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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 6 - 2009.07.12 Sun

6.
大学は建築学科を選んだ。
選んだ理由は、昔、死んだ母の聖堂を作ろうと、梓と凛一で話し合ったことがあったからだ。
母は宗教人では無かったが、多くの慣習のように母の遺骨は父方の墓に入れられた。それは家族の本意ではなかった。父は遺骨を手放すことを嫌がっていた。
そういう姿を見ているからだろうか、俺は俺たちの為の聖堂を小さくてもいいからどこか海の見える丘にでも作りたいと願っていた。
俺たち家族の「死」を、聖堂という「家」で見守り、そして共に眠りたい、と思うのかもしれない。

大学では俺は勉強に打ち込み、そして自由を謳歌した。
凛一と梓に縛られない平日の気ままさは、かつて無いほどに自分自身を舞い上がらせた。
俺は「天文観測の会」というサークルまでにも属し、星空を見上げながら、自分の小ささを笑うのが好きだった。
鬱積した自分の感情や家族へのしがらみ、とりわけ凛一への欲情、そういう自分の見たくないものも宇宙の元では些細なことですらなく、もう、どうだっていいものと思える。
それは気休めでしかなく、現実に戻れば、ありとあらゆる規制に雁字搦めになっているのはわかっていたが、星空の下ではこんな卑しい俺でも許される気がした。

大学二年の時、俺は藤宮紫乃という同い年だがひとつ下の学年の男と付き合った。
それまで一度たりとも本気で付き合ったことが無かったこの俺が、曲りなりにとも本当に「恋」をした男だった。
見てくれは高慢で美しく、匂いでお仲間だとわかった。
彼は傷ついた羽を隠そうともしない。
反対に傷つくことさえ厭わない佇まいで、世の中にも自分にも突っ張り、アウトローを気取っていた。
一見俺に似ているのかと思った。だが、違っていた。
紫乃は不器用ながらも純粋な男だった。

俺は自分の汚さを隠すのにあまりに慣れすぎて、品行方正の服を着、誰が見ても一種の高みにいる者を演じていたが、彼は自分の汚さを余すところ無く見せ、そしてすべての矢を自分で受けることを覚悟している。
自分に正直で純粋。まるで俺とは正反対。少しも似てはいない。
こんな俺を愛してくれた男だった。
だが俺は、紫乃のこの尊い好意さえもどこかで嘲笑っていた。

俺は凛一以外の人間を認めるわけにはいかない。
紫乃の優しさや俺への愛情を快く感じ、甘え、其の反面、凛一以上の存在など俺には必要ないと見下し、紫乃を傷つけることさえ厭わなかった。

梓が死んだ時も同じだ。
俺は妹が死んだ事を悲しみ、ただひとりの妹の為に涙したが、それ以上に凛一を独り占めできるという優越感をどこかで感じていた。

俺を監視するものはいない。これで凛一は俺だけのものだ。

だが凛一はそうじゃない。
凛一は梓の死をひとりで相対し、悲しみ、そのショックで極度の拒食症に陥った。
俺は凛一を失うことを恐れた。
凛一を失っては俺の生きる意味など無い。

凛一を慰め、生きる気力を与え、精神的な支えとなる。模範的な兄の役目。
時間が経つと、俺は凛一を手にした喜びは消え去った。

拒食症の凛一は俺の手からじゃないと物を食べない。離れると泣く。学校に行けるわけもなく、遅れないように勉強させなきゃならない。
凛一は異常なほど俺に甘えたし、俺を束縛した。
抱きたいと思っている兄に、一パーセントも疑わずすべてを委ねてしまう弟。
俺は全く身動きが取れない。
梓を亡くし、凛一を手にした俺はその存在の脆さ、大きさ、思い通りにならないジレンマで狂いそうになった。

凛一が少しずつ落ち着き始めると、俺はまた凛一と距離を取った。
気兼ねの無いひとり暮らしを知った俺は、凛一を好きにできないもどかしさから解放されたがった。
一人暮らしには自由がある、静かな空間がある。俺を甘やかしてくれる紫乃がいる。

俺は凛一を自宅にひとり残し、マンションへ戻った。
凛一は俺を恨んだだろう。それもいい。
自分のものにできないならいっそ憎まれたほうがいい…そう考えることすら俺には快感になっていた。

凛一が中学生になると俺はますます帰らなくなった。
ひとつは俺の勉強が多忙を極めたからだ。
建築士や技師の資格を取る為の国家試験、建築デザインのコンペティション、研究レポートに明け暮れた。
いくつかの国内外の大学院からの誘いも受けていた。それはどれも魅力的なもので、とりわけシカゴ大学の総合建築学科には興味があった。
自分の才能を試してみたい。本気で追求し、頭に描いたデザインを三次元に表現してみたい。そして、そこに住む人々の暮らしを想像する。
もしかしたら、今まで味わったことの無い充実感を味わうことが出来るかも知れない。
本当の自由を得られるかも知れない。

だが、凛一を置いてアメリカに行くわけにもいくまい。
何か合ったらすぐにでも帰れる距離だからこその一人暮らしだろう。
今だって凛一と過ごすため、毎週末自宅に帰る。
不貞腐れた凛一は、俺を責めた目で見る。
俺は自分の後ろめたさに怯えながら凛一に笑いかける。
俺は…こんな関係を望んでいるわけではない。

俺は凛一を想い、畏れ、今にも凛一を壊してしまいそうなほど愛していた。
だが、凛一にとっては、俺はたった一人の兄だった。それだけしかなかった。
こんなに苦しく切なく、適うことのない「愛」ならばいっそのこと…と、思う。

俺は凛一と話し合うために、前期の試験が終わるとすぐさま自宅へ帰った。


                                     text by saiart


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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


自分は慧一が好きなのだが、慧一の何が好きかというと、凛一を神聖視しながら、肉欲を持っている。そして抑制するM的なところと、他人には完全にS的なところなんですが…こういう人はめんどくせえだろうな人( ̄ω ̄;)
慧一の視点からの紫乃は、すごく純粋な人間です。




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● COMMENT ●

慧一の業の深さ、
それを物語るサイさんの独特な筆致に引き込まれます。
文章そのものになにかがこもってますよ。

さくちゃん

実は私は慧一が一番純愛に生きている人だと思うんです。
正直こんな重い話、読んでも楽しくないし。描いてる自分もかなりきつい。でもここは重要だもんね、後々この人のこの業がこの話の大事な核になる気がするのですよ。
そうなんです。まだ最後の事ははっきりと決めていない。だからこそこの人の気持ちを突き詰めないと、話が書けない。
こんなにつらくても凛一を思っている慧一を誰か認めてやってくれないでしょうかねえ~ww
何かがこもっている?慧一の怨念か?:(;゙゚'ω゚'):

文章ははっきりいってもう、しっちゃかめっしゃかで…人に読ませるレベルじゃないな~と、(*v.v)。ハズイ。。。。。
さくちゃんのテキスト見て勉強させてもらってます。わかりやすい書き方だもんな~さくちゃんの。

慧一

本当に最初の最初…いや、中盤より後ぐらいまで慧一はエリートで明るくて、優しくて、ハンサムで背が高くて、って完璧~♪って思っていました。
違うよ~っとサイさんに予告された時は「え?えええ?」でしたが、違いましたね~、ドロドロしてます、自己中心的でもあり、愛情がねじ曲がってもいるんだけど、やっぱり好き!

これが純愛なんですかね?
だからこその純愛なんだ!そういう慧一に、みな惹かれていくんでしょうか?

これも、気になるお話です。

アドさん

いや~みんなは惹かれないでしょう、慧一には。
慧一視点から書くと、凛一の自分勝手なところが見えて仕方が無いよね。
私はこういう血の繋がった兄弟モノのBLって全く読んだ事ないんだけど、実際どうなのかしら~とは、この話を書いてて良く考えるよ。
慧一がこんなに我慢する必要があるのか?とか、寝たからってそんなに罪になるのか?って…そこがよくわからないんだけどね~
まあ、自分の感情に沿って書くしかないです。
結構きついけど…がんばる(;´▽`A``


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