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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 18 - 2009.08.18 Tue

18、
二日後、凛一とふたり自宅に帰り着くと、緊張した面持ちの父親と叔母たちが待っていた。
この騒ぎが宿禰家にとってありがたくないことはわかっている。
一端の外交官である親父にとっても醜聞極まるものだろう。
事件の全容はわかっている事だし、凛一に咎めるところはない。
だが、中三の子供を放任していた責任は俺も親父も取らなくてはいけない。

事実、この事件を面白おかしく書き立てるマスメディアもいくつかあった。
凛一の名前は出なくても、月村の自殺は新聞沙汰にもなっていた。
この件で憔悴している凛一に追い討ちを掛けないか、それが心配だった。

俺は凛一の傍を一時も離れなかった。
凛一は最初、それを鬱陶しそうにしていたが、一週間もすると、素直に胸の内を表すようになった。何より、心配していた拒食症の症状が今回は免れていた。
元より俺たち兄弟はそれほど食には関心がなかったから、飢えない程度に食うだけだったが。

凛一は月村の事は、何ひとつ俺には聞かなかった。
新聞やインターネットで詳細は知っているはずだ。自分が睡眠薬で眠らされていた時、何が起こったのかは…

ある夏の夕刻、まだ明るい空をふたり並んでリビングに通じるベランダから眺めていた。
一時間前に降った夕立の空に虹が掛かっていた。

「俺、救えると思ったのに…」
凛一がポツリと呟いた。
「思い上がりも過ぎる。ここまで来るとバカみたいだ」
月村の事を話す気になったのだと思った。
「慧一の言うとおりにあの人から離れれば…あの人はもっと生きていたのかも知れない」
凛一は自分を責めている。
誰も彼の命を救う事はできない。だけど…
俺はあの男の死に顔を見た。
あれは、死に行く自分に満足していた顔だった。

「凛一…人を救うなんて簡単にできない。でもあの人は凛の存在に救われていた…それは確かだよ」
「本当に?」

俺は自分の部屋に行き、月村が置いていった天使の画集と凛一への遺書を手に取った。
これを凛一に見せるべきなのか、迷いはあった。
だが、月村の本心を隠したままでいるわけにもいかない。
たぶん凛一のこれからの人生にこの事件は深く関わっていくのだろう。ならば、凛一への思いがなんであったのか凛一も知るべきなのだろう。

俺は、月村の遺書だと言い、凛一に差し出した。
凛一はそれを見るとにわかに顔色を変えた。
黙ったまま、その画集の表紙を凝視する。
「あの人はおまえを本当の天使だと思うことで、救われていたのかも知れない…」
俺の言葉は聞こえているのだろうか。
凛一は瞬きもせずに凝視し続けている。
そして、月村の最後の言葉を綴った紙切れを手にとって、黙読した。

俺は…その手紙は、凛一を悲しませるか、それとも楽にさせるのか、どっちかだろうと思っていた。だが、凛一はその予想を裏切る行動に出た。
凛一は手にした遺書を躊躇いもなく散り散りに破り、足元に捨てた。
その瞳は激しい憤りを湛え、口唇は微かに震えていた。
「さよなら、月村さん」
彼は聞き取れないほどのくぐもった声で呟いた。その声すら怒りに満ちていた。

俺は怒りを全身に纏った鬼神のような凛一を見て、その鮮烈さに、新たに魅了されてしまう感覚に陥った。
なんという存在なのだろう。
俺はおまえを一生見続けても飽きることなどないだろう。

凛一は、庭に歩き出し、上を向いた。
彼はすでに怒りを解き、薄れる虹を惜しむような瞳で暮れかかる空を仰いでいる。
何ひとつ傷を残さない…月村のことなど何もなかったかのように。
だが、忘れようとしているわけではない。
凛一は自分の中にすべてを吸収しようとしているんだ。
彼は跳ね返すのではなく、すべてを受け入れつつ、成長していく性質なのだ。
そういう凛一ならば、どこかで負の感情が出てもおかしくはない。俺はそれを見極め、取り除く配慮をしていかなければならないだろう。

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夏休みが終わり、新学期が始まった。
俺は一年間、大学院を休学することにした。
凛一は驚き、自分の為に休学することを嫌がったが、俺はその意味を細々と説明すると、渋々納得した。だが、内心喜んでいるのが見て取れた。
凛一が寂しがりなのはわかっていた。さすがにこの状態でひとりでいるには耐えられないのだろう。休学した事実は凛一の一抹の不安を消しさったようだ。
あの事件以来、凛一と俺の関係は完全に修復したと言って良く、凛一は昔のように屈託のない笑顔を俺に見せるようになった。

当たり前の幸福な日常が戻ってきた。

だが、学校ではとんでもないいじめが凛一を襲っていた。
凛一は全く背を向けなかった。
苛めについては、色々な目に合ってるとは言うが、それで落ち込む気配は見受けられない。
しかし、相当の被害は受けているはずだ。
カバンや教科書の落書きなどはまだかわいい方だ。
学生服は汚れ、終いには無くなり、とうとうジャージで帰ってきた。
次の日は凛一は平気な顔で、私服で登校した。
生傷のひとつやふたつは珍しくなく、俺は学校に怒鳴りに言ってやろうかと言うと、凛一は「いいんだよ。ケンカするの、楽しいぜ。生きてるって気がするね。それにストレス解消にもなる。慧に武術関係を習っていて良かったよ。負ける気がしないもん。相手を病院に送り込む寸前で止めるのが賢い遊び方ってね」
凛一はウインクしながら、笑っていやがる。
恐れ入った。
細やかな神経だと思えば、とんでもない肝の据わったところがある。
あの容貌で…と、凛一を知らない者は疑うだろう。

進学の事で、学校に呼び出される。
案の定、事件の所為で高等部への進学希望を拒否された。
凛一は俺の後輩になりたがっていたから、酷く残念そうだった。俺も望みを適えさせてやりたかったが、私立の評判はお家の大事だから仕方のないことだった。
それに大半の生徒が高等部に移るんじゃあ、いじめが無くなるとは思えない。

俺は凛一に合う高校を探すことにした。
それにはこの地域から出る必要がある。
俺は凛一の意向を聞き、帰国した父親に相談した。
父親は自宅を売り、凛一の環境にいい家を探すことを提案した。

鎌倉の一等地に条件のいい建築中のマンションを購入し、翌年の一月に引っ越すことにした。そこから歩いて10分程の場所に、凛一の受験する高校もある。
合否を問う偏差値はかなり高めのものだったが、凛一なら大丈夫だろう。
俺が徹底的に教え込めばいい話だ。

街は師走を向かえ、どことなく気忙しい空気が流れ始めていた。





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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


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