aqua green noon
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宿禰慧一 「イリュミナシオン」 1
早春散歩 宿禰慧一 「イリュミナシオン」
1.
世をいつわりの 黒染めの
僧衣の袖に 狂おしの
恋慕のほむら おしかくし…
寒の戻りが長引いて、桜の花は四月半ばになっても満開の姿を留めていた。
病院の待合室の開け放たれた窓から、ゆるい風に舞い落ちる桜の花びらに目を奪われながら、遠くから聞こえる赤ん坊の泣く合唱を快く耳にしていた俺は、ひときわ高く泣く声に思わず立ち上がった。
弟、凛一の誕生の声を聞いた瞬間だ。
小学三年の春だった。
硝子越しに並べられた小さなベッドのひとつに寝かされた赤ん坊を、ひとつ年下の妹、梓と並んで見つめていた。
2800グラムと小さめではあったが、元気なベビーだった。
宿禰葵と書かれたカードのベッドに眠る小さな凛一は、この世に産まれたばかりの無垢な燐光を放っていた。
「赤ん坊とはよく言ったもんだわね。まさにコザルだわ。あ、泣くと益々おさるさん」
梓が屈託なく言う。
産まれたばかりだから仕方ないだろうと言う前に、又、口を開く。
「でも、自分と血の繋がった弟だと思うと、どんなサルでもこの上なくかわいくてたまらないわ。これが肉親の愛情っていうわけね、慧兄さん」と、満面の笑みを湛えて梓が俺を見る。
俺も同じように感じていると応え、「彼は僕達に与えられた天の賜だよ、きっと」
「あら、慧兄さまにしては夢見がちなことを言うのね」
「だって、あれは…まさに光の象徴だよ。そこに居るだけで、僕達の心までも清浄にする力に溢れている」
「そうね、きっとあの子は私達を約束の地に導いてくれるわ」
「約束の地?」
「そう、人々が求めてやまない幸福の地よ」
「一緒に行けるといいね」
俺は梓に微笑んだ。
「きっと、行けるわ」
梓も俺に笑いかけた。
真っ赤な顔で泣いている凛一は、俺達の思惑など知ったことではないだろう。
母は元来身体の弱い性質で、今回のお産も危険だからと医者にも強く止められたが、父や周囲の反対を押し切って凛一を産むことを決めたらしいのだ。
俺と梓は母が亡くなってから、その話を聞いたのだが、命を賭してまで産んでくれた凛一であるなら、殊更に大事に育てようと心に誓ったものだった。
あまり家事をすることが出来ない母の代わりにハウスキーパーが家事全般を請け負い、母はもっぱら凛一の世話にかかりっきりになっていた。
しかし、母には充分な休養が必要だということで、夜の凛一の世話は俺と梓の係りになった。
どこの小学生に両親が揃っているのに赤ん坊の世話をやらせる親がいる、と思ったが、父は出来るだけ家族の手で凛一を育てようと、些か勝手なことを言い張るので、俺達も渋々承知したというわけだ。
凛一はあまり病気もしない丈夫な子だったが、夜泣きだけは何故か毎晩のように続くので、昼間、真面目な小学生をやっている俺と梓は、慣れるまでが大変だった。
泣きだすと止まらない凛一を抱っこしては、手の空いた方がミルクを作って飲ませたり、オムツを替えたり。
ぐずる凛一を抱っこしたまま二時間以上も部屋の中をうろついたり、ひどい時は目が冴えて眠ろうとしない凛一を一晩中あやしたこともある。
ベビーシッターを頼んでくれと両親に言えば良かったのだが、いつしか梓も俺も、夜に仰せつかる凛一の世話が面白くなってしまっていたんだ。
すべては凛一の可愛さの所為なんだが、あの頃は学校が終わると一目散に帰宅し、母の傍にいる凛一の姿を飽きもせずに、始終見つめていた。
サルみたいだと言った梓の言葉は一体何だったのだろう。
人間とはこんなに美しい生き物としてこの世に存在しえるのだろうか…
俺は純粋な「美」を凛一の中に見いだしていた。
凛一は見事に美しかったのだ。
その容姿も魂も…
すべてが俺を魅了してやまなかった。
text by saiart
2へ
宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 1
始まってしまいました。慧一編です。
初めに断っておかなければならないのですが、BL小説とはいえ、このお話にはほとんどといってH描写はないです。
期待されていたらなんなので申し上げておきます。
慧一のひたすら苦悩する日々しかないと言っていい。
自分の「愛」という重荷をどれだけ持ち続けることができるのか…それを問いたいんです。
結論はまだ決めていないので、書きながら慧一の気持ちが変わっていくのか…それは判りませんが、できれば…私は慧一好きなので、彼に幸せになって欲しいと思っています。
さて、どうなることでしょうか…
良かったらお付き合い下さい。

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1.
世をいつわりの 黒染めの
僧衣の袖に 狂おしの
恋慕のほむら おしかくし…
寒の戻りが長引いて、桜の花は四月半ばになっても満開の姿を留めていた。
病院の待合室の開け放たれた窓から、ゆるい風に舞い落ちる桜の花びらに目を奪われながら、遠くから聞こえる赤ん坊の泣く合唱を快く耳にしていた俺は、ひときわ高く泣く声に思わず立ち上がった。
弟、凛一の誕生の声を聞いた瞬間だ。
小学三年の春だった。
硝子越しに並べられた小さなベッドのひとつに寝かされた赤ん坊を、ひとつ年下の妹、梓と並んで見つめていた。
2800グラムと小さめではあったが、元気なベビーだった。
宿禰葵と書かれたカードのベッドに眠る小さな凛一は、この世に産まれたばかりの無垢な燐光を放っていた。
「赤ん坊とはよく言ったもんだわね。まさにコザルだわ。あ、泣くと益々おさるさん」
梓が屈託なく言う。
産まれたばかりだから仕方ないだろうと言う前に、又、口を開く。
「でも、自分と血の繋がった弟だと思うと、どんなサルでもこの上なくかわいくてたまらないわ。これが肉親の愛情っていうわけね、慧兄さん」と、満面の笑みを湛えて梓が俺を見る。
俺も同じように感じていると応え、「彼は僕達に与えられた天の賜だよ、きっと」
「あら、慧兄さまにしては夢見がちなことを言うのね」
「だって、あれは…まさに光の象徴だよ。そこに居るだけで、僕達の心までも清浄にする力に溢れている」
「そうね、きっとあの子は私達を約束の地に導いてくれるわ」
「約束の地?」
「そう、人々が求めてやまない幸福の地よ」
「一緒に行けるといいね」
俺は梓に微笑んだ。
「きっと、行けるわ」
梓も俺に笑いかけた。
真っ赤な顔で泣いている凛一は、俺達の思惑など知ったことではないだろう。
母は元来身体の弱い性質で、今回のお産も危険だからと医者にも強く止められたが、父や周囲の反対を押し切って凛一を産むことを決めたらしいのだ。
俺と梓は母が亡くなってから、その話を聞いたのだが、命を賭してまで産んでくれた凛一であるなら、殊更に大事に育てようと心に誓ったものだった。
あまり家事をすることが出来ない母の代わりにハウスキーパーが家事全般を請け負い、母はもっぱら凛一の世話にかかりっきりになっていた。
しかし、母には充分な休養が必要だということで、夜の凛一の世話は俺と梓の係りになった。
どこの小学生に両親が揃っているのに赤ん坊の世話をやらせる親がいる、と思ったが、父は出来るだけ家族の手で凛一を育てようと、些か勝手なことを言い張るので、俺達も渋々承知したというわけだ。
凛一はあまり病気もしない丈夫な子だったが、夜泣きだけは何故か毎晩のように続くので、昼間、真面目な小学生をやっている俺と梓は、慣れるまでが大変だった。
泣きだすと止まらない凛一を抱っこしては、手の空いた方がミルクを作って飲ませたり、オムツを替えたり。
ぐずる凛一を抱っこしたまま二時間以上も部屋の中をうろついたり、ひどい時は目が冴えて眠ろうとしない凛一を一晩中あやしたこともある。
ベビーシッターを頼んでくれと両親に言えば良かったのだが、いつしか梓も俺も、夜に仰せつかる凛一の世話が面白くなってしまっていたんだ。
すべては凛一の可愛さの所為なんだが、あの頃は学校が終わると一目散に帰宅し、母の傍にいる凛一の姿を飽きもせずに、始終見つめていた。
サルみたいだと言った梓の言葉は一体何だったのだろう。
人間とはこんなに美しい生き物としてこの世に存在しえるのだろうか…
俺は純粋な「美」を凛一の中に見いだしていた。
凛一は見事に美しかったのだ。
その容姿も魂も…
すべてが俺を魅了してやまなかった。
text by saiart
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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 1
始まってしまいました。慧一編です。
初めに断っておかなければならないのですが、BL小説とはいえ、このお話にはほとんどといってH描写はないです。
期待されていたらなんなので申し上げておきます。
慧一のひたすら苦悩する日々しかないと言っていい。
自分の「愛」という重荷をどれだけ持ち続けることができるのか…それを問いたいんです。
結論はまだ決めていないので、書きながら慧一の気持ちが変わっていくのか…それは判りませんが、できれば…私は慧一好きなので、彼に幸せになって欲しいと思っています。
さて、どうなることでしょうか…
良かったらお付き合い下さい。
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待ってました!!
私も慧一くん大好きですっ!!
伽羅さん
お待たせいたしました〜
またこんな感じで始まりました〜
邪まな慧一ですが、よろしくお願いします( ^^) _旦~~
またこんな感じで始まりました〜
邪まな慧一ですが、よろしくお願いします( ^^) _旦~~
結末を決めずにキャラの動くに任せるって、
サイさんらしい書き方ですね。
むしろその方がキャラの心情を自然に書けるのかな。
なんにせよ、どういう結末を迎えるのか楽しみです。
サイさんらしい書き方ですね。
むしろその方がキャラの心情を自然に書けるのかな。
なんにせよ、どういう結末を迎えるのか楽しみです。
さくちゃん
どうしたら慧一と凛一が幸せになれるのか…それが一番の悩むところ。
実際慧一に相手をつくりゃいい話なんだけど、そこに逃げるわけにはいかないからねえ〜
苦しくても納得してもらわないといけないし、いっそ苦しんだまま生きてもらうしか?…いや、もう殺すか?
色々考えたんだけど、こりゃやっぱり書いてみて、慧一になりきって決めてもらおうと…
と、なると凛一に決定権がある。そこが難しいよね〜
凛一の選び方しだいなんだけど…
う〜ん、書いているとね。慧一の凄みが怖いよ。この人は凛しか見えてないもん。
一番ヤバい人になってる。
どうなるんだろう…
実際慧一に相手をつくりゃいい話なんだけど、そこに逃げるわけにはいかないからねえ〜
苦しくても納得してもらわないといけないし、いっそ苦しんだまま生きてもらうしか?…いや、もう殺すか?
色々考えたんだけど、こりゃやっぱり書いてみて、慧一になりきって決めてもらおうと…
と、なると凛一に決定権がある。そこが難しいよね〜
凛一の選び方しだいなんだけど…
う〜ん、書いているとね。慧一の凄みが怖いよ。この人は凛しか見えてないもん。
一番ヤバい人になってる。
どうなるんだろう…
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