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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 3 - 2009.06.28 Sun

3.
母の一周忌が過ぎた頃、父のロンドンへの転勤が決まった。
家族全員で一緒に行くか意見を求められた。
俺と梓は話し合った上、この家に残ることを選んだ。
父は俺たちふたりで凛一を育てるのは無理だと、母の姉である伯母に凛一の養育を頼んだが、俺たちは猛反対した。
今更凛一を他の誰かに預けるなんて、出来るはずも無い。
まさにあれは俺たちにとって、珠玉の宝であり、あれなしでは生きている価値を見失ってしまう…そう思い始めていた。
それは肉親への深い愛情であり、真の慈しみであり、利己や打算など一片も無い。
少なくとも梓の方には曇らすものなどないだろう。
だが俺はどうだ。
凛一を独占したいという想い、支配しようとする圧力…
そしてわだかまる抑圧された感情。
光の影に潜む猥雑な欲情が覗き見する。

凛一は俺たちに良くキスをした。
それは母親の残した愛のある性癖でもあった。
キスは信頼と安心の印であり、凛一にとっては自然の行為だった。
凛一の上唇は富士の形を描き、その下にはそれを移す湖が艶めいている。媚びているわけでもないのに、どうしたらそんな魅惑的な顔ができるのだろう。
意識下で俺を誘っているのか?そんな妄想に囚われてしまうほどに、凛一はかわいいのだ。
その口唇が俺に触れる。
暫くの陶酔の後、やわらかい口唇から忍び込む凛一の舌が俺のソレと絡むと、凛一は掬い取るように離す。
そして保護欲をそそる満面の笑みで「慧、大好き」と言うのだ。
誰がこの子の無垢なる媚態に勝てようか。

同じように梓も凛一の誘惑には参ってしまったようだ。
凛一にお小言ばかりを言うくせに、キスのおねだりには勝てない。
同じようにキスの挨拶を受けるたび、梓の顔も陶酔と困惑の入り混じった顔で、瞳を宙に浮かせていた。
俺たちは凛一に良く言い聞かせた。
キスをするのは俺たちだけにしなさい、と。
こんな甘い蜜のような感覚は、ふたりだけの特権にしなければならない。

凛一は人見知りもあまりしない為、家を出ると誰彼に対しても、気前よく愛想を振りまく。
当然その愛らしさから、大方の人は幸いの笑みを返し、何かと良くしてくれる。
田舎から送ってきたからと珍しい果物やお菓子は当たり前で、上等の服や靴、宝石までもこの幼子にやろうとするのだから、こっちもたまったもんじゃない。
またもや凛一に言い聞かせなきゃならない。
知らない人に笑いかけちゃ駄目。話をしてもついて行ってもいけない。変なことをされそうになったら大声で叫ぶこと。
バカみたいに何度も繰り返し、俺と梓は世の親バカどもの気持ちが嫌になるくらい判る気がした。
もしも凛一が世の中の悪の部分に犯されたら…と、思うと、居ても立ってもいられない。
とうとう凛一を自分も習っていた空手と古武術に連れて行き、自分の身は自分で守るよう、鍛錬させることにした。

かわいい凛一は育つにつれ、かわいさよりも整ったあでやかな美しさという容貌になり、俺はまたそれに頭を抱えた。


凛一の塵ひとつない真っ向から迫る信頼と愛情の行為に、俺は年を追うごとに恐れを為していた。
ただの肉親の愛情表現だから、それを受け止める俺自身が慌てる必要もない。
母親だったら凛一の行為になにを恐れ戦く必要があろうものか。
しかし俺は…凛一に肉親以上の感情を常に抱いていて、それが消え去ることもなく、また消すことも逃げることすら出来ないままで、凛一の傍にいるのだ。
どれだけの忍耐力を必要としたと思う。
考えただけでマゾヒストになれる。

弟じゃなかったらどれだけ救われたか…俺は一時期この妄想に囚われ、自分が貰い子であればいいだとか、両親のどちらかが凛一とは違っていたらだとか、少しでも肉親の縁から離れられる手立てを考えていた。
実際区役所の戸籍まで確かめに行ったのだから、藁にも縋る心持ちとはこういう事なのだろう。

なぜ凛一なのか。
なぜこの想いが凛一にしか向けられないのか。
これはもう妄執ではないのか。
なにかの呪いじゃないのか…
俺は何かが間違って産まれてしまったのか…
これは本当に欲情なのか?
情欲とは愛情の本質ではないのか?
凛一を欲しいと願うのは裏を返せば、真実の愛と言えないだろうか…

それともこの猥雑な欲望は、時が来れば、ああ、あれはただの悪い夢だったと笑えるものになるのだろうか…

俺は決して自虐的体質ではないが、凛一への邪まとも思える妄執にとりつかれると、その恐ろしさに身体の底から震える時があった。
いつか、俺の箍が外れこの純真な弟を汚してしまうかもしれない。
俺はその妄執が頭を横切る度、真正面から俺を見つめる凛一の視線から目を逸らし、見まいとした。
しかし、目蓋を閉じても凛一の輝きは網膜を焦がすほどに眩しくて怯まない。
俺はとうとう自分のこの嗜好を認めざる負えなくなった。


クリスマス聖母39



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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


● COMMENT ●

おお、出てきましたね。

慧一の本心!!
嗜好なんだ!これは…もっと掘り下げて説明してほしい。
もだえ苦しむ慧一の心の中もみたいです~。
私だけじゃないよね?

アドさん

過去編なので、サクサク書けるかと思ったら…かなり難航しております。とにかく疲れる。慧一は本当に怖いものがある。
この怖さはリュウとかの怖さじゃなく、人間の欲望の怖さなんだけど…計り知れないからね。
でも現在の慧一はかなり落ち着いているから、そこに行くまでを描かなきゃならない…
なんか大変です。
がんばるよ(~_~;)


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