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2019-11

ユーリとエルミザード  「黎明」 3 - 2009.07.13 Mon

3.
エルミザードは自分が好きではなかった。
灰色に見える銀更紗の髪も、すべてが華奢に出来ている肢体も、魔力を使う時、銀の髪が血のように赤く染まるのも。
殊更に気に入らないのは自分の身の上で、エルミザードの父親は魔族の者であった。
魔物と人間の間に出来た子は、異種姦とみなされ、呪われた者として存在すら否定されていた。

ヴァレリアウスもライラスも、この地上の歴史において、魔族との間の子は珍しくないと言うが、エルミザードは幼い頃、母を目の前で殺され、自分も殺されかけた。
まだ6つの頃だ。

村の古臭い信仰が、エルミザードの血を畏れた。
村人の狂った感情が彼ら親子を追い詰め、母を殺されたエルミザードは怒り、嘆き悲しみ、潜在していた魔の力を解き放った。
村はエルミザードの魔力で焼かれ、エルミザードも茫然自失となり、炎の中に立ち尽くしたまま、我を忘れていた。
偶然にも、村の近くを通りかかったヴァレリアウスは、幼いエルミザードを救い、彼をライラスの元に連れてきたのだった。
ライラスの屋敷に向かう途中、ヴァレリアウスは、生きる気力を失したエルミザードに、生きる理由や希望、赦しを授けた。
エルミザードは、ヴァレリアウスという初めて信頼できうる人間に出会い、暗闇に巣食うカーテンを初めて開け放った。
そして、それまで人の目を避け、罪の子と蔑まれてきた過去を、自ら焼き払ったあの村を忘れず、己の力を自制し、正しく生きることを自分に科した。

エルミザードはこのライラスの元で一生、世俗とは関わらずに静かに過ごせたらと思う。
魔族の生きる年月は人間のそれとは違い、より長く生きられるというが、エルミザードの身体にまだその兆候はなかった。
「…だけど、いつか自分は魔物に変わるかも知れない」
それを考えると、エルミザードは自分を殺したくなる。

なぜ母は自分を産もうとしたのだろう。
父を魔物と知って交わったのか。それとも無理矢理に強姦されたのか…それだったら産まれる前に始末すればいい。
母は何も自分に教えてくれなかった。父の名前すら。
いや、魔物の父の名前を今更知ってどうするというんだ。
もし、その魔物が僕を探しだそうとしたら…もし、僕の力があの時のように、この地上の人々に災いを与えたら…

エルミザードの被害妄想癖をライラスはひとつひとつ丁寧に取り除いてくれた。
ライラスは、「誰も己の心を縛る事はできない」と、言った。
「自分自身でさえもだよ、エルミ…」低く通る声に、エルミザードはこの人が本当の父親だったら…と、何度も願った。


ユーリとヴァレリアウスが戻る日が明日に迫った。
エルミザードはひどく残念に思い、力を落とした。
自分と同じ年頃の子と仲良く過ごすのは初めてだったし、エルミザードはユーリの明るさや勘の良さ、とりわけ、自分には無い先導していく光のようなものに憧れた。
自分とは全く違う者に惹きつけられたのはユーリも同じだ。
エルミザードの生い立ちはヴァレリアウスから少しは聞いていたが、世間なれしていない純粋なエルミザードはユーリを和ませた。
日頃、自分の回りは魔術を持った大人たちで大方占められている。
さりとて魔術師となると、自分の魔力に慢心し、自慢したがり、ついでに人を貶めようと企む卑屈な人格が多い。
ユーリは一族の長になるべく幼い頃から選ばれた魔術師として教育されてきた。
自由放埓なところもあったが、その魔力を使いこなす能力も高かったため、気に入らない奴は容赦なく跪かせてきた。
弱者には力を与え、楯突く奴は切り捨てる。それがユーリのモットーだ。
しかしエルミザードは弱者ではない。一見儚げにみえる容貌の奥に、ただならぬ力を感じる。それと相反するようなエルミザードの持つ柔らかなオーラがユーリには心地いい。
ずっと傍にいたいと思わせる者に、初めて巡り会ったと、ユーリは顔を綻ばせた。

夕闇の迫る丘に並んで座った。
「君と過ごせて楽しかったよ、ユーリ。また…機会があったら遊びにきてよ」
「今度はエルミがおいでよ。私の街はこんなに豊かな景色はないが、それなりに楽しめるところだ」
「…僕がここから出るなんて…考えられない」
エルミザードはユーリの誘いを仕方なく断らざるおえないといった風に顔を沈ませた。
ユーリはその様子を見て、意を決したように立ち上がり、エルミザードの前に立った。


ye2


夕日がユーリの背中で遮られ、エルミザードは思わず彼の顔を見上げた。
「君はいつまでライラスに守られて生きていくの?それが君の望みなの?」
「違う」
「じゃあ、ひとりで歩く訓練をしなきゃ」
「訓練?」
「うん、勉強さ。沢山の人と交わり親交を深めて人込みに混じって君の居る場所を見つける」
「そんなこと僕に許される?」
「当たり前だろう。この地上に生きるすべての者は一様にその権利を有する」
「でも僕は…」
「君の親友になりたい」
「親友?」
「そう、親しい友の事。実を言うと私も今窮屈な生活を強いられていてね。そろそろ家を飛び出そうかと思っているんだ」
「え?」
「来年の王立士官学校の試験を受けて見ようと思ってる。逃げ出すにはいい理由だ。まあ、反発は食らうだろうがね。試験は難しいというけど、合格すれば5年は親元の監視もなく遊べる。しかも生活全般国費で賄うんだぜ?真面目に勉強して卒業できりゃそのまま国に雇ってもらえるし」
「でも僕は…」
「ヴァレリアウスも特別教師として鞭を揮うよ」
「え?ヴァルが?」
「やる気になった?」
「…試験は難しいんでしょ?」
「勿論、国中から集まるからね。そうだね、昨年は五千人ほど受験して、二百人の合格者だ」
「とても無理」
「やってみなきゃわからないさ。君は素質があるよ、エルミ」
「…ヴァルから聞いているでしょう?僕は忌むべき者なんだよ、ユーリ。その僕が普通のみんなと同じように生活したり勉強したり、そんな夢みたいな事をしてもいいの?」
「当たり前じゃないか。君の身体の半分の血が魔族の者であっても、君に何の咎があるの?そもそも魔族のすべて者が許さざる者なの?私は出会ったことはないけれど、もしエルミが魔族だったとしても、私はエルミと友達になりたいね」
「…僕は自分の血を畏れている。誰も憎みたくないし、あの力を呼び出させたくない」
「だから勉強さ、エルミザード。私たちはまだ12だよ。これからの長い年月を何の為にどう生きるかなんて決めるのはこれからだ。怯えているばかりじゃつまらないよ。君の力を君自身が使いこなせなきゃ意味がない。ね、せっかく巡り逢えたんだよ、ここで君と別れるのは嫌なんだ」
「ユーリ」
手を伸ばすユーリに、エルミザードは戸惑った。
この手を取っていいものか、それとも目を瞑って静かに薄暮の中で一生を終えるべきなのか…

目を開けると黄昏が逢魔が時に変わっていた。
伸ばされた手はまだ目の前にあった。
エルミザードはその手を掴んだ。
「ユーリ、君と共に生きたいと思う。それが苦しい道でも…」
「苦しみはあろうとも、希望を持って立ち向かい、突き進んでいく。それは意義のある道標となる」
「ミストラルの詩だ」
「そう、理屈っぽいが意義を見い出すにはいい詩だね」
ユーリとエルミザードはお互いを見つめ、笑いあった。

少年たちの語らいは星空が瞬き、その光が何度も夜空を駆け抜けても、終わる事はなかった。



                                              text by saiart


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● COMMENT ●

イラストがぴったりです。

ユーリとエルミザードの、これからをこのイラストが示しているようです。
とってもキレイなシーン!
エルミの自分を忌み嫌う姿が切ない。
ユーリとの友情はこれからどうなるのか❤続きを期待します。

アドさん

この絵は台詞を書きつつ、同じ紙にさくっと描いたものだったんですよ。
こういう文と絵が一致するのが、自分の作品を作る上でのひとつの取り柄だと思うんです。
だから今後も出来るところは描いていきたいですね。

このエルミの生い立ちはリュウの話でも出てくるので、次回を楽しみに~(*゜▽゜)ノ


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