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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 16 - 2009.08.15 Sat

16、
足元の砂利に足を取られながら、懸命に走った。
夏の日差しが木漏れ日を作る。その光が目に映る茂みも木々の肌も斑にしている。
俺は光と影が目に写り流れていくのを感じながら、凛一の姿を探した。
凛一に何かあったら俺は…俺は一体どうすればいい。

砂利道はけもの道になり、あたりの木々も次第にうっそうとしている。
その突き当たりに…白い服が見えた。
俺は急いで近づく。

楡の木に寄りかかるように、その男は倒れていた。
写真で見た顔…月村孝道、だった。
白いシャツは飛び散った血痕と、流れる血の色で赤く染まりつつある。
右手にはピストル。
左腕の上部と右の側頭部を打ち抜いている。
さっきの二発はこの二箇所を貫いた音だ。
だが、凛一が打たれていないとは限らない。
俺は後ろから来た嶌谷さんと警察官が月村に近づくのを見て、それと反対に歩き、凛一を探した。

見る限りでは辺り一面には凛一の姿はない。
大体凛一がここに居るという確かな情報などは始めからないのだ。
だが、凛一はこの月村と一緒にいると思って間違いはない。
だったら、凛一はどこにいるんだ。
ふいに天上を見上げた。
斜め右上に天使の風見鳥が見えた。
嶌谷さんがさっき言っていた建物だろう。
俺はそれを目指した。

剥がれかかった萌黄色の外壁を見た時、嫌に胸がざわついて仕方なかった。
凛一はここにいる。たぶん予感は当たる。
ただ無事で…いてくれ。

階段を昇るのも面倒で、乱暴に玄関のドアを開けた。
誰も居ない静まり返った簡素な室内。
俺は凛の気配を感じた。
「凛一っ!」
俺は叫んだ。
凛一はここにいる。
もう、確信しかない。
俺は部屋中のドアを立て続けに開け、凛一の名前を呼ぶ。
これだけ呼んでいるのに返事が無いなんて…

最後に残った部屋のドアを開け、中を見る。
部屋の大部分を占めるキングサイズのベッド。両側の壁に本棚があった。
大きく開いた窓からは、高原の涼しい風が吹き抜け、カーテンを揺らしている。

ベッドの上の水色のシーツに、横たわる凛一がいた。
上半身は裸、腰から下は薄い毛布が掛けてある。
凛一は仰向けに、胸に両手を重ねた姿で…眠っていた…

…いや、眠っているのか?
名前を呼びながら、ゆっくりと近づいてみる。
凛一は蒼白な顔でピクリともしない。
陶磁器の人形のような…動かない、人形のように。

俺は後ずさった。
早鐘のように響いていた心臓が、ピタリと音を止めた。

凛は死んでいる…そう思った。

息が出来ない。
俺はその場に両膝をついた。
凛一が死んだ…
俺の、たったひとりの…俺の凛一が死んでしまった。
俺の所為…全部俺の所為だ…
凛一をひとりにしたのも、凛一を悲しませたのも、全部、俺が傍にいてやれなかったから…
だから凛一は、あの男についてここまで来たんだ。
俺は…
凛を…

「慧一くん!どうしたんだ?」
誰かが俺を呼んだ。
顔を見る。
…嶌谷…さんだ。
「凛が…死んでしまった…」
「ばかなっ!」
嶌谷さんは、俺の横を通り過ぎると、ベッドの凛一に近づいた。
凛一の手を取り、顔を近づける。
「…大丈夫だ。呼吸も脈もしっかりしている。慧一君、安心しろ。凛一は無事だ」
「…」

無事?
…生きている?
…本当に?
本当に凛一は…?

「凛一、起きろ!」
嶌谷さんは凛一の身体を揺らし、声を掛けている。
「駄目だ。目覚めない。何か、睡眠薬でも飲まされているのかもしれない」
「…」
「凛一をここから運び出す。さっき警察と救急車を呼んだから、もう間も無く到着するだろう。慧一君っ!しっかりしてくれ。凛一は君が守るんだろう」
嶌谷さんはそう言うと、毛布に包んだ凛一を抱き、部屋を出て行く。

ひとり残された俺は足腰に力を込め、なんとか立ち上がった。
天国と地獄の間を往復した気がした。

凛一の寝ていたベッドを見渡すと、凛が寝ていた枕元に、橙色の山百合が一房置いてあった。
俺はそれを手に取った。
その山百合の陰に隠したように、A4サイズの画集が置いてあった。
表紙には「Angel moment」の表題。
その画集に挿まれた白い紙のページを見た。
書物を持った天使「Rasiel」の絵が記されてあった。
七大天使のひとりだ。
よく見るとその天使の顔は、どことなく凛一の顔に似ている。
そして、白い紙には走り書きで、凛一宛の手紙があった。
たぶんあの男、月村孝道の遺書とも言える手紙だろう。
俺は一瞬、破り捨ててしまおうと思った。
だが、その天使の絵を見ていると、なんとかその気持ちが抑えられた。

これは凛一への想いが詰まっている形見だ。俺に捨てる権利はない。

俺は月村という男に対しては憎悪にも似た嫌悪感しかない。
だが、俺はわかっていた。
あの…自らをピストルで打ち抜き、死んでいる姿は…あれは紛れもなく俺の姿だ…と。

俺は、気が付いていたんだ。
いつか
俺は
凛一を殺す
もしくは
俺が死ななければ
ならない
いつか…
その時が
来る事を…





 15へ / 17へ 

宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


● COMMENT ●

15日…終戦の日? でもこの話には関係なさそうですね。
まさかジオン公国建国記念日とかじゃないですよね(笑)。

さくちゃん

え?ジオン公国の記念日だったの?…知らんかった…「ジークジオン!」って叫ぶんかいな…

いや~お盆だから…あの世からかあちゃんみてるで~って慧一に言っているかなあ~と…思ったり思わなかったり…
あと、死んだ月村の霊がそこに…ガクガク(((n;‘Д‘))η


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