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2019-11

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 5 - 2009.07.04 Sat

5.
大学は都内に決めていたし、自宅からの通学は充分可能だったが、敢えて独り暮らしをすることにした。
勿論ふたりから距離を置くことで、自分自身への客観視と抑制を補う為だった。
勝手に決めたことで梓とも揉めるが、俺は決意を曲げなかった。
今に思うとひどい話だ。まだ高校生の梓ひとりに凛一を押し付けて、俺は逃げ出したんだから。
凛一の学校行事は今までも出来るだけ参加していたし、それは引き続き俺が引き受けることにしていた。
親がいないことで凛一に引け目を味あわせたくなかった。それに学校での凛一の様子も見ておきたかったのもある。
彼は学校でも一風変わった存在で、誰にへつらうでもなく、また誰を無視するわけでもなく、友人達とはしゃぎ、笑いあっていたが、明らかに他とは存在感が違う。
ただそこにいるだけで目を引く者だった。
王の如く振舞っているので、心配もしていたが、凛一自身はその違和感すら楽しんでいる風で、全く厭わなかった。
あれだけ回りに気を使わないで闊達に自由に生きていられる性格が、俺みたいな奴から見れば羨ましい。
長い黒髪を靡かせて走る様は、昔観た冒険映画の英雄にも似ていて、人目もはばからず見惚れてしまう。
凛一は俺の憧れでもある。

その凛一と離れることは自分で決めておいて情けない話だが、寂しくてならなかった。
俺は大学に入るとすぐにセックスフレンドを探した。
相手を探す時、俺は凛一に少しも似ていない感じの男を選ぶ。
即ち平凡で、印象の薄い従順な扱いやすい男をだ。
何故ならそういう奴に、俺は絶対本気にはならないとわかっているから。
本当の本気は凛一にだけでいいんだ。

それでも凛一と暫く離れると、恋しくてたまらない。
ちゃんと食べているだろうか。俺を想って泣いていないだろうか。
…俺を忘れたりしていないだろうか。

或る日、梓から連絡をもらった。
凛一が熱を出して、俺を呼んでいると言う。
俺はすぐさま凛一の元へ帰った。
熱を出して息を切らしている凛一は弱り果てて、それを見ていると可哀想でならない。
「慧…慧がいないと寂しいよ…」
涙を一杯に溜めて苦しそうに言う凛一に心が打たれた。
「ごめんね、凛。傍にいるから」
差し出された腕に、身体を差し出し、俺も凛一の身体を抱きしめた。
凛一のすべてを身体の隅々まで行き渡らせた。
キスを求める凛一の応えながら、俺はどんなセックスよりも叶わないほどに満ち足りたものを心に感じていた。
俺を求める、俺を必要とする凛一を、俺はいつか自分だけのものにできるかも知れない。
そんな夢を見ていた。

俺はその秋、父親に自分がゲイであることを告げ、宿禰の長男として、その責任を全うできないことを謝罪した。
父は黙っていた。
俺を責める権利はこの人にはないと、俺は思っている。だからどんなに非難されようとも知ったことじゃない。
だが彼は、暫くの沈黙の後、一言こう言っただけだった。
「慧一の人生だから自分の好きにしなさい…葵なら…母さんなら多分こう言うんだろうね。私にはそこまでの境地には辿り着けないが…結局は、おまえが決めることだしな…」
父親の嘘ではない残念そうなしかめた顔は、彼の自分への愛情だと知った。

程なく俺がゲイだということは凛一にも知れた。この好奇心のかたまりの弟は俺に一切のごまかしも無くズバリと聞いてくる。
「慧はどうして男の人としかセックスしないの?慧が入れる方なの?どうして女の人じゃ駄目なの?」
すべておまえの所為だとは言えるわけなかろう。
俺は苦い顔で「そういう性質だったとしか言えないんだろうけど…」と、言葉を濁す。
こういう会話はやばいんじゃないかと逃げ腰になるが、凛一は追求の手を弱めない。
あれこれと避けようと目論むが、とうとう核心に触れてくる。
「じゃあ、僕は男だから、慧一の恋愛対象にはなるの?」
マジでびびる。心臓の鼓動が早くなる。
俺は胡坐をかいた俺の膝にすわる凛一に気取られないが、心配で仕方なくなった。
「…ならないよ。凛は弟だろう。そういうのは対象外」
「え~そうなの?僕、慧だったら対象者になっても良かったのに。キスしてもダメ?」
「キスはいつでもしてるだろ?そういうの考えて凛とキスしたことないよ。凛もそうだろ?」
「だってキスは愛してるっていう意思確認だよね。梓が言ってた。じゃあ僕とするキスと慧が恋愛対象者にするキスはどう違うの?やることは一緒でしょ?」
これはかなりヤバい状況じゃないのか?俺は本当に困ってしまう。
「…むずかしくて…答えられないよ、凛」
「じゃあ、やってみる」
冗談じゃない!やめてくれ、と、思う前に凛一の口唇が俺の口唇と重なった。
この状況で無理にやめさせたら、それこそ凛一は俺を不信がるに決まっている。
俺は精一杯自制しながらも、凛一を安心させる為にできるだけ優しく応えてやった。
…それにしてもまだ10歳なのになんて甘くていやらしいキスをするんだろう。
全くこの天使に俺は翻弄されっぱなしだよ、凛。

角度を変えながら、何回も舌を絡めては吸いつく凛一の顔をぼおっと見ていた。
しばらくして俺から離れた凛一はその艶めいた口唇で俺にあどけない顔を見せた。
「どう?感じない?」
「…そういうキスは好きな人とやりなさい。俺は対象外」
精一杯の演技で持って、平常心のふりでそう言うと、「ざんね~ん」と大げさにのけぞりそしてまた俺の肩に顔を埋めた。
俺はその髪を撫でながら「…凛一は普通に女の子を選ぶといいよ。俺の真似はするなよ」と、言った。
凛一は僅かに頷きながら、俺を強く抱きしめた。



       keirin8





                                          text by saiart


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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


挿絵風にしてみました。



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