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2019-09

超いいひと 18 - 2015.09.01 Tue

18
 イラストはサムネイルでアップしております。
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いいひと17


18、

 三月も後半、金曜の仕事帰り、吉良さんに「食事に行こう」と誘われた。俺は疲れていたから断ろうと思ったが、吉良さんは俺の返事も待たずに有無も言わせずに俺の腕を掴む。そして俺は、新橋駅近くの洒落た居酒屋に連れて行かれた。
 吉良さんに連れられた畳敷きの個室には、予想通りにニコニコと笑う浅野さんが俺を出迎えた。

「よお、上杉。元気か?」
「やっぱり浅野さんか…つうか、苗字変わったんで、竜朗さんでいいですか?」
「いいよ、なんでも。まあ、座れ。今日は俺と遠流の縁結びになってくれた上杉を労わろうとな、遠流とちょっと仕組んでみたんだ」
「上杉にはすっかり騙されたからな。仕返しみたいなもんだ」と、さっそくメニューを眺めて、吉良さんは俺の希望も聞かずに仲居さんに注文をし始める。
「遠慮せずになんでも好きなもの、頼んでいいぞ。俺と遠流の奢りだ。じきに三門くんも来るだろうし…」
「え?…なんで信さん?」
 おしぼりで手を拭きながら、俺は竜朗さんの言葉に驚く。

「そりゃ、三門くんは俺達にとっちゃ、とっておきの恩人だからな。全くの他人の俺達の為に随分と骨を折ってくれただろ?上杉だけじゃ、俺を見つけられなかった…違うか?」
「そうだけど…え?竜朗さん、俺に黙って、信さんと連絡を取り合っているの?」
「なんだよ、ジェラシーか?」
「そうじゃないけど…」
「ほら、農園に来た時、お土産にリンゴをあげただろ?あの後、丁寧なお礼の手紙を頂いてね。ホントにいいひとだよな、信さん。上杉には勿体ないぐらいだ」
「うん…。いいひと過ぎて、俺なんかで信さんを幸せにできるかって…時々不安になったりします…」
「自信過剰よりも、少しぐらい不安な方が長持ちするよ、多分…」と、独り言のように呟きながら、手酌でビールを注ぐ吉良さんはいつも通りにマイペースなので俺も構わない。竜朗さんもそんな吉良さんに手を差し出すでもなく、微笑ましく眺めている。
「まあ、ひとかどに上杉も落ち込んだりするのな。見直したわ」
「しますよ!仕事だって、いっつも吉良さんにアドバイスを貰ってなんとかやっているけど、クライアントの顔色見ながらドキドキもんです」
「経験の割には上杉はよくやっているよ。俺も認める。勿論、全般的にはまだまだ勉強不足だけどな」
「はい、善処いたします…」

 箸を進めて半時ほど経つ頃に、仲居さんに案内された信さんが顔を見せた。
「遅くなってすみません。急に雨が降り出して…」
「春雨だな。桜がまだで良かったかも」
「そうですね。あ、遅くなりました。今日は誘って頂いて、ありがとうございます」
「こっちこそ、俺と遠流の為に大変な世話かけて、申し訳ない。ほら、遠流もちゃんとお礼を言えよ」
「…お世話かけました。…ありがとう。…竜朗とまたこんな風に付き合えるなんて、思っても見なかったんだ。本当に、感謝してます」
「い、いや…お、お礼なんか…。僕は何も…ふたりを想う由宇くんの熱意に僕も引っ張られたみたいなもので…ね、由宇くん」
「信さんが居てくれたからだよ。俺一人じゃ、動けなかった。さあ、早くこっちに来て、乾杯しよう」
「はい」

 俺の隣に座った信さんにビールを薦める。
 目の前のふたりに中てられ気味だったから、信さんが来てくれて良かった…と、心から思った…ところに。

「ところで、信彦さんは離婚が決まったそうだが…、どんな気分なの?」
「え?」
 こちらが遠慮して触れない話題に、竜朗さんは直球で切り込んでくる。
「信さん、話したくないなら無理に言わなくていいからね」
「いや、大丈夫だよ、由宇くん。幾ら円満に解決したって言っても、誰も彼もが傷つかずに別れる事なんてできないし、みんなそれぞれに複雑な想いは残ると思いますから…」
「子供は?ちゃんと本当の事を話したのかい?」
「それが…話そうと思ったんですけど、誠人さんが…妻の義理の兄で、駿くんの本当の父親なんですが…彼が駿くんに『ママと別れてもパパはずっと駿のパパだ。だから安心しな』って…そう言ってくれたんです。それでふたりと話し合って…駿くんがもう少し大きくなるまで、黙っていることにしました。母も…羽月さんの説得で僕を許してくれました。前から薄々気づいてはいたらしくて、何度も僕に謝られました。辛い思いをさせたって…」
「…」
「なんだか…駿くんを中心に家族のみんなが、互いを許し合おうと努力しているみたいで…。駿くんを傷つけないように、自分達の不満を爆発させまいと我慢しているんですよね。それは逆に言えば、駿くんの存在にみんな癒されているからなんだと思います。僕は家族の一員ではなくなったけれど、今後も僕で何かの役に立つのなら、いつだって駆けつけたい…と、思いました。…由宇くん、それでもいい?」
「え?」
「これから先、由宇くんとずっと一緒に居たいから、僕は羽月さんとの離婚を決意したんだ。だから今後は何事も僕だけで決めるんじゃなく、由宇くんと話し合って決めたい」
「信さん…。勿論、賛成だよ。駿くんも羽月さんも、離婚したからってすべての縁が切れたわけじゃない。だって小さい頃からずっとお互いを信頼してきた家族みたいなもんでしょ?それを見守るのは当然だと思うよ」
「ありがとう、由宇くん」
 畳に触れる程に頭を下げる信さんに、こっちも恐縮してしまいお互いに頭を下げる格好になる。それを見て竜朗さんが声を上げて笑う。

「まあ、大団円で良かったじゃねえか。じゃあ、まあ、信さんの離婚に乾杯といくか」
「そこはふたりの腐れ縁にでしょ?ねえ、吉良さん」
「俺はどっちでも構わない」

 酒と肴で一息吐いた頃になると、一層雨音が酷くなった。
 竜朗さんは雨夜の品定めとばかりに、どんな男が魅力的に感じるのか、この時代、マイノリティの俺達はどう生きるべきか…などと、酒の勢いも借りながらの埒も無い談義に入る。
 思わぬ方向だが、信さんは面白そうに今までの恋愛談を話し始める。

「僕はあまり男性との経験が少なくて…大学生の頃に付き合っていた人が居たんですが、お互い真剣になる事も無く卒業と共に別れましたね。なんというか…どちらも世間の目を気にするタイプだったからか、表立って一緒に遊んだり、目立ったこともしませんでした。羽月さんとの結婚後は…一度も遊ぶことすらありませんでした。…僕は本気の恋愛なんて望みませんでした。誰にも迷惑をかけることなく、ただひっそりとひとりで生きて行ければ、それでいい…と、思っていました。由宇くんに会うまでは…」
「信さん…」
「由宇くんが僕の人生設計を変えてしまったんだね。由宇くんは僕に…言葉では言い尽くせない程のときめきや喜び、安らぎと快楽…色々な感情を与えてくれた。すべてが生きてきて良かったと思える経験でした。だから、僕にとって由宇くん以上の魅力的な人はいないし、必要としないでしょう」
「…あの…俺、超恥ずかしいんですけど…つうか、信さん、それ、ふたりきりの時に言ってよ」
「照れるな、上杉。恋は人生を変えるってのは真実だよ。俺だってそうだ。今でも五年前に遠流と別れた岐路を思い出す。あれが間違いだったのか、正解だったのか…今でも答えは出ない。ただ遠流と出会えたことが俺の人生の中で一番の意義のある縁だと思っている。そして、今の俺達があるのは、間違いなく上杉と信さんのおかげだ。遠流と再会が出来たからこそ、離れていた五年の歳月が無駄じゃなかったと、思い始めている」
「俺も…竜朗と別れて暮らした五年間で、一番大事なものが何かとわかった気がするよ。そして、上杉と三門さんのように必死に竜朗を探さなかった自分を恥じているんだ。自分が欲しいものは、自分が苦労して探さなきゃならなかったんだって…。だからこれからは、どんな困難があろうと、俺は竜朗から離れないように頑張るつもりだ。竜朗が俺を嫌いになっても…好きになってもらえるように努力する」
「馬鹿、嫌いになんかならねえよ。でも遠流には転勤があるからなあ~。車で行ける距離ならいいけれど、正直遠距離は辛いな」
「その時は仕事を辞めるよ」
「「「えっ??」」」
「辞めて竜朗の農園で一緒に働く。それくらいの覚悟はある」
「待てって。おまえ、仕事好きじゃん。やっと建築家としても油が乗り始めたのに、辞めるなんて、冗談でも言ってくれるなよ」
「冗談じゃない。…もう、あんなことは…竜朗と別れたりは絶対にしたくないから…」
「仕事よりも恋人を選ぶって、究極の選択ですよね。恋人冥利に尽きますね、竜朗さん」
「簡単に言うな。男が仕事を辞めるっているのは…。まあ、今の世の中は女もだけど、受け入れる方も愛情やら責任が荷物になって、それが原因で別れることもあるんだぜ。何が一番良い選択なのか…一緒に居られればそれでいいのか…ノーマルやゲイに関係なく、考えさせられる話だ。信さんの言うように、家族や子供が居れば、それが足枷になる。足枷っているのは互いを繋ぐ絆にもなるんだ。子供も婚姻も為さないゲイのパートナー同士が、人生を添い遂げるとはとても重い課題なんだよ」
「そうですね。幾らLGBTが社会に理解されても、同性同士の生活は、満ち足りた家族を持ち得る夫婦にはなり得ない気がします。また、それを目指すべきでもないように思えるんです。だけど、僕は一生涯を共に生きていくという目的を掲げて生きることは、立派な目標だと思っているんです。…実は僕は職場でゲイであることはカムアウトしていませんし、これからもする気はありません。偏見が怖いではなく、ゲイであるかどうかは仕事に必要が無いからです」
「誠人さんはすげえ、忌み嫌っていたけどね」
「『不都合な生産性の無い歪な共同生活に何の誇りがある』とは、中々の名言だね。それはノーマルな感覚だし、俺達が反論できる余地も無い。元々、この世は背反摂理がすべてだ。全く違うものが結び合って、何かが生まれる。だけど、片方にしか愛着を見いだせない俺達は、根源的に間違っているのだから、声高に拳を上げて権利を主張するものでもないと思っているよ」
「そうかな。俺は別段、ゲイを隠してないけどね」
「遠流は周りの目を気にしない性質だし、デザイナーだからあまり気にせずに済むけどな。でも営業マンだった頃の俺は、結構気を使ってたぜ。お客が警戒しない初対面のセールスマンってのは、真面目で清潔で愛嬌があって見た目が良い事が必須なんだ。ノーマルなお客にゲイだってバレたら、たちまち玄関のドアは重くなる。そういうもんだ」
「同情や好奇な目もいらないですよね。ただ皆と同じに接して欲しい」
「まあ、ノーマルを演じるのに疲れた時は、ゲイクラブだがね」
「僕も…職場の飲み会なんかでは、こういう話が出来ないので、ありがたいです」
「信さんは苦労人だなあ…。疲れた時は、俺の農園にでも来てくれていいよ。自然に囲まれているだけで、ストレスが吹っ飛ぶ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「信さん、絶対にひとりで行かないでよね。竜朗さんに変な遊びを教えてもらっても困るし」
「なんなら、上杉への愚痴も聞いてやるよ。セックスの不満もな」
「ちょ、た…」
「竜朗、俺がおまえに不満がある時は、また上杉と寝てもいいのか?」
「え?…駄目です…。なんでも言うこと聞くから、絶対止めてね、遠流~」

 吉良さんに頭が上がらない竜朗さんが可笑しくて、俺と信さんは顔を見合わせて笑いあった。

 その夜は、竜朗さんと吉良さんは駅近くのホテルへ、信さんは俺の社宅に泊まってもらった。
 気持ち良く酔った分だけ、狭く冷たいベッドに興醒めしたけれど、信さんは俺をしっかり抱きしめていてくれた。

「楽しかったですね」と、何度も繰り返す信さんに、俺も何度も頷く。
 あまりに楽しくて、俺は不安になった。
 楽しかった分だけ、どこかで落とし穴が待ってるんじゃないかって…
「信さん、ずっと俺を抱きしめていてくれるかい?」
「勿論ですよ、由宇くん」

 本当の恋は、この先の未来を不安にさせる。だって、この世に不変なものなどは無く、時間と共に変わり続けているものだから。


 三月末、街のあちこちに薄桃の桜の花が目を引く頃に、俺は会社から出向の辞令を言い渡された。
 出向先はニューヨークの「A.SUKUNE アーキテクツ」。
 即ち、あの宿禰凛一さんのデザインスタジオだった。


「超いいひと」はこちらから… 17へ /19へ
 
浅野と吉良のお話はこちらから…
傷心
うそつきの罪状 1



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● COMMENT ●

LGBT・・・
やっと声を上げ 行動を起こす事が出来始めた昨今ですが、世界+社会では まだまだですものね。
とある某国では 姦通罪も 女性蔑視も まだあるし!
その他にも 今の日本では考えられない事が 多々ありますから。

誠人のように 鼻から受け付けない人も居る一方で 竜朗や遠流の様な人も居る 
それは 由宇にも 信さんにも救いでしょう

次回は 由宇くんの出向の話し
その場所が 凛の所だなんて~!
凛も チラッとくらい登場するのかな?♪((O(〃⌒▼⌒〃)O))♪わくわく


やっとやっと エアコン無しで 夜を過ごせてます。
しかし 日中の屋外は ハンパない紫外線ですし、雨なら雨で 蒸し蒸しの状態!
だからかしら まだ 秋の虫の声は 聞こえてきません。
フムフムフムフム…(  ・ _ ・  )3…ジー、まだだな...byebye☆

最初にリンを出したのは、ここへの伏線だったわけなんですが…出向なので、また戻って来るんですけどね。
さて、信さんと由宇がどんな選択をするのか…ここがこの話のテーマになるんですよね~
幾つかの案が有ったりするけど、どれを選ぶかは彼ら次第。
どうなるかはまた次回に~

夜、ウォーキングをすると真夏でもこおろぎ鳴いてますね。
虫の声って涼し気ですなあ~。でも今日は静か…なんでやろ~


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