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2019-04

天の軌跡と少年の声 6 - 2017.09.05 Tue

6
 イラストはサムネイルでアップしております。
 大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


    ルシファー神官1


6、

 こう見えてルシファーは忙しい。
 あちらとこちらを行き戻りつつ、クナーアンでは神官、「天の王」では臨時教諭。
 「物理学」や「化学」などを教えている。
 彼の授業を受けた神也は、この世が数式や記号を使って解明していく様が面白く、何度も直に問いただす程。
 「あらゆるものが数式で表せるものなら、魔法の力は、どのように解明できるものなのか?」と、神也。それに応えてルシファーは、至極真面目に「数式や分子構造で説明できる場合もあるが、八割方は未だ解明できていないんだよ」
「あちらとこちらを行き来するルシファーにも、わからないものなのか?」
「残念ながら…。私の場合、クナーアンとこの『天の王』のゲートに限られているらしい。それすら理解不能の始末。多分、生まれ地への望郷と、一番大切な場所を繋ぐパワー…なのだろうけどね」
 そう言ったルシファーは、一瞬だけ切ない顔で神也を見て。
 少しだけ微笑んだ。
 
 思い出す限り、ルシファーはその外見のイメージと変わらず、いつも穏やかに、不快な表情を人には見せず、生徒の相談や質問にも、誠意を尽くして応え、人格者と讃えられていた。
 神也は人格者には興味がないが、アーシュを想うルシファーの姿には、些か心惹かれる。
 アーシュと幼馴染みのルシファー。恋人同士だったルシファー。イールの半身であるアーシュを、今も思い続けているルシファー。
 彼の想いは、どこへ行きつくのだろう…。

 神也がアーシュに初めてあった時、彼はすでにクナーアンの神様で、人間ではなくなっていた。つまり、スバルやルシファーと同い年であっても、アーシュだけは少年であり続け、そしてその姿は人外のオーラを纏っていた。

 共に成長した恋人が、自分とは違う者になる事に、ルシファーは戸惑ったのだろうか。苦しまなかっただろうか…。
 昔は考えもしなかった事だけど、近頃の神也は、色々と考えてしまう。

「景色の良い場所を案内しようか」
「うん」
「意外と穴場なんだ」
 いつものように微笑むルシファーに、影は見えない。

 神殿の四方にある階段はそれぞれの角に展望台が用意されているが、北のそれは小さく、長く狭い階段も入り組んでいるためか、来客は少ない。
「でも、落日を拝むにはここが最高なのさ」と、ルシファーは神也を誘う。
 大理石の腰かけにふたり並んで座り、目の前の景色を眺め。
 陽は傾き、柔らかく光る絹雲が薄青空にたなびく。

「日が沈むには、少し時間があるね」
「あれ?目の前の山だけ、白いね。他の山々は緑なのに」
「シトリー山と言って、万年雪なんだ」
「へ?あの山だけ?」
「この星を作った天の皇尊ハーラル様が、あの山だけ、年中雪を降らせているんだ。夜に雪を降らせ、朝になると雪は止み、晴れた青空の下、陽の光で、キララキラと煌いて」
「どうして、そんな事をするのだろう」
「さあ、どうしてだろうね。私が聞かされたのは…この星の神話なのだがね。クナーアンはハーラル系十二の惑星の中で、ハーラル様が一番最後に丹念込めて作られた星。陸と海、山と平地、町と田畑の割合など、事細かく、バランスを考え。他の惑星から移動した民の人選にも、相当に気を配られたそうだよ。この神殿もまた、イール様とアスタロト様の為に、荘厳神聖にその御手で建てられたものなんだ。そして、ふたりの神が、美しい山々をいつも楽しまれるように、シトリー山に毎夜雪を降らせる…との、言い伝え。…ハーラル様は至極ロマンチストな御方なんだろうね」
「神話なのだろう?本当に…存在するの?」
「私は会った事はないけれど、イール様は勿論の事、アーシュも御拝顔されたのだから、この世界では居られるのだよ」
「なんか…凄い話ね。科学的思考では追いつかないや」
「ホントにね。あちらの世界では及びもつかない出来事が、クナーアンでは現実にありえるからね」
「私も神様と煽てられた頃もあったが、本当に無力だったから、周りの者達が、それは気の毒。まあ、比べても仕方のない話だが」
「それでも、神様だった神也のおかげで、心安らぐ者も少なからず居たものだろう。卑屈になる必要はないよ」
「ありがとう。ルシファーはやっぱり優しい先生なのだな。エノクが言っていた。大人になったらルシファーみたいになりたい、と」
「そう…」

 黒い瞳が、その純真さを一杯に湛えた黒眼が、ルシファーを見つめる。
 アーシュに似た黒髪と黒い瞳を持つ東方から来た少年は、ルシファーを時折苛立させた時もあった。
 神也だけじゃない。
 アーシュが気に入った人間を、ルシファーは手放しには歓迎できなかった。
 「それは幼馴染みとしての、恋人としての、エゴでしかない」と、親友のベルは容赦なく。そして「当然さ。俺も気に入らねえからね」と、悉く同意する。
 ベルの存在にルシファーは、何度も助けられ、傷を癒され、捻くれずに、自分をコントロールする事を覚えた。

 あの頃の自分ときたら…。誰かから羨まれるような人間には遠かった。
 
 アーシュの魔力でルシファーの生まれ故郷クナーアンに送られた時から、ルシファーの運命はアーシュから切り離されてしまった気がした。
 十四の時までは番いの如く、昼も夜も離れずには居られなかったはずなのに。
 夢にまで見た両親との生活は、戸惑うほどに平和で穏やかに。だが、日が経つほどにルシファーは「天の王」が恋しくなった。
 「絶対に帰ってこいよ」との、別れの言葉を忘れようはなかったけれど、アーシュがクナーアンの神で、イールの半身だと知った時、ルシファーは諦めなければならなくなった。
 
 アーシュは自分のものでない。

 イールを前にすると、アーシュへの自分の愛が、ちっぽけなものに見える。
 民が捧げるイールとアスタロトへの信仰や崇拝と、同じ類の感情に思える。
 まぎれもなくルシファーはアーシュと愛し合った仲だが、それはアーシュ自身が何者であるかを知らぬ頃の話であり。
 クナーアンに還り、イールを我が半身と認めた時、アーシュはルシファーの届かぬ遥か遠くへ、と。
 それはクナーアン人としては喜ばしいことだけど、恋人として一緒に生きてきたルシファーには辛く。
 何よりルシファーは、クナーアンの民同様に、二神への絶対的な崇敬がある。その崇敬は、生まれた時から魂に刻み込まれているようなもので、いくらアーシュを個人的に愛していようと、逆らいようがない。
 あの収穫祭の日。神殿の玉座に座る二神の姿は、ルシファーを感涙させた。
 神殿に居たすべてが、仰望し、賛美し、酩酊すると同じように。
 
 アーシュはクナーアンの「神」になってしまった。 
 幼馴染みのアーシュが、ルシファーの信仰になってしまった。

 だが、気持ちは簡単には切り替えられない。
 自分が思うよりもずっと不器用なのだと、ルシファーは初めて自分の脆弱さを呪った。
 イールへの嫉妬で醜くなる前に、彼らから逃れようと「天の王」へ戻る事を決めた。だが、同時に二神への、特に敬愛するイールへの信仰は深く、彼の傍で仕える恩恵も手放せなく、アーシュが「天の王」で暮らす間は、クナーアンでイールに仕える事を望んだ。

「ばっかじゃねえの!折角会えたのに、なんで別々に居なきゃならねえの?セキレイは俺と一緒にいたくねえの?」と、不機嫌この上ないアーシュに、ルシファーは苦笑い。
「昔の君と僕の間柄では無くなったのに、昔と同じようにって…。それこそね、君が昔、言った二律背反だよ。僕の気持ちを少しでも考えてくれるなら、そんな事は言えないはずだ」
「俺は今でもセキレイを愛してるよ」
「僕だって…。でも君は神様になっちゃったし、イール様がいるじゃないか。僕はそのイール様の従順な僕(しもべ)として、仕えたいんだ。クナーアンの神官としてね。でもふたりを見るのは、少し辛いんだ。イール様だって、君と一緒にいる僕を見たら、良い気持ちはしないだろう。だから、君の居ない場所で僕は暮らしたい。言っておくが、クナーアンとしての君への信仰も、イール様には及ばずとも持ち合わせてはいるんだからね」
「ぜって~嘘。おまえ、自分でわかってないと思うがね。イールを眺めている時と、俺を見てる時の顔、全く違うから。こっちの方こそ、ジェラシーだぜ。俺より、イールの方にデレデレなんてさ」
「君って…全然変わってないんだから」
 思わず声を出して笑ったルシファーの負け。

 いつだって、敵わなかったね。君は僕の心に特別な感情を生み出すたった一人の…恋人だった。

 クナーアンの神様になってもくれる「愛してる」の言葉が、何より嬉しい。
 だが、現実は、愛を語り合う状況ではなかった。

 アーシュ達がクナーアンから戻った時、「天の王」では、学長のトゥエ・イェタルがテロリストに囚われ、「天の王」は勿論、世界中がこの騒動に震撼していた。
 今では「ホーリー・スピリット・コミュニオン」と、名乗り、イルトを中心とした組織を構成しているが、この頃は、手当たり次第にアルト殺しを繰り返す狼藉者の集団。
 アーシュはスバルとジョシュアを連れ、トゥエ・イェタルを取り戻すために乗り込む。すでにクナーアンで覚醒したアーシュの能力は、想像を超え、彼らを圧倒し、造作もなく、トゥエを助け出したが、時遅く、彼の命は消えていた。
 トゥエを失った事に、「天の王」ばかりではなく、サマシティの人々も混乱と不安を募らせ。そして、彼らは、ヒーローの如く現れたアーシュへ一心の期待を。
 アーシュもその自覚はあったが(クナーアンでの経験が彼を何倍にも成長させてしまった)、卒業もしていない一学生であった為、周りの者達と相談し、エドワード・スタンリーを「天の王」の学長に推薦した。
 エドワードはアーシュの親友であるベルの叔父で、「天の王」の卒業生「愛し子」のひとり。

「いくらアーシュのお願いでもね、私が学長なんてさ…。トゥエが生きていたら何と言って嘆かれるだろう…」
 エドワードは学生の頃は素行の悪さで有名。今も男関係は派手だ。だが同時に有能は実業家でもあり、ベルの父親であるこの街最大の貿易商社を持つスチュワート・セイヴァリの右腕として名を馳せている。
「じゃあ、一晩付き合うからさ。頼むよ、エド。他にちょうど良いのが見当たらないんだ」
「褒めてるようには思えないが、持ち上げられても居心地は良くない。そうだな、おまえが、一晩私を楽しませてくれるなら、考えてやってもいい」
「了解した。では、エドワード、お互いに素敵な夜を、味わうとしよう」と、意味深なウィンクを流し。
「アーシュ!エドワード!君たちは、この非常時に…。学長の座を何と考えてるんだ!」と、叱りつけるベルに構わず、ふたりは約束のキスをした。

 その約束の一晩ときたら…
 ふたりは朝方までポーカーに興じ続け、劣勢なアーシュは幽霊伯爵のイカサマのおかげで、辛くもエドワードを負かし、学長の座を承知させたのだった。



天の軌跡と少年の声 5へ7へ


過去の話は、説明的だが、やっぱりちゃんと書いておきたいので。もう少し、ルシファーの回顧が続きます。
描いてみたら、アラサーのルシファーもかわいいかもな。


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