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2019-11

天の軌跡と少年の声 4 - 2017.07.28 Fri

4
 イラストはサムネイルでアップしております。
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 天少-4


4、

 部屋の中央には古い黒檀のテーブル、そして長椅子がふたつ。そのひとつに案内された神也は、まだぎこちない自分に呆れつつ腰を下ろす
 見た目よりも座り心地の良い椅子と、背中のクッションにくつろぎながら、神也はあらためて目の前のイールの姿に目を向け…見惚れた。

 打ち際の波の如く揺蕩う銀色の長い髪は、バルコニーからの傾いた陽を受け、無数の虹色にキラキラと揺らめき。少し影になったきめ細やかな白磁の肌は、うっとりと、うっすらと桃色に溶ける頬は、赤子のように清らかに、アーシュと同じく、整った鼻梁も口唇も、事も無く、ただただ、魅せられ。
 人目を引く派手で生命力に溢れたアーシュとは違い、手の届かない高みの高貴さを伺わせるオーラ、それでいて、優美で慈愛に満ちた微笑と相まった晴れた空色の中に飛翔する鷹の瞳に捉えられ…。

 神也はふうと息をついた。

 レイから聞かされた話よりも、一層、イールは素晴らしく尊い者なのであろう。精一杯に頭に描いた以上の御伽話の天上人そのものの姿が、神也の目の前にある。

「そんなに緊張しないで。口に合うかどうかわからぬが、旅の疲れを癒すお茶でもどうかな?」
 神様自ら茶器を扱う様に違和感を覚えぬ神也ではなかったが、勝手がわからぬままに、イールの命に従うのみ。粗相をしないようにと恐々カップを手に取る。
 「天の王」とは違う土色の陶器に懐かしさを覚え、喉を潤すさっぱりとした飲み物にも至極慣れ親しんだ気がして。

「…何だか、似ている気がする」
「神也の居た郷(くに)とかい?」
「うん、十二まで住んでいた郷では、これに良く似た緑茶をいつも飲んでいたから」
「茶葉はアーシュ…生まれ変わる以前のね。彼がアースから運んできたものだ。それを神殿の畑で育て、それから良い土地を探して広めさせた。かれこれ、三百年ほど前の話だがね」
「…」
 三百年前と言われ、神也は学んだ歴史を頭に思い浮かべてみるが、姿形が自分と比べ、ニ、三歳年長に見えるだけのイールが、三百年前を昨日のように言うのが一番の摩訶不思議。

「勿論、お茶も色々とある。これは神也の為に用意させたものだ」
「私の?」
「近いうちにおまえをこちらに連れたいと、アーシュが何度も言うのでね。休暇が始まる今日辺りだろうと、予感していたんだ。私の勘もまんざらでもないらしいね」
「…ありがとう…ございます」
 日頃からマイペースな神也だが、神様に気を使わせてしまったかと思うと、申し訳なさで心が痛む。思わず紅潮して、俯いてしまう有様で。

「ねえ、神也はレイと仲よくしてくれているそうだね。彼がクナーアンの民だと知っているだろ?最近はどんな塩梅かな?」
 神也が寛ぐ話題でもと、砕くイールに、神也は慌てて、
「レイはとても良い友人だ。セシルという恋人がいるんだが、私とはそういう関係じゃない。けど、親友なんだ。レイはちょっと変わり者だけど、私も変人と呼ばれているから、お互い気が合うのかもしれない。同室でもあるし…でも、そう思っているのは、私の方だけで、レイは私をそれ程好きではないかもしれないな。私はレイみたいに魔法が使えないし、無知で世間知らずだから、色々と迷惑かけてしまっている。だけど、レイはあまり困った風でもなく…私を友人として認めてくれている…気がしているんだが…本当のところはわからない…。私はレイみたいに人の心を見ることができないから。でも、でもね、ホントにレイは良い子なんだ。皆から好かれているし、頼られてもいる。授業態度も真面目だ。私みたいに遅刻もしない」と、精一杯。
「神也は遅刻をするの?」
「あ?う、うん。しようとしているわけじゃないけど、この世の様々なものが、私に呼びかけてくる。こっちを見てって。それで、ついそちらを見てしまうんだ。駄目なのはわかっているけれど…」
「駄目じゃないよ。神也は皆が見ていないものが、見えるんだ。それはおまえの良いところ」
「…うん」と、思いもよらぬ言葉を掛けられ嬉しそうに笑う神也に、イールも微笑み返す。

 確かに、この子は純真だ。
 
 イールはアーシュと同様に、天の皇尊ハーラルに与えられた強大な魔力を持つ。
 クナーアンを統治する神に与えられた権限は、好むと好まざると用いる必要がある。だが、それを使わずとも、目の前の少年のすべての思考はあからさまに見えてしまう。純朴と苦笑するには、気の毒な程の少年の魂。
 それを愛しく思い、その強固な形を、イールは認めた。
 神也の魂はガラスの様に透き通ってはいるが、脆くない。否、それはダイヤのようなもの。天然で、硬度で、光を招き入れ、輝きを放つが、近づきにくく、そして、非情な攻撃に弱い。

 アーシュはそう長い時を経ず、死ぬ宿命(さだめ)。そして、同時にイールもこのクナーアンから消え去る。
 クナーアンには新しき二神が生まれ、そしてアーシュの第二の故郷であるアースは…頼るべきものを失う事になる。
 それを見越してのアーシュの後継者選びに、イールも賛同し、様々な見解を述べたつもりだが、結局のところ、オブザーバーでしかないイールは、アーシュの決めた人選に意見するつもりなど無い。

 アーシュが選んだ後継者に興味がなくは無いが、クナーアンを統治する者として、他の星に関わりを持つ事は禁忌であり、イールとしては、極力避けたい事案。(アーシュだけはハーラルの大いなる慈悲により無効)
 だが、レイ・ブラッドリーをアーシュに預けた経緯を鑑み、神也の教育の一端を担うと言うアーシュの毎度の悪巧みを拒む事が出来なかった。
 「教育」とは、また些か大仰な話だと、アーシュから聞かされた時は思ったものだが、こうして神也を目の当たりにすると、純粋ながらもどこか心元ない神也を成長させるきかっけを支度しなければならないだろうと、イールも感じ始めていた。

 つまり、この子には、周りの者が、助けずにおられぬ才能がある、ということなんだろうけれどね。

「それから、レイはね…」
 調子づく神也を遮る如く、乱暴な音を立てアーシュが部屋の扉を開ける。すでに例のタキシードは着替えられ、今は清潔で簡素な神様用の室内着。

「食事の用意ができたぞ~。夕食は終わって、残り物しかなかったけど、まあ、神也の好みに合わせて作ってもらった」
「え?そうなの?」まだ陽も落ちていないのに、と怪訝な神也。
「ここは電灯を使わないから、食事は明るい時間に終らせるんだよ」
 神也の疑問に答えるイールの隣に、アーシュがドサリと座り、寄り掛かる。
「やっぱり異空間移動は腹が減る、疲れる。さっさと食って、イールの傍で寝たい…」
「そう言って、どうせ作る傍らで、つまみ食いをして、すでに腹も満ち足りたのだろう?」
「わかった?」
「口端にソースが残っている」そう言って、イールはごく当前とばかり、口端に付いたソースを指で拭い、舐める。照れもせず、お返しに、その口唇にキスを強請るアーシュに、
「ほら、神也の居る前で、子供みたいに甘えるな」と、掌で制止するが、構わず強請るものだから、困ったものだとばかりに、重ね合せ。ふふふと笑いあう。

 目の前の神也はじゃれるふたりに、戸惑う…以上に思考停止の有様で。

「初めまして、神也。御ふたりの世話役を務めているヨキと申します。残り物ですまないけれど、どうぞ、召し上がれ」
 アーシュの後にワゴンを部屋に運んできた壮年の男性が、トレイに載せられたご馳走を神也の目の前に差し出す。
「あ、はい。ありがとうございます」
 我に返った神也は視線をふたりから皿に盛られた料理に移した。
 木製のスプーン、それに思いかけずに箸がある。
「クナーアンではお箸を使うの?」
「木の枝が二本あれば、誰でも使えますからね」
「それはそうだね」
 顔を上げて改めてヨキの顔を見る。
 見慣れない真っ赤なくせ毛にがっしりとした体格。厳しい顔つきだが、見つめる目は穏やかに親しみが込められ、神也はすっかりと打ち解ける。
「これ…お粥?」
 箸で救い上げ、口に入れる。薄い塩味だ。
「幼い頃に食べてた味に似て…。懐かしいな」
「パンよりもこういったものが好みだと伺っていたのでね。口に合うとよろしいが…」
「とても美味しい。この煮豆も、野菜を煮たものも、スープも…。『天の王』で食べるより、ずっと美味しい」
「おい、神也、今のセリフ、聞き捨てならねえな。学園の料理長に告げ口してやるからな」
「…」
 ガラの悪い物言いをするアーシュは、すでにイールの膝枕で寛いでいる。
 その態度で言うものか?呆れながらも聞く耳持たず、神也は馳走を味わうことに集中。
 給仕をするヨキは、神也の食事に合わせ、ほどよい会話で和ませてくれる。時折茶々を入れるアーシュを、適当にあしらう様も慣れたもの。
 

 食事がすむと、ヨキの勧めで部屋を案内してもらう事にした。
 イールとはもっと話したかった気はするが、何しろアーシュが離さない。どころか、イールの膝枕で眠ってしまったから、仕方がない。

 手を振って見送るイールにお辞儀を返し、扉を閉めた後、大きく息を吐く。
 どうやら思った以上に、堅くなっていたらしい。

 ワゴンを押しながら先を行くヨキに「こちらへ」と、声を掛けられ、神也はあわてて付いて行く。
 自分が押すと言っても、コツがあるからと、ヨキは笑って譲らない。その実直さに神也は、よりヨキに好感を持つ。

「アーシュはいつもああなの?」
「あちらから戻られる時は、いつもあんな風かな。今日は特別に疲れていらした気もする。ひとりでいらっしゃるよりも魔力を使うそうだからね」
「私の所為…」
「そう、君の所為だよ、神也。そして君をここに連れてきたかったアーシュ様の意志だ。だから傷つくよりも、感謝することだね」
「…」
 思いがけないヨキの清廉さが嬉しい。

 神官とは皆、このように美しい精神の持ち主なのか…。
 いや、かつての私のまわりの巫女たちもそうであったのだろう。
 彼らの望む者になれなかった私は、きっと…

 善悪も己の判断、そして責任だと放つ「天の王」は、自由奔放。ある程度の悪さも寛容だが、度を越すと目も当てられぬ懲罰を請うことになる。それを楽しむ生徒たちも多い。
 神也が暮らした狭く厳しい掟に縛られた山の鎮守ではない事は承知の上。だが、「天の王」に居ると、神也は「山の神」であった頃が懐かしく…ただ懐かしく。

「この回廊が、神様の住む奥の院と、神殿の境界になるんだよ」
 回廊の左右に列柱したアーケードが、先の神殿まで続き。中で足を止めて外を見ると、山影に空は、紺瑠璃と染まり。そして、低い空の果てにふたつの弓張月が、金色に輝く。

 あれがイールとアーシュの月。レイに聞いたとおり、なんて幻想に満ちた風景なんだろう…

 見惚れる神也をヨキはただ見守り、「今宵は一層の輝きを」と。
「何故?」
「御ふたりが愛し合われると、クナーアンのすべてがうっとりとね、ただ幸せに」
 
 なんとも言えぬ優しい笑みに、神也の顔も自然と緩むばかり。




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暑すぎて、脳ミソ溶けてますllllll(-ω-;)llllll
つうか、まだ神也の夏休みは、始まらないって…。これ、冬まで続くのか?('ε`汗)


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