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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 19 - 2009.08.19 Wed

19.
俺達は生まれ育った家での最後のクリスマスを、ふたりで過ごした。
家にある限りのクリスマスの飾りを並び立て、折角だからと買ってきたモミの木に派手にデコレーションした。
手作りの料理とワインで、クリスマスを祝う。

「なんだか…思い出しちゃうね。梓のこと…」
「…そうだな」
「梓はいつも俺に天使の格好させていたよね。自分はマリアさまになりきってさあ…慧は、何の役だった?」
「キリストの誕生を祝う賢者だよ。その他大勢、羊飼いの役もヘロデ王の役も俺がやった」
「そんなにやってたの?むちゃくちゃだなあ」
「梓の命令さ。とんでもない横暴なマリアさまだろ?」
「慧の女嫌いがわかる気がする」
「梓はいい女だったよ」
梓が生きていれば、俺はともかく、少なくとも凛一をこれほど寂しがらせたり苦しませる事はなかっただろう。凛一は梓を母親代わりにしていた。そして梓も俺とは違った愛情を、凛一に注ぎ込んでいた。
俺の梓への感情は凛一とは違う。
梓はいい妹だった。愛してもいた。だが、到底凛一への愛情とは比較できないものだった。
凛一には口が裂けても言えることではない。
そう考えると、俺も色んな秘密事を抱える哀れな贖罪者だと思う。

「この家無くなっちゃたら、梓は恨むかなあ…」
「梓は…母さんもだけど、凛一の幸せをいつも願っていたから、凛が幸せなら、この家が無くなっても悲しまないと思う」
「俺は幸せだよ。母さんも梓も…父さんもいなくてもさ、慧一がいてくれるから…十分幸せ」
「…」
判ってはいるが、凛一がこうも素直に甘えてくれると、気恥ずかしくなってしまう。俺はポーカーフェイスだから、そういう気持ちを読まれる事はないんだが。

「ここ何年かは慧とこうして穏やかな気持ちで居られなかったじゃん。だから、なんかね…すごく嬉しいんだ。慣れてしまうとありがたみってわからなくなるって言うらしいけど、慧といるのってね、安心したりドキドキしたり、嬉しかったりするしねえ~。俺、単純に慧と居るの好きだし、傍に居てくれてありがたいな~って思うよ」
「…俺も凛の傍にいるのは…大変だけど、楽しいよ」
「本音が出た~不出来な弟が色々仕出かして、本当のところは参ってる?」
「いや…全く…そういう気持ちにはならない。凛は弟だけど…俺以上に大事なものだから…守りたいって、本能的にね、そう思うんだよ。俺はおまえが幸せになってくれるのを、この目で確かめられたら、生きている意味を感じると思う」
「宿禰慧一として生きるって言った意味だよね。でも慧自身の幸せはそれでいいの?俺が誰かと幸せになったら、慧はひとりになるんじゃない?」
「存在の距離間としては離れることになっても、俺にとっては凛と離れたことにはならないと思う」
「…」

凛一は持っていたフォークをカチンと音をさせ、皿の上に置いた。
「…凛一はどこにいても俺の弟だし、俺が生きている限りは守ってやりたい存在なんだ」
「だったら、俺も他の誰かとくっついたり、結婚したりしないよ。慧の傍から離れたくないもの」
「ばか…俺の傍にいたって本当の幸せは手に入らないから…凛は愛する人を探すんだよ」
「兄貴がひとりなのに俺ばっか誰かと幸せになれるかよ」
手酌でワインのボトルからグラスに注ぐと、凛は舐めるように少しずつ飲み干していく。
不味く感じるなら飲まなければいいのにと、俺は笑う。

「それはそうとさあ。兄貴は今付き合ってる人はいないの?」
「…いないね」
「向こうにも?」
「正直、勉強が忙しくてそれどころじゃない」
シカゴで暮らしていて二年、なにもなかったわけじゃなかったが、どれも遊びの域を出ないものばかりだった。
一時的な遊びと言うものは終わればむなしさだけが付きまとうものだから、しなきゃいいはずだが、それでも独り寝をするよりもマシか、と思う夜もあるってことだ。

「俺もいないよ。色んな奴と寝てみて思うけど…あ、慧はこんな話嫌い?」
「いや」
「怒ったりしない?」
「しないよ。実を言うとね、俺も凛に偉そうな口を叩ける柄じゃないんだ。おまえの歳頃には結構遊んでいたしね」
「…全然気づかなかった」
「凛はまだ5,6歳だろ?わかるわけないよ」
凛一の性体験を聞かされるのは少々胸の痛い話だが、凛一が胸の内を晒したいというのなら、俺はそれを受け止めなきゃならない。
俺はグラスたっぷりに注いだワインを一気に喉に流し込んだ。

「俺、色んな奴と寝てみたの。勿論好きなタイプじゃなきゃ寝ないよ。女も男とも結構した。でも男の方が…俺が下の場合ね、大方優しいんだよね。俺が子供だからって所為も大きいんだろうけど、みんな優しくしてくれるから甘えちゃうんだろうねえ~。恋をしているわけじゃないんだけど、そういう錯覚に陥るのかね。なんか抜け出せないんだよね~そういうとこ俺の弱さだと思う」
「中学生なんだから弱くて当たり前だ。その歳で悟られたら逆に気持ち悪いぜ」
「そうかな…だったら少しは気が楽になるよ。俺、自堕落でどうしようもない奴って思っていたからさあ…」
どうしようもないのは俺の方だ。こんなに尊い子をほったらかしにして、寂しがらせていたんだからな。

「月村さんとは付き合うって感じじゃなかったんだ。あの人はノーマルだったから、俺を抱こうとはしないしさ…でも俺、一回ぐらいあの人と寝たかったよ…慧は怒るだろうけど」
「怒らないよ」
「俺、随分セックスやってないよ」
「知ってる」
「普通の中学生より知りすぎちゃったから、しばらくはおとなしくしてる方がいいと思って自重してますけどね…たまに人肌恋しくなる時あるよ。困ったときの自家発電っていうけど、やっぱりね~他人の肌ってあったかいって感じるじゃん」

ワインに酔ったのか、凛一はあの前日の晩のことを喋りだした。
月村の事を凛一が口にしたのは、遺書を破いた時以来だった。

「月村さんはとっくに覚悟していたんだね。あの夜は本当の意味で最後の晩餐だった。月村さんは俺のことをキリストって言ってた。俺、そんなのになりたくない。それで俺は月村さんをユダみたいだと言ったんだ。キリストを好きすぎて破滅した男。ねえ、慧。俺は月村さんをユダにしてしまったのかな…」
「そんな事は…」ないとは言えない。月村は進んでユダの役を引き受けた。それはあの人の優しさだったんじゃないだろうか…
俺は酔いつぶれ気味の凛一を見つめながら、月村が何故凛一を抱かなかったのかを思い巡らせていた。





                                          text by saiart




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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 



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