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2019-09

超いいひと 17 - 2015.08.22 Sat

17
イラストはサムネイルでアップしております。
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由宇セーター

17.
 印象は最悪にしても、「結城誠人(まさと)」の姿形は上等だった。
 簡単に形容すると…少しエキセントリックな医者の役を演らせたらピカ一のイケメン俳優…と、言うところか。
 煙草を持つ優雅な長い指も、クセの無い整った短い髪も、切れ長でねめつける冷たい眼差しも魅惑的だ。
 昔の俺だったら、一目で陥落したかもしれない。
 なのに…なんつうか、俺好みのすげえイケメンを目の前にしても、客観的でいられる己が不思議で仕方なく、笑いが込み上げてきた。
 思わず声に出して笑ったら「何が可笑しい?」と、不機嫌に罵られた。

「いえ、…さっきまで羽月さんと話していたんですが、羽月さんがとても楽しそうにあなたの事を話すからどんな方だろうと想像したけれど…、あまりに信さんと真逆なものでつい笑ってしまいました」
「ちっ、あんなオカマと俺を比べるんじゃねえよ。気色悪い」
「…」
 見目とは違った厳しい言葉に、一瞬だが俺は怯えてしまった。
 マジな話だが、カムアウトは人を選ばなきゃならない。

「今時の医者がそういう偏見を持つなんて、ナンセンスですよ。それに信さんはオカマじゃない。タチ専門だから、オカマって言うなら俺の方。まあ、俺はタチもネコもやるからバリリバって言うんだけどね。ノンケに理解して欲しいとは思わないけど、あなたに迷惑をかけるつもりはありませんから」
「マジでおまえらは気持ち悪い。ああ、それ以上俺に近づいてくれるなよ。胸糞悪くなるからな」
「いつもそんな態度で信さんに接しているんですか?…信さんがここに来るのに、二の足踏むのも納得だ。同情するに容易い」
「世間は近親者にホモが居る事態に同情するだろうがね。それにだ。医者が偏見を持つのはナンセンスと言うが、俺は医者だがおまえの担当医じゃねえから、ホモのおまえらを差別するのは俺の権利だ。全くもって存在自体が気に入らない」
「あなたが気に入らないのは、羽月さんがあなたよりも信さんを信頼している…って事じゃないんですか?」
「はあ?」
「だって、羽月さんは駿君をお腹に宿した時、あなたじゃなくて、信さんに相談したんでしょ?」
「…」
「あなたにも事情があっただろうし、羽月さんはあなたに迷惑をかけたくなかったんだろうけれど、信さんはそういう事情を全部ひっくるめて、羽月さんの力になろうと思って、結婚した。それだけでも信さんの包容力は褒められて当然だし、充分男らしいと思うけど。あなたにオカマ呼ばわりされては、信さんが気の毒だよ」
「きさま…」
「今日ここに来たのは、俺の都合で信さんと一緒に信州の知人に久しぶりに会うことになって、お土産にリンゴを山ほど貰ったんだ。信さんが駿くんがリンゴが大好きって言うから、俺が無理矢理行こうって言いだした。それに羽月さんも俺達を歓迎してくれた。俺も羽月さんと話せて良かったと思う、ついでに駿くんの父親がこんな奴だとわかって、マジでここに来た甲斐があったと思ってる。これで俺はあんたに対して良心も痛まずに、信さんと幸せに暮らしていけるって思えるからね」
「男同士の幸せな生活?笑わせてくれるな。不都合な生産性の無い歪な共同生活に何の誇りがある?」
「誇りならありますよ。俺も信さんも優良な納税所得者で真面目に働く社会人だもの。少なくとも、不自然な恋愛を続けているあなた方よりはよっぽどマトモだ」
「人の気も知らないで、よく言う」
「知らないから言えるんです。言っておくけど、信さんはあなた方の事情は何も話してないよ。あの人は人を悪く言う人じゃない。でも、その信さんが羽月さんとの離婚を考えてくれたんだ。本当は、俺はオブザーバーで横やりをいれる気は毛頭無いんだ。でも、羽月さんや信さんの幸せを考えたら…」

 そこまで口にして、俺はあわてて口を閉ざした。
 間抜けな事に、俺は自分でオブザーバーと言いながら、言いたい放題の傍若無人だった。
 いくら信さんの恋人だからって、たった一年と何か月しか付き合っていない俺が、知ったかぶりをして、この人に説教じみた非難をするのはお門違いも甚だしい。
 俺にこの人を責める権利などひとつもない。
 この人たちと信さんの間には、長年の間に積み重ねた俺の知らない多くの感情や絆があるのだと言う事を、俺はすっかり忘れていた。
 
「す、すみませんっ!俺、事情もよく知らないのに、勝手な事を言いすぎました!」
 俺は結城誠人の目の前で、深々と頭を下げた。
 もしかしたら、こいつを無為に傷つけたかもしれないと、後悔した。
 
「何だ?今更。それこそが気持ち悪いぜ」
「…俺はただ…」
「不毛なクレームは慣れてるし、おまえに謝ってもらう立場でもない。それに、信彦が羽月との離婚を考えているのなら好都合だ。これですっきりと縁が切れるからな」
「でも!」
「…?」
「あの…俺がこんなこと言うのも余計な事だってわかっているんですけど、信さんのお母さんの事は考えてあげて下さい。信さん、きっとそれが一番心配なんだと思うから…」
「あのな。あのふたりが離婚しようが、八重ばあさんは駿のばあさんだし、追い出すような非道な事ができるか。病院(うち)の評判に関わるし、第一羽月がほっとくまいよ」
「そう…ですか。良かった。…信さんも安心するだろう」
 
 本当に良かったと思った。
 俺が自分の母親に心配をかけさせたくないように、信さんもカムアウトして母親を傷つけるのは不本意だろう。

「…駿には俺を大将と呼ばせている。俺は一生それで良いと思っている」
 そう俺に言うと、結城誠人は煙草を灰皿に押し付けて、ベンチから立ち上がった。

「信彦に言っておけ。羽月と駿、母親の事も全部俺が守るから、ここには極力寄りつくなってな」
「最初の方だけ伝えておきますよ。また、来ます。ふたりで。駿くんに美味しいリンゴを食べさせたいから」
「…好きにしろ。俺は会わないし、リンゴも食わない」

 厳しい捨て台詞で背中を向ける結城誠人を、好きになれそうにもないけれど、あの人のプライドを羨ましいと思う。
 家族や病院を守る意地と自信が、あの人の誇りなら、俺と信さんには誇れるものはあるのだろうか。
 それを見つけられるのだろうか。
 結城誠人が言うように、男同士の生活は歪なものなのだろうか。

 
 しばらく病院の屋上に留まっていると、信さんが迎えに来てくれた。
「ごめん、待たせたね、由宇くん。…寒くないかい?」
「…大丈夫だよ」
 信さんの緩い顔を見て、俺も気が緩んだんだろうか、思わず信さんの肩に寄り掛かった。
「どうしたの?何かあった?」
「…何も無いよ。そうだね…やっぱり、ここは寒いから、帰ろうよ」
「うん、帰ろうか」

 東京へ戻る車の中で、俺は極端に口数が少なくなってしまった。ハンドルを握る信さんは、それを気にしてか、チラチラと俺を覗き見たり、話しかけたりするけれど、いつものように陽気な返事が出来ない。
 高速道路が込みだした頃、信さんは渋滞を避けて、伊豆の温泉へ向かった。

「もう一晩、どっかの温泉でゆっくりしましょうか?」
「いいの?」
「折角の連休ですから、由宇くんと一緒に居たいんです」
「嬉しいな」
 俺に気を使ってくれる信さんが好きだ。傍にいられる幸福を有難いと思う。
 だけど…
 
 その夜、俺と信さんは海の見えるホテルで、愛し合った。
 羽月さんの事も結城誠人の事も俺は喋らなかったし、信さんも話さなかった。

 ただいつだって信さんの傍には俺がいるから、と、俺は何度も誓った。
 とても頼りない誓いだと、心のどこかで思いながら。
 


 二月になった。
 バレンタインデーに浅野さんと吉良さんの感動の再会イベントをプランニングした俺は、その日、仕事を終えた吉良さんの後をこっそりと追いかけ、ふたりが無事再会した事をこの目で確かめ、胸を撫で下ろした。
 その夜は、協力してくれた信さんと一緒にふたりの復縁を祈りつつ寝た。
 翌日、浅野さんから吉良さんとよりが戻ったとのメールをもらい、信さんと祝杯を挙げた。

 後日、怒られることを覚悟で吉良さんに事の次第を打ち明けると、彼は大きく溜息を吐き、そして俺に頭を下げた。
「ありがとう、上杉。竜朗を見つけてくれて、俺に会わせてくれて…どんなに感謝しても足りない程だ。色々と迷惑をかけたけれど、もう二度と、竜朗から離れたりしない。三門さんにも充分にお礼を伝えておいてくれ」

 思ってもみない吉良さんの感謝の言葉に、不覚にも涙が零れた。

 好きな人の為に懸命に動いて報われるって、成る程凄い事だ。


 三月、信さんと羽月さんの離婚が成立した。
 信さんは「羽月さんから由宇くんに渡してくれって」と、俺に結構な量の手紙を差し出した。
 内容は信さんとの出会いから、今に至るまでの思い出話と感謝の気持ちだった。そして、結城誠人についての言い訳がましい諸々の弁護。
 言い訳だとしても、羽月さんのあの男への愛情が純粋なのは真実で、それはまたあの男にも言える事だったから、俺も何気に感銘したのは確かだ。
 読んだ後、信さんにも読ませて感想をもらった。

 信さんはあろうことか、ポロポロと涙を流し「羽月さん、誠人さんといつまでも幸せにね…」と、何度も繰り返した。
 いいひとも度を過ぎると、怒り心頭、ブチ切れる。
 俺はとうとう、一生言うまいと誓った陳腐なセリフを吐いた。

「信さん!俺と羽月さん、どっちが大事っ!」
 信さんは驚きつつも即座に「由宇くんですけど…」と、応えたので、俺も有頂天になる。
 
 恋にイカれた奴は、実に単細胞だという実例である。



「超いいひと」はこちらから…16へ /18へ

浅野と吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1



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● COMMENT ●

最後まで 憎たらしかったですね、結城誠人は!
まぁ 少々の「毒」とか「棘」がある人って どうして そうなったのか興味があります。
でも あまり お近づきにはなりたくないですけど・・・(苦笑)

やっと 信さんも自由の身!
これからは ハッピー+ラブな2人を じっくり堪能させて頂きます。


サイアート様は、叔母さまの葬儀で泣かなかったとの事
実は私も 実家の父の葬儀で 泣かなかったんです。
長年 病気でしたし、母と出来る限りの看護などをしたからだと 思ってます。
父に関わる家族の者は、正直 すごく 疲れてましたから…
ただ 数日 数週間 数か月と経って じわじわと来るモノがありました

ニュースで「孤独死」とか聞くと、最期に家族に看取られるだけで 幸せじゃないかなぁ

叔母さまの御冥福を 心よりお祈りします(・人・)...byebye☆


なんかやっぱり同性愛を毛嫌いする人って、多いと思うんです。うちのダーもテレビで観ただけで、とっても気色悪いって言うし…それが一般の感性なのかな~と思って、普通の男性を書いてみました。
でも、男としては誠人くんはとってもかっこいいし魅力的だと思う。
口が悪いのもゲイだけで、羽月さんや患者さんには優しかったりする。

いや~、葬儀ってやっぱあんまり好きじゃないんだけど、何しろ普段会わない親戚連中が集まって、同窓会的な感じになるのよ。特に従兄妹同士だと。
一杯話すこともあるし、感傷的になるより話すことが多かったりねえ…

ありがとうございます。叔母は私によくふたりの息子たちの自慢を話していたんだけど…最後にふたり共々結婚できて(ふたりともバツ一www)幸せそうなので、安心して天国に行けたと思います。
こいつらめっちゃ頭良くて仕事できるんだけど、本家の私に楯突けねえ~…つうか、従兄妹の中で一番偉そうにしてるのが私だという…なんもできないのにねえ~www


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