姿を俺に見せてくれた。
両足の付いた裸の乃亜が、俺の名を呼びながら、おぼつかなく歩いてくる。

「乃亜…」
俺は浅瀬をヨタヨタと歩く乃亜を、ギュッと抱きしめた。

「尚吾…尚吾、良かった…本当に良かった…」
「乃亜、君が俺を兄さんたちから守ってくれたんだね」
「尚吾が…本気で僕の為に命を捨てようとしてくれたから…。兄さんたちは試したんだよ、尚吾が本気で僕を愛しているかって…。尚吾の愛が、兄さんたちを認めさせたんだ」
「乃亜…」
「僕は人間になることを選んだ。尚吾と一緒に生きていくって決めたから…」
揺るがない眼差しに、俺は現実を生き抜こうと覚悟を決めた乃亜の決意を見た。
乃亜はもう今までの幼く可愛いだけの乃亜ではなくなっていた。
ならば、俺も無辜なる乃亜の愛に、誠意を尽くしていかなければならないだろう。

俺は乃亜を抱きしめ、くちづけをし、そして贈った。
「…乃亜、俺たちは、幸せになるために、出会ったんだ。だから何度でも君に言うよ。ありがとう、乃亜。本当にありがとう」
「尚吾…僕こそ、ありがとう。尚吾に会えて、本当に幸せだ…」
「これからだって、ずっと幸せでいよう…」
「うん…」



こうして、王子である俺と、人魚姫の乃亜はめでたく幸せな結末の恋物語を描くことができた。
母が読み聞かせてくれた「人魚姫」の結末通りになったってことは、生きていたら母は良かったと喜んでくれるだろうか、それとも「人魚姫」が男なんてありえないわと、呆れかえるだろうか。
どちらにしても、俺にとって、乃亜は人魚姫であり、俺は人魚姫を幸せにする王子であろうとするのだから、母の語った「人魚姫」を、リアルにする喜びに満ちている。

「ねえ、尚吾。この物語に書かれている『死なないたましい』って「愛」とか「信仰」のことでしょ?」
「一応わね。でも俺は思うんだ。『死なないたましい』っていうのは、相手を幸せにする覚悟じゃないかってね」
「…じゃあ、僕は『死なないたましい』を尚吾から受け取ったんだね」
「そうだよ。そして俺も乃亜からそれをもらったんだ。だから、ありがとう、だ」
「僕も…ありがとう、尚吾…愛してる…」


物語の結末はいつだってハッピーエンドが良い。
だから俺と乃亜の物語も、これでおしまい。


尚吾と乃亜の愛223


…に、したいのはやまやまだが…


エピローグ的に言えば…

あれから…山林にある乃亜の自宅は、ふたりが住めるようにきちんとリフォームしたけれど、夏の別荘宅である限り、冬には少し不便だというわけで、海が見える俺の自宅をふたりの愛の巣にした。
乃亜も、いつでも海が見えると喜び、上機嫌だ。水槽の魚たちも乃亜が餌を与えると、心なしが喜んで泳ぎまわっている気がする。
俺の仕事は順調だか、暇を持て余し気味の乃亜に、趣味のアクセサリー作りを促し、出来がいいものをネットで販売させてみたら、それが好評で、乃亜もやりがいを感じている。
相変わらず、料理の味はいまいちだし、机の角に腕や足をぶつけたりと、ドジっ子萌えの乃亜だが、俺の為に懸命な姿を見ていると、本当にたまらなく愛おしくなる。

そんな絵に描いたような幸せを営む俺と乃亜に、時折暗雲が立ち込める時がある。
それは…あの五人の兄達の到来だった。

あいつらは、呼びもしないのに、連絡もなしに突然、俺の家へ押しかけて、一晩中、飲んだり、喋ったり、ケンカを売ったりして、この上なく面倒臭い小舅連中だ。
「乃亜が苛められていないか心配だから、見に来たんだよ」と、言うが…全く信用ならない。

ともあれ、表面上は愛想よく付き合うことにしている。
乃亜の家族は、俺の家族でもあるんだから…いちおう…

そんな或る日、面倒な事件が起こった。
これがまた…なんというか…作り話のような出来事で…

俺と乃亜の物語は、まだまだ終わりそうもないのかもしれない…と、俺はがっくりと肩を落とすのだった。
でも、まあ、その物語は、またいつかって事で…


人生とは、日々、驚きの連続。
人の数だけ、物語は語り続けるんだね。


「人魚姫、♂」終わり。


2013.8



7へ

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● COMMENT ●

素敵な愛の物語で ハッピーエンドなのに
読了後 私の脳裏に浮かんだのは、「チャン・チャチャ・チャンのチャンチャン♪」と、コントを締めくくる音!
それは、切ない話しの中に あちこちに散りばめられた ユーモラスな所のせいかも~(笑)

日中は ともかく、 夜が やっとやっと 一昨日から エアコン無しで眠れる涼しさになって来ました。
毎夏、 アイスノンと 冷感マットと 扇風機で夜を過ごしてた私も 今夏は エアコンONする程の暑さでしたから ホッと 一息です
電気代が 6000円もアップになってからねーε= (´∞` ;) ハァー


日中と夜の温度差で 風邪も引き易くなる時期ですので お体に気を付けて お過ごし下さいませ。
そう言えば まだ 虫の声を聴いて無いなぁ~
秋は まだって事かな…(〃゜ω゜)まだかな、まだかな?...byebye☆




いつも全読下さってありがとうございます。

今回のお話は軽かったせいか、思っていたより、めちゃくちゃ訪問客が多くてびっくりなんですよ。
ひとつは題名のインパクトなんでしょうね。
題名って大切なんだなあ~って改めて思っちゃった。
でもあまりインパクトのある題名は、個人的には好きじゃない。
自分の中での、ウケるものって、一般的じゃないのかも。

はい、うちもアイスノンと、冷感マットと、扇風機で寝てました。
一昨日からエアコン入れてませんね。
今朝はひんやりして長袖を着ましたもん。すぐ脱いだけど~

虫の声はまだですね。外を歩くとセミの死骸がたくさん落ちてて、なんか可哀想になってしまうね。
精一杯頑張って生きた?悔いはない?とか、聞きたくなっちゃった。

拍手を下さった内緒さん。感想ありがとうございます。
そして応援ありがとうございました。
とても嬉しかったです。

乃亜たん、可愛かったですか?
可愛くみえるように書くことにあんまり自信がないので、安心しました。

そうですね。美形のお兄さんたちが一杯出てきたので、これからいくらでも番外編に突入できますね。
今のところ、全くネタは考えていないんですけど((人д`o)

良かったらあんまり期待しないで、お待ちいただけると幸いです。

ありがとうございました。

ハピエンでよかった~

最後どうなることかとヒヤヒヤしました~

なんか、改めて、小説とイラストのあるこのサイトっていいな~って思いました~

美少年好きの尚吾さん、ドストライクの乃亜とハピエになれてよかったね♪

蝶丸さん、こんにちは。

そうですね~。後味は大切ですから、できるならハッピーエンドがいいんですよね。

このお話はここから先の兄貴たちのちょっと可愛そうな((人д`o)お話へのフリだったりするのではないだろうか?…と、いう気がしているのです。
お話は考えてはいないんですけどねえ~(* _ω_)

イラストを描いて、お話を考えたりすることが多いので、私にはイラストありきの物語が当たり前になってますね。
それに自分が書いた文章を絵にできるので、イメージが間違えようがない。
それが自分にとっても非常に楽に創作できるのかもしれないですね。

コメントありがとうございました(*^▽^*)


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