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2019-11

超いいひと 19 - 2015.09.11 Fri

19
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rinn 12

19、

 上司から別室に呼び出されて、ニューヨークへの出向を告げられた時、「なんで、俺が?」と、思わず大声を出してしまった。

「なんでって…。上杉、おまえ、自分で希望を出したんじゃないのか?忘れたのか?」
「へ?…」
 そうだった。
 昔の事ですっかり忘れていたが、うちの会社は社員の要望を、論文方式で提出したら、運が良ければ叶えられると言うシステムがあるのだが、俺は二年前に、宿禰さんの事務所で研修をさせて欲しいと、目的と理由を長々と書いた嘆願書的なものを人事部へ提出していたのだ。
「それって、二年前ですよ?」
「有効期間は二年間だ」
「そう…でした。でも、急に言われても…」
「確かになあ~、提出して二年も経つとなると、上杉の方にも事情が変わっているかもしれないなあ~。ニューヨークは遠いしなあ~。しかし、こちらから希望を出しておいて、今更断るわけにもいくまい。研修期間は二年の予定だしなあ~。どうしてもおまえが無理なら、別の者を推薦することになるが…どうする?」
「待ってください。お、俺、行きます!是非行かせてくださいっ!不肖、上杉由宇っ!二年間、宿禰さんの仕事場でみっちり勉強して、成長した姿を皆様にお見せ致しますっ!」
 俺は無駄な敬礼をし、出向の辞令を快諾したのだった。

 緊張したままデスクに戻り少し冷静になってみると、思い浮かべるのは信さんの顔だった。
「どうしよう…」
 想像しなくも無かったけれど、遠距離恋愛なんて…それも東京とニューヨークだぞ?
 二年間も離れて、繋がっていられるだろうか…
 …
 無理だ…とてもじゃないが、自信が無い。
 それ以上に、俺が信さんと離れたくない。
 この先、どこに行っても、信さん以上の人と巡り会う気が全くしないし、第一、今の幸せを壊したくない。
 残念だけど、この話、やっぱり断ろう…。
 揺れながらも、デスク上のパソコンのメールを開いてみると、思いがけなく宿禰さんからのEメールが届いていた。

 「上杉由宇様
 久しぶりだね。
 二年前に君と『エトス』で、出会った時を思い出すよ。
 あの頃よりも成長したであろう君と、共に仕事が出来る日を楽しみにしている。
 ニューヨークで君を待っているよ。
 宿禰凛一」

 メールを読んだ時の喜びは言葉にできない程だった。
 憧れの宿禰さんが俺の事を覚えてくれていたなんて…
 俺と一緒に仕事をしたいだなんて…
 それに、俺を待っていてくれるだなんて…
 夢…みたいだ。
 社交辞令でもなんでもいい。
 宿禰さんと一緒に仕事が出来るなら、どこにだって行ってやるっ!


 ついに、その夜は眠れなかった。
 宿禰さんからのあんなメールを読んでしまっては、今更、辞令を断る気にはならなかった。でも、信さんには転勤の事をどう話せばいいのか、全く言葉が浮かんで来ない。
 俺自身がこんなにも信さんと離れたくないって思っているのに…。
 だけど、言うべき事はわかっている。
 俺が帰ってくるまで、待っていて欲しいと、頼み込むしかない。

 翌日、会社へ出勤した所、宿禰さんから確認の電話が来た。
 ニューヨークとは十三時間程違うから、きっと向こうは前日の夜なのだろう。

「もしもし…宿禰さんですか?」
『こんばんは、じゃなかった。そっちは朝だから、おはよう、だな』
「はい、おはようございます」
『昨日は、いきなりでびっくりしただろ?少しは落ち着いたかい?』
「はい、宿禰さんからのメールを読んで、心が決まりました。一所懸命頑張ります」
『うん、期待してる。実は二年前に上杉君の要望は、君の会社から貰っていたんだけどさ、うちも小さな事務所なんで、研修社員はひとりと決めているんだ。今年の三月でそいつも無事卒業、って事で、次は君の番になったわけ。待たせて悪かったね』
「そうだったんですか。いえ、二年越しの希望が叶ってありがたいです」
『家も前の子が使ってたアパートを使ってもらおうと思うけど、良い?』
「勿論です。住むところまでお世話して頂き、有難いです」
『じゃあ、予定通り二週間後にこちらに移動って事で、間違いないんだね。面倒な手続き等の書類は、メールでそちらに送ったから、よろしく頼むよ』
『はい、こちらこそよろしくお願いいたしますっ!上杉由宇、頑張ります!』
 俺は思わず椅子から立ち上がって頭を下げた。
 周りの奴らはゲラゲラと笑っていたけど…

 電話を置いた後、へのデスクの吉良さんが「希望が叶って良かったな」と、言ってくれたけれど、その後「三門さんには話したのか?」と、囁かれ、首を横に振ると、溜息を吐かれた。
「お互いによく話し合えよ。そうじゃないと…後で後悔することになるから」
「わかりました…」
 そうは言っても、信さんに話そうと思えば思うほど、言葉が出てこない。
 メールでならと思っても、文字を打っては消しの繰り返し…

 それでも転勤が決まってからは、思っても見ないぐらいに多忙過ぎて、信さんの事もつい忘れそうになった。
 仕事の整理から顧客への挨拶。同僚たちとの毎晩の送別会。
 酔っぱらったままアパートへ帰りつくと、すぐにベッドへ直行の繰り返し。

 出発の一週間前、俺は吉良さんと竜朗さんからの送別の夕食を共にした。
 今回も竜朗さん常連のこの間の居酒屋の個室だった。
「しかし、また急な話だったな。上杉、心の準備はできたかい?」
「はい、なんとか…」
「ニューヨークじゃ、こんな風にちょくちょく会えなくなるしなあ。まあ、長旅は若い時に経験してた方が良いって言うし」
「竜朗、他人事と思って適当な事を言ってるな」
「所詮、他人事だろう。まあ、それより可愛い後輩と離れるのは寂しいけどね」
「俺も…寂しいです」
 吉良さんも竜朗さんも、何かと頼りにしてたから、ふたりと離れてしまうのは正直心細いものだ。それに…

「で、信さんとは話はついたのか?」
「それが、まだ…」
「まだって…もう一週間しかないじゃないか。どうするんだよ」
「なんて言っていいのか…。それに信さん、今、長年手掛けていた医薬品の臨床試験が終わったとかで、論文の整理や発表やらでめっちゃ忙しいんですよ。俺の事で煩わせたくないんです…」
「そんなこと言ったって…。おまえがニューヨーク行く方が、大変に決まってるだろうが。何の連絡もしてないって、ありえねえよ」
「…わかってはいるんですけど」
 そう、わかってはいるのだが、落胆する信さんの顔を想像するだけで、ニューヨークへ行く決意が鈍りそうになるのが怖くて…。

「もしも~し、信さん?…そうそう、俺、竜朗。元気してる?今、遠流と上杉で飲んでるんだけど、信さん来ないから、上杉が拗ねちゃって。ん?そうそう…で、なんか上杉が信さんに言いたいことがあるらしいんだ」
「ええっ!何勝手に信さんに電話してるんですかっ!」
「だって、おまえがモタモタしてるから、代わりに話を進めてやってるんじゃないか。どっちみち隠しおおせるもんでもないだろう」
「…」
 そりゃそうだけど、俺にだって、心の準備というものが…

『由宇くん?』
「信さん…」
 久しぶりに聞く信さんの声だけで、胸が熱くなってしまうのに…

『久しぶりだね。元気にしてますか?』
「信さんは?」
『はい、仕事の方もひと段落ついたので、こちらから由宇くんに連絡しようと思ったところでした。実はこの所、ずっと研究所に缶詰状態だったもので…』
「信さん、あのね」
『はい』
「お、俺、…転勤にすることに…なったんだ」
『え?それは…急な話ですね。で、どちらに?』
「それが…ニューヨークなんだ」
『え?ニュー…へ?あ、アメリカ合衆国のニューヨーク?』
「そうそう、USA…つうか、ニューヨークって行ったらアメリカじゃん?それがさ、あの宿禰さんの…信さんも知ってるでしょ?俺が尊敬する建築家の宿禰凛一さん。彼の事務所で研修員として仕事をすることになってさ。超、びっくりだよ。そしたら、俺、二年前に宿禰さんの事務所で働きたいって希望出しててさ。すっかり忘れてたんだ。でも夢だったんだ。憧れの人と一緒に仕事ができるなんてさ。一生に一度あるか無いかじゃん?
一所懸命がんばろうって思ってる。あ、研修期間は二年だから、二年経ったら、東京に戻ってくるからさ…信さん、それまで…待ってて、くれる…かな…?」
『…』
 一方的に喋る俺も痛々しいのだが、喋った後、返事もない信さんの無言の時間はまさしく針のムシロだった。

「のぶ…さん?…怒ってる?」
『え?…いえ、怒っていませんよ。ただ本当にびっくりしてしまって…』
「黙っててゴメン。すぐに話そうと思ったけど…信さん、仕事大変そうだったし…、何か、もう…辛くてさ…」
『由宇くん…』
「ごめんね。俺、本当にこの先もずっと信さんと一緒に居たいって思ってる。でも、この仕事も続けたいんだ。だから…」
『わかってますよ。由宇くんは自分の仕事に誇りを持っていますからね』
「信さん…」
『明日、会いませんか?未来の僕たちにとっても大切な事だし、ゆっくり話し合いましょう』
「う、うん。わかった…」

 竜朗さんにスマホを返した俺は、信さんの最後の言葉が気になって仕方なかった。
「で、信さん、なんて言ってた?」
 竜朗さんは不安気な俺を見て、心配している。
「信さん、明日、ゆっくり話し合おうって…。話し合うって何?別れ話なのか?俺、信さんと別れるなんて、考えられないんだけど」
「いやいや、別れ話とも限らないだろう」
「いや、有りだね。竜朗と俺だって遠距離恋愛は無理だって別れたじゃないか。二年って、案外長いし…」
「遠流、おまえね。この場で本音言うか?」
「俺達が経験したことは、上杉に話した方がいいと思っている。今、おまえとこうやってヨリと戻したからあの時の事も無駄じゃないって思っているけれど、別れた当時は本当に辛かった。どれだけ後悔したか判らない。だから、どちらにせよ、上杉には三門さんと納得がいくまで…ケンカしてでもお互いの気持ちを正直にぶちまけて、これからどうするかを決めた方がいい。勿論、ふたりには幸せになって欲しいと思っているよ」
「吉良さん、竜朗さん、ありがとうございます。俺、今の気持ちを信さんに残さず話します」

 
 翌日、俺と信さんは海の見える岬までドライブした。
 車内ではお互いにいつもと同じように振る舞っていたのだが、ラブホテルでめちゃくちゃ抱き合ってからが酷かった。
 二年間も信さんと離れてしまうと思ったら、何度やってもやり足りないって感じてしまう。なんかもう信さんと離れるのが辛くて辛くて…
 俺は信さんの胸でガキみたいに泣きじゃくってしまった。

「こんなに信さんと離れたくないのにさ…。どうしてもニューヨークで仕事したいって…なんなんだよ。俺、自分で自分の気持ちがわからないよ…」
「由宇くん…」
「ごめんね、信さん。でも別れるなんて言わないで欲しいんだ。二年経ったら戻るし、長期休暇を貰ったら、信さんに会いに日本に帰る。絶対、向こうで浮気なんかしないからね。信さんも俺以外の奴を好きになったりしないでよ。ね?」
「由宇くん…嬉しいです。由宇くんにそこまで思われている僕は幸せ者ですね。それよりもこれからひとりでやっていく君の方が心配です。どうか、身体に気をつけて行ってらっしゃい。僕は…いつまででも、君を待ちますから…」
 いつものように穏やかな声と優しい眼差しで俺を支えてくれる信さんが、慈しむみたいに俺を抱きしめるから、俺はまた泣いてしまう。


 そして、あっという間にニューヨークへ旅立つ日が近づいてしまった。
 その前日、信さんは最後に俺と過ごそうと、仕事を休んで付き合ってくれた。
 俺達は最初に出会ったジャズクラブ「エトス」で、日本最後の晩餐を取った。
 マスターの嶌谷さんはニューヨークの宿禰さんの事務所で働く次第を報告していたから、祝いにと極上のワインをプレゼントしてくれた。
 そのワインで喉を閏わした俺に、信さんは思いもよらない言葉をかけた。

「由宇くん。実は僕、会社に辞表を出したんですよ」
「…」
「僕もニューヨークに行きたくて」
「……」
「由宇くんと離れるのが嫌で、我慢できなかったんです」
「…え…えええっ!」

 ニコニコと笑いながら、二杯目のワイングラスを飲み干す信さんは、相当なウワバミです。



「超いいひと」はこちらから…18へ20へ

浅野と吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1

リンを描くといつも思うが…このサラサラの髪、禿げる髪質?…と、心配する。禿げたリンなんか…嫌だ~!


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● COMMENT ●

(o^^o)ふふっ♪
信さん、辞表出しちゃったんですか!
由宇の 凛の下で働きたい 信さんとも離れたくないとの 我儘な願いに 沿って行くとは 男気を感じますね!
(。+・`ω・´)シャキィーン☆男ですから。。。by信

きっと 信さんなら ニューヨークでも 働く場所があると思います。
2人で いってらっしゃ~い!テヘッ♪(〃ω〃)-oo-(〃▽〃)エヘッ♪...byebye☆

一昨日の大雨で 各地の被害を知り 心痛めております
私の方は大丈夫だったんですが、サイアート様の方も 大丈夫だったみたいですね。
一刻でも 一人でも 早く 幸せの笑顔を見られます様に。。

今回は関西より南は比較的大丈夫だったみたいですね。
いつもこの時期の台風は九州直撃で大変なので…。
しかし川の決壊って恐ろしいですね。私の実家は川の下流で、私が生まれる前は台風や大雨で川の土手が決壊して床上浸水もあったらしいですが、私はまだ一度もそういう経験が無くて。
上の子の住んでる地域が、結構ニュースになってて、心配したんですけど、なんとか浸からずに済んだそうです。
自然災害は恐ろしい。何にも無くなってしまうからなあ。一から始める気力が無いと…辛い。
でも逆に考えたら、命があったらなんでもできる…と、思って頑張るしかないんだろうね。

信さん…実は辞めてないwww
理由は次回で。
まあ、こいつらは、絵にかいたようなバカップルですね。

こんにちは。ちょっとぶりです!
凛が出てきちゃってる~
由宇だけじゃなく、ワタシのテンションも上がります~♪

前回の居酒屋で語っているところ、好きです。
子どもができない夫婦もいるし、生き方は様々ですね。

凛が絡むと由宇がガキに感じでしまうのは気のせいかしら・・・?

こんにちは~

リンが大人に見える?
そっか…リンも大人になったか…感慨深いねえ~( ´艸`)

もう次回は最終回なので、リンの活躍はないと思うけど、リンの話が終わっても、こうやって成長してるってわかると、想像上のお話でも懐かしい…って思えるから不思議です。
NYで生きてるように感じちゃいます。

前回の飲み屋のお話は、受けないと思って書いたけど、案外受け入れられたので、ちょっとビックリですね。
BLにしては変な方向ですけど、そういう話も面白いかな~と思って書いてみました。


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