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2019-09

水川青弥 「引力」 1 - 2009.06.29 Mon

rinmina6

 一度は断ったものの、相変わらずもう一歩踏み出すことができないまま宿禰との逢瀬は続いている。
 多分、おれは宿禰とは友だちでいられればそれでよかったんだと思う。
 けれど宿禰は違う。おれとキスしたり抱き合ったりしたいと言う。
 それが叶わないならおれを傷つけるまえに身を引くという彼の身勝手な言い分が、腹立たしくて、悲しかった。
 なぜ悲しかったのか、自分でもわかっている。
 だから宿禰の気持ちを受け入れることにした。
 まだ「好き」とは言えないけれど、これが今のおれの精一杯だった。
 こういうのも付き合ってるうちに入るのだろうか。
 おれは宿禰とどうなりたいんだろう。
 そんなことを考えているうちに、宿禰にデートに誘われた。


 日曜日、どこでもおれの好きなところへ行こうというので、おれたちは電車に乗って海へ出かけた。映画館や水族館などごみごみとした屋内で過ごすより、大きな海を見たいと思った。
 夏の海水浴シーズンを過ぎ、さすがに海に入る者はいなくなったが、それでも浜辺にはカップルらしき男女の姿がたくさんあった。……というよりカップルだらけだった。
 そんな中を男同士で歩いている自分たちは、他人の目には一体どんなふうに映っているのだろう。
 考えるまでもなく、友だち同士に見えているに違いない。
 そうは思っても、なんとなく気分が落ち着かない。無意識のうちに宿禰との距離を測ってしまう。
 そんな自分をつまらない人間だと思う。
 きっと宿禰だって物足りないと感じているはずだ。
 学園でまことしやかに囁かれている宿禰の噂を耳にして、ますますそう思うようになった。
 その噂を丸々信じているわけではないけど、火のないところに煙は立たない。少なくとも宿禰は平凡なおれなんかとは別の世界に生きてきた人間だということは確かだろう。
 今は普通の人間が物珍しいだけで、そのうちおれにも厭きるに決まっている。
 宿禰を信用していないというよりも、自分にそれだけの魅力があるとは思えなかった。
 ……いや、やっぱり宿禰を信用していないのかもしれない。
 レストランでランチを食べてから海辺に出ると、おれたちは土手に座って海を眺めた。
 不意に宿禰が訊ねてきた。
「なにか聞いた?」
「え?」
「俺の噂話とか」
「……いや……うん、少し」
 思わず言葉が淀んでしまった。
「どんな?」
 おれは答えられなかった。
 すると宿禰は穏やかに言った。
「なにか聞きたいことある? 噂話なんて大概尾ひれがついてるだろうし……どんな話になってるんだか、肝心の本人もよく把握できてないんだ。ミナが聞きたいことがあるなら、俺正直に言うよ」
 その言葉はうれしかったし、気にならないといえば嘘になる。でも、それ以上に本当のことを聞くのが怖かった。
「べつに……宿禰がなにをしてきたかなんて、おれには関係ないことだから……」
「関係あると思うぜ」
 おれは宿禰の顔を見つめた。
「少なくともさ、ミナは俺と付き合ってくれてるじゃん。おれという人間に興味あるんだろ? じゃあ、どういうふうに育ってきたのかとか、そういうの知りたくない?」
「だって、ここにいる宿禰が今の宿禰だろ? それ以外に知る必要があるのか?
「まあ、正解だね。俺も今のミナが好きだから、過去は一切関係ないんだと思う。でもね、知るということと知りたいと思うことは違うのさ。本当に好きなら……俺もミナのすべてが知りたいと思うよ、きっと」
 宿禰の言うことはわかる。
 おれにもいつか、宿禰のすべてを知りたいと思える日がくるのだろうか。
 そんな思いに耽っていると、唐突に宿禰が提案した。
「キスしようか、ミナ」
 おれは驚いて聞き返した。
「今の俺たちが過去になる瞬間を認めつつさ、お互いを知る瞬間を心に留めておく……結構ロマンチックだろ?」
「記憶に留めるためにキスをするのか?」
「記憶に留まるかどうかを確かめるためにキスをするの。どう?」
「どうって……」
 悩んでいると、宿禰の顔が間近に迫ってきた。
「うわぁ!」
 反射的に仰け反ったおれはバランスを崩した。それを支えようとした宿禰もろとも土手から落ちる。
「い、てえ!」
 背中の痛みに顔をしかめながら起き上がり、ずれた眼鏡を直す。
「おい、大丈夫か? っつうか、おまえはいっつも肝心な時に何て声出すんだよ!」
「だ、だって、お、おまえ急に……」
「いや急じゃない、ちゃんとそういう話してから襲ったろ?」
 襲うという単語があまりにも露骨で、思わず顔が熱くなる。
「お、襲うな!おれは慣れてないんだ」
「じゃあ慣れろ。俺も充分おまえに合わせてやってんだから、つべこべゆうな。べっつにいいじゃん、キスくらい。欧米では挨拶だろーよ」
 その感覚はおれにはわからなかった。ここは日本だし、そういう宿禰のデリカシーのなさがいやだった。それこそ彼がどんなふうに育ってきたかわかるというものだ。
「もうおれ、帰る」
 おれは駅に向かって歩き出した。




                                               text by sakuta



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● COMMENT ●

さくちゃん

私も過去編書いてて思うもん。ここ繰り返す場面だね~って。でも違う視点だから、受け取りかたは違うしね~
特にりんとみなとじゃ、同じ風景を見ても感じ方は全然違うだろうし。その違いを面白く読めたら、書き手としてはおkというところじゃないんでしょうか。

さくちゃんを真似して、色んな物語を更新していこうかな~と思っているんだけど。
週刊誌みたいに色々読めたら、楽しいよね。
けど、むっちゃ大変そう…少しずつならなんとかなるかな~

たしかにおもしろく読めるものを書ければいいんですけどね~。

サイさんなら複数の物語を同時進行で書いていけるんじゃないですか?
私は本来1点集中型なので難しいですけど…。


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