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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 13 - 2009.07.31 Fri

13.
「昔結婚したことがある。俺の実家は戦時中鋼鉄の特需産業で成り上がった、いわゆる戦争成金でね。親戚一同をその企業の配下に置きたがるんだよ。俺も理系の大学院まで行ったんだが、卒業したら有無を言わさず子会社の常務の椅子に座らされた。ついでに嫁さんまでも宛がわれてしまった。俺は自分が同性愛者だと悟っていたし、今更女性と付き合おうなんて思いもよらなかったさ。だけど、その頃は世間にばれるのが怖かったんだね。
今ならどうでもいいことなんだけど、あの頃は他人の偏見や差別が自分のプライドに傷を付けるのが許せなかったんだ。それに、何の取り得も力も持たない俺が、身内の保護も無く生きられるとは思えなかった。だから親の言うとおりに結婚した…すぐに失敗だったと気づいたんだ。だが不思議なもんでね、愛が無くても男と女が交われば子供が出来る。
男の子だった。無邪気な赤ん坊だ。普通なら他人の子でもかわいいと感じる、ただ泣いて寝て笑うだけの小さな赤ちゃんだ。愛情が沸いてもおかしくない。
だが俺には愛情が込み上げてこない。逆に疎ましくなってね。ただ一回や二回のセックスでこの世に産み落とされる生。俺のDNAが埋め込まれた人間。そう思うと愛情より気持ち悪さが先に立ってしまった。このまま夫婦生活を続けるのは無理だと思った。理由を言って離婚して頂いた。向こうも俺に対しての懸念はあったろうからね。…さすがに親も反省したんだろう。諦めてくれた。
慰謝料も養育費も十分補償する為に俺は働いたよ。けれど、2年後、子供が3才になるかならない頃、病気で死んだんだ」
「…」
「堪えたね…自分が殺した気分だった。恐ろしくて気が狂いそうになったよ。結婚なんてしなけりゃ、あの時セックスなんてしなけりゃ良かった…ずっとね、そんな想いに囚われて…子供への同情よりも自分の罪の大きさに砕けてしまった。
どうしてその子に…愛して出来た子ではなくても自分と血が繋がったその子に愛情が注げなかったのか…親としての責任。そんなんじゃない、もっと根本的なモラルを俺は果たせなかった。
俺はすべてを捨てた。家も会社も日本に居ることも嫌になって、世界中を放浪したよ。もう死んでもいいと思って日本を離れたんだ」
嶌谷さんは二本目の煙草を灰皿に捨て、暫く黙ったままジャズの音に身を任せている風だった。
俺はじっと息を殺して次の言葉を待っている。

「…7年前に俺が唯一信用する相手に日本に戻るよう勧められてね、あの店のオーナーなんだが、そいつのおかげでこうやって店の経営をやってるんだ。
ああいう店っていうのは面白いもんでさ。自分と似たり寄ったりの客が付いてくる。傷の舐め合いじゃないけれど、お互いに癒される場所を求めるんだろうね。俺も随分、角が取れたよ。色んな客が来るけれど、凛一みたいな奴は初めてだった。
生きていたら丁度息子と同じ歳だ。天の差し金か、もう一回やり直せって言っているのか?…そんな気分で、自分の亡くした息子の代わりに凛一を愛そうと思った。けどね、見事に裏切られた」
「…」
俺は思わず嶌谷さんを見つめた。
裏切られたとはどういうことだろう。嶌谷さんは俺に何を言おうとしているのだろう。

「凛一と初めて会ったのは、薄暗くて寒いクリスマスの朝だった。
俺の店の外の壁の間に身体を震わせていたんだ。ガキの浮浪者かと思って追っ払おうと声をかけたんだが、顔を見て驚いたね。見事に精錬され過ぎた出来の顔なんだからなあ。あの底知れぬ真っ黒な眼が俺をじっと見つめたんだ。…ああいうのを魔に魅せられるっていうのかな。一瞬で凛一の虜になっちまった。40のゲイのおっさんがさあ13のガキに、一目惚れしちまうんだから、俺も大概哀れなもんだと思ったよ」
「凛一は嶌谷さんの気持ちに気が付いていないんですか?」
「あいつは利口だが、そういう人の気持ちを置き換えることができない楽天家だよ。自分の魅力にもぞんざいだ。何もわかっちゃいないんだからな、自分がどれだけ保護欲をそそる危険人物かって言う事も。他人がどれだけおまえを狙っているのかも…。そのクセ触れようとしたらこっちが大やけどだ。おっそろしい気位の高い女王様だが憎めない」
「…すみません。それは俺にも責任があります」
「いいんだよ、それが凛一だし、それを許されてしまうのも彼の魅力だからね」

「俺は凛一を愛していると思う、だけど、これは性的なものは抜きだ。勿論愛玩してやりたいとも思わない。人間として彼を愛しているし守ってやりたいと思う。だけど慧一君にはとても適わない。凛一から君のことを聞かされる度に、どれほど君と凛一が固く結びついているかを理解してしまうとね、それこそ嫉妬心さえ起こらないもんさ。到底太刀打ちできない」

嶌谷さんの告白に俺は嫉妬や怒りよりも、感情を分け合う者同士と理解した。
この人は俺の告解を聞く聖職者なんだろうか…

「俺は…」深く息を吸いゆっくりと吐き出した。
外の景色は少しずつ白み始めている。さっきまで遠くに見えていた山並みがすでに木々の一本一本がはっきりと見えるまで近づいている。

「俺は凛一を愛している。あなたと違って性欲もあるし。俺だけのものにしたいという独占力や執着心も今やもう妄執と成り果ててますよ。…当たり前だ。あの子が生まれてずっと…この15年間思い続けてきたんだから、今更捨てる場所さえ見当たらない。凛一が居なかったら俺の生きている意味などない…バカらしいと思う。自分の人生だ。自分の為に生きるべきだとも思う。だけど、自分の生は凛を愛するという意味になるんだ。ここまできたら一ミリだって揺るぎやしない。俺も大概アホですよ。適わぬ恋に身をやつしている。でもね、凛一が幸せなら…凛が笑ってくれるなら、俺はどうでもいいんですよ。他人がどうなろうと自分がどうなろうとあいつが幸せそうに笑っていてくれれば、俺は何も求めない」
何も求めない…そう言い切ってしまった自分の言葉を反芻した。
違う…求めていないわけがない。俺はずっと…

「…いや、なにも求めないって言うのは嘘です。俺はどこかで凛一への欲求を抑えきれないでいるのだから…それは見返りを求めていることですよね」
俺は笑った。自嘲ではない。俺は罪を告白した気分でいた。それで救われるとは思わない。救われようとも思わない。
嶌谷さんがどんな敬虔な司祭であったとしても、俺は救いを求めていない。

「凛一を抱きたいという想いを、慧一君は罪だと思っているの?」
嶌谷さんはまるで映画の感想でも聞くかのように俺の根源に語りかける。
俺はゆっくりを顔を上げ、正面の真っ直ぐに伸びていく道路の中央線を見つめた。



                                          text by saiart


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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


ここを書けたおかげでサクちゃんと決めた最終的な筋書き通りに行く道が見えた気がする。ここからまた慧一の告白は続くと思われ…



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● COMMENT ●

ほとんどセリフだけでここまで読ませるのってすごいです。
サイさんのセリフには力がありますもんね。

ところで、お誕生日おめでとうございます!
さきほど本宅のほうを覗いて知りました。
夏生まれなんですね。私とは正反対です~。
これからも素敵な絵と文をたくさん生んでください!

さくちゃん

ありがとう!やっとはたちになったよ~wwww
サクちゃんはいつなの?リク受け付けるよ~多分冬になってもリンミナは終らないと思うから。
今からまりさんからもらったリンミナのイラ飾るね~すごくいい感じなので、サクちゃんも喜ぶと思う。

小説のほうは…これね~もう自分が納得したいから書いてる気がする。
誰も読まないよ、こんな重いの。
サクちゃんが読んでくれたらそれでいい、と思って書いてるの。
この次の慧一の告白が、かなり苦戦しております。この次期とまた事件が終ってからの慧一は少し変わる気がするので、そこの按配がむずかしい。

いいえ、私も読みました。

読みました~。いままで、かすってはいたけど決定的にはしていなかった慧一のリンへの欲望。
はっきりと言いきって、でも、しっかりと蔦谷さんに受け止めてもらっている。
あの、美しい慧一お兄ちゃんが、こんなドロドロとした事を告白していますが、朔田さんが書かれているように、セリフの力で、自然に納得しました。

この後の「事件発覚」での慧一の心理や言葉にも期待しています。

サイさん、お誕生日おめでとうございました!(昨日の)
獅子座だ!イメージぴったりです。

アドさん

そうでした。じゃあ、さくちゃんとアドさんが読んでくれれば満足です。
つか、書いてるだけで自分は満足してしまうので、きつかったら無理しなくていいですよ~
いや、この話、自分では面白いんですよ。
この慧一がどう動き、考えるのか…書いてる自分がワクワクするんです。書きながら読者にもなっているんですね。
このテンションで終わりまでいけたら、お見事と自分で言いたい。

そう、獅子座のB型、これは昔から自分でいばってゆうんですよ。
このとおりの性格だから。


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