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2019-11

水川青弥 「予感」 4 - 2009.04.14 Tue

 好きなやつは水川だけ……。
今、宿禰はそう言ったのか?
「それって……なに? 友だちとして?」
 おれも宿禰も男だ。それ以外になにがある、とも思ったが、訊かずにはいられなかった。
 すると宿禰は澄んだ瞳でおれを見つめた。
「恋人にしたいって告白」
 恋人という響きに、おれの体温は一気に上昇する。
 本気だろうか。
 いや、からかってるだけかもしれない。
 でも宿禰がこんなやり方でおれをからかうとは思えない。
 だけど……、
「そんな顔で言われたって……ますます信用ならない」
「生まれつきの顔だけどな」
 生まれつきだという端正な顔でおれを好きだと告げるこの男を、おれはどう受け止めたらいいのかわからなかった。
 第一、男同士で恋愛なんて。
「おれは……宿禰のこと、そんなふうに考えられないから」
「……わかってるよ」
 宿禰はひょいと肩をすくませた。そんな仕種もさまになる。
「悪いけど……」
「いいよ。それよりミナは恋人いないの?」
 一瞬、中学時代に親しくしていた子の顔が浮かんで、ちくりと胸が痛んだ。
「いないよ。勉強が……大事だから」
 そう、おれは勉強をしなければならない。親の期待に応えるために。恋愛に現を抜かしている余裕なんかなないのだ。
 すると宿禰はおれの右手をとり、「友だちとして……ね」と言いながら手の甲になにやらペンで書き始めた。見ると、それは携帯電話のアドレスのようだった。
 おれはされるがままに、じっと自分の手の甲を見つめた。


 寮に戻っても、考えるのは宿禰のことばかりだ。
 夕飯を食べているときも、風呂に入っているときも、宿禰の言葉を繰り返し思い出していた。
 彼はおれのなにが好きだというのだろう。
 そもそも、それは本当に恋愛の“好き”なのだろうか。
 宿禰は勘違いをしてるだけじゃないのか? こんなおもしろみのない人間を好きになるとは思えない。
 ベッドの上でごろごろしていると、根本先輩がどこからか戻ってきた。
「へえ、珍しいね。みなっちが就寝前のお勉強をしてないなんて」
 先輩はおれのベッドに腰掛けてきた。
「なにか悩みごと?」
「え……まあ……」
 否定しておけばよかったのに、おれはバカ正直に頷いてしまった。
「わかった。恋愛ごとでしょ」
 おれはぎょっとした。
「ほら、図星だ。なんなら相談にのるよ。ぼくはそっちの道のエキスパートだからね」
 ちょっと冷静になれば、なんでこんな人に相談なんかしてしまったんだろうと後悔することは明白なのに、このときおれは混乱していたし、ほかに相談できる人もいなかった。だからつい溢してしまった。
「友だちだと思ってたのに……」
 間髪いれずに先輩が食いついてきた。
「好きだって言われた?」
 大きな猫目を期待にきらきらさせている。
 その反応に、おれは思わず引いてしまう。
「……どうしてわかるんですか」
 先輩はにっこりと笑った。
「言ったでしょ。ぼくは男同士の恋愛のエキスパートよん」
 男同士の恋愛。
 そうはっきり言われてしまうと、羞恥に顔が熱くなる。
「お、男同士だなんてひと言も言ってませんっ」
「え~、違うの~?」
 目に見えて先輩のテンションが下がる。
 おれは思わず拳を握った。
「……違いません」
 すると再びきらきらの目でおれを見つめる。
「友だちだと思ってた相手に告白された?」
「……はい」
 先輩は小首を傾げた。
「それがなにか問題?」
 この先輩に常識的な思考を求めるのは無理なのか。
 話す前からすでに疲労を感じている。それでも気力を振り絞って問題点を並べた。
「なにもかもですよ。おれは友だちだと思ってるし、勉強が大事だし、男……同士だし……」
「みなっちはその人のこと好きじゃないの?」
 そうやってあらためて訊かれると、答えるのが少し恥ずかしい。
「す、好きですよ。友だちとして」
「本当に友だちとしてだけ?」
「だって、友だちになったのもつい最近のことなんですよ」
 先輩は、それがなにか? という顔をする。
「恋愛に時間は関係ないよ」
「でも……」
 おれの言葉を遮って、先輩はとんでもない提案をした。
「じゃあさ、試しに1回彼と寝てみれば?」
「……は?」
「寝てみればラブなのかライクなのかはっきりするし、男同士も案外いいもんだってわかるよ。あ、でもみなっちはネコだろうから、最初は痛くて泣いちゃうかもね」
 あとに続く言葉で“ネコ”の意味が大体わかり、おれは居た堪れなくなった。
「あんたと一緒にしないでくださいっ」
 先輩はけらけらと笑った。
「フシダラちゃんですいませんね~」
 まもなく舎監の保井が点呼にやってきた。点呼は寮長の仕事だけど、今、寮長は帰省中のため、代わりに舎監が残っている生徒の点呼にまわっているのだ。
 それが終わるや否や、先輩は再びどこかへ出かけていった。
 ひとりになると、再び夕方の出来事を思い出した。
 そういえば、宿禰に恋人はいないのかと訊かれたとき、一瞬おれは彼女のことを思い出した。
 中学2年の夏の終わり、友だちになろうと言っておれに近づいてきた原田理香子を。
 恋愛に臆病なのはもともとの性格のせいもあるけど、その傾向がさらに顕著になった要因のひとつが原田にあったことは否めない。
 瞼を閉じると、そこには長い黒髪を風になびかせる彼女の姿があった。

                                            text by sakuta


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内緒さん

コメありがとうございます!
ミナをかわいいと言っていただけてうれしいです~。
根本は相談相手としてはあきらかに人選ミスだと思いますけど(笑)、
これからも適度に無責任な感じでミナに発破をかけてくれると思います。
根本の恋愛遍歴は…書いてる余裕があるかなぁ…。

ネコ×ネコ?

寮のお部屋でネコネコ指南、こんな話をしていたんですね。
ほんと、ミナって、初心で可愛い。
痛くって泣いちゃうって、根本先輩の、明らかに体験談・・・
ミナに女の子の影が~、そんなトラウマがあったんだー。

アドさん

コメありがとうございます!
ネコ同士だと間違いは起こらないけど、
ミナには悪影響を及ぼしそうですね。
根本は経験豊富でしょうから。
ちなみに次回はミナの過去話を少々挿む予定です。


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