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2019-11

02:45 - 2016.03.15 Tue


02:45


「ハルくん。実は俺、好きな奴が出来たんだよね。だからさ…悪いけど、ハルくんとは別れるね」
と、笑顔全開の顔であっさり言われた。
俺は余りに突然な事で、固まったまま動けなくなった。
口はポカーン、目は瞬きを忘れた。
開いた口が塞がらないとはこの事らしい。
ミナトに対しては大概の事なら饒舌になるこの俺が、何の言葉も出ない。
つうか…突然すぎるだろっ!それはっ!
昨日までは上手く行ってたはずだろっ?俺達。
…ま、待てよ。そう思い込んでたのは俺だけ?って、世間一般に聞く…あ、あれか?
熟年離婚?
…熟年って歳でもねぇし…

「わ…かれるって…なに?…好きな奴…って…ミナト…嘘だろ?」
自分の声の情けなさに別の俺が笑った。
「ホントだよ。俺、ハルカより好きな奴いんの」
笑顔を絶やさないまま、能天気にミナトが返した。
「…信じねぇよ…んなの」
「だって、ホントだもん」
「だ、誰だよ、そいつ…は」
「ジャーン!俺だよっ!ハルカくん!」と、突然目の前に現れた見慣れた奴。
「あ、アキラ!?」
「そうだよ」
「なんで?」
「だってね、ハルカよりアキラの方が楽しいし、優しいし、面倒見良いし、いつでも側に居てくれるし。ご飯も美味いし、掃除とか片付けとか、俺が頼まなくてもやってくれるし。それにね、車の運転もすげぇ上手くて、すぐに行きたいとこ連れてってくれんの」
「なぁ~。ミナトはさ、ハルカに気ぃ使うの疲れたって。俺の方が本音で付き合えるってさ。そりゃね、ハルカより俺の方が付き合い長いし、何よりね、ハルカみたいな気分屋とずっと一緒じゃ疲れるもんな、ミナ」
「うん、そういう事で、ハルくん、ゴメンね。ああ、バンドは俺もアキラも今まで通りちゃんとやるから心配しなくて良いよ」
「じゃあ、俺達これからちょっと夜のドライブでも楽しんでくっから」
「バイバイ、ハルくん」
「…ち、ちょっと…ミナトっ!」
嘘だ…嘘だろ?こんなの…絶対…嫌だーっ!


「待てって!ミナっ!」
…自分の声で目が覚めた。

夢だ…夢だったんだ…と、理解するまで数十秒…呼吸が正常に戻るまで数分かかった。
ベッドの上、まだ半分寝ている身体を起こす。
身体中汗でびっしょり濡れていた。身体だけじゃねぇ。顔も…涙でぐしょぐしょになっていた。
「なんて夢…見んだよ…」
最低最悪の気分だった。

夢は自分の深層心理を描くものとは聞いた事あるけれど、あれが俺の心の中に潜む形だとするなら、俺は心のどっかでミナトの事を疑ったりしているんだろうか…。
…選りにもよって相手が…「アキラ…って…なんだよ」
冗談にも笑えねぇぐらい…「リアルじゃんかっ!」
それに、その内容ってのが…全部が全部、俺がいつもミナトとアキラに対して思ってるわだかまりや僻みや卑屈さそのものであって、それは全部真実であって…そこを突かれたら、俺はひと言も反論できねぇ気がする。

「夢なんだし…気にすんなって」無理に笑ってみた。
乾いた笑いが暗闇に消えた。

今、何時?と、時計を見る。
午前二時…過ぎ…まだ夜は長い。

仕方なくベッドに横たわる。
眠れるはずも無い。
ミナトは…どうしているんだろう。
寝てるか、普通…。それともどこかで誰かと飲んでる?いや、明日も朝から仕事だからそれはない。
まさか、アキラと…?
おいおい、考えすぎだ。疑り深いのも度を過ぎると嫌われるんだって。

…今日、なんか変わった事あったか?
…いや、なにも…ねぇだろ…笑ってサヨナラした。

「アキラ、送ってよ」って、ミナトが言った。
「おまえ、いっつもそうやって買い物まで付き合わせるじゃんか」
「いいじゃん。アキラもどうせ買うじゃん」って、じゃれながら帰るふたりの後姿を見送った。そん時は…そうか、今日もあいつら一緒に帰るのか…ぐらいにしか思わなかったのに…。

こんな夢見るって事は案外重く引っかかってんだな、俺。
…いや…引っかかってるどころじゃねぇよ。
引き摺ってんじゃねえか。

ミナトに会いてぇ…

焦りが感傷に変わっちまうのは造作もない事だった。
こうなってしまったら、自分自身でどうしようもないのも、判っている。

枕元にあるはずの携帯に手を伸ばす。
無い…無い?どこやった?…あっ、リビング。
そういや風呂入った後、直行でベッドに潜り込んだんだっけ…

携帯を探しにベッドを降りる。
ドアに向かうつもりで大股で踏み出したら、脱いだまま、放り投げてた自分の服に足が絡まって…見事にすっ転んだ。ついでにドアノブに頭までぶつけた。
「…いっ…てぇ…」
足と頭を抱えて、痛さを堪える。
涙が出そうになった。
「何やってんだ?」
…俺は馬鹿か…情けないにも程がある。
くだらねぇ夢見たぐらいで、ひとりで落ち込んで、泣いたりして…こんな男、ミナトだって呆れて捨てたくもなるさ。
「ミナ…」
這い上がってやっとの事でリビングに辿り着く。
テーブルに置いた携帯を手に取る。
ミナトの番号を見つけて、通話ボタンを押す。

こんな時間に傍迷惑な事ぐらいわかってる。馬鹿にされる。呆れられる。
駄目な男だって笑われる。
…わかってるって…でも…我慢できねぇの。
ミナトの存在を確かめなきゃ気が済まない…

…早く、出てくれよ、頼むから。
涙混じりの鼻を啜る。
「ミナ…」
呼び出し音は鳴り続ける。
…居ないのか?もう、俺なんか嫌いになった?ねぇ、ミナトっ!
…プツ…画面表示が通話中に変わる。

『…い…』
「…ミナト?」
『…か…ん?…ど…した?』
「ゴメ…寝てた…よな」
『…ん…』
緩い空気が纏うミナトの寝ぼけ声を聞いて、馬鹿みたいに安らいだ。

「家に…居るの?」
『…そ』
「ゴメンな、夜中に…」
『う…ん…あっ、今何時?…二時…半…か…どしたの?ハルくん』
少しずつ覚醒していくミナトの声を聞いていると、無理矢理起こしてしまった事に申し訳なく思う気持ちと、どうしても確認しておきたい欲求が止められなくなって…
「え…アキラは?」
『へっ?アキラ?…さぁ…家に居るんじゃない?何?ハルくん。アキラに用事だったの?…えっ?俺んちと間違えた?』
「ば…違っ…」
下らな過ぎて、もう説明する気にもならねぇんだけれど、馬鹿みたいに安心しちまったから…すると、急に目の奥がジンとしてしまい…
『ハル?…ハルカ、な、なんかあった?』
普通じゃない俺の様子に、ミナトが慌てた声を出す。
違う…違うって、只のひとりよがりなんだって…下らねぇ嫉妬心なんだって…
『大丈夫か?…俺、行こうか?ハルんち』
「ち、ちが…違うの。夢…見ただけなんだ…って話なんだけどな」
『夢?』
「ん」
『どんな?』
「…」
どんなって…おまえが浮気したんだよ、アキラと。そんで俺と別れるって…そんなの言えねぇし…

「なんでもねぇの…ただちょっとさ。ミナトが恋しくなったって…ね」
『ホント?』
「うん」
『そうなんだ…俺もねぇ、夢見たよ。今さっきまで』
「へぇ、どんなの?」
『フフ…あのね、ハルくんとね、飛行機乗ってんの』
「飛行機?」
『うん。ほらジブリのさ「紅の豚」にあったじゃん。二人乗りのプロペラ飛行機みたいなさ』
「わかる」
『そんでさ、地平線見ながらすっげぇ飛んでるの。夕焼けがすげぇの。真っ赤でさぁ…でさ、俺が前でハルカが後ろに乗ってね。気持ち良かった~』
「ホント?」
『うん。んでね、ハルくんさ、すげぇ笑ってたよ』
夢の場面を思い描いているのだろう。
話しながらケラケラと笑うミナトの声が、耳に響いた。
「…」

不思議だった。
俺がこんな悲しい夢見て落ち込んでるのに、ミナトの夢の中の俺はすげぇ笑ってたのかって思ったら、不思議で仕方なかった。
ミナトの中では、疑いようも無い俺が住んでいるのにね。俺はミナトを疑ったりして…罪悪感で一杯になる。

「ミナト、ゴメンな」
『えっ?何が?』
「いや…夜中に電話しちまって、悪かったね」
『別に、気にしてないけど。それより…さ…なんだか嬉しいよ。おまえ近頃忙しそうだったし、あんま…連絡くれなかった…からさ』
「ん…」
そうかも知れない。
忙しさにかまけておまえの事、気に留めてなかったのかも知れない。
いっつも一緒に仕事して、当たり前のように側に居るのにな。
「恋人」としてのおまえの事を大切に思う余裕が少なかったのかも知れない。
ああ、だから熟年離婚か…

「思いやりは大切だよ」なんかちょっと前に、ミナトがそう言ってた気がしてきた。
ああ、あれは俺に対する牽制の意味が込められていたのかも知れない…ゴメン、気がつかなくて。全くもってデリカシーつうもんが欠けてた。
うん、マジ学習した。反省した。ほっんと悪かった。

「ミナト」
『ん?』
「今から行ってもいい?」
『えっ?こんな時間だよ?』
「かまわないし」
『寒いよ?』
「タクシーで行くから」
『明日…会えるのに?』
「今会いてぇの。ミナトが…恋しくてたまんねぇの」
『…じゃあ、すぐ来てよ。俺もね…ホントわね、ハルカの夢見たからさ…会いたくなっ…ちゃった…』
そんな飛び上がるほどに嬉しい言葉を貰う資格、今の俺にあるのかな。
ねぇ、ミナト。正直に言っていいんだよ。
おまえの事、本当にわかってあげてる?…頼りがい無くねぇ?うざかったりしねぇ?
俺、本当におまえに安らぎを与えてやれてんのか?

『ハルくん?…どうかした?』
「…ミナト、ありがとな」
『フフ…いいから早く来いよ。フトンあっためとくからさ』
いつもの柔らかく笑うミナトの声で、フトンに入らなくても心はあったまって…満たされてしまいそうになる。

ああ、早くおまえに会いたいよ。
顔見たら、すぐに抱きしめて一杯キスして、離さないんだ。
そんでめちゃくちゃ抱き合って、あったまろう。その時にバラすよ、夢の話。
だってね、人に話したら悪い夢は正夢にならないって、迷信かなんか知らねぇけど、聞いた事あるしね。
まあ、聞いたら呆れる事間違いねぇけどな。
反省の意味も込めて、情状酌量の余地ありって事にしてくれ。

「ミナト、好きだよ」
素直な気持ちを言葉にして、携帯を閉じる。
午前二時四十五分。
ああ、そうなんだ。
俺の見る夢はいつだっておまえの夢なんだと、気づかされた時刻だった。





久しぶりのハルカ×ミナトシリーズ。つうか2006年に書いてた奴。
ホワイトデーだったもので、うpしてみました~。
今じゃスマホなんだけど、携帯しかない時代だね。懐かしいね。
次週は絶対ヒロ×アスラを再開させるそ!



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