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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 20 - 2009.08.20 Thu

20.
酔いが回り、つぶれた凛一を部屋へ帰るように促しても起きないから、俺は凛一の身体を抱きかかえて連れて行くことにした。
「あ、お姫様だっこだあ~」赤い顔をした凛が足をバタつかせる。
「じっとしてろ。床に落っことすぞ」
「は~い」
「おまえがこんなにお酒に弱いとは知らなかったよ」
「未成年に飲ませておいて良く言うねえ~今から少しずつ覚えればいい話だよ」
「そりゃそうだけど…と、言うか、おまえ、軽すぎないか?」
「ん?」
「体重だよ」
「ん…50無いよ」
身長は確実に伸びているのに50キロないなんて、痩せすぎだろう。
もっと料理のレパートリーを増やして、こいつの食生活の管理をキチンとしなきゃならない。
「ねえ慧、聞いて?」
「聞いてるよ」
凛は俺の首に両腕を回してご満悦そうな顔で俺を見る。
「俺、随分セックスしてないよ」
「さっきも聞いた」
「慧も恋人居ないっていったよね。じゃあ、俺たち恋人にならない?」
「俺たちは兄弟だろ?」
「じゃあ、寝るだけでもいいじゃん。慧、俺とセックスしようよ」
「…やだよ」
「なんで?」
「酔っ払いのたわごとには付き合えない」
「慧は俺を好きだろう?愛してるって言ったじゃない。兄弟でも好きなら寝たいって思っても不思議じゃないよね。男同士なら子供は出来ないし、一回ぐらい寝てもいいんじゃない?」
「凛、そういう話、やめにしないか」
「なんで?」
「俺はおまえを愛しているけど…セックスの対象にはしたくないんだよ」
「どうして?」
「…弟だからだよ」
「…」
凛は黙り込み、少し拗ねた顔で俺を睨んだ。

凛一の部屋のベッドに、凛の身体をそっと置く。
艶やかな黒髪が薄いブルーのシーツに広がった。
赤く染まった目元や頬が、秀麗な凛一の横顔を不思議と清楚に魅せている。
俺は息を止めてそれを見つめた。

rin3


「慧…」
「なに?」
「どうしても駄目?」
駄目という言葉が何を意味しているのかは理解している。
凛、俺は困ってしまうよ。
おまえにそんな目で懇願されると、折角決心した心が揺らいでしまう。
黙っていると、片腕を自分の目元に押し当てた凛一が、もう片方の手を俺に差し出した。
俺はその手を取った。
「時々…眠れないんだよね。寝たらあの時みたいに…慧は月村さんじゃないのはわかってるけど…俺の傍から消えていってしまいそうな気がして…俺、臆病だからさ…」
凛一が何を求めているのかはわかっていた。
俺は凛一の右手を絡ませ、口づけた。
「大丈夫、俺はここにいる。凛一の傍から離れない」
「…本当に?もう俺をひとりにしない?」
「誓うよ。絶対だ」
腕を離した凛一の黒い瞳が俺を見つめた。
「じゃあ、誓いのキスして」
「…」
正直キスで良かったと胸を撫でおろした。
セックスでも強要されたら、この状況では俺もやりかねない。
やったところで、俺も凛一も後悔するのは目に見えている。

俺は凛一の前髪を払い、額にキスを落とした。
凛はつまらなさそうに口をへの字にすると「赤ん坊じゃないんだからさ。口と口でやんない?」と、言う。
困った弟だと諦め、今度は口づけると、凛は当たり前のように舌を差し入れ、逃げないように俺の後頭部を押さえ込んだ。
諦めた俺は凛の思い通りに任せることにした。

凛一の口内も吐く吐息も、飲んだワインよりも甘く純度の高いアルコールの香りがして、うわばみの俺でも、酔いつぶれてしまいそうだ。

濃厚なキスを味わって気が済んだのか、凛一は口唇を離し、満足そうに微笑むと目を閉じ、そのまま静かに寝息をたて始めた。
絡ませた指の力はまだ弛めていない。
俺はその寝息を確かめ、凛一のどこか切なげな寝顔を見つめ続けた。
そして…ついに感情が押し流されてしまう。

神様…キリストでも仏陀でもムハンマドでも…誰でもいい。
どうか、凛を…凛一を救ってくれ。
降りかかる災いのすべてを振り払って、この子を守ってくれ。
俺の幸せなどどうでもいい。
凛だけには…本当の幸福を与えてやりたい。
それだけだ…
それだけで俺は…救われるから。

俺は一心に祈った。
どこかの酔っ払いのメリークリスマスと言う歓声が、窓の外から微かに聞こえていた。



                                          text by saiart


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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 



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