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2019-09

夏の名残りのばら 11 - 2014.08.19 Tue

11
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拓海裸


11.ヰタ・セクスアリス

 夕食を終えたリオンは、用事があるからと、クルーザーボートの甲板に飛び乗り、ひとりで出航してしまった。
 拓海は急いで別荘の庭に通じる桟橋から、手を振ってリオンを見送った。
「拓海~、がんばってね~」と、らしくない大声でリオンは声援を送る。
 有難いけれど、これからヴィンセントとふたりで過ごさなきゃならないかと思うと、嬉しさよりも不安の方が勝ってしまう。
 大体…ここに来た目的さえ、拓海自身よくわからなくなってしまった。

『ヴィンセントはおれとのセックスは望んでいないみたいだし…じゃあ、おれは何しにここに来たのかわかんないじゃないか…』

 拓海は泣きそうになりながら、夜空を仰いだ。
 満月の所為で星の観測には物足りなかったけれど、星座表と同じようにかしこまった天体の静謐な瞬きに癒される。

『こうやって星を見上げると、自分の悩みなんてつまんないものだってわかるはずなのにさ…。どうしても引き摺ってしまうんだよなあ…』

「拓海、こちらへおいで」
 ヴィンセントに招かれ、芝生が敷き詰められた庭に続くテラスの籐の椅子に拓海は素直に座った。
 ヴィンセントが檸檬ソーダ水を差し出す。拓海はそれをストローで掻き回し、泡立つ炭酸の行方をじっと目で追ってみた。
 ヴィンセントはただ黙って拓海の目の前に居て、拓海を見つめている。
 見られることに慣れない拓海は、気にしないフリをしつつ、この長い夜をどう過ごしていいのか心許なくなってしまう。何を話せばいいのか、途方にくれてしまう。
 耳に響く波の音だけが、拓海を応援する味方のような気がした。

「この島の周りは夜になると潮流が激しく渦を巻く。今日は満月で満ち潮だから、波音も良く響くのだよ」
「へえ…。でも注意すれば泳げるんでしょ?」
「人は夜に泳ぐもんじゃない」
「…でも、ヴィニーさんほど泳ぎが得意なら、夜に泳いでも平気でしょ?おれもね、結構自信あるんだ。高校に入学するまでは水泳を習ってて、遠泳の選手だったんだよ」
「それは凄いな」
「今度、一緒に泳ぎませんか?」
「日中ならば構わないさ」
「じゃあ、楽しみにしています…」
 拓海はホッとしてストローから少しだけソーダ水を飲み、喉を潤した。それだけで緊張で強張った身体が少しだけ解れた。

「それはそうと…」と、ヴィンセントは少し顔を傾げ、拓海を見つめた。
「…拓海は私を好きだと言うが、私のどこが好きなのか、聞かせてくれないか?」
「え?」
「拓海が私に会いにきたのが、リオンの言うようにセックスが目的ならそれはそれでいい。私も好きにならなきゃ相手を抱けないなんて道徳をかざすつまらない大人じゃないけれどね、君をその辺の少年と同様に扱うわけにもいくまい。拓海は特別だ」
「それって…おれが尚吾さんの従弟だから?」
「そうだ」
「尚吾さんのおかげで、おれはここに招待されたってことですね」
「それが気に入らないかね?」
「別に…そうじゃないけれど…」
「私は…拓海は尚吾が好きなのだと思ったのだけれど…違うかい?」
「え?」
 拓海は何度か瞬きしながら、ヴィンセントにどう答えていいのか戸惑ってしまう。

「…うん、確かにそうだよ。尚吾さんがおれをあの家から、ここに連れてきてくれたんだ。尚吾さんに会うのは久しぶりだったから、凄くときめいた。ああ、昔からかっこよかったんだけど、想像以上に素敵だったから…一目惚れしたんだ。失恋して落ち込んでた気持ちもすっかり忘れられるぐらいに…。でもすぐに失恋した。だって尚吾さんには乃亜さんって言う、めちゃくちゃ可愛い恋人がいてさ…。あんな似会いのカップルなんて早々いないし、あれだけ仲が良かったら、嫉妬する気も起きないよ。それで…落ち込む暇もなく、ヴィンセントさんたちに会えた。外国の人と話すのも初めてだし、みんなびっくりするほど綺麗で、映画の俳優さんみたいだし…なんか現実感がないんだ。でも、みんな優しくて親切で、おれ、ここに来て本当に良かったって思った。でも、おれ、わかってるよ。おれなんかがヴィンセントさんの相手になるわけないって…」
 拓海はストローを取り出し、ソーダ水を一気に飲み干して、大きく息を吐いた。

「…おれさ、夏休みが終わったら、自分の家に帰ろうと思う。いつまでも尚吾さんと乃亜さんの世話になるわけにもいかないし、取り敢えず高校は卒業しなきゃ、言いたいことも親に言えないからね。…おれ、嫌だったんだ。親の示す方向に…普通の無難な脱線しない人生を送るレールに乗っかるのが…。両親が居てお金に苦労しなくていいし、親の言う事を聞いていりゃ幸せなのかもしれないけれど、そんな人生、すごくつまんないってどうしても思ってしまう。ヴィニーさんを見てると、自分が違う世界に居るみたいに夢心地になれる。胸の中がワクワクして、頭の中もすっきり晴れた空みたいになる。そういうのって生まれて初めてなんだ。…おれ、ヴィニーさんに本気で相手をしてもらおうとか思っていないよ。ただ、この夏の思い出にヴィニーさんに抱いてもらえたら、これからのつまらない人生も、頑張れそうな気がする…」
「…」

 拓海の話はヴィンセントには少々退屈に思えた。
 この歳の少年に有りがちな妄想と実社会との混乱の中でもがいているだけであり、この時期を過ぎてしまえばひと夏の思い出など苦笑いで済ませる程の些細なものになるのだ。
 だが、これが若さの特権だと、ヴィンセントは理解している。
 ヴィンセントには二度と味わえないこの檸檬ソーダのような泡立つ青春の中で、拓海は泳いでいるのだ。

「では、拓海の話を要約すると…」と、ヴィンセントはできるだけ穏やかに拓海に言った。
「拓海が成長する為に、一度だけ私と寝て、この夏の良い思い出にしたいと言うわけだね」
「……」
 懸命に話したつもりだったのに、ヴィンセントの心には響かなかったどころが、気分を害したのかと、拓海は不安気にヴィンセントの顔色をうかがった。

「拓海の私への想いは理解したけれど、私は今の君に欲情は感じない。もとより…尚吾からきつく言われている。君を傷つけないようにと…。まあ、尚吾の心配はわかるさ。学生の拓海に情事を勧める身内はおるまい。しかも、私が相手では…」
「尚吾さんが何と言おうと、ヴィンセントさんは素敵です。おれに魅力がないのはわかってます。もう、…いいです。無理に抱いてくれなんて…すみませんでした。ヴィンセントさんがあんまり優しから調子に乗っちゃったんです。気にしないで下さい」
「…」
 身の置き所の無くしたように肩を落とし、青ざめた表情の拓海に、ヴィンセントは同情したが、これ以上どうしようもないと思った。
「別に拓海と仲違いをするつもりはないんだよ。私たちは友情を分かち合うに十分な関係にある。そんなに気を落とすことはない。恋は心変わり易く、真実も見えにくいものだ。今の拓海は…私の姿に偽りの理想を見ているだけだ」
 こんな陳腐な慰めしかできない自分にヴィンセントは失望した。
「少し…風が出て来たね。あたたかい飲み物でも作ってくるよ。部屋の中で待っていなさい」
「…はい」
 
 意気消沈の拓海を置いて、ヴィンセントはキッチンへ向かった。
「一体、私にどうしろと言うんだ!」
 思わず独り言を吐いた。全くもって、クールなヴィンセントらしくもない顛末だ。
「そうか…」

『尚吾と交わした契約が、私の心を縛っているのだな…。…ったく、尚吾とのセックスがあれほどのものでなかったなら、こんな気苦労もせずに済んだはずなのに…仕掛けた罠に嵌ったのは私の方なのか…』

 気を取り直し、良く眠れるようにとココアにブランデーを混ぜた飲み物を用意して庭に戻ってみたが、拓海の姿は見当たらない。
 名前を呼び、部屋を探しても拓海はいない。

「まさか…」
 ヴィンセントは庭を横切り、桟橋へ向かった。桟橋には拓海が履いていた草履が投げ捨てられている。
 ヴィンセントは暗い海に目をやった。
 波立つ夜の海を浜に向って泳ぐ拓海が、横波に飲み込まれながら見え隠れする。

『なんて馬鹿な事を!夜の海は人間には危ないってあれだけ言ったのに…』

 馬鹿な事をさせてしまったのは自分の所為だとわかっている。
 ヴィンセントは、暗闇の海に飛び込んだ。
 どんなに暗い海でも、ヴィンセントの碧い眼は、海中のすべてが見透せる。人間の姿のままで自由に泳ぐことぐらい訳は無い。
 
 溺れかけている拓海に追いついたヴィンセントは、拓海の身体を抱き寄せた。
「拓海!」
「離してよっ!おれはひとりで帰れるからっ!」
 海水に濡らした顔でも拓海が泣いているのがわかった。
「馬鹿者!ここから浜までどれくらいの距離があると思っているんだ!」
「…」
「今の拓海には無理だってわからないのかっ!足が攣っているのだろう?これだけ身体が冷えてしまったら、思うように泳げるわけはないだろう」
「…」
 拓海はヴィンセントの腕から逃れようともがきながら泣いている。
「…拓海、頼むから一緒に戻ってくれないか?」
 拓海はヴィンセントの顔を見つめ、泣きじゃくりながらやっと頷き、ヴィンセントの背中にしがみついた。
 波間を滑るように泳いでいくヴィンセントの背中は温かく、大きかった。
「ごめんなさい」と、呟くと「私が悪かったのだ」と、ヴィンセントは答えた。

 ヴィンセントは足が攣って歩けない拓海を抱き上げたまま、別荘に戻り、寝室のベッドに寝かせると、濡れた服を脱がせ、冷たくなった身体を毛布で包み、濡れた髪をタオルで拭き、痛がる足のマッサージを施した。
 拓海はベッドに身体を横たえ、素直にヴィンセントの為すがままになった。
 足の痛みが落ち着くと、ヴィンセントは一旦脱衣所へと向かい、濡れた服を脱ぎ、シャワーを浴びてバスローブに着替えた後、寝室に戻った。
「大丈夫か?拓海。寒くないか?」
「うん、大丈夫」
「温かいココアだ。少し身体を温めた方がいい」
「…うん」
 拓海は起き上がってココア飲み干した。その様子を確かめたヴィンセントはやっと安心した。

「全く…拓海のような奴を無鉄砲と言うのだな。波間に君の姿を見つけた時は、さすがの私も青くなった。こんなに狼狽えたのは久しぶりだよ」
「…ごめん…でも本気で怒ってくれて、嬉しかった…」
「私は怒っているんだよ、拓海。だが…拓海を無茶な行動に走らせたのは私の所為だ。君の想いをわかろうとせずに、大人げないことを言ってしまったね」
「違うよ。自分が好きだからって、勝手我儘にあなたに求めすぎたおれが悪い。抱いてくれないからっていじけて、惨めなおれをこれ以上見られたくないって逃げたおれが悪い。でもたぶん…どこかでヴィニーが追っかけてくれるんじゃないかって…期待してた…。ホントにつくづくおれって子供だよな…。これだから誰も本気でおれを好きにはならないのかもな…」
「…」
「ごめんなさい、ヴィニーさん。もう二度と心配させるようなことはしませんから」
 己の惨めさに抑えていた涙が、また拓海の頬を伝う。
 その頬にヴィンセントはキスをした。

「そうやって毛布にくるまって落ち込んでいる拓海は、捕獲されたウサギみたいにかわいいのだね。充分にそそる程にね」
「ヴィニーさん…」
「君の勝ちだよ、拓海」
「え?」
「君の思惑に乗らせてもらうんだから、今夜、私を楽しませることが君の責務だ」

 毛布を剥がれ、縮こまる身体をベッドに押し付けられた拓海は、ヴィンセントの熱い接吻を受け入れた。
「ヴィンセント…」
「従順なる弱者には格別な報酬を…。私の長年の主義なんだ」

 ヴィンセントの腕が拓海の顎を捉え、乾いた唇に甘露を与えた。
 いつの時も征服者は服従者に熱い抱擁と空腹を満たす報奨を与える。
 彼の与えた情欲は、拓海の身体に烙印を押していく。
 一生消えることのない印に、拓海は喜びの声を上げた。



ヴィニー&拓海

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● COMMENT ●

世間知らずな拓海を守る為に ヴィンセントが出した条件を飲んだ尚吾
「してやられた」感がありましたが、それは ヴィンセントの方が より強かったみたいですね。

尚吾が知ったら どう思うのかな?
やはり「ざまぁみろ!(▼∀▼)ニヤリッ」でしょうか。(苦笑)

尚吾との約束を貫こうとしたヴィンセントが、それを反故するほど、拓海に そそられた様ですが、
(-""-;)んー、それだけではない気がします。
彼は 情に流されない理性的で 一見 怜悧な印象を受けます。
しかし 本当は 優しすぎるから 頑丈な壁を作っていると。。。私は、思う訳です。
そこを 今回の拓海が 衝いたんじゃないのかなぁ

拓海の恋は、成就しなかったけれど、まぁ 少しだけ願いは叶えられたので まぁ 「良し」としましょう(←上から目線の口調で失礼(笑))

それより サイアート様が別宅で書かれていた様に 尚吾とヴィンセントの決着が、どうなるのか!?
私も 楽しみしています。
(;`・ω・´)_/ ☆真剣勝負☆\_(`・ω・´:)...byebye☆



ヴィンセントは初めから尚吾との約束を守ろうとはしていなかったんですが、何故か拓海に手が出せない。自分らしくない事がヴィンセントを苛立させたんですね。で、やっぱ約束を反故にしてしまって私らしくやろうじゃないか…って思って拓海を抱いたわけなので、拓海にそそられたというのは、口だけのサービス。
ホントは、尚吾との契約で私は縛られないぜ~って居直ったヴィンセントなだけですね。
哀れな感じの拓海ですが、もともと自分が惚れられようとは思ってない為、抱かれただけで舞い上がっています。
これはこれでかわいいし、ヴィンセントの優しさですけど…愛じゃない。

ヴィンセントはやっぱり乃亜が一番大切なんです。そこを次回描きたいですね。


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