FC2ブログ
topimage

2019-09

うそつきの罪状 後編 - 2015.02.15 Sun

この作品は以前「掌の物語」で書いた「傷心」の続編です。

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。

竜朗と遠流


うそつきの罪状 後編

浅野竜朗に案内された部屋は、シングルでも十分な広さだった。
クィーンサイズのベッドにちらりと目をやり、あわてて窓の外の夜景に目を移した。
見慣れているビルの灯りとスカイツリーの紫の光が、今夜は嫌に目にまぶしく映る。
「なんか飲むか?」と、尋ねられおれは「別にいい」と断る。
そんなことより…
早くおまえと寝たい…なんて言ったら浅野は引くだろうか…
昔は…
恋人だった頃は、自分から浅野を求めるなんて言動は、ほとんどしなかった。どんなに欲しい時だって、浅野が求めてくるまで待っていた。その方が気が楽だったから。
愛することより、愛されることで自分に自信が持てた気がした。
今となっては本当にくだらない自尊心であり、浅野を焦らすことで、求めない自分の立場の方が上だと勘違いしていただけだ。
五年経ったんだから、今更かわい子ぶってもしょうがねえし…
それよりも浅野と夜を過ごせるって思うだけで身体の方が…なんだか…

「おれ、シャワー浴びてくる」
自分のコートとおれの脱ぎ捨てたコートとスーツのジャケットをクローゼットに片づける浅野に言い残して、おれはバスルームへ向かった。
バスルームと洗面所の仕切りは全面のガラス張りになっていて、おれは服を脱ぐとすぐにシャワーを浴びた。
もうすぐ、浅野と抱き合える…そう想像するだけで、おれは興奮した。脈拍も鼓動も耳まで鳴り響いて五月蠅いし、このままじゃ浅野に触れられただけでイッちまいそうだ。
別れて五年も経つのに、こんなにあいつに餓えてるなんて知られたら、恥ずかしくて死にたくなるし…

「もう…バカじゃないのか、落ちつけったら…」

そう思ったらなんだか今度は心配になってきた。
五年ぶりに浅野と抱き合って、おれ大丈夫だろうか…。浅野を満足させられるんだろうか。
もう三十二だし、若さも肌のハリも絶対老化してるし…。なにより…
浅野に付き合っている奴はいないって言ったけど、別れた後だって色々と遊んでいるし…浅野が求めているのが新鮮味のある身体なら…敏感に感じたフリとか…するべきなのか?
それとも三十越えてるのに慣れてないフリも、ウンザリされたり…
…わかんねえよ、今の竜朗の好みってのが…

頭がパニくっている時に、いきなり洗面所のドアが開いて浅野の姿が見えた。
おれの方をチラリと見た浅野は、さっさと服を脱いで裸になると、おれの居るバスルームの扉に手をかけた。
は、入ってくる気なのか?
ちょっと待てっ!

おれはあわてて扉の鍵をかけ、浅野を阻止した。
「…なにしてんだよ、遠流」
「…ちょっと待ってくれ。まだ心の準備ができてないんだ」
「身体の準備は出来てんじゃんよ」
「…言うなっ!」
「いいから、開けろって。俺もシャワー浴びたいんだよ。ついでに、久しぶりに風呂のセックスでも楽しもうぜ。おまえ、好きだったじゃん。風呂でやるの」
「あーあーあー…聞こえない~」
「…何言ってんだよ。ガキか」
「…」
わかってるけど…

ガラス越しに裸同士でドアを押し合って…、バカなことをしていることはわかっているけれど、もし、このままセックスして浅野がおれに失望したらと思うと…怖くて浅野に触れられない。

「ふう…わかったよ…」
溜息を吐いた浅野は呆れたように扉を離し、バスローブを羽織って洗面所を出ていく。
「…」
なに?その不貞腐れて怒った顔…。
え?マジで怒ったのか?

まさかこのままおれを置いて出て行ったりしないよな。もう抱く気が失せたなんて言わないよな。
いやだよ、そんなの!

バスルームの鍵を開け、おれは急いで浅野を追いかけた。
「待ってくれ、竜朗っ!」
「なんだよ、今度は…。…たく、もう…濡れたまま裸で出てくるなよ」
「だって…ゴメン…おれ…おれさ…」

浅野は黙って自分のバスローブを両手で広げ、おれを包み込み抱きしめてくれた。
「震えてるじゃん。…怖かったんだろ?俺に嫌われたりしないかって、色々と考えるんだよな。遠流のそういうところ、少しも変わってないんだな」
「…ゴメン」
「謝る必要はない。俺はそういう遠流が好きだったんだから」
「…」
そこ、過去形になるのが嫌なんだけど…。
「今の遠流も相当好きだよ」
「…」
おれの欲しいもの、ちゃんとくれる竜朗が…おれも好きだ。
「それに、怖いのは遠流だけじゃねえよ。俺だって、おまえを満足させられるか…自信ねえんだから、さ」
「…竜朗」
「馬鹿…これ以上焦らせるな。お互いこんなになってんのにさ。早くおまえの中に入れさせろよ」
すでに互いの肌の熱さはひとつになっていた。
俺達は五年ぶりのキスをした。

ふたりの夜は明るかった。
お互いを見ていたかったから、灯りは消さなかった。
他の男とは暗闇の中でしか寝ないのに、おれを抱く浅野の顔を、身体の隅々までを…すべてをずっと見ていたかった。
それに、最初は浅野から見られるのが恥ずかしかったけれど、俺を求める浅野の眼差しは、昔よりもずっと優しく、おれを愛おしそうに見るから、おれも、おれで気持ち良くなるあいつの表情が見たかったんだ。

おれ達は我を忘れるほどに、互いを貪りあった。
昔も今も浅野は臆病に震えているおれを引きずり出し、何が欲しいのかを自覚させてくれる。
「竜朗」と、何度震えた声で呼んだだろう。そして何度「遠流」と応えてくれただろう。
あれほど欲しがっていた腕が、肉体が、浅野が、おれとひとつになっている感覚に陶酔した。
すすり泣くおれに「泣くほど良かったか?満足しただろ?」と、浅野が茶化すから、おれは胸に凭れながら「全然足りない」と、欲張った。
もう誰にも気兼ねせずに竜朗の名を呼ぶことが出来る。
暗闇に竜朗を想像することもない。
神様がくれたこの夜の奇跡に感謝せずにはいられなかった。

「…これ以上無理だわ」と、浅野はおれを胸に抱いて笑った。
「おれも…」と、答えた。
身体中が痛かったけれど、心は幸福で舞い上がっていた。乙女のように、朝が来なければいい…などと口走ってしまいそうに酔い痴れていた。
「疲れただろ?少し寝ろよ」
おれの瞼にキスを落とす浅野におれは頭を振った。
眠るのが惜しいんだよ。おまえの体温を感じている意識を離してしまうのが…

不思議なことに、この部屋に来てから、おれも浅野もお互いの過去の話や、未来の夢なんてひとつも語らなかった。
だから、折角出会ったおれ達がこれから先どうなるのかしら、全く探れないままだった。

おれが「また会いたい」と、言えば、その望みは叶えられるのだろうか。それとも浅野はただの偶然の再会を楽しんだだけで、この先、おれと付き合っていこうなどは思っていないのだろうか…
そもそも、浅野には奥さんも子供もいて…常識で考えれば、この状態は浮気なわけで、向こうにしてみれば、非常識…なんだよなあ~。おれが男でも…ますます非常識か…
ああ…おれから「また会いたい」なんて…とても言えない。

いつもの臆病な迷路に嵌っていく…

堂々巡りをしているうちに、いつのまにかおれは浅野の腕の中で眠ってしまっていた。


目が覚めた時、隣りで寝ているはずの浅野の姿はない。
あわてて起き上がったら、身体が悲鳴を上げた。
確かに昨日はちょっとやりすぎた。でも、幸せな痛みだからずっと残っていればいいと思う。
「竜朗…」と、少し擦れた声で呼んだ。
折よく浅野は洗面所から出てきた。
すでにシャツもズボンも身に着けていた。
「おはよう」と、言いながらクローゼットから自分のコートを取り出す。
「も、もう出るの?」
「ああ、名古屋で商談の仕事。十時の新幹線に乗らなきゃ間に合わねえし…。おまえはまだゆっくりしてろ。部屋、延長にしとくから」
「お、おれも一緒に出るよ」
「大丈夫か?身体痛いだろ?」
「大丈夫だ」
強がりを言ってもベッドから降りた足はガタガタで、思わずその場にしゃがみ込む。
浅野は豪快に笑って、おれを引き起こしてくれた。
「だから、言ったろ。…まあ、こんなにしたのは俺の所為だろうけど、半分は遠流の責任だから、謝んねえぞ」
「当然だ」
そうは言っても、おれの着替えを浅野は手伝い、十分後に整えたふたりは部屋を後にした。

エレベーターに向かう浅野の背中を見つめながら、おれはこのまま別れた後、一体どうするのか…そればかりを考えていた。
もう一度やり直したい。でも、浅野の負担にはなりたくない。それの繰り返しだ。
浅野がエレベーターのボタンを押す。
これに乗って、ホテルから出てしまえば、おれ達はもう二度と…

「あのさ」と、徐(おもむろ)に口を開き、浅野が俺を見た。
「…なに?」
「結婚したって話、あれ、嘘だから」
「………?…はあ?」
「ちょっと嘘ついてみた」
「つ、ついてみたって…嘘って何?…嘘。嘘だろ?」
「嘘じゃなくて、嘘だって…あれ?嘘じゃねえ嘘って…あはは、笑える…」
「わ、笑っている場合かっ!だ、だって、こ、子供の写真だって…」
「あ、あれ。姉ちゃんの末っ子の四男。俺に似てかわいかっただろう?」
「…嘘って…」
力が抜けてしまって、マジで頭がまっしろになる。

「嘘つきは俺だけじゃねえだろ?遠流だって、俺に嘘を吐いているだろう」
「え?」
「付き合っている奴はいないとか、嘘を吐いたじゃねえか」
「…」
「そんなの抱きあえばわかる話だろ?」
「…」
「抱かなくてもわかってたよ。隠してるおまえが気に入らなくて、俺も嘘を吐いてみたんだよ」
「…ごめん」
「二度と後悔はしたくなかった。けど…おまえの気持ちを知りたかった。俺が妻子持ちってわかっても、遠流が俺を欲しがるのかを、試してみたんだ。…悪かった。それから…嬉しかった。忘れられない夜になった。ありがとう、遠流」
「竜朗…あの…」

エレベーターが到着しドアが開いた。
先客が居た所為で、おれは口を噤んだ。
そして、何も会話がないまま、おれと浅野はホテルのロビーから玄関の外へ揃って出ていく。
「じゃあな、遠流。元気で」
「…竜朗…」
本当に…もう会えないのか?おれはまだおまえに…
「神様がくれた偶然の再会に感謝してるよ。またいつか…会えるといいな」
「…」
「天に祈るしかねえかな」
「…」
「じゃあな」
おれに背を向けて二、三歩離れた浅野は「あ、そうだった」と言いながら自分のコートから長方形の箱を取り出し、おれの傍に近寄った。
「今日はバレンタインだったよな。昨日、仕事でデパート行っててさ。すげえチョコが一杯でさあ。そんで…おまえの為に買っておいたんだ。なんかすげえパティシエの高級チョコだってさ。これやるから泣くなよな、遠流」
「…」
俯いたまま答えられなかった。本当に泣きそうだったから…。


え?
ちょっと待て。
今、おまえ変なこと言わなかったか?
おれの為に買った…おれの為に?
…それって…
それって…
おれと会うってわかってた…ってことじゃないのか?
え?
偶然じゃないってこと…なのか?


「竜朗!」
顔を上げて前を見る。浅野の姿はもはやどこにもない。
歩道の向こうにキャメル色のコートをはためかせながら走る浅野の姿が、人ごみに紛れて行った。

「…なんだよ。おまえの方が何倍もタチの悪い嘘つきじゃないか…」

チョコの箱をじっと見つめ、そして裏に返してみると、包み紙にボールペンで文字が書いてあった。
携帯電話の番号と「いつでもご注文に伺います(ハートマーク)」の一言。

呆れて言葉もない。そして…安堵感と嬉しさに胸が詰まる。


きっとおれ達はまた恋をするのだろう。
大人になった分、一度目よりは巧く、そしてたまにずるい嘘を吐きながら…

ふたりで生きていけたら…いいな。




2015.2.15


五年前のお話は、こちらからどうぞ~
傷心

うそつきの罪状 1

バレンタインデーには間に合わなかったけど…なんとか終わった((人д`o))
ふたりとも五年前よりは、ずっと大人になった気がするよ。




お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

● COMMENT ●

嘘だったの~?
なんか、丸く納まりそうでよかったわ~
こんなSSって大好き。

夫がもらったチョコレートの甘い匂いに酔いそうになってます。
甘いもの苦手な私、匂いでもダメかと、自分に呆れてます。

蝶丸さんは甘いものが苦手なんですか?私は反対で甘い物好きなんですが、先日人間ドックで血糖値が高いので甘い物は控えるように指導されました…((人д`o)
なので、今は甘い物だけじゃなくて、落花生とか脂分が多いのも控えています~
お酒も飲まないし、体型も痩せすぎって言われるのに、糖尿病とか嫌ですからねえ~('ε`汗)

浅野と吉良くんの物語は…まあ、私はドロドロしたものより純愛押しなので、こんな感じになっちゃいますね。
ドロドロは精神的に良くないですからね~
スピンオフ的に上杉くんのお話も短編で…と、考えているんですけどねえ~

遠流と竜朗って 凄いなぁ
遠距離で 音信不通だったのに 5年前の感情を持ち続けてたなんて…

これからは、ちょくちょく逢瀬を重ねそうですね♪


「弱り目に祟り目」と言っていいのかな?
一昨年末に骨折した母が、最近 帯状疱疹になりまして(←しかも 骨折してない方の脚に!) 点滴の為 毎日 病院に通うのに 付き添っていたんですけど。
そんな時に 私、足を酷く捻挫してしまいました。
なので 2人で ヨロヨロしながら 歩いています。(苦笑)

サイアート様も 血糖値が高いとのこと。
体の不調って 気持ちも不調になり易いので お互い テンションをアゲアゲ~で 楽しく過ごして行きましょう!
ター!!(ノ# ̄O ̄)ノ .・.・:.・.・:.・.・:☆...byebye☆

なんか、今まで好きなだけお菓子からパンからめちゃくちゃ食べていたので…つうか、食欲ありまくりで、なんでもかんでも美味しくてたまらないんですよ。46キロしかないんだけどね。
で、ダメって言われてからお菓子を食べない様にしてるんですけど、これが結構辛い…。お腹はすぐ減るし…
でも確かにお菓子を減らしてから、体調的には良い感じがするんですよ。不思議ですけど…
ひと月経ったら病院で血糖の再検査しようと思ってます。

帯状疱疹は季節の変わり目になりやすいとか…私は夏だったけどダーはちょうど今頃でした。
早めにわかると後に響かないので、点滴大変ですけど、頑張って付き添って下さい。
年取るとちょっとした段差に躓いて骨折ってありますからね~

そういや、さっきひとりで夕食のチャンポンを食べてて、片づけようと立ち上がった時…いつもは履いてない靴下履いてて滑って、お尻からひっくりかえりましたwww残ってた汁が見事に床に散らばったんだけど、私は全く無事で…wwwひとりで大笑いしましたけど、ちょっとお尻が痛くなってきたwww


管理者にだけ表示を許可する

銀色のRay 17 «  | BLOG TOP |  » うそつきの罪状 前編

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する