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2019-09

宿禰凛一 「追想」 21 - 2009.06.10 Wed

21.
「凛一、お客様だよ。リビングに来なさい」
 俺はあれから引きこもり気味になり、外へは出かけていない。
 夏休みも終わろうとしていた。

 リビングに行くと思ってもみない来客だった。
「嶌谷さん!」
「凛一…」
「ゆっくりしていってもらいなさい。俺は部屋にいるから」
 そう言って慧一は出て行った。
「どうして俺ん家がわかったの?」
「おまえが行方不明になったりするから、お兄さんが心配して店を訪ねて来られてね。知り合いになったというわけ」
「…そう…ごめんね、嶌谷さんにも心配かけてしまったね」
「ガキのくせに、そういう口の聞き方するな…と、言っても、教えたのは俺たち大人の所為なんだろうけど…色々大変だったな、凛一」
「俺がちゃんと嶌谷さんの言う事を聞いて、月村さんに近づかなきゃ…良かったんだよね、きっと…」
「なあ、何が良かったなんて、したことを悔いるのは野暮のすることだ。凛一はそこに向かいたくて自分の意思で選んだんだから、それは間違いじゃないさ。後はその経験をおまえがどう受け止めるか…だろう」
「俺…もうどうだっていいよ。月村さんを死なせたのは俺の所為だ。自殺であれ、いずれ病気で死ぬことになったとしても、あそこで死んだのは俺の所為なんだ…」
「バカだね~凛一は」
「え?」
「おまえは本当に天使にでもなったつもりなのか?おまえに月村さんの意思を変える力があるもんか。あの人は最初からああいう風に死のうと決めていた。おまえが傍にいてくれるとは思わなかっただろうけどね。まあ、自殺を容認する気はないけど、それを決めた人を卑下する気も俺はないよ。あの人は思いどうりに自己を全うした…それでしかない。凛一は自分の道を歩くんだよ。月村さんはおまえに色んなものを与えてくれただろう?」
「…」
「あの人はおまえを知って、幸せそうだった。あの頑なな人がさ、誰にも心を開かない人がさ、俺にゆったんだぜ?凛一を見ると生きている喜びを知る…って。おまえは救っていたんだよ、あの人を」

 嶌谷さんの言葉が本当かどうかはわからないけど、俺を慰める気だったら、充分過ぎる。
 俺は黙ったまま涙した。

 俺は帰る嶌谷さんを門まで送った。
「嶌谷さん、もう店には行かないから」
 嶌谷さんは少し寂しげにしたが、すぐに微笑んでくれた。
「そうだね、凛一には同年代の子たちと過ごす時間が必要だと思う。それに…凛一には慧一君がいる。おまえを必死に守ろうとする人がいる。幸せなことだと思っていい」
 そう言い残していった嶌谷さんの背中を見送った。

 玄関に戻ると慧一が俺を待っていた。
「嶌谷さんは俺たちの親父よりよっぽど父親らしい人だね。あんないい人に巡り会えたんじゃ、凛一の夜遊びを頭ごなしに叱るわけにもいかないね」
 すべてを赦すような慧一の姿に俺は…たまらなくて、切なくて…
「慧…」
 俺はどうしようもなくなって、慧一に走り寄りその胸に飛び込んだ。
 堰きとめられたものが壊れていく。
 俺はもう我慢ならない。自分なんかどうなってもいい…
「もう嫌だ!全部捨ててやる!知るもんか!学校も勉強も友達も…嶌谷さん達だって、もう俺にはいらない。慧一がいればいい。俺はなにも見たくないし、知りたくもない…」
 何も考えたくない。
 俺の生きてきたすべてを全部消してしまいたい。
 俺は慧一にすがりついて号泣した。
 慧一のシャツは俺の涙でびしょ濡れになり、終いには慧一の肌の色が透き通って見える程になった。
 泣きじゃくる俺を、慧一はしっかりと抱き留めてくれている。

 少し落ちつくと、俺の髪を撫でながら慧一は穏やかに言うんだ。
「凛一は背が伸びたね。去年までは俺の肩程にしかなかったのに、もうこんなに追いついた。今に追い越されてしまいそうだ」
「…そう、かな…」180以上もある慧一を簡単に追い越せはしないと思うんだけど…
 慧一は言葉を続けた。
「今日の凛一は明日には変わっているって事。おまえが学ばなきゃならないことが世間には沢山あるよ。凛一は色々なことを知るんだ。夢は決めた?勉強して友人たちと語らい、恋をしなきゃな。あらゆるところに行って歴史や自然に感銘を受けてさ、喜びとする。
そして俺はおまえの家になるんだよ。いつだって戻れる場所がある。俺も凛一が俺の家であり宝なんだからね。お互いを大事にしていこうよ。どっちにしても俺たちは兄弟だ。どちらかが死ぬまでそれは変わらない。…ね、俺はおまえが弟で良かったって思っている」
「俺だって…」
「…俺と梓がおまえを天使って呼んだのは、おまえがあんまり天使みたいにかわいかったからなんだけど…天からの贈り物だと思ってね。でも、間違っていたね。おまえは使わされるものじゃなかった。おまえは生まれた時から、宿禰凛一でしかなかったんだよ」
「…」
「凛一は凛一のままで生きてくれないか?俺は宿禰慧一としておまえの傍にいる。これが俺の幸せだからだ。それを選ばせてくれないか?おまえを愛することを…」
「慧…俺も…慧を愛してるよ」

 俺はまた歩き始めた。
「宿禰凛一」の歩みはこれからもずっと続いていくんだ。
 俺は俺でしか存在できやしない。




ターミナルの待合室の俺に気づいた慧一が、小さめのトランクをひとつぶら下げ、手を振りながら近寄って来る。
「凛一」
「慧、おかえり」
「すっかり待たせてしまったね」
「仕方が無いよ。パイロットに文句を言っても天候の所為にされるのは決まりきっている」
「…」
「何?」
「いや、凛一に出迎えられるっていうのがね…こんなに嬉しいもんなんだなってしみじみ感じてしまう」
「…慧」
「どした?」
「いや、慧一を待っている間、なんだか色々思い出してたの。そんで…ちょっとセンチメンタルなわけ」
「…追想…ってやつだ。だけど思い出を偲ぶのは、凛にはまだ早い。もう少し大人になってからだ」
「慧は相変わらず俺を子ども扱いするね。でもついでだから甘えされてくれる?ハグさせてくれよ。お帰りなさいの歓迎も込めて」
慧一は何も言わず、俺を抱きしめた。

ここに無上の愛がある。
俺と慧一にしか通じない想いがある。
慈しみあう愛だ。

俺はこの先何があってもこの手を離すことはない。
慧一が俺を離さぬように…


俺はいつだって愛を欲しがった。
満ち足りた愛の中にいるとは気づかずに…



「追想」完



text by saiart
keirin4



20へ

慧一の話は  早春散歩1よりどうぞ~
「追想」の初めはこちら 
慧一の過去話「イリュミナシオン」はこちらです。
「Swingby」はこちら 1へ

● COMMENT ●

お疲れさまでした。

最後は思っていたより悲壮感がなくて救われました。
私、この月村さん編が一番好きかも。

次、私っすか? また最初から読み返さなくっちゃ~(笑)。

さくちゃん

この「追想」はミナの関わりが少なかったから、「リンミナ」ものとしては少し物足りなかったけど、この過去は凛一の今の性格を位置づけているから、頑張りました。
でもさくちゃんが月村さん好きとかゆうから、頑張って月村さんを駄目な魅力的なおっさんに書きましたよ。
もうちょっと落ち着いたら、あとがきを書きたいです。
今日はさすがに疲れて、喉痛いっす(~_~;)

ジーンときました。

サイさん、お疲れ様でした。
サイさんが リアルな生活でも、ちょうど「お別れ」を経験されて、追想は特別な気持ちを持って読ませて頂きました。

ひとつ、ひとつの場面が映画のように鮮やかだったり、モノクロームだったりします。
ただ、慧一のシーンは必ず色が付いていて、ああ、救われるなぁ、と感じました。
最後のシーンには、ホッとしました。

さあ、リンミナ!凛一の過去が分かって読むと又、違いそう。
楽しみです!!

アドさん

最後まで読んでくれてありがとう。

私も月村編になって、急にこういう経験をしたもんだから、なんか力入りました。
けっしておろそかに月村の「死」だけは書いてはいけないという気になりましたよ。
この人はこの人なりに精一杯生きたんだという気で見送りました。
凛は怒ったけど、多分歳を取ったら月村さんの気持ちが判ると思う。

結局一番描きたかったのは、慧一と凛一の関係だったんですよ。だから、色が付いてるといわれると、マジで嬉しいです(*^_^*)

そう!これからはリンミナなんです。
しばらくは蜜月なんですが、ふたりには越えなきゃならないHがあるので、ここの描写は結構大変な気がしますよ。

…どうなるんだろう(^◇^)

始めまして、けいったんです。<(_ _)>
とても 魅力的な作品で 宿禰凛一編「密やかな恋の始まり」、「kissしよう」、「追想」と 思わず いっきに 読ませて貰いました。

サイアートさまの絵は 私が訪問しているサイト様宅で 見て 惹かれてましたが、文章も とても素敵で 今日は 「密やかな恋の始まり」だけを 読むつもりだったのが ぐいぐいと作品の世界に 引き込まれ 止まらず「追想」まで 読んじゃいました。

作品に登場する人物が それぞれ魅力的ですね。私が すっごく惹かれたのは 登場回数も少ないのに 梓(BLなのに)でした。
彼女の感受性が 今の 凛一に すっごく影響を及ぼしているのを見て もっと彼女のことが知りたくなりました(BLなのに(笑))

あっという間に こんな時間、明日も お邪魔するつもりなので 宜しく!
では (人-ω-)゚*。★おやすみなさい★。*゚...byebye☆

けいったんさん>初めまして、こんにちは( ^-)_旦~~ 

けいったんさんでしたか、沢山の拍手をしていただいたのは…
うちは拍手があまりもらえないブログなので(;´∀`)とてもありがたかったです。
黙って読んでいただくのも、勿論大変ありがたく感謝しているのですが、こういう読まれた方からのダイレクトな反応は、書き手としてはとても嬉しいものです。
何が面白かったのかは、読み手によって色々と違いますからね。特に出てくるキャラが多いと。
梓がお気に入りとか。
嬉しいですね。BLでは女のキャラって読んでいてウザく感じることが私には多いんです。
だからといって、現実世界、女性の存在を無視できない。特に凛一は女性も男性とも出来る存在として書いているので、彼のミューズとして梓は大切でした。
慧一編では彼の目線での梓の存在が描かれているので、並行して読んでいただければ嬉しいです。
こんな長ったらしいものを、本当にありがとうございます。

お暇の時に、ゆっくりと楽しんでいただければ幸いです。

コメントありがとうございましたd(*⌒▽⌒*)b ニコニコッ


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