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2019-11

天の軌跡と少年の声 11 - 2018.01.21 Sun

11
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神也表紙5


11、

「麦刈りには良い日和だ」と、空を見上げるイールの言葉に、テラスのテーブルにお茶を用意するルシファーも同じように眩しげに空を見上げた。
 隼に似た鳥が、羽を広げ、空高く優雅に舞っている。
「はい。子供たちも昨夜は大騒ぎでした。なにしろ、毎年恒例とは言え、お泊りの遠出は珍しいから、楽しみで仕方ない様子で」
「一番楽しんでいるのはヨキかもしれないね。年に一度、神殿の仕事から解放される」
「お言葉ですが…ヨキ神官長はイール様のお傍で働くことが、一番幸せそうに見えます」
「安穏に過ごすことを幸福と呼ぶのなら、好奇心を満たすことを楽しむと言う。どちらも生きるには必要だよ。それより、神也も同行したのだろう?」
「はい、慣れない者には大変な仕事だからと言ったのですが、それこそ、好奇心には逆らえないと、神官長に頼み込んだみたいです」
「あの歳の頃は、何でも自分で見て、触って、確かめずにはおけないのだ。それが危険なものでも、辺り構わず足を踏み入れるのだから、周りの者は冷や汗を掻く。ルシファーにも経験があるだろう?」
「…はい」
 昔の自分を見透かされたようで、ルシファーは恥ずかしくなり、思わず顔を赤らめた。
 この歳になっても、イールの前では、子供のようになる自分を不思議に思う。聞き分けの良い従順な子供になったり、ただ甘えん坊でいたくなったり、叱られたくなったり…。
 
 アーシュにはこんな感情は沸いてこないのに…。
 イール様への僕の感情は、いつだって親以上の尊敬と信頼なのだ。

 ルシファーの気持ちを知ったか知らずか、イールは用意されたお茶を満足そうに口にした。
 イールは滅多に何かを口にする事はない。動物の肉は元より、野菜もパンも摂らない。唯一水分だけは必要だと言う。だから、係りの者はイールに喜んでもらおうと珍しいお茶や新鮮な果汁などを用意する。軽いビスケットなどを添えて。
 用意された桃のタルトを少しだけ食べ、様子を伺うルシファーに「残りはルシファーがお食べ」と、勧める。
「え?お口に会いませんでしたか?」
「いや、美味しいよ。でも沢山食べるとね、気が澱むのだ。何しろ、クナーアンの大気には私達を活性化させるエナジィに満ち溢れているから、それだけで十分なのだよ。ハーラルのご加護だと言うが…。まあ、アーシュは…あれは規格外なので、さすがのハーラルもお手上げなのだがね」と、イールはさもおかしそうに笑う。
「ハーラル様…天の皇尊とは一体どういう御方なのでしょうか。想像すら及びません。このハーラル系の十二の星々を創生された御方なのに、肖像画や像、記録もあまり見当たりませんよね。でも実際には居らっしゃる。イール様やアーシュはお会いになった…。とても不思議で…何度聞いても夢物語のようです」
「ハーラルは気分屋で、自分の姿を様々に変えて、自分の作った星々を巡り歩いていると言う。もしかしたら、ほら、空も舞うあの鳥に姿を変えて、私達を見下ろしているかもしれない」
「え?」
 ルシファーは驚いて、再び空を見上げた。
 先程の鳥は、同じように天上をゆっくりと回転しながら、呼応するように高く鳴いた。
「…まさか…ね」と、言いつつルシファーは風で乱れた髪を慌てて撫でた。
 
「気に入った者を徹底的に愛し、気に入らない者は捨て置く。気紛れで純粋で、残酷で賢く、そして見る者すべてを惹きつけずにはおけない為政者…それがハーラルという御方だよ」
「聞いているとなんだか…」と言いかけ、ルシファーはあわてて口を噤む。
「アーシュに似てると言いたいのだろ?」
「いえ、冗談にもアーシュに似ているなんて、ハーラル様に対して、余りにも不遜で軽率でした…」
「いや、私もハーラルの気質はアーシュと良く似ていると思う。そもそも、ハーラルは十二の星々を創り、最後に自分の理想を求め、このクナーアンを創った。そして、最後にどうしても自分に似せた神を創りたかったのだと、私は思うよ。ハーラルの御前に参る度に、一層アーシュに似ていると感じる。だから、クナーアンに住む者はハーラルを思い描きたいのなら、アーシュを見ればいい。あれが創生の天上神ハーラルだと。ね」
「…」
 イールの口から迷いもなく語られる神話を聞く時、ルシファーは身体も心も宙に浮かぶ気がする。
 夢物語と言えばそれまでなのに、高潔なイールの言葉に嘘偽りなど一切無いと思わせる。それなのに、思い描くことすら困難な存在の天の皇尊ハーラルは、どこにでも存在するかもしれないなんて… 
 なんという、ファンタステックでロマンチックな気分なのだろう…

 ルシファーは時を忘れたかのように、夢みる様にぼーっと佇んでいた。
 イールに声を掛けられるまで、ただお茶のポットを持ったまま。
「そろそろヨキ達が村に着く頃合いだね。今年はどの田畑も豊作のはずだよ。アーシュが念入りに祈ったからね」と、イール。
 バツが悪そうに顔を赤らめるルシファーにイールは優しく微笑んだ。


 朝、太陽が昇ると同時に神殿を出発した幌馬車には、手綱を引くヨキを先頭に、神也やエノクと同年の三人、それに年下の少年少女が四人と、ひとつ上の少年レントが乗っていた。
 広大な田畑を持つ農場主レイモナールは、神殿から許された生真面目で真正直な人柄の働き手で、毎年、神殿から手伝いに来る者達を心から歓迎する。
 ヨキ達だけではなく、神殿の保育院から旅立った者たちも集まり、久しぶりの再会に、喜び合いながら、麦狩りに精を出すのだ。
 特にヨキには懐かしい顔ばかりで、甘えん坊や我儘だった子供が、立派に成長した姿で挨拶に来ると、自分の子供でもないのに、目頭が熱くなってしまう。
「私ももう歳かな」と、何気ない独り言を聞きつけ、エノクは「正直、神官長は歳だけど、神官長ほど立派な方はいないから、ずっと神官長のままでいて欲しいな」と、あざとく。
「エノク、おまえがルシファー先生推しって事は、神殿の誰もが知っているんだがね」と、エノクの頬を抓るふりをして笑う。

 麦の収穫は近くの村人達を集めての大掛かりなものだった。
 神也も初めての麦刈りに戸惑いながらも、村人に習いながら少しずつ丁寧に刈っていく。年下の者は刈った麦を藁で纏め、麦の穂を梳く為に倉庫へ運ぶ。
 誰も彼もが、汗を掻き、懸命に勤しむ。
 時折、果ての無いように思える黄金の波に呆れながら神也は見惚れずにはおられない。
 
 スバルと共に山を降りた時、初めて見た稲の穂が揺れる風景が、神也はこの上もなく眩しかった。毎日食べていた御飯がこの実りだと教えられ、何も知らない自分が情けなくて、悔しくて…

 少しでも恩返しが出来ると思って、がんばろう。

 神也は汗を拭き、また鎌を握りしめ、麦を刈る。 

 夜、夕餉の後、母屋とは別棟にあるゲスト用の部屋に子供たちは雑魚寝になる。皆、さほど騒ぎもせず、疲れの所為か一斉に眠りについた。
 ヨキと大人の者たちは母屋からお酒でもと誘われているのだろう。部屋の中は静まり返ったままだ。
 隣で眠るエノクが毛布に潜り、神也の腕を引く。神也もエノクと同じように毛布をかぶり顔を寄せた。エノクは小声で話し始めた。

「神也、良い話を聞きたくないか?」
「何?」
 顔はよく見えないが、エノクの声は弾んでいる。
「実は俺、ここのご主人に気に入られてさ」
「へえ~」
「前の年の時も可愛がってくださったんだけど、今日、養子にならないかって言われたんだ」
「ホント?」
「しーっ…。まだ誰にも話してないんだから、俺と神也の秘密な」
「わかった。でも…エノク、本当に養子になるのか?」
「う~ん、迷ってるってのが本音かな。神殿で暮らす居心地の良さは捨てがたいよ。イール様もルシファー先生もいるからね。でもさ、こういうところで汗水掻きながら田畑を耕す暮らしってのも、すげえ大切だと思うんだ。それにここのご主人も奥様もおせっかいだけど、すごくあったかいから、俺のおとーちゃんとおかーちゃんになってくれたら、なんか…うれしいかな、なんてさ…。十六になるのにおかしい?」
「少しもおかしいとは思わない。私はエノクに幸せになってもらいたいと願っている。どちらにせよ、エノクがしっかり考えて決めればいい」
「うん、そうする。あちらさんも急いでないからと言ってくださっているからね。でも、なんか嬉しいよね。自分が必要とされるのって」
「そうだね。本当にね」
 いつになく素直なエノクに、神也も嬉しくなる。
 彼の幸せを祈らずにはいられない。

 その夜、ふたりは手を繋いで眠った。
 エノクが親友の印だと、神也と手を繋ぎたがったのだ。
 神也は驚きと嬉しさで変な気分になった。

 ああ、早くスバルに会って話したいな。レイの他にも親友が出来たって言ったら、スバルもきっと喜ぶだろうなあ。
 ねえ、スバル、こちらの世界の事、山のように話したい…。


 翌日も昨日と同じように朝早くから起き、麦刈りと脱穀三昧で、一日が過ぎていく。
 皆、今年の豊作を喜び、声高らかにイールとアーシュへの感謝を空に響かせる。
 彼らの言葉はきっと神殿のイールにも聞こえていることだろう…と、神也は神殿の方に向って頭を下げる皆の姿に心打たれた。
 
 陽も暮れる頃にすべての収穫は終わり、働きを労ってのパーティが開かれ、農場主たちの精一杯のもてなしに、村人もヨキ達も心からの感謝を示した。
 子供たちは中々味わえないご馳走を腹一杯に平らげ、お礼にとクナーアンを讃える歌と詩を披露した。
 神殿では滅多に酒など飲まぬヨキさえも、勧められた蒸留酒を味わいながら、村人たちの踊りに参加し、夜遅くまで宴会は続いた。

 そして、その夜遅く、事件は起こった。

 寝静まった静けさを破るように、突然「泥棒!泥棒だ!」と、誰かの叫ぶ声が響き渡った。
 エノクも神也も何事かと起き上がる。
 年上のレントが、外に出ようとするふたりを押しとどめた。
「神官長から、ここで待つように言われている」
「でも…」
 好奇心には勝てないとばかりに、エノクはレントが止めるのを聞かずに部屋の外へ走り出る。
「…ったく、あいつったら。人の言う事は全く聞かないんだから…」
「レントも大変だね」
「うん、でも神也が来てからエノクも少し大人になった気がするよ。君の存在はエノクに良い影響を与えているのだろうね」
「それなら良いけれど」と、神也はレントと部屋へ戻った。

 それから朝が来て、おぼろげに神也が目を覚ますと隣にはエノクが寝ていた。
「エノク?起きてるんだろ?昨晩は何かあったの?泥棒って聞こえたんだけど…大丈夫だったのかい?」
「…収穫した麦が盗まれたんだ」
「え?」
「でも取り返した。盗人も捕まった。さっき、お役所の人が来て…盗人が連れて行かれた…」
「そう…良かったよ。折角みんなで収穫した麦が盗まれたんじゃ、元も子もないからね。でも…クナーアンにも泥棒がいるなんて、何だか信じられないなあ」
「どこにだって悪い奴は一杯いる。前にそう言ったろっ!」
 エノクはそう言い捨て、神也に背中を向け、毛布を頭まで被った。

 しばらくして、押し殺した泣き声が神也の耳に聞こえた。
 神也は何があったのかも聞けず、毛布を被った震える背中を見つめていた。




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次こそは、早めに更新したいわ…

アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
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