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2019-09

Silent Night・Holly Night 2 - 2016.01.12 Tue

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イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。
 

  2016ミナ1

2、

 おれの通う私立高校へは、家からの電車通学で一時間ほどかかる距離だ。親父も通った高校だったし、多少の不便は感じつつも、家と学校の間の自由を楽しんでいる。
 家や家族が嫌いだったわけではない。 
 長男であるおれに家族の優しさや愛情は年を取るごとに過剰に注ぎ込まれつつあり、それがうっとうしいと感じる時もあるけれど、つっぱねて傷つける程冷徹にもなれない。
 電車に乗り他者の生きざまを観察するのも、道端に咲く名も知らぬ白い花に癒されるのも楽しかった。
 学校生活も取り立てて疑念する問題も心沸き踊る出来事もなかったし、さりとて未来を絶望する程達観するでもない。
 要するにおれはごく一般的な高校生だ。

 駅から丘の上にある学校までの坂の途中に、こじんまりとした美術館があった。
 壁の煉瓦には模様のようなツタが這い、洒落た灰色のスレートや柱、庭の手入れも施された歴史を感じる古い洋館だ。
 個人経営の割には有名なコレクションも所蔵されていて、それ目当ての客も多いらしく、館の中には雰囲気の良い喫茶もある。
 おれもたまに気が向くと、下校途中にひとり気ままに喫茶店でゆっくりとコーヒーを味わったりもする。
 まあ、美術の鑑賞は極めて興味があるわけでもないので、相当に暇を持て余した時だけ常設展を覗くくらいだ。
 
 その日、期末テストが終わり、解放された気分で好物のアップルパイにありつきたいと思ったおれは、美術館のアールデコのアーチを潜った。
 企画展示されているポスターにちらと眼をやり「水川青弥」という画家の名前が何気に目に入った。名前に憶えがあるような、無いような…でも、ポスターの絵にはどこか見覚えがある気がしたから、入場料を払って覗いてみることにした。

 作品はリトグラフと油絵が半々ぐらいで、リトグラフは買う事も出来、作売約済みの札が付けられている作品も幾つかあった。
 自然の山々の景色を描いたものが多く、エネルギッシュと言うよりは、見る側の心を透明にさせる力がある。だが、草木や花を描いたものになると、途端に現実と空想の狭間的な…独特の色と輪郭が描かれる。
 こちらの好奇心をざわめかす…草木を掛け分けてその先に居る人影を覗いてみたくなるような…。
 現実と幻想の空間に佇む少年?…いや、青年の影が数点の油絵に潜んでいる気がした。
 その影に惹かれつつ、最後の油絵の前に立った時、おれは驚きの余り「あっ」と、声を出してしまった。

 その油絵に描かれた青年はまさしく「宿禰凛一」そのものだったから。
 そして思い出したんだ。
 この絵を描いた「水川青弥」と言う画家の絵が、うちの家のホールの壁に飾られていたことを…
 夕焼けに映えた南アルプスを描いた油絵だったんだけどさ。
 なんというか…いわく付きって奴。まあ、極うちわの話なんだけどさ。

 しかし、この「GLORIA」って絵は、ため息が出るくらいに素晴らしい。
 真正面を向いた上半身の凛一さんが(おれの脳はもう凛一さんと認識している)こちらを見て、ニッコリと優しく微笑んでいる。
 本人に違わず美しく上品で、しかも色気がある。
 写真のようなリアルさはないが、独創的な色彩が加わり、現実の凛一さんよりもより幻想的に見え、それでいて、確かな息吹が聞こえ、今にもおれに話しかけそうな気がするんだ。
 その絵に惹きこまれたおれは思わず「凛一さん」と、小さく声を掛けてしまった。
 勿論、返事は無い。

「この絵気に入られました?」と、突然声をかけられ、声のした方を振り向くと、少し離れた場所に眼鏡を掛けたひとりの男性が、柔らかな表情で俺を見つめて立っていた。
「随分と熱心にこの絵を眺めておられたから」
「あ…はい。この絵のモデルが、おれの知ってる人に似てたから、なんだか気になっちゃって…」
 思わず自分の腕時計を見た。
 …どれくらいここにいたのかわかるはずもないけれど…
 目立つくらいに、ここに立ってこの絵を見てたのか…。
「似てる人?」
 その男性はさっきよりもおれの傍に近寄り、おれと並んでその絵を眺めた。
「あ、そうです。凛一さんって言うんですけど、すげえ美人なんですよ。あ、男性ですけどね」
「ああ、彼を知ってるのか…。じゃあ、白状してもいいかな。これ、宿禰凛一がモデルだよ」
「え?…あ…あの、あなた誰ですか?」
「ああ、ごめんなさい。水川青弥と言います。この絵を描いた者です。宿禰とは高校の同級生だったんですよ」
「……」

 思いがけない「水川青弥」の突然の登場に、おれはえらく動揺した。
 と言うか、この魅力的な絵を描いた画家が、凛一さんの同級生って事が一番の驚愕。だって、どう見てもこの絵「GLORIA」には、凛一さんへの想いがこめられまくっていて、それを「愛情」と呼ぶのか「熱情」と解釈するのかはわからないけれど、同級生だからという「友情」だけで片付けられるものじゃないと理解するのは、見まがう事が無いからだ。

「君、宿禰の知り合いって言ったね」
「はい」
「もしかして、嶌谷さんの?確か嶌谷誠一郎さんの弟さんの…」
「はい、その嶌谷宗二朗の息子の竜之介です」
「そうそう、リン…じゃなかった。宿禰から聞いたことがある。そういや、君のお父さん、僕の絵を買ってくださったことがあるんだ」
「南アルプスの、でしょ?うちの家に飾ってありますよ」
「なんか言い値よりも随分と高い値段で買ってもらって、恐縮したんだよ。割と気に入ってたからあまり売る気がなかったからかもしれないけど…」
「そうですか…。実はその絵でうちの親父と凛一さんが揉めたんですよ」
「は?揉めた、の?リン…宿禰と?」
 水川さんは少し驚き、そして興味深げな顔をして、おれの腕を軽く引き、「ちょっと時間ある?コーヒー奢るからその話、聞かせてくれる?」と、真剣な口調でおれに頼むのだ。
 おれもこの人と話したかったから、渡りに船とばかりに、急ぎ足で喫茶室に向かった。

 喫茶室の奥の個室には入った事が無かったけれど、コレクションの商談とかをする場所らしく、上等なソファとシックな設えが揃えてあった。
「ここなら他に気兼ねなくゆっくり話せるからね。なんでも注文して。て言っても、ここ、ケーキかサンドイッチぐらいしかないらしいんだけど」
「ここのアップルパイ、美味しいんですよ」
「じゃあ、僕もそれを頼みます」
 ウエイターにオーダーを頼み、窓から庭の景色を一通り眺めて、テーブルの向かい側に座る水川さんに目を移す。

 凛一さんと同級生なら三十歳って事なんだろうけど、童顔なのか若く見える。それに画家って言っても深緑のセーターと褪せたジーンズ。洒落たアクセサリーひとつも無い恰好で、どこから見てもアーティストには見えない。まあ、誠実そうな人柄とか、清潔さがこちらを不快にさせなくて良いんだけど。
 でも、さっきから凛一さんの事を「リン」って呼び捨てなのが気になるなあ。凛一さんへの一方的な片思いなのかと思ったけど、そうでもないのかな。
 
 さっきの煽った話の続きを聞きたそうな顔をしながら、決して急がせない水川さんの我慢強さにも好感を覚えたおれは、アップルパイを半分ほど味わった後、あの絵について話し始めた。

 
 別に大した話ではない。
 一昨年のクリスマスに宿禰さんがうちのパーティに来られた時、ホールに飾っていた絵を見て、親父に突っかかっていたんだ。
 おれは何事だろうと、柱の陰でこっそり眺めていた。
「だからなんでここにミナの絵があるんだよっ!」
「ミナって誰だよ」
「俺の友人」
「知るか。俺はこの絵が気に入ったから自分の金で買ったんだけだ。おまえに文句言われる筋合いじゃねえぞ」
「ぜって~嫌がらせだろう…」
「凛一の自意識過剰~。気持ち悪~」
「なんだと!エロ親父~」
 今にもとっくみ合いをしそうな雰囲気だったけれど、飛び出して止める力はおれには無いから、オロオロしながら眺めていた。
 結局、誠一郎伯父がふたりの仲裁に入って、事なきを得たんだけどさ。

 親父が家庭人として完璧だとは言い難いけれど、大人の男としてまた、大企業を支えるトップとしても尊敬している。親父のカリスマ性は誰もが認め、一種近寄りがたい雰囲気さえある。息子のおれだって、馴れ馴れしく甘えられない畏怖や、思わず敬語で話しかけてしまう気高さって言うのかな…とにかく近寄りがたいんだ。
 でも凛一さんは家族以上の馴れ馴れしさで、親父と罵倒しあう。それが羨ましいというか…親父に臆さない凛一さんに一段と惹かれてしまったんだ。


「へえ~。あの絵がリン…宿禰を怒らせたんだ」
「リンでいいですよ、水川さん。おれ、別に変な詮索しませんから」
「…そう?」
「でも、聞きたいな。凛一さんの高校の頃の話。どうやって仲良くなったんですか?クラスメート?部活が一緒だったんですか?」
「いや…クラスも部活も違ったんだけど…敢えていうなら…放課後の課外活動…園芸部で一緒だった…」
「園芸部?」
「うん、花や木々に水やったり、世話したり…それで仲よくなった…」
「やっぱり、大人って嘘つきですよね~。うちの親父なんかはしょっちゅう嘘ばかりついているけど、芸術家っていうのも、同じなんだなあ~。ちょっぴりショックですよ、水川さん」
「え?…」
「おれ、何も知らない子供じゃないですよ。同性愛だって理解してます。俺の高校でも色んなカップル居るし…。別に隠さなくてもいいんじゃないですか。だって十年以上も前の事でしょ?」
「そう…だね。まあ、君の言う通り…宿禰…リンと付き合ってた。言葉にするのもなんだけど…その…え~と、まさにすばらしき青春って感じだったな。…一生分のかけがえの無いもの」
「…」

 カマを賭けて見たものの、目の前の男と憧れの凛一さんが付きあっていた…と、聞かされ、ふたりの抱き合う姿を勝手に妄想し、ひとりでドギマギしてしまった。

「顔、赤いけど大丈夫?」
「え?ああ…ここ、少し暑いですね。エアコンの温度下げてもらいます」

 一旦気分を落ち着かせようと、おれは水川さんを残して席を立った。
 洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分を見る。

 めちゃくちゃイケメンではないけれど、学校では結構モテる方だ。決まった恋人はいないけれど、交際範囲は悪くない。
 おれ、ルックス的にもあの人よりも劣ってないと思うんだけどなあ~。一体あの人のどこに惹かれたんだろうな、凛一さん。

 不毛な問いを自分に繰り返しながら、おれは凛一さんとあの水川青弥という画家の関係をもっと知りたくてたまらなくなってしまっていた。
 


 Silent Night・Holly Night 1へ /3へ
 竜之介の親父たちの話は「破壊者のススメ」
 凛一の話は「greenhouse」で、お楽しみくださいませ。
 左のカテゴリからどうぞ。


新年最初の更新です。
腰痛の方はほとんど良くなったんですけど、怠け癖はなかなか抜けなくて、サクサク更新できなくて、すみません。
長い目で見守ってくださいまし~


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● COMMENT ●

サイアート様、遅く すっごく遅くなってしまいましたが、
明けまして おめでとう御座いますо(ж>▽<)y ☆

年末だぁ~!年始だぁ~!と、アタヽ( ̄△ ̄ゞ=ヾ ̄△ ̄)ノフタ と、していたら もう12日だって 恐ろしいわ!(苦笑)

竜之介が、ミナから聞いたリンの話し リンから聞くミナの話しで 何を感じ 何を思うのでしょうね。

話しは変わりますが、
主人が 会社の研修で 2年間 単身赴任になるかも??で、いつも以上に バタバタしております。
まだ 未定なので どっちでもいいから 早く決まって欲しいわぁ。。。ハァー(。´_`。)=3

今年も サイアート様、ご家族様共々 健やかに素敵な一年で過ごせます様に♪
最後に…
( *  ̄0)≪≪≪リン、大好き~~~♡...byebye☆ 


けいったんさん、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします+.゚(*´∀`)b゚+.゚

そうですね。もう一月も半分過ぎようとしているのですな~。光陰矢の如し~

ご主人が単身赴任ですか?
嬉しさ半分、心配半分ってところでしょうかねえ~
私のご主人が単身赴任の奥様を沢山知っていますが、大抵…楽~楽~と、喜んでいらっしゃるような~
でもご主人が帰って来る時は、上げ膳据え膳のおもてないを心掛けるとも…
あと、浮気が多かったりするので、ちょくちょく行ってやることですかね。
信じられないけど、ホントよく聞くので、びっくりです。なので私はダーがどっかに転勤したらぜって~付いて行ってややる~…と思ってたけど…ついにその機会が無かったので、ちょっぴり残念です~


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