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2019-09

超いいひと 20 - 2015.09.19 Sat

20
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


  いいひと-15

20

 ジャズクラブ「エトス」は、ジャズの生演奏を聴かせてくれるのが売りで、今晩も心踊るようなライブが一息ついた後も、ゆったりとしたジャズ音楽が奏で続けられており、客はそれぞれに酒とお喋りを楽しんでいる。           
 気負いの無いスタンダードな音に漂う感覚も俺は好きなのだが、信さんのいきなりの告白に、さすがの俺もジャズの音色どころか、何もかもが一瞬聞こえなくなってしまった。

「や、辞めるって…マジで?…マジで今の会社辞めちゃったの?」
「いえ、それが…辞表を出したらすぐに辞めれるものだろうと思ったら、なんだか上の方から呼び出しがかかりまして…」
「そりゃ、そうだろうなあ…。信さん、研究員として期待されてたし…」
「いや~、そんな事は無いんですが…。まあ、あれこれ言われて引き留められたんですけど、どうしてもニューヨークに行きたいからって…。辞める理由を書かなきゃならなかったんで、ニューヨークの大学院でもう一度薬学を勉強したいと…。それでも食い下がられて、とうとう人事部の室長と話し合うことになりまして…」
「うわ、大変そう…」
「結局最後には由宇くんの事を話したんです。そしたら、もの凄く変な顔されて…わかったと一言言われまして、これで愛想つかされたかな~と、思いました」
「うんうん、それで?」
「今日、再び室長から呼び出されました。二年間のアメリカ留学を認めてくれるそうです」
「え?…留学?」
「はい、会社を辞めずに、由宇くんと一緒に居られるんですよ」
「え…マジで?ホントに?…一緒にニューヨークに住めるの?」
「…いや、それが、大学院はニューヨークじゃなくて、コネチカット州のブリッジポート大学なんです。その大学の医療科とは長年うちの会社とも交流があるし、医療学部のメンドレフ教授が僕の論文を認めてくださり、大学の研究員として働く許可をもらったんです。ブリッジポートからニューヨークまでは車で二時間もかからないで行けますし、毎週末は由宇くんと会えます。なにより東京とニューヨークと比べたら、ご近所ですよね」
「…俺の為にそこまでしてくれたの?」
「由宇くんの為じゃないです。僕の我儘です」
「マジで信さんが傍に居てくれたら、俺、めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」
 信さんは気恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。

「…由宇くんから転勤の事を聞いた晩、僕なりに色々と考えました。僕が由宇くんを二年間待つのは難しい事じゃないけれど、由宇くんには辛い事なんじゃないだろうかと。だから、別れる事も考えたんです。次の日に、由宇くんと会ったでしょ?あの時に、由宇くんの気持ちを確かめる気でいました。それで、僕を想ってくれる由宇くんに打たれて、仕事を辞めてもいいかもと思い始めました。それでも…新天地で由宇くんに訪れるであろう新しい出会いが、僕よりも由宇くんを幸せにするかもしれないって…。僕よりいいひとに巡り合う機会を僕が奪う事になりはしないかと…色々と悩みました」
「…」
 自分の事より、俺の幸せを考える信さんを有難いと思うけれど、もしかしたら、俺は羽月さんと同じ重荷をこの人に抱えてしまっているのではないかと、少し心苦しくなった。
 そうか…、竜朗さんの言っていた「与えられる愛情の重さは負担になる」…って、この事なんだな。
 それでも、俺は…


「僕の意志を固めてくれたのは吉良さんでした」
「え?吉良さん?」
「翌日、吉良さんから電話を貰ったんです。二年間、由宇くんをほおっておいたら、絶対に僕の所には戻って来ない…って、言うんです。『上杉は情に流される性質(たち)だし、色男には目が無い。宿禰凛一は恐ろしく美麗で危険な男だから、すぐに色気づくに決まってる。しかも上杉がどう迫ろうと太刀打ちできる相手でもない。あんな奴の傍にいたら、上杉が骨抜きになりかねんから、三門さんが傍に居て見張ってなきゃ絶対ダメだ』…と、きつく言われまして…」
「何?その言われよう…ひどくね?」
「え…僕じゃなくて吉良さんがおっしゃったんですよ。僕も由宇くんは快楽に弱いから、浮気は覚悟できていましたが、色ボケで駄目人間になってもらっては困りますから」
「はは…俺、信用ねえの」
 呆れながらも笑うしかない。確かに流されやすい一面は否定できない。

「違いますよ。由宇くんは優しい人なんです。いいひと過ぎるんです。だから、僕が傍に居て、頑張って由宇くんを守ります」
「…信さん、なんか…たくましい…つうか、何か俺、信用無い男みたいだなあ」
「す、すみません…。嫌味じゃないんです。ただ、やっぱり心配というか…由宇くんを誰にも渡したくないというか…。僕にもこんなに独占欲があっただなんて、本当に自分で驚いているんです。でももし迷惑だったら…」
「諦める?俺が嫌だって言ったら、信さん、俺と別れる?」
「由宇くんは意地悪だなあ~。もう後が引けないって判っているのに…」
「信さん、俺、宿禰さんの会社で働けるのは嬉しかったけれど、本当はひとりでニューヨークでやって行けるのかって、心配だったし心細かったんだ。信さんが仕事を辞めてまで、俺に執着してくれるのは…素直に嬉しいよ。俺にそれだけの価値があるのかわからないけれど、俺も信さんを幸せにしたい。約束するから」
「約束なんていりません。そんなのはお互いを縛るだけです。傍に居て幸せを感じる日々が続くように、生きて行きましょう」
「信さん…」

 信さんがこんなに頼りがいのある大人の男だったなんて…
 今まで知らなかった男前の信さんに、惚れ直してしまいそうだ。
 なによりひとりで暮らしていかなきゃならない気負いが、身体からフッと抜けて軽くなった気がした。
 俺も案外小心者だ。
 いい具合にミュージシャン達がエリック・クラプトンの「Change the world」をジャズ風に演奏するから、感情が高まってとうとう嗚咽してしまった。
 それを見てつられたのか、信さんも啜り泣きを始め、心配した嶌谷さんが「どうしたのか?」と、声を掛ける。
 大雑把に事情を説明したら、嶌谷さんは安心したように苦笑した。

「わかったよ。凛一にはふたりの事を念入りに伝えておくよ。あいつは気に入った男はその気もないのにちょっかい出すのが趣味だからなあ。由宇なんてすぐにつまみ食いされかねない」
「本当ですか?そ、それは困ります!あの…由宇くんには手出し無用とお伝えください!」
「信さん、俺を信じてねえの?俺の尊厳は?」
「相手はあの宿禰凛一ですよ?」
「え?信さん、知ってるの?」
「…色々調べました。なんかもう色々凄い人で、あんな凄い麗人と一緒にいたら、仕事どころじゃないかも…って、由宇くんじゃなくてもそう思いました」
「でしょ?宿禰さんって、マジでかっこ良くて魅惑的で超美人なんだよなあ~」
「由宇、おまえ、行く前から浮気するって言ってるようなもんじゃねえか。そんなんじゃ信彦さんも心配で禿げるぞ」
「…いや、あの…」
「でも、マスター。あの人は綺麗過ぎて…そうだな…。俺にとってテレビの中のスターみたいなものです。鑑賞には向いててもセックスするのは俺を一番愛してくれる信さんが断然いい。ね?信さん」
「…どう返事して良いか…」
「ははは、おまえら、中々似合いのカップルだ。そうだ。せっかくだから、おまえらを皆で祝ってやるよ」
 
 「エトス」のマスター、嶌谷さんは小走りで低いステージで演奏していたミュージシャンに近づき、何かと囁いている。
 そして、徐にこちらを向くとマイクを持って話し始めた。
「エトスを愛してくれるレディース、アーンド、ジェントルマン諸君、今日は一組の幸福なカップルが、目くるめく冒険の地、ニューヨークへ旅立つ日だそうだ。どうかな?みんなで彼らを送り出してやろうじゃないか!」
 大きな拍手をもらった嶌谷さんは、軽快なピアノのイントロが流れると、自らエネルギッシュに謳い始めたのだ。

 ビックリだ!
 嶌谷さん、歌も歌えるんだ。
 しかもすげえ、上手い!
 そして、お客のみんなも口ずさみ、次第に大合唱になる。

「Joy to the world」…「喜びの世界」
 未知の世界に向かう俺と信さんを送り出してくれる最高の曲だ。


three dog night の「joy to the world」です。有名ですよね。


「超いいひと」はこちらから… 19へ /21へ
 
浅野と吉良のお話はこちらから…
傷心
うそつきの罪状 1

これで最後だと思ったんですけど、思ったよりも長い文章になったので、一旦ここで切ります。エピローグだけなので、明日でもアップします。…これで終わるつもりだったので、イラストを描いてないんだけど…('ε`汗)



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