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2019-09

水川青弥 「予感」 8 - 2009.04.22 Wed

 てっきりアルコールランプで沸かしたお湯で、ビーカーにコーヒーを淹れるのかと思いきや、普通に電気ケトルでお湯を沸かして、マグカップで出てきた。
 おれは礼を言ってマグカップに口をつけた。
「甘いや……」
 中身はコーヒーではなくココアだった。
 狭い部屋の中はすぐに空調が効いて、ホットココアも美味しかった。なんだかほっとする。
「こういうときは甘いのがいいんだよ」
 先生はにっと笑った。その表情は男くさくてかっこよかった。
「先生はいつもこうやって生徒を連れ込んでるんですか?」
 先生は愉快そうに笑った。
「安心しろ。ガキには手を出さん」
 おれはむっとした。
「ガキ以前におれは男ですよ」
「見てのとおり悪い大人なもんでね。そのへんはルーズなんだ」
 つまりそれは……、
「相手は女でも男でもいいってこと?」
「まあ、そういうことだな」
 あまりにもあっさりと認めるものだから拍子抜けした。
 それから、さらにもう一歩踏み込んでみた。
「実際、男同士ってどうなんですか?」
「どうって?」
「男同士の恋愛に意味なんてあるんですか? 将来なんてあるんですか?」
「それは結婚できないからってことか?」
 多分、そういうことなんだろうと思う。
 おれが頷くと、先生は教師みたいな(いや、実際に教師なんだけど)口調で言った。
「考えてみろよ。現在付き合ってるカップル全部が数年後に必ず結婚するか? そうじゃないだろう? むしろ別れるカップルのほうが多いかもしれない。それに同居していても籍を入れない夫婦だっている。1対1の人間同士の付き合いとして考えれば、相手が異性だろうが同性だろうがたいして変わりはない。大事なのはなんでそいつと一緒にいたいのかってことだろ」
 そうかもしれない。でも、おれはひとりで生きているわけじゃない。
「一時の感情に走ってしまったら、まわりに迷惑をかけるかもしれない。きっと親も泣かせてしまう……」
「若いのにずいぶん分別くさいこと言うんだな」
 先生はちょっぴり寂しそうに微笑んだ。


 寮に戻ると、部屋で根本先輩がおれを待ち構えていた。あのキスは自分の悪ふざけだったとしきりに謝罪するので、おれは納得して先輩を許した。
「安心した?」
 そう訊かれて、初めておれは自分が安堵していることに気づいた。
 そもそも、先輩が宿禰にキスしたことをおれが許すということ自体がおかしい。
「べつに……もともと不安だったわけじゃないし……」
「またまたぁ、本当はぼくに宿禰をとられちゃうと思って心配してたくせにぃ」
 おれをからかって満足したのか、先輩はいつものようにどこかへ出かけて行った。
 ひとりになると、おれはベッドに突っ伏した。
 図星だった。たしかにおれはあの瞬間、先輩に嫉妬していた。おれが迷ってる間に横から掻っ攫われたと思った。
 こいつが好きなのはおれだ。
 そう言ってやりたかった。
 これは独占欲だろうか……。
 突然、携帯電話が鳴った。宿禰からだ。出ようかどうしようか考えているうちに着信音がやんだ。すると今度はメールが届いた。開いてみると、それは先輩とのキスを釈明する内容だった。
「もう先輩から聞いたよ……」
 散々悩んだ末、おれは夕食のあと宿禰に電話をかけた。




 その日、帰りのショートホームルームが終わると、おれは温室へ向かった。そこで宿禰と会う約束になっている。
 どういう結論になるかわからないけど、おれは今の自分の気持ちを素直に伝えようと思った。昨夜、そう腹をくくった。
 ほどなく宿禰もやってきた。なんだかすごく久しぶりに会う気がする。
 宿禰はカバンからハンドタオルを取り出し、おれに差し出した。それはここで初めて宿禰と会った雨の日に、彼に貸したものだった。
 それを受け取ると、彼は「話があるんだ」と切り出してきた。
「前に……言ったこと。友だちとしておまえと付き合うみたいなこと言ったけど、そんな嘘をつくのはやめにするよ。俺はミナを友だちとして見れない」
 なんと言ったらいいのかわからずに黙っていると、宿禰は言葉を続けた。
「ミナに触れたいと思う。キスしたい、抱きしめたいと思う。セックスしたいと思う。もちろん強引に迫ったりしない。一方的な想いを押しつけるなんて迷惑なだけだからな。でも俺がこういう気持ちでいるかぎり、ミナがその気持ちを受け入れられないなら……こんなふうに会ったりするのはやめようと思う」
 ショックだった。キスしたい、抱きしめたいと言ったその口で、もう会わないという宿禰が憎い。
「勝手な言い分でごめんな。このままおまえのそばにいると、俺、本気でおまえのことを好きになってしまいそうなんだ。だから……自分が傷つく前に白黒はっきり決めようって……おまえもそのほうが傷つかずに済むかなって……」
 人の気持ちも知らないで……。もう我慢できない。
「宿禰って……本当に勝手なんだね」
 そう言うと、宿禰は驚いた顔でおれを見た。
「おれの気持ちとか考えないで、勝手に決めて……おれだって迷ったり悩んだりしてるよ。傷つかないとか……もう遅いよ」
「ご、めん」
 背中を丸めて小さくなるこの男に教えてやりたい。おれの気持ちを伝えたい。
「宿禰のことをほかの友だちのように思ったりできないんだ。だからっておまえとキスしたり、抱き合ったり……そんなこと、今のおれには考えられない」
「わかるよ」
「だから……だから結論はすぐには出せない」
「……」
「でも、おまえを知らないままの自分には戻りたくない。もう戻れないと思う」
「ミナ……」
 おれは深呼吸をひとつしてから、宿禰の顔を見つめた。
「だから……待っててよ。おれが……リンを……好きになるまで……」
 気づいただろうか。今、宿禰を下の名前で呼んだことに。それがおれにとってどんな意味を持つのかに。
「……わかった」
「いいの?」
「断られなくてほっとしてる」
 安堵の表情がおれの胸をせつなくさせる。
「リン……」
 その名を呼ぶことに、もうためらいはなかった。
 つまらないプライドや優等生じみた分別なら捨ててしまおう。
 もう後悔しないために。
 自分に正直に生きるために。
 傷ついたってかまわない。
 その傷ごと自分を抱きしめてやれる強さを、おれは手に入れよう。
 宿禰の気持ちと向き合うために。
 宿禰とおれの明日のために。

 リンはおれの右手をとり、やさしく囁いた。
「ミナ、好きだよ」




                                            text by sakuta


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おつかれさまでした~

ミナの純情さと一筋縄ではいかない天の邪気の一面。結構負けず嫌いだしね。
大分わかってきたから、今度からは色々会話が増えそうな気がします。

先ずはキスから。
題名は「キスをしよう!」で明るく行きますよ~

でも、イラストの刀祭りもやってるしゲームもやらなきゃいかんし…更新はゆっくり~やります。

内緒さん

お付き合いありがとうございました~。
リンに比べると、ミナはインパクトのない大人しいキャラなので
そんなふうにかわいがっていただけてうれしいです~!

次はサイさんの番です。引き続きよろしくお願いします♪

サイさん

お待たせしました~。次はリンの出番です。
「キスをしよう!」ですか。いいですね、ぜひしときましょう(笑)。

のんびり更新でいいですよ。私ものんびりだったし~。

恋愛の愛情間だけでは無く 友情間でも 嫉妬、独占の負の感情は 生まれます。

相手が 異性であれば 好意の感情が スライドして 恋愛に発展し易いけど 同性が 相手で それが 初めての経験なら 戸惑い 恋愛へとは 中々 発展し難いでしょうね。

ミナの心境が 日々変わって行く様子は 固く閉じた蕾(ミナ)が 太陽の光(リン)を 燦燦と浴びて 綻んで行く...まるで ミナの心の観察日記を読んでるみたいで 微笑ましく面白かったですねー!

日曜日は 訪問出来ませんが、月曜日には また お邪魔します。ではまたね♪ヴァ──ヾ(´ー`)ノ──イ!!byebye☆

けいったんさん>ここらへんは本当に書いてる方も、じらされるなあ~って感じでしたね~
こんなにゆっくりに進んで、最後までいくのはいつのことになるんだろ~とか…
実際は朔田さんと、いつどうするのかっていうのは決めてたんですが、そのもって行き方は、かなり私にゆだねられていたので、凛が先行して、あの後をミナが追う形で書いてました。

私自身も非常にミナの気持ちを尊重していたので(朔田さんの気持ちです)大変でしたが、そういう書き方をしてたからこそ、この後、ミナを任されたとき、あまり違和感がなく、ミナになりきることが出来たんだと思います。

どっちにしてもこの物語は私だけが考えたのなら、ミナというキャラは出来なかったと思いますね。
違う人間が作ったキャラがいたから、このグリーンハウスが完結できたのだと思います。
まあ、悩みに悩んだ結末になったんですが、終わってみればベストな選択だったと思います。

けいったんさんの読む姿勢というのは、こちらが感心するほど、ちゃんと深層を受け取ってもらえているので、とても嬉しいですね。
文章というものは書き手のエゴでもあるので、赤の他人に誤解されることなく、正しく受け取ってもらえるのか不安になるのですが、けいったんさんのように、間違いなく受け取ってもらえると、本当に安心します。
ありがとうございます。


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