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2019-12

宿禰凛一 「密やかな恋の始まり」 3 - 2009.02.23 Mon

3、
学校にも漸く慣れた頃だった。
珍しく兄が風邪をこじらせて臥せっていた。
「鬼の霍乱って言う奴だね。ずっと部屋にこもっていただろ」
「レポートが間に合いそうに無くて焦ったよ。なんとか合格点はもらえそうなんだけどな」
「休学してんのに、そういうのはやらなきゃ退学なんてさ…一流の大学院は大変だな…熱は…7,5…大分下がった」
「たまに病気になると世話人の優しさが身に沁みていいね。おかゆ美味しかったよ、凛」
「姉貴仕込みだからな」
「…で、学校は?上手くやってんのか?嫌な事とかない?」
「上手くやってなきゃ毎日真面目に行ってないよ。退屈だけど、嫌じゃないよ」
「そうか…なら安心した」
「薬も飲んだし、もう暫く休んでいろよ」
「うん、ありがと」
目を瞑る慧一を確かめて、俺は寝室を出た。

あれから三ヶ月近くになるが、今のところは至って平和な高校生活が送れている。
先輩と思われる奴からのアプローチや、十とはくだらない熱いラブレターも頂くが、完全無視だ。男子校だから珍しくも無いだろうし、その気が無いわけじゃないが、こっちは生まれ変わった気分で学生業やっているんだから、お引取り願うことにしている。
力ずくでこられた時は…俺、小学校卒業まで護身用として空手習わされているからな~実践も結構やってるし…貞操は守る自信はあるつもりだ。
あれだけ俺に仕掛けた藤宮の奴もごく普通に他の生徒と変わりなく接しているので、今のところは問題ない。
俺への信頼を本気で勝ち取る気でいるのかどうかは怪しいが…
あの一件については…慧一には話していない。
これ以上俺の事で心配させたくないし、まだ何も起きてないうちから言うような事でもない。

友達は結構出来た方だ。
この学校は他県からの生徒も多いし、中学の頃の顔見知りが居ない事が俺を安心させた。
しかも、勉学第一主義の真面目なお坊ちゃんばかりだから、プライドが高い割に、俺みたいなちょろっと顔が良くて、適当に話がわかる人間は好まれる。
中学で粋がっていた分、俺はここでは大人しい従順な生徒を心がけた。

それでもたまに息抜きをしたくて、一服できる場所を探しに、あちこちとうろついていると、別館の裏庭にいい休憩所を見つけた。
温室みたいだが、誰も手を入れていないんだろうか…
入ってみると、外観よりもキチンと整理されている。
沢山の鉢に植えられた植物は伸び放題だが、枯れているものはなく、誰かが世話をしているようだ。
園芸部とかかな…
それにしては外からの見た目が悪すぎるだろう。これじゃ廃屋だ。
まあ、一服するには丁度いいオアシスって事にして…

心も肺も癒しながら、西に向かう太陽の光が硝子に差し込んでくるのを眺めた。
近寄って硝子の向こうの景色を見る。
ここからだと、運動場を挟んで校舎の右斜め、レンガ色のチャペルのステンドグラスが見える。
ここのステンドグラスに画かれているのは七羽の白鳩がアーチに向かって飛翔する絵だ。丁度尖塔のウリエルに救いを求めるようにも見えるわけだ。
相変わらずウリエルの翼は、太陽に挑むように神々しく輝いている。

…静かな午後…まどろみの中、ゆっくりと時間が過ぎる。

…あの人のピアノが聴きたい。
こんな陽だまりを知っていれば、あの人も救われたんだろうか…

すべての罪を我が肩に…
そんなもん重くて肩が凝っちまうよ。
両手を広げたその後に、払って落として逃げてやるのが勝ちってもんだ。

その「まどろみのグリーンハウス」と名づけた寂びれた温室は、俺にとっては絶好の息抜き場所となった。
ゆっくり時間を楽しむには最高の隠れ家。
ただ、誰かがいる気配がする時は近寄らないように気をつけた。
ここはあくまでも孤独を楽しむ場所であるべきだ。

日差しが強くなり、制服も夏服に衣変えになった頃、いつものように温室に近づいてみると、誰かがいる。
いつも俺のかわいい植物達を世話してくれる園芸部員の方かな?などと思い、こっそりと様子を伺うことにした。

俺のお気に入りの場所に立って硝子窓から、向こうを眺めている後ろ姿には見覚えがあった。
気がつかないようにそっと回り、横顔を伺う。

…水川青弥だ…
しかもその手には煙草を持って…慣れている風情で銜えやがった。
なんだか可笑しくなった。
学院一頭のいい優等生がこんな寂れた温室で、一服しけ込むとは…なんつう俺好み。
まあ、入学当時から気にはなっていたんだが、隣のクラスとはいえ、系列も違うし、接点もないしな。
何より…向こうが俺を意識してかどうか知らんが、警戒している風にも見える。
あの手合いはいきなりこっちが攻めても逃げるに決まっている。
手に入れるにはその警戒心をゆっくりと解きほぐしてやんなきゃならない。

それに…ああゆう綺麗なのは、見ているだけの方が救われたりするのさ。変に汚しちゃいけないシロモノだってあるからな。

夕陽に映えるその姿を暫く眺めた後、俺はその場を離れた。

水・川・青・弥…
とうとうと隅々まで行き渡る清き水の流れ…鮎かな、山女…いや、あれは流れそのものだ。
流れを遮ってはいけない。大海まで澱み無く注いでいかなきゃならない。

俺はそいつを勝手に「エコミナ」と、名づけた。



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● COMMENT ●

携帯から

初めて携帯からリンミナを読みました。錆色の文字が意外と読みやすいですよ!リンは、強烈ロマンチストだったのね。
夏服になって出会いも近づいてるけど、色々と画策しているリンも好きです!

アドさん

私も今日は出かけていたので、実家で読んだら、文字色がなんか良かったですね~
凛の性格がどんどんマトモじゃなくなっていくんですが、ミナは物凄く普通の高校生なので、極端に違いを見せるのも面白いかな~と、サクちゃんとそういう方向で行くことにしました。
この妄想癖は凛の外見と違うってところが私は気に入ってますね~

洗濯機こわれましたか!

うちは先日、冷蔵庫がこわれました!
普段なにげに使ってる電化製品がこわれると、けっこう大変ですよね。
影の主役ウリエルかしらん。(笑)
いえいえ。凛の心の投影がウリエルなんだわ。(勝手に妄想中。)

おふくさん

毎日の必需品が壊れると本当に困りますよ。
毎日山ほどの洗濯物なんです~(T_T)お天気も悪いから乾燥機もかけるし…

そうですね、ウリエルは「神の光、神の炎」という意味らしいのですが、私は「ラジエル」という天使の方がリンらしいな~とは思っているんですよ。
「セファー・ラジエール」を手に持つリンの絵が描きたいな~と、思っているんですが…

妄想していただき書きがいがあります。
益々妄想爆発するリンなのですが、冷静なミナがどう行動するのか…楽しみなところなんですよ~


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