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2019-04

Assassin 7 - 2016.11.17 Thu

7
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    弦十郎

7、
   ※

 真に不思議な話だ。
 不思議過ぎて、未だにあれが本当に現実なのか、俺自身が疑ってしまうほどだ。

 その頃、俺は、死んだ親父の後を継いで、ひとりでの行商に大分慣れた頃だった。
 それまでは親父の背中を見ながらの仕事だった所為か、責任もあまり感じずにこなしていたが、ひとりで背負う責任ってやらは、思うほどに軽くは無かった。
 俺らの仕事は、個人の采配に任されているが、武器の確保やら流通は仲間の信頼あっての話だから、親父の培ってきた信用を汚しちゃならないと、俺なりに必死になってたところもある。覚悟は出来ていたとは言え、不慣れで思い通りにいかない事や、世間は若者に甘くないって事とか、荷が重い責任感やなんやらで、実際のところ、この仕事が嫌になりかけていた。だが、辞めるわけにもいかないのが俺の運命(さだめ)って奴だ。 

 まあ、親父が残した仕事の引き継ぎと、俺の顔見世の為、俺は色んな国々を渡り歩いていたんだ。そして、まだ春浅い季節に、西欧の端にある「サマシティ」って街に立ち寄った。
 街と言っても「サマシティ」は、独立国家として認識されているし、何より、アルト、つまり高位の魔術師たちの集まる街として、他国はこの街を薄気味悪がっていると言うか、怖れているんだ。
 だが、街も人もこれといって、別段他と変わった様子もないし、なにより貿易が盛んな街だから、商売人の俺としては、仲よくしておいて損はないと思って、色んな集会所に行っては、頭を下げ、挨拶に飛び回っていた。
 彼らはそんな俺を適当にあしらい、話さえマトモに聞いてくれる奴は僅かなもんだった。
 彼らの多くが白色人種なんだが、彼らは一応に姿形が美しく、そのプライド故に、他国の者を見た目で判断する性質が多分にある。勿論、仲間内の商売人は、あまり気にするなとは言うけれど、なんというか…美しい華に囲まれると、否が応にも自分が雑草のように卑屈に感じるもんなんだよなあ。 

 で、ある夜、知り合いの貴族の夜会に招待され、一応ちゃんと身だしなみを整えて参加したんだが、皆、商売の話どころか、話しかけても見向きもしない。
 確かに男も女も金髪美人ばかりのサロンに、雑草の俺はそぐわないし、とんだ目障りなんだろうね。
 大酒飲んで酔っぱらいたい気分だが、さりとて商売柄、印象を悪くしても得は無い。
 仕方がないから、ホールを後にし、独りテラスから出て、庭を歩いてみた。
 しばらく歩くと、池が見えた。
 池ったって、ニッポンみたいな水たまりみてえな池じゃねえぞ。まるで湖みたいに向こう岸が見えない。しかもそれが人工で作ったシロモノっていうから、驚きだね。

 真っ昼間だったら、ここで午後のティータイムと洒落込んだだろうけれど、夜も深く、館の灯りも遠くに仄かに見えるだけ。辺りはすっぽりと暗闇だ。
 白い小さなテーブルと椅子がうっすらと見えたものだから、誰もいない事を良いことにそこで一服することにした。
 ポケットから愛用の煙草を咥え、火を付けた。
 ふーっと一息吐くと、擦れた心が少し柔らかになった。
 辺りは静かだが、池には魚がいるらしく、時折小さな水音が聴こえてきた。
 見上げると夜空は曇って何も見えない。
 今の季節、ニッポンだったら舞い散る桜吹雪に一献なんぞと、花見でも楽しんだろうに…などと、ノスタルジーに浸っていると、闇の中から声がした。

「あれ?こんなところに先約か~」
 のんびりひとりきりに浸っていたいのに、邪魔が入りやがって…と、俺は小さく舌打ちした。
「…あれ?ニッポン人?…やあ、こんばんは。少しお邪魔してもいいかな?」
 闇から現れたのは、はっきりと顔形は見えなかったけれど、体型や声音から、十七、八位の少年のように思えた。
 驚くことに、彼は俺を見て、ニッポン語で挨拶をした。
 この街ではっきりとしたニッポン語を聴いたのは初めてだった。
 一瞬、ニッポン人かと思ったが、顔が見えるくらいまで近寄った少年を見ると、全く違う。
 眼鏡を掛けた黒髪の白人の少年。それも、影だけでもわかる相当な美少年…。

「ニッポン人…じゃないよな」
「うん、違うよ。友人にニッポン人が何人かいてさ。少しだけ喋れる」
「この街にニッポン人がいるのかい?」
「多くないけど、居るよ。皆、大抵変人なんだが、俺はそこが気に入っている。あんたも変わり者のニッポン人のようだね。…弦十郎」
 名乗らなくとも彼は俺の名前を呼んだ。
 こちらも、そう驚きはしない。
 魔術師…即ち、魔力の強いアルトは、人の考えを即座に読んだり、過去を覗くことも出来るんだ。
 そういう奴らが闊歩するこの街なら、俺の名前も語らなくても、呼ばれることぐらいは予想がつく。しかも、俺には心を制御する能力さえないんだから。

「ね、ここ座ってもいい?」
「どうぞ」
「ね、煙草一本くれない?」
「子供が喫うには苦いぜ?」
「構わないさ。それに俺はこう見えても大人だぜ?」
「そう…」
 どうせ嘘だろうと思った。どっかの貴族か、豪商の気取ったお坊ちゃんだろう。

「うえっ!マジ苦いや。よくこんなもん美味そうに喫えるね」
「酸いも甘いも知った大人だからな」
「へえ~。ホントかよ。…嘘をついたらすぐにバレるぜ。なにしろ俺は優秀な魔術師だからね、新任の武器商人さん」
「…」
 こういう輩に端から勝てないのはわかっている。でもこっちだってかっこつけたい時もあるもんさ。
 目の前の少年は、俺の本音を知ったからか、顔を見てにやにやしている。
 まあ、それで俺もかっこつけるのが、アホらしくなってしまったんだ。

「敵わないねえ、アルトさんには。ああ、そうだよ。この街の白人さん達に相手されなくて、勝手に落ち込んで、こんなところでイジケているんだよ。ほっておいてくれると有難いね」
 少年は返事もせず、ゆっくりと夜空を仰いだ。それに釣られて俺も空を見上げる。
 月も星もない曇天の夜空は、見るべきものもない。

「ね、今の季節、ニッポンって桜が綺麗なんだって?ニッポンの子がね、この間まで山の神をしててね。ちょうど今頃が見ごろなんだって言っててさ」
 少年の明るい言葉に、俺は少しホッとした。自分が不機嫌だからって、相手まで同じ気分に合わせるのは、大人げなさ過ぎて、情けなくなるからな。
「そうさ。今頃は昼も夜も花見見物でにぎやかしい。ニッポンはそれぞれの季節に見どころがあるけれど、桜の散り際が一番素晴らしいんだ」
 俺は出来るだけ明るく答えた。
「そう」
「…なんか、懐かしくなってきたなあ~。もう随分と、故郷の桜を見てないんだ。死んだ親父がさ、息を引き取る時、もう一度だけ桜の花が舞い散る下で酒を飲みたかった、なんてさ…呟いてた…。叶えてやりたかったけどな…」
 どうでもいいことを喋っている。しかもいつの間にか、俺の言葉はニッポン語になっていた。
 目の前の少年が俺の言葉をどれくらい理解しているのかなんて、どうでも良かった。
 今更だが、こんな異国で、俺は相当なホームシックに罹っていたのだ。

「じゃあ、今からちょっと行ってみる?」
「へ?どこへ?」
「桜見物さ。ニッポンに行けば見れるんだろ?」
「はあ?」
「行こうよ。弦十郎、案内してくれ」
「ど、どうやって?」
「俺は超一流の魔術師様なんだぜ。どこへだってあっと言う間に飛んで行けるのさ」
 少年はそういうと、上着のポケットから小さな円盤を取り出し、頭の上に軽く投げた。
 円盤は低く呻りながら輝きだし、真下に居る少年を照らし出した。
 初めて見る明るく照らし出された少年は、有名な女神の絵画にも似て厳かに美しく、それでいて、底知れぬ恐ろしさを感じた。
 少年は俺に手を差し出し、「さあ、行こう」と、微笑みながら誘った。
 俺は何が何だかわからないまま、でもどうにでもなれ、と、ヤケクソ気味に差し出した少年の手をギュッと握りしめた。



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