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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 17 - 2009.08.17 Mon

17、
救急車で病院に運び込まれた凛一に、俺は付き添った。
凛一は睡眠薬を飲まされているだけで、身体のどこにも外傷はなく、いわゆる無傷の状態だった。
月村の方は自分が負うからと、嶌谷さんは警察に行ったきり連絡は途絶えたままだ。
俺は父親に連絡し、事の次第を簡単に説明した。すぐに帰国するという父親の慌てた声に、この人も人の親なんだと、思った。

病室でひとり眠り続ける凛一の傍で、俺はただじっとその顔を見つめていた。
あの時…凛一が死んでしまったと思った時、俺は…すべてを失ってしまったと絶望した。
だが同時に俺は…どこかで思ってはいなかったか?
これで凛一は誰のものにもならない…と。
俺の積年の妄執も終わりを告げたのだ…と。

…俺は自分が恐ろしい。
もし、あのまま凛一が死んだとしたら、俺はその場で自殺しているだろう。
ベッドで眠る凛一を抱いたまま、俺は自分の胸にナイフを刺して…心中を図った報われぬ恋人のように…
そして、俺にとっての真実の安息が与えられる。

だが、それは完全に間違った妄想だ。
凛一は生きている。そして俺も生きなければならない。
凛一の為に…

眠りについたまま、ビクリともしない凛一の手を取る。
「凛一…」
名前を呼んだ。
ずっとおまえだけを呼び続けてきた。

これだけじっくりと凛一の顔を間近で見たのはどれくらいぶりだろうか…
少しだけやつれて見える青白い顔。だが何一つ遜色ない容貌だ。
好みの顔は十人十色とはいうが、凛一を見る者は誰も彼を否定するものはいない。
その気高さ故に妬む奴らがいるとしても、凛一は歯牙にも掛けない。
また、凛一を賛美、へつらう輩にも、同様に。
その癖、目に見るもの触れるものすべてを思いどおりにしなければ気が済まない傲慢さ、勝手し放題で回りを振り回すのには全く気取らない。
危険な森や沼地に怖いもの知らずで、入り込む。その馬鹿さ加減でさえ、人は愛すべき勇者として称えるだろう。

凛一はいつだって自由だった。

もし凛一の顔が瞑れたとして、肢体が不自由になったとしても、俺の凛一への愛情が損なうとは思えない。
俺が愛してやまない凛一は、生きている宿禰凛一に他ならないからだ。

どれだけこの弟の寝顔を見続けてきたのだろう。
ずっと、生まれてきた時から、おまえだけを見てきた。
欲情があろうと、お前を愛しいと思う想いに偽りはないよ。
ただ、おまえを壊すのが怖かった。
俺への信頼を裏切るのが恐ろしかった。

おまえを失いたくない。
だから、
俺は、おまえの望む者になる…それだけのものになろう…

「凛一…愛してる」

凛一が目覚めた時、俺は凛一の本当の兄として生まれ変わる。
凛一を守るために、凛一が幸せに暮らせるために、俺は自分の感情など捨ててしまえる。
凛一を二度と泣かすようなことは絶対にしないと誓う。


スローモーションのように凛一の瞼が開いた。
まだどこか焦点の定まらない黒まなこが俺を見た。
「…け、い…」
「凛…」
「ここ、どこ?」
「病院だよ」
「…どうしたの?」
「おまえは、睡眠薬で眠っていたんだよ」
まどろみのような静かな会話。
それすら珠玉の時に思える。
「…慧、泣いてるの?」

俺は泣いていた。
凛一の姿があまりにも
あまりにも無垢すぎて、
あまりにもひとり、遠くにいる気がして…
悲しかった。

凛一、
おまえは誰も汚す事ができない誇り高く生きる者だ。
俺はおまえを守る。
そう誓った、あの日、母が言った言葉を思い出す。
「凛一を光に導く者」に、俺はなろう。

痩せた凛一の身体を抱きしめ、嗚咽しながら、俺は何度も「離れない」と誓った。

俺は、やっと凛一の元に帰ってきた。




                                          text by saiart


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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 





● COMMENT ●

大丈夫と分かっていても…

お兄ちゃんの気持ちが痛くてなかなか読み進められない部分でした。
読んでしまえば「ああ、そうだよね」と、慧一の気持ちもわかるし表現が美しくって たとえば

おまえを失いたくない。
だから、
俺は、おまえの望む者になる…それだけのものになろう…

今までの慧一だったら抑えきれない気持ちをこの事件が乗り越えさせたのかなぁ…なんて。辛いけど必要だし読みたい章でした。

もう1回、読んじゃおう!!

アドさん

このリンミナの最初の頃の慧一から予想もできませんでしたよ、自分も。じつは慧一の凛一への兄弟愛を超えたものっていうのは慧一を作った時に考えていたんですが、ここまでしがらみと言うか…深いものだとは思わなかった。これもキャラが書かせた話だと思う。
そしてこんな重い話は誰も好き好んで読まないと思うけど、逃げられなかったんだよね。慧一が書かせているんだと思う。
慧一が自分に言い聞かせていることは、慧一の身になれば辛いと思うけど、同時に凛を抱かない事が救いでもあるんだよね。

凛を失う事の恐ろしさを知ったから、自分の欲望より凛の存在が大事だと思った…と、言う事で、凛一への欲望がなくなったわけではないんだよね。
しかし、これからどうなるかは…色々予想して欲しい。


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