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2019-09

夏の名残りのばら 1 - 2014.06.05 Thu

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この物語は昨年の夏に連載した「人魚姫(♂)」の続編です。
あれから一年経った尚吾や乃亜、そして兄弟たちと、新たに登場する拓海の少し変わった恋物語です。

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。

拓海の夏2


The Last Rose of Summer

1、 夏来る

 昨日までの湿った憂鬱な雨雲が消えた空を、拓海は薄いカーテン越しに覗いた。
 久しぶりに窓でも開けて外の空気でも吸ってみようかと、立ち上がったその時、父親の呼ぶ声と同時に、部屋のドアが明けられた。
「拓海、少し話があるんだが…」
「…」
 父親が二階の拓海の部屋に入る事態が稀だ。
 さすがに堪忍袋の緒が切れたのだろう、と、拓海は普段穏やかな父の雷がいつ落ちても仕方がないと覚悟した。

 瀬尾拓海は高校三年生である。
 受験生でありながら、ひと月ほど学校には行っていない。いわゆる登校拒否だ。
 過干渉の母は拓海を心配したが、本人は理由を言わない。
 仕方なく心療内科に連れて行き、「ストレス障害」と言う病名をもらい、病気療養の為、休学中とした。が、母親は受験を諦めるどころか、休んだ分も取り返せとばかりに、この夏の塾での強化合宿にはすでに参加を希望し、費用を納めてしまっていた。勿論、拓海の意見など聞きもせずに、だ。
 この件においては、さすがに拓海は怒りよりも呆れ果て、失望し、これまで以上に母を軽蔑した。

 幼い頃、拓海は母が大好きだった。
 大層な我儘も「はいはい」と聞いてくれ、何があっても守ってくれる母がすべてだと信じていた。幼稚園では母の作るキャラ弁が人気の的であり、拓海はいつも自慢しながら食べていた。小学校に入っても、母は人が嫌がるPTAの役員を積極的にこなし、そのお蔭で先生は拓海を贔屓目に扱った。
 中学二年の時、ある友人が「おまえの母ちゃん、歳取ってるよな」と、言われ、拓海は初めて自分の母親を客観的に眺めた。
 なるほど、母は他の友人たちの母親と比べて、老けている。
 それはそれほど拓海を傷つけるものではなかったが、他と違う原因を突き詰めたかった。
 拓海は母に尋ねた。なぜ、おかあさんは他のおかあさんよりもおばさんなの?と。
 母は少しとまどいながら、話し始めた。
 それは長い長い話だった。
 父との出会いから、結婚に至り、拓海を生み、育て、そして拓海が立派な大人になることが母の幸せだ、と満足気に語った。
 しかし、肝心の答えは得られず、拓海は不満だった。

 やがて拓海はその答えを得た。
 父と母は、30代後半に結婚したが、なかなか子供が出来ず、人工授精に挑み、五年後にやっと子供を授かることが出来た。その時、父は45歳、母は43歳だった。
 この事実には少なからず拓海は痛手を受けた。両親の歳のことではない。
 自分が愛のあるセックスで生まれたわけではないという事実がショックだったわけだ。
 だが、「それは大した問題ではないさ」と、親友が言った。
「この世の中の生まれた子供のうち、どれくらいが本当の愛情を込められたものだと思う?即ち、愛のあるセックスで受精した卵子だと思うかってことだが…まあ、割合で考えても夢心地になる数字じゃないぜ。自然か人工かっていうのは、別に気にすることじゃない。君がこの世に生まれた奇跡に比べれば…」
 親友の言葉には、神がかり的なものを感じ、拓海は彼に深く惹かれてしまった。
 それまで自分の孤独さを、人工授精という愛のないものの為に感じていたものが、彼の言葉で、それは単なる思い込みであり、すべては自分の為に存在する世界なのだ、と、思い込んだ。
 親友は恋人になった。高校一年の秋だった。
 この過程には多分に青春の青臭さが両方に刺激し合って結ばれたものだが、部活が終わった汗臭い部室で語らう愛の言葉と、昂ぶる欲望に、ふたりは充分に酩酊した。

 拓海が通う高校は、公立の進学校だが、自由闊達な気風であり、生徒主導の自治の所為もあり、校内の恋愛には比較的緩かった。
 恋愛によって成績が下降するという状況も無く、国立大学への進学も安定していた。
 拓海の母は他の親と同様に、この優秀な学校に合格した折には、大いに泣いて喜んだ。将来の半分はこれで決まったかのような喜びようだった。
 まさか、この親孝行の息子が不登校になるとは、思いもよらない。

 きっかけは単純なものだった。
 幸福な恋愛は長続きしない。特に肉欲というものは大体において、飽きがくる。
 拓海と親友兼恋人のRとの蜜月が終わる事もまた自然の成り行きと言うべきだろう。
 三年生になり、受験の為に部活動を辞めることになったRと拓海は、暮れかけた部室でいつものように抱き合った。
 そして事が終わると、Rはあっさりと「僕たちもいよいよ三年生だし、将来の事も考えて受験に集中したいから、関係はこれきりにしないか?」と、提案されたのだった。
 至極真っ当な事案だった為、拓海に拒否の権限はなかった。
「そうだね。お互い頑張ろう」と、握手をし、別れた。
 その夜、拓海は一年半のRとの極めて猥雑な日々を想って、泣いた。

 別れてひと月も経たないうちに、Rは拓海に新しく付き合い始めたと言う彼女を紹介した。
 賢そうだが、自我の強そうな女生徒だった。
 こんな女におれは負けたのか…と、拓海は悔しがったが、顔には出さなかった。
「彼女と一緒にK大を目指そうと思うよ。勿論、恋人関係も良好さ」と、Rは明るい顔を見せた。
「そう、良かったじゃない。頑張れよ」と、拓海も負けずに笑った。
 が、誰がどう見ても敗者の顔だった。

 自宅に帰った拓海は、自分がひどく傷ついていることを改めて認識した。
 Rとの恋愛に際し、一体、何が悪かったのかを反省したが、答えは見つからず、結局、二度と恋愛などするものかと、結論づけた。

 翌日、拓海は熱を出した。
 熱は三日で下がったが、生きる価値を見失った拓海の精神は病んでしまった。
 そういうわけで、すっかり引きこもってしまった拓海は、今もって憂鬱の虫に取りつかれている。


 父親はベッドに座り込み、腕組みをし、黙って部屋を眺めている。
 沈黙が居たたまれずに、拓海から話しかけようとしてみても、何から話せばいいのかわからない。
 漸く父が口を開いた時の最初の言葉は、拓海には思いもよらない言葉だった。

「拓海、しばらくこの家から離れてみないかい?」

 拓海は血の気が引くと言う意味を知った。自分の弱さの所為だとはいえ、とうとう父親からも見捨てられるのか…と、絶望した。

 拓海の父、瀬尾隆は今年で六十三歳になる。
 二年前に商社を定年退職し、今は地元のグループ会社の相談役に就いている。
 拓海は父親が好きだ。何故なら隆は良い男だった。
 見た目は母親よりも若く見えるし、田舎では目を惹くセンスのいい服装や、穏やかな話し方や「私」とか「君」とかを嫌味なく言葉にできる器量などは羨望すら感じる。
 拓海は顔つきや身体つき、その性格が父親似だと言われるが、その度に誇らしい気分になった。
 その父をこんな風に心配させるつもりではなかったけれど、朝になり、学校に行ってRと顔を合わせるかもしれないと思うと、身体が動かなくなる。

 今や、母親は日を追ってヒステリックになるし、拓海よりも母親が病院は必要ではないかと思う始末で、そうは言っても自分の所為でこうなっていることに責任を感じても、母親の為に生きているわけではないので、罪は感じない。
 学校に行かぬのは、拓海の大切な愛…つまり人生への不信からである。
 その答えを導かない限り、拓海はこの部屋から出られない気がする。

「離れる…って。おれ、捨てられるの?」
「は?…何馬鹿な事を言っているんだ。私が可愛い息子を捨てるわけないだろう。拓海は今まで親に何ひとつ心配かけることのない良い子だった。それが当然だと私も母さんも気が緩んでいたんだね。すまなかったね、親の責任も取らずにほったらかしにしてしまって…」
 拓海に向かって頭を下げる隆に、拓海は益々すまない気持ちで一杯になる。
「お父さん…」
「君が学校に行けない理由を問い詰める気はないけれど、このままでは、母さんが…ほら、君のことになると、彼女も普通でいられなくなるし、だからといって、私は拓海に無理に学校へ行けとか、勉強をしろとか強いたくはないんだよ。誰だって、人生に悩んで立ち止まったりすることはあるからね。考えた私なりの提案がこれだ。学校の事も受験の事も一旦リセットしてみないかい?少し早い夏休みになるが、夏の間はこの家から離れて、ゆっくりと心を休めるという方法もある」
「…でも…」
「母さんは反対するだろうが、私が説得するよ。もう拓海も子供じゃないんだ。二人共にちょうどいい子離れ、親離れの機会になることだろう」
「…」
「それともこのままこの部屋に閉じこもっていた方がいい?それは楽かもしれないけど、つまらないばかりだと思うよ。…拓海の人生を決めるのは学校や受験や大学じゃないし、親や友人関係だけでもない。この世のすべてが拓海の世界であり、拓海は好きに選ぶ権利があるんだ。色々な事を時間を掛けてじっくり考える時間と場所を提供しよう。どうだい?拓海。このちっぽけな部屋を出て、未知なる世界に足を踏み出しては?」
 拓海はゆっくりと頷いた。
 まだその覚悟が出来ていなかった所為か、不安の方が大きかったが、大好きな父親の言葉を信じようと思った。

 そして、隆が拓海に推薦したのは、拓海の従兄の瀬尾尚吾の住む家だった。


 十二歳年上の尚吾を、拓海はよく覚えている。
 幼い頃、頭を撫でられ、何度か抱き上げられたことも忘れ難い思い出だ。
 尚吾は研ぎ澄まされた美貌とは対照的に、嫌味にならない人懐っこいさや爽やかな笑顔が印象的で、なんとも魅惑的な男性だった。
 何時の頃からか、拓海にとって尚吾は憧憬の存在になっていた。

 最後に尚吾を見たのは、三年前の祖母の葬儀の時だった。
 黒の礼服がモデルのようなスタイルの尚吾を一層際立たせ、一つ一つの仕草の上品さに見惚れた。
 整った美貌も、少し低く響く声も、緩く撥ねたくせ毛も尚吾という男に必要な賜物のように思えた。
 思えば…Rに惹かれたのは、この年上の従兄にどこかしら似てたからではなかっただろうか…

「祐樹叔父さんの家は覚えているかい?海が見える高台からの景色が素晴らしいんだ。拓海もあの海で泳いだことがあっただろ?今は、尚吾君がひとりで住んでいるんだが、行ってみないかい?」
「…う…ん」
 隆の提案は十分魅力的であったが、今の拓海には、憧れでもある尚吾に自分を見せられるほどの自信もなく、こんなふがいない自分を見せて呆れられるぐらいなら、行かない方がいいのかもしれない、と、承諾しかねるのだった。
 それでも…確かに尚吾との生活というのは、想像するだけでなんとも刺激的で惹きつけられる。
 もしかしたら、失恋の痛みを癒す特効薬になり得るかもしれない。
 もしかして、尚吾が拓海の恋人にでもなれば…自分を傷つけたRに復讐できるかもしれない。
 
 拓海は隆の提案を了解した。
 隆は「そうか」と、言い「じゃあ、尚吾君が下で待っているから、挨拶をしなさい」と、立ち上がり、部屋のドアを開けた。
「え?ええ~っ!」
 拓海は驚き、椅子から飛び上がった。
「尚吾君には話は通してある。ここから先は君が決めなさい」
「…」

 隆がここまでアグレッシブだとは、さすがに思わなかった。
 もはやひとりよがりの見地とも言える。
 選ぶのは拓海だと言うけれど、どう見てもこれは強制ではないのだろうか…。と、拓海は訝んだが、久しぶりに会う尚吾の姿に、期待しないわけはない。
 取り敢えず近くに会った鏡を覗いて髪を整え、階段を降りる隆の後を追った。

 「じゃあ、後は拓海に任せたからね」と、隆は応接間に入る事もなく、リビングへ去っていく。
 ひとり残された拓海は、早鐘を打つ心臓に「落ち着け」と繰り返し諭しながら、震える手で応接間へのドアノブを引いた。

 応接間は拓海の部屋よりも明るく、眩しかった。拓海は思わず目を閉じた。
「拓海君?…久しぶりだね」
 中央のソファに座った人影が拓海に振り返り、声を掛けた。
 ぼーっと立ち尽くした拓海に、尚吾はすぐに立ち上がり近づいた。反射的に後ずさった拓海は閉めたドアに足を打って、思わずよろめく。
「大丈夫かい?拓海君」
 尚吾の手が拓海の肩を掴んだ。
 170センチの拓海よりも頭一個分ほども高い位置に尚吾の顔があった。
「あ…あの…」
「君が俺の家に来る気があるのなら…歓迎するよ」
 拓海を見下ろす尚吾の優しげな瞳に、その身体から薫る夏の匂いに、拓海は一瞬で惹きつけられた。

 何という天啓だ。
 ああ、これこそが、本当の恋に身を震わせるっていう居心地なのだ。
 これに比べたら、Rに抱いてた想いなど、地べたに捨ててやってもいい、とさえ思えるじゃないか…。




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● COMMENT ●

尚吾が 拓海を預かったのは まだ乃亜と知り合う前なのでしょうか?

だって 乃亜って 結構なヤキモチ焼きで 淋しがりやさんだから 尚吾の身近に 拓海が居たなら 大変なことになりそうでしょ?
それに 乃亜のお兄ちゃん’Sが、黙っていないでしょうし…

サイアート様、風邪のこと ご心配掛けましたが 軽~~くて済みました。
気力と根性で乗り切ったと。。。(笑)

大阪は 昨日から梅雨入りしました。
今日は 雨の予報がハズレ 晴れ時々曇りで 蒸し暑くて~~~!
今 息子共々 ダイエットに頑張っているのですが、この時期の挑戦は 難しくて大変ですね。
(> ̄  ̄<) ヤセタ?...byebye☆

いえいえ、乃亜と結ばれた一年後のお話なんですよ。
この状況には深いわけがありまして…まあ、尚吾も仕方なしに…ですよ。
次回尚吾の気持ちが描かれます。

今回は、色んなキャラの視点で色んな気持ちを書いてみようかな~って思うんです。
乃亜や特にヴィンセントの想いとか…
とても楽しみな妄想の夏を過ごせそうです。

今日はこちらはすごい涼しいんですよ~。でもすぐに蒸熱くなるんだろうなあ~。梅雨は辛いです。
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