FC2ブログ
topimage

2019-09

水川青弥 「予感」 7 - 2009.04.21 Tue

 今日は日曜日で寮生たちの多くは外出している。
 とくに予定のないおれは、昼前に温室の水やりを済ませると、食堂で居残り組に混じって昼食をとる。
 このあとはなにも予定がない。以前なら部屋で自習に精を出すところだけど、今はそんな気になれない。なにをするにも気分がのらない。生活に張りがない感じだ。
 食欲もなくて、皿の上のおかずを行儀悪く箸でつつきまわしているだけ。
 理由はわかってる。
 宿禰と会っていないからだ。
 いや、校内で顔を合わせることはある。
 宿禰は廊下ですれ違うときも気軽に挨拶をしてくる。まるで何事もなかったかのように、ほかの生徒に向けるのと同じ笑顔で声をかけられると、おれは堪らなくなった。
 自分から友だち以上にはなれないと断ったのに、宿禰の中でその他大勢の友人と一緒の扱いになってしまったのかと思うと、無性に寂しくなった。
 藤内先生の言葉が耳の奥に甦る。
『つまらん常識やプライドに捕らわれてると、あとで後悔するぞ』
 おれが宿禰の希望に応えられない理由はなんなのだろうか。
 常識? プライド? 
 それもあるかもしれないけど、一番の理由はおれが臆病なせいだ。
 いまだに癒えない中学時代の古傷を庇うあまり、おれは臆病になって新たな一歩を踏み出せなくなっている。もともと慎重な性格のうえ、相手が男だという事実が余計に臆病に拍車をかけている。
 ヨハネに入って、ようやく友だちらしい友だちができたと思ったのに……。
 なんで宿禰はおれのことなんか好きになったんだろう。
 なんで友だちのままでいてくれないんだろう。
 恨みがましい気持ちが湧き上がってくる反面、それでも宿禰を失いたくないと思っている自分に戸惑った。
 どうしたら宿禰を取り戻せるだろうか。
 そのとき、携帯電話の着信音が鳴った。相手は宿禰だった。
 心臓が早鐘のように鳴り出し、平静を装うのに相当な努力を必要とした。
 すごく久しぶりに聞いた気がする宿禰の声は、なんとなく元気がなかった。もうおれのことなんかどうでもいいんだろうと思っていたのに、弱々しい声でおれの声が聞きたくなったと言う。
 ぎゅっと胸が締めつけられる。
 気づくと、おれは彼を寮に誘っていた。
 関係を修復するチャンスだと思った。


 おれの部屋に宿禰がいる。
 なんだかとても不思議な気分だった。
 なにを話したらいいのかわからなくて、宿禰の昼食の心配をしたりしていると、宿禰のほうから本題を切り出した。
「話しにきたんだよ。ミナと話したかった……」
 おれは緊張して頷いた。
「あれから……温室に行けなくてごめん。ちょっと気分的に……行けなかった」
 再び藤内先生の言葉を思い出す。ここは勇気を出すところだ。
「おれも……宿禰が来なかったから、なんかちょっと寂しかったよ」
 言えた。
でも、女々しく聞こえなかったろうか。
 宿禰の反応が鈍いのが気になって、おれはさらに続けた。
「おまえの話おもしろいから、結構楽しみにしてた」
 どう思っているのか、宿禰は黙ったままだ。
 おれは段々不安になってきて、次の言葉を必死で探していると、突然、宿禰の腹の虫が鳴いた。
「やっぱりお腹空いてるんじゃん」
 おれが指摘すると、宿禰は「まあね」と答えた。
 その決まり悪そうな宿禰の顔がおかしくて、おれは笑いを堪えながら、遠慮する彼を押しとどめて食堂へ向かった。おれなら1人分の食事くらい融通がきく。こういうときおれに下された優等生という評価は役に立つ。
 食堂のおばさんに1人分の食事をトレーにのせてもらうと、おれはそれを持って食堂をあとにした。
 宿禰になにかしてやれることがうれしい。
 おれは浮き立つ気持ちを抑えて、食事をこぼさないように慎重に部屋へ戻った。
 片手でトレーのバランスを取りながら、空いたほうの手でドアを開ける。
 その瞬間、おれは驚愕した。
 宿禰が誰かとキスをしていた。
 おれは慌てて踵を返した。食堂のテーブルの上に食事を置くと、そのまま寮を飛び出した。
 宿禰の膝の上に乗っていたのは根本先輩だった。
 どうしてあのふたりが?
 わけがわからない。
 混乱した頭で、無意識のうちに通い慣れた道を走る。
 目の前に温室が見えてきたとき、おれは立ち止まった。
 ここはだめだ。もしかしたら宿禰が追ってくるかもしれない。今はまだ彼と顔を合わせて冷静に話ができる気分じゃない。
 どこか違う場所へ。
 そう思ったけど、おれにはこんなときに身を寄せる場所なんてどこにもなかった。
 寂しくて、情けなくて、目の奥が熱くなる。
「おい、そんなとこでなにやってるんだ?」
 唐突に背後から声をかけられ、おれはびくりと肩を揺らす。
 振り返ると、そこには藤内先生が立っていた。
「なんだ、泣いてるのか?」
 咥え煙草で無粋に訊ねてくる先生に、おれはかぶりを横に振った。
「準備室に忘れ物を取りにきただけなんだが……おまえ、一緒にくるか? 茶くらいなら出してやるぞ」
 そう言ってさっさと歩き出した先生の背中を、おれは誘われるように追いかけた。


                                            text by sakuta

目次へ「予感」 6へ「予感」 8へ

● COMMENT ●

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

みなっちさあ~

純情すぎて…どうする?凛の普段の生活知ったら…
キスなんて、誰でもする奴だよ?あれは。それ以上のことも…

ミナが可哀想になってきた~
でも一応凛を庇うところがあれば…ミナは特別ってとこだね。
そこをしっかりと書くよ。
あと一回ですか。
その後はこっちはゆっくり休んでください。
後は引き受けます。

内緒さん

あ、やっぱり目はキますよね~。
こればっかりはどうしようもないです。

ミナは当初考えてたよりも素直な子になってきました。
じゃないと話が進まないから(笑)。
ミナが少しでも癒しになるのなら、私もうれしいです。
内緒さんもあともうちょっとの辛抱ですよ。がんばってください!

コメありがとうございました。

サイさん

どうする?と言われても…どうしましょ(笑)。
ミナはそっち方面にはまったく免疫がないですからね。
根本あたりに知恵をつけてもらうといいかも。

多分あと1回で収まるんじゃないかと…。
そしたら次お願いします~。

読んだ、読んじゃった

コメ自粛的な事を言っているにもかかわらず、つい・・・ミナ目線が気になる。おまけにオッサンイラスト~!あんなにカッコいい人たちが出ていると思うと・・・・コメしてなくても読んでますから~。

アドさん

コメありがとうございます~。
っていうか、コメ自粛してたんですか? なんで?

おっさんでサイさんを苦しめてしまいました…。
サイさんのイラストからカッコよさ50%OFFでメージして読んでください(笑)。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://arrowseternal.blog57.fc2.com/tb.php/222-583ebbdc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

燐光 …背後注意! «  | BLOG TOP |  » 水川青弥 「予感」 6

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する