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2019-09

「彼方の海より…」 4 - 2009.07.14 Tue

ryu1

4.
「リック、待って!」
回廊を足早に歩くリックの背中を追いかけ、呼び止める。
リックは振り向くと驚いた顔をした。その顔に涙は見当たらなくてほっとした。
「メトネ、どうした?」
「私も出てきたんだ。いくらリュウがこの邸の長だとしても、君への仕打ちは我慢できなかった」
「…バカだな~メトネは」
呆れた顔でリックは私を見た。
「リュウは僕にこの邸を出て行けとは言わなかっただろう。それだけで十分だよ。メトネを勝手に手伝わせたのは事実だしね。」
「そんなことは…」
「僕の心配はいらないよ。仕事は沢山あるし、リュウのご機嫌が直れば、またお世話を命じられるかもしれないしさ。それより君のことだよ」
「え?」
「リュウの色子じゃなくなれば、君、無傷じゃいられないぜ。メトネを気に入らない連中も多いしさ、何されるか…僕じゃとてもじゃないが、守りきれないよ」
真剣な顔で腕を組むリックに、私も自分に降りかかっている重大さにやっと気づき始めた。
「…そ、んなに、危ないの?」
「リュウに守られてるから、君は無傷でいられるんだ。リュウが君を捨てたとなったら…」
「…」
リックの言葉を聞くたびに暗い気分になってくる。
「ねえ、すぐにでもリュウに謝罪した方が一番いいと思うよ。メトネはいい子だから、僕も他の奴にやられるとこなんか見たくないしさ。さっさと謝ってこいよ」
「だ、だって…結構大変なこと言っちゃたし…リュウ、きっと怒ってるよ…」
「なんて言ったの?」
「…」
黙り込んだ私を、リックは心配そうに覗き込んでいる。

「こんなところでなんの相談だ?」
声の主の方を二人同じに振り返った。
リュウの軍師であるラシュマーが近づいてきた。
「ラシュマー…」
頼れるのはこのラシュマーしかいないと思ったら、急に涙が込み上げてきた。
「どうした?」
私とリックで事の次第を話した。
ラシュマーは黙って聞いていたが、話を続けるにしたがって、真剣な顔がだんだんと緩み、最後まで聞かないうちに我慢できないという風に声を立てて笑い転げた。
「…笑い事じゃないのに…」
私は今にもこぼれかけてしまう涙を懸命に堪えながら、笑うラシュマーを睨んだ。
「だって…あのリュウに、見損なったや上に立つ器量がないなんて…そんな言葉を吐いた奴は今までいないよ、メトネ、おまえは身の程知らずを通り越して、まるでセフィーだね」
「え?」
「セフィーとは魔界では生命の息吹…生まれたばかりの赤子。即ち怖いもの知らずという意味だよ」
「…それ嫌味なの?」
「とんでもない。褒めているんだよ。リュウがおまえに飽きないのもわかる。目を離したら、何をしでかすかわかりゃしない。こんなに手を焼かすんだからね」
「ごめんなさい」
「自分から蒔いた種だ。リュウに謝りたいのなら、私も付き合うよ。ちょうど用もあったしね。彼、ひどいナリだったろう?」
「…はい。服もひどく破れていて、身体も血塗れでした」
「私も今回は付き従ったのだが、ちょっとした騒動でね。次元の狭間から溢れる妖魔たちに手こずったんだよ。二人の魔族を失ってしまった。それで、リュウも苛立っていたんだと思う」
「…」
彼は本当に命がけでみんなを守っているんだ。素直に胸を打たれた。
そう思ったらなんだか急に自分のした事が罪深く思えてならなかった。

暫くの沈黙の後、リックが言いにくそうに言う。
「ラシュマー、僕はどうすればいい?」
「リックはいつも通りに自分の仕事をすればいい。大丈夫、リュウの事は私にまかせなさい」
「ありがとう!」
パッと顔を明るくしたリックはそのまま手を振って、走り去る。彼は私にウィンクをしながら、がんばれよと口を形どった。

リュウの部屋に戻ると、リュウはひとりで食事を取っていた。
洗い流してきたのだろう。いつもの綺麗な身なりのリュウに戻っていた。

「リュウ、経過報告ですが、無事に次元空間のゲートは封印しましたから、暫くはあの地帯も静かになるでしょう」
「わかった」
「それから、メトネが話したいことがあるそうですが」
「あ、あの…」
ラシュマーの影に隠れていたが、彼が私を押しやり、無理矢理リュウの目の前に立たされてしまった。

「誰だ?そいつは。俺は勝手に出て行った者まで覚える気はない」
リュウは私を一瞥し、表情も変えず無視したまま食事に戻った。
「大人気ないことを言いなさんな。メトネはセフィーなんだから、仕方ないでしょ。あなたが少しずつ教えていけばいいことです。それにメトネにも何か仕事をさせてやればいい。あなたのお相手ばかりじゃ、メトネも飽きるでしょうから」
「おまえ、今さりげな~く俺の自尊心打ち砕いたね。…コロすぞ」
「はは、じゃあ飽きられないようにリュウも頑張ることですね」
「ちっ、もういいからさっさと行け。飯が不味くなるだろ」
「御意。ああ、リックは引き続いてあなたの世話係りを申し付けていますから、よろしくお願いします」
確実に面白がっているラシュマーを見送ると、リュウとふたりきりになってしまった。

「ちっ、何だかんだ言って思い通りにしちまうから、年寄りには勝てねえんだよ」
独り言を言うリュウの様子を伺っても、本当に私を許してくれているのかどうかわからない。
「…あ、の…」
「あ~ん?」
「怪我大丈夫だったの?」
「怪我?」
「血塗れだったでしょ?」
「ああ、返り血だろう。俺に傷ひとつ残るわけないだろう。下らんこと言うな」
「そう…良かった」
心からほっとしてそう呟くと、リュウは乱暴に席を立ち、私を睨んだ。
「心にも無いことを抜かして、心配しているフリなんかするんじゃない!どっちにしてもおまえに心配されるほど、俺は柔じゃない。わかっているだろう」
「…はい、ごめんなさい。でも、本当に心配だったから」
「怪我をして心配している相手にあんな罵声あびせるか?普通」
「…だからごめんなさいってゆっているじゃないですか。だいたいあれは…」
私の悪い癖で、またもやムキになって反論してしまいそうになる。
リュウは口ごもる私をじっと見つめ、そして席を離れた。
「…もう、いい。俺は寝る。さっさと飯を食え!」

私を振り返らずにベッドに消えてしまったリュウの姿を少し悲しく思いながら、冷たくなった料理を口にした。

その夜、ベッドを共にしても、リュウは私を抱かなかった。



                                       text by saiart


■「彼方の海より…」  リュウ・エリアードとメトネのお話はここから プロローグ
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