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2019-11

水川青弥 「予感」 1 - 2009.04.08 Wed

rinminahyousi

 この週末、夏休みの間も講習のために寮に残っていた生徒たちはほとんど帰省し、寮の中は閑散としていた。
 おれは舎監に外出届を出して、自分の部屋で身支度を始める。
「えっ、みなっちも帰省しちゃうの?」
 ベッドの上でごろごろしていた根本先輩が訊いてきた。
「違います」
「よかった~。っていうかさ、みなっちはなんで帰省しないの?」
 その質問に答えずにいると、先輩はかまわずに続けた。
「だいたいさぁ、みなっちの実家ってたしか通学圏内じゃなかった? なんで寮に入ってるの?」
 この人の、この遠慮のなさはどうだろう。
「寮のほうが勉強に集中できるからです。そういう先輩は帰省しないんですか?」
 話の矛先を反対に向けられて、先輩は少し戸惑っている様子だ。
「ぼく? ぼくはだって……帰る家なんてないから……」
 次第に声が小さくなっていき、しまいにはベッドに突っ伏して肩を震わせ始めた。
 まさか泣いてる?
 おれは慌てて先輩のベッドに近づき、小刻みに震える華奢な肩に手を置いた。
「先輩、大丈夫ですか?」
 すると突然、先輩は身体を反転させて仰向けになるなり、おれの腕を掴んで引き寄せた。
 バランスを崩したおれは、間一髪のところで先輩の顔の両脇に手をついて身体を支えた。
「危ないじゃないですか、いきなり」
「いいね、この体勢。ムラムラっとこない?」
 おれは思いっきり脱力した。
 嘘泣きだったのか。
「くるわけないでしょう」
 おれは身体を起こしてずれた眼鏡を直した。そのまま机に戻ってトートバッグに財布とハンドタオルを入れる。
「みなっち、どっか出かけるの?」
「街の本屋に。探したい本があるんです」
「真面目だな~。街に出るならぼくがいい店を教えてあげるよ。その眼鏡をはずせば、みなっちならすぐに人気者になれるよ」
 おれは左の中指で眼鏡を押さえた。
「遠慮しときます」
 なんの店だか訊くのも怖い。
 みなっちが出かけちゃったらぼくがつまんないじゃん、と身勝手なことをほざく先輩を無視して、おれは「いってきます」と部屋をあとにした。


 今日の目当ては海外の写真家の写真集だ。おれはその写真家の作品が好きで、新作が出版されば必ずチェックする。けれど洋書を扱っている書店は少なく、わざわざバスと電車を乗り継いで大きな街まで出なければならない。
 この大型書店にはすでに何度か足を運んだことがあるため、おれはどこになんの棚があるか大体把握している。店に入るとそのままエスカレーターに乗り、2階へと上がる。ここの右手の奥にアート系の洋書コーナーはある。おれは浮き立つ気持ちを抑えきれずに、足早に目指す棚へ向かった。
「あっ……」
 誰もいないだろうと思っていたその棚の前に、見知った男の姿があった。
「ミナ……川……なに? おまえもここに用?」
 宿禰凛一が呆気にとられた顔でおれを振り返った。しかも彼が手にしていた本は、おれがこれから探そうと思っていた写真集のようだった。
「う、うん。え…と、……そ、その本……」
「これ?」
 おれは目の前に差し出された写真集を手に取り、表紙と中身を確認した。
「やっぱりこれだ」
 それはヨーロッパの小さな教会の写真を集めたものだ。おれは教会の建築様式に詳しいわけじゃないし、実のところ信仰心も持ち合わせていない。ただ、アート写真としての価値をその写真集に見出していた。
 それよりもなによりも、同じ本をあの宿禰が手に取って見ていたことに驚いた。
 あの通り雨の日、温室に飛び込んできた彼の姿は、今でも瞼の裏に残っている。濡れた髪の色がきれいだと思った。何度も思い出しては、そんな自分に戸惑いを感じていた。
「ほしい?」
 唐突に訊かれて、おれは一瞬なんのことだかわからなかった。
「え? ああ……この本?」
「なにと思ったよ」
「べ、べつに……宿禰が先に見つけたんだから、おまえが買えばいい。おれはほかで探すから」
 宿禰に写真集を押し付けるようにして踵を返すと、いきなり腕を掴まれた。その力の強さにどきっとする。
「待てよ、水川」
 おれの腕を掴む宿禰の手を見つめていると、彼は慌てて手を放した。それから意外な提案をしてきた。
「これ譲るから。おまえが見たあとおれに見せてくれない?」
「え?」
「ゆっくりでいいよ。待ってないから。どう?」
 宿禰もこの写真集を探してたんだろうからそれじゃ悪い。
 おれが断ろうとすると、彼は写真集を譲る代わりに交換条件を出してきた。
「そう思うなら昼飯付き合ってよ」
 おれも昼食はまだだったし、とくに断る理由も見当たらなくて、おれはその条件を呑むことにした。


                                          text by sakuta





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● COMMENT ●

うふふ。

お待ちしてました。がんばってください♪

おふくさん

ありがとうございます~。
お手柔らかにお願いします(笑)。

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あ、しまった始まってる

キャッチーにも根本先輩絡みで始まりましたね!
本で始まる2人の親密な関係・・・
いいなぁ・・・
ランチを食べる2人の会話も楽しみです。

内緒さん

わあ、コメありがとうございます~。
サイさんの書くものとはだいぶテイストが違いますが、
楽しんでいただけるとうれしいです。

アドさん

はい、根本みたいなキャラを置いとくと便利ですね。
リン視点の話の裏側(ミナ視点)を書くのは楽しいです。
私は性格的に先攻よりも後攻で書くほうが合ってるかもしれません。
2でちゃんとランチしてますよ。


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