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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 15 - 2009.08.07 Fri

15.
「真実の愛」…
自分の口で言葉に出したら、おかしいくらい軽いものに聞こえる。
だけどそれ以外の言葉に表せ無いのも事実だった。
俺は凛一を俺の愛でくるんでやりたい。
そして出来るなら俺が憎まずに済むような形で凛一の幸せを願って生きてゆきたい。
…そんなことができるだろうか…

いつの間にか高速を降りた車は、山間のゆっくりしたカーブを何度も繰り返す。
洪水のような朝の光が車内を照らしたり影を落としたり、まるで俺の心のように思えてしまった。
なぜ俺はこんなに凛一を愛してしまったのだろう。
繰り返す疑問。
どれだけ考えても見つからない答えは、いつか俺を壊すんじゃないかと思っていた。だけど、違う見方をすれば、凛一をずっと愛していくことは、俺にとって救いなのかもしれない。


「月村のことだがね…」
「え?」
半時ほど沈黙していた嶌谷さんが口を開く。
程なく到着場所だとナビの画面が教えている。
「彼も色々あったんだよ。向こうで苦労してやっとプロのピアニストとして認められて、これからという時、好きになった歌姫に騙されて、多額な借金を背負わされた。それから人を信じるのが怖くなったと聞いたよ。なんとか借金を返して、自分の好きな道をまた究めようとしていたんだ。…運命とは酷いものだね。どうしても神様は彼の命を奪わなきゃ気が済まないらしい。苦しんだと思うんだ。何かにすがりたかったんだと思う。人は暗闇の中では、僅かでもいい。光が欲しいと思うだろ?それが凛一だった…」
「凛一は…月村…さんを愛しているんでしょうか?」
「わからないよ。俺にはそう見えなかったから…凛一は月村に惚れている…恋をしている感じじゃなかったし、ただかまって欲しくて、甘えたがっていた。月村は根っからの無骨者で人当たりも巧くなかったし、無口だった。凛一に対してもそっけないどころか、無下にしていたんだ。凛一はそういう月村を振り向かせようとしていた。正直興味本位だと思う。だけど…」
「だけど?」
「月村は本気であの子に惚れていた。だから、心配なんだ」
「どういうことです?」
「月村は、アメリカでは護身用にピストルは当たり前だと話していたことがある。今も持っていると言っていた。それがアパートには無かった…」
「ちょっと待ってください!嶌谷さん、あなた、今までそんなことを一言も俺に言わなかったじゃないかっ!」
「君に余計な心配をさせたくなかったんだよ」
「余計でもなんでも、そんな大事なことを黙っているなんて!」
ピストルを持っていることはどういう意味を持つか…考えなくてもわかる。
それで凛一を脅す事も…それ以上の事だって…何を仕出かすかわからないってことじゃないか。
俺は怒りが込み上げてどうしようもなくなった。

「車を止めてください!」
「え?」
「あなたみたいな人と一緒にいるのは我慢できない。俺はひとりで凛を探す」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。もうすぐ着くから」
「…」
道路上に一台も走っていないことを確認し、俺は嶌谷さんの持つハンドルを右に回した。
嶌谷さんは慌てて急ブレーキを踏む。
俺はドアを開けて車から降りると、進行方向へ向かって歩き出した。
「慧一君!」
嶌谷さんの声には振り向かない。
腹が煮えくり返るとはこのことだ。
何であんな男に、今まで隠していた凛一への思いをぶちまけてしまったのだろう。
正面を向くと向こうから自転車に乗った警察官が見えた。
俺は急いで彼に近寄った。

別荘の住所を伝えるがその警察官は首を捻る。
「外壁は萌黄色。臙脂の屋根に、天使の風見鳥が、ついているんです…」
後ろから走った所為で息が切れ掛かっている嶌谷さんの声がした。
「ああ、その別荘ならそこの脇道をずっと行ったところです。何かあったんですか?」
「ちょっと、息子が友人の別荘に遊びに行ってて帰らないもので、迎えにきたのです。たぶんこの辺りの別荘だろうと思うんですが…おまわりさん、すみませんが着いて来てもらえますか?」
彼は息子を案じる父親の顔を作り、見事に警察官を騙してみせた。

巡査官は快く頷いて、俺たちの後ろから自転車を押してついてくる。
俺の憤りを知ってか知らずか、嶌谷さんは平然と俺と肩を並べて歩いている。
俺は嶌谷さんを恨めしく横目で見ながら聞いた。
「車は?」
「君が勝手に飛び出すから乗り捨ててきた」
「俺の所為にしないで下さい。あなたが黙っていたのが悪いんだ」
「…悪かった。でも慧一君は…突拍子もないことをやってのけるから驚いたよ。凛よりも手強いなあ」
「凛と比べるところじゃない。俺はあなたに無性に腹が立って仕方が無いんだ」
「だから謝っている」
「だいたいあなたは…」
パーン…
朝もやが残る林に響いた音は…。

俺と嶌谷さんは顔を見合わせた。
巡査官は、すぐに銃声だと気づいたようだ。あわてて自転車を倒して走り出す。
俺たちも急いだ。
「何があったんですか?」
走りながら巡査官が聞く。
「こっちが聞きたいぐらいだ」
パーン…
もう一度、銃声が響いた。

二発の銃声、これがどんな意味を持つのか…
心臓の音が、耳から飛び出すぐらいに鳴り響く。
考えたくない…だけど、凛一が銃で撃たれ、倒れている様が脳裏に映る。
そんなことは絶対に、絶対にあってはならない。



                                          text by saiart


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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 





● COMMENT ●

ああ、このとき慧一たちは外で銃声を聞いてたんですね。
息の詰まる展開ですね。

それにしても「真実の愛」は本当に言葉にした途端、軽くなりますよね。
だから私は自分のキャラには一度も「愛してる」とセリフで言わせたことないんですよ。
BLなのにそれでいいのか?って感じですけど(笑)。

銃声

一発じゃない、二発の銃声に慧一の心臓が…
もう、私の心臓も一緒にドキドキ

朔田さんは自キャラに「愛してる」って言わせてないんだ!
でも、朔田さんの作品からは、あふれる愛が静かに伝わってきます。

慧一の「愛」も、蔦谷さんに語ってくれた事で形がはっきりした、と思います(慧一しっかり後悔しているけど)いろんな表現方法があるんですね~。

さくちゃん

うちも一時期「愛してる」ってださいし軽いな~って思ったこともあった。息子らには「愛してるよ」ってめっちゃ言うけどね~ダーには言わないし、ダーも絶対言わないもんね~。愛してるクセにさあ~(⌒∇⌒)

でも愛してるって言うのは、やっぱり言いたいし、口に出さなきゃ気がすまない位の想いだったら言わせたいと思うんだよね~
凛も慧一もやっぱ「愛してる」と言うんだよ。

つか、これはもしかしたらいつも使うか使わないかによるもんなのかね。「超愛してるよ」って…自分はめっちゃ言ってるよ~(;・∀・)

アドさん

同じ話を繰り返しているので、展開は変えようがないからドキワク感は少ないと思いますが、ここは凛の時から思い描いていたところなので、やっとここに来れた~ε-(´∀`*)ホッとなりましたよ。

慧一の行動はまだまだ自分でも予想がつかないですね~
いきなり車降りたのも、この人の勝手な行動なので。
やっぱ自分は慧一が一番好きなのだよ。もっといじめてやる…

ここまできました

皆さん感想書くのが上手いですね~><
私はホントに文章が苦手なので恥ずかしいです~~
凛一君のときとは違って淡々とした感じでお兄ちゃんの気持ちが綴られていく展開がいいですね~
ここに来てお兄ちゃんが気持ちを打ち明けたり、緊迫した状況になったりと、どきどきです><

まりさん

ここまで読んでくれてありがとう!
慧一編が暗いからね~ここまでくるのが大変だった。
でも一応大分慧一の心も決まった気がするので(実はここからが大変だったりもするのだが)少しは気が楽になるのかなと思っています。
事件後から高校に入って、一年のクリスマスまで(空港のところね)書けたらいいなあと思っているのですが。

もうこうなりゃ、自分がどこまで楽しんで納得して書けるかですよ。頑張る\(o⌒∇⌒o)/


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