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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 21 - 2009.08.24 Mon

21、
翌年、凛一の学校は一月からは受験に忙しい生徒は自由登校になる。それを頃合と見定め、俺たちは新築のマンションに引っ越した。

13階建ての最上階は見晴らしも良く、リゾート気分を味わえる。
「俺、こういうのが理想だったの。嶌谷さんのマンションがね、とにかく凄くかっこよくて、見晴らし最高だったからさあ…」
凛一も有頂天で、自分の部屋をあれこれとコーディネートしている。
「兄貴と俺の二人じゃもったいない広さだね」
「親父の部屋も空けときな。俺たちのパトロンさんなんだから」
「わかってる。父さんは父さんなりの愛情を示してくれてるってことは。これでも十分感謝してんの」
「うん」
親父はここを買う際に、条件として、マンションの名義は俺と凛一の名前にするように命じた。親父はやはり俺たちに対して、詫びる気持ちがあるのだろう。彼なりの精一杯の謝罪の形ならば、ありがたく受け取ろうと、凛一と話し合い同意した。

「嶌谷さんと言えばさあ、あれから一度も連絡をしてないんだ。『サテュロス』にも行ってないし…」
部屋の後片付けもなんとか一応の形になり、注文した引越し蕎麦を目の前にした凛一が、口を開いた。
「そうだね。嶌谷さんには色々世話になったのに、ちゃんとお礼もしていなかったし…一度一緒に店にでも出向いてみる?」
「…」
「凛?」
「俺はいいや。慧、悪いけど、代わりにお礼を言いに行ってくれない?」
凛一は少し顔を曇らせて、誘いを断った。
俺は「わかった」と返事をして、黙って蕎麦を食べ始める凛一の様子を伺った。

まだ無理なのか…
まだ「Satyri」に足を向けるほどには、凛一の心の整理はついていない…
月村の呪縛が凛一をあの事件から解放していないと知れば、死んだ月村も本望だろう。
死んだ奴に対して腹を立てても仕方ないが、全くよくも俺の凛一を…と、思わない日はない。
どういう形にせよ、自分の所為で(と凛一は思っている)自殺した月村を凛一は一生背負っていく十字架だと感じているだろう。
俺はそれを一緒に担ぐ事はできない。
凛一が、いつかそれを思い出にする時を見届けるだけだ。

天気の良い小春日和の午後、凛一の受験する高校を二人で見学に行った。
聖ヨハネ学院高等学校は文字通りミッション系の高校で、立派な教会もある。
祭日の所為か、チャペルで結婚式が行われていた。

「男子校の教会で結婚式ってさあ~なんか変だと思わない?」
丁度教会から出てきた花嫁花婿の歓迎を、招待客と混じって拍手をしながら、凛一は俺の耳元で囁く。
「別に変じゃないだろう。神の御前では何人も平等である」
「…慧にそういう言葉は似合わねえし…」そう言いつつ、凛が俺の頬にキスをする。
「幸せのおこぼれでも頂こうよ」と、凛一はくったくなく笑う。
なんだろう…
俺はここが凛一に相応しい場所だと感じた。
たぶん、凛一はここに通う事になる。
そして、素晴らしき青春の日々を過ごすことだろう。
教会の尖塔に輝く織天使ウリエルの右手に待つ炎の剣は、凛一を守り抜く為にあるのだから。

凛一の受験も終わり、難なく志望校へ合格した。
凛には太鼓判を押した俺だったが、内心は心配だった。
受験は聖ヨハネ学院一本に絞っていた。
ペーパーテストの出来はそれほど心配していなかったが、内申書は当てに出来ないし、しかもあの事件を引き合いに出されたら、何も言えない。
面接では何も聞かれなかったと、凛一は平気な顔をしていたが、合格の知らせを聞くまではふたりともどこか張り詰めた心持ちだった。

合格して安心した凛一は珍しく静岡の伯母のうちに遊びに行くと2,3日家を空けた。
俺は凛の留守中、合格の報告も兼ねて、嶌谷さんに会いに行くことにした。

営業中の「Satyri」に伺うのは、今回が初めてだった。
嶌谷さんと会うのも事件後一度、以前の自宅に来てもらった以来だ。
本当はもっと早くにちゃんとした御礼をすべきだった。
凛一のことはともかく、月村に関しては嶌谷さんが一任してくれたおかげで、月村の親類その他からの苦情や変な脅しなどは一切なかった。
あの人はただのマスターで終わる人ではないんじゃないだろうか。相当なしたたか者だ。

「Satyri」の二重扉を開いて店内に入る。
時間的にもかなり遅いからか、薄暗い店内に疎らなお客の影が見えた。
4箇所のフルレンジスピーカーから流れるジャズの音は生演奏ではなかったが、十分に腹底に響く音色を保っている。充実した音響設備だ。
凛一がこの環境で、月村のピアノを聴いていたのかと思うと、愉快な気持ちにはなれそうもない。凛を連れてこなくて良かったと心から思った。

俺はカウンターの奥に立つ嶌谷さんの姿を見つけ、目の前に座った。
嶌谷さんに挨拶する前に3席ほど離れた女性っぽい男性に声をかけられる。
「あら?凛一くん?…じゃないわよね~。でも似てる~あ、わかった!凛くんのお兄さんじゃない?」そう言いつつ、彼(彼女)は俺の傍に寄ってきて、間近でじっくりと顔を凝視された。
「…そんなに、似てます?」
「似てるっ!凛くんが大人になったとしたらこの顔だわ~っていう理想の現実がここにある!って感じかな~。あ、でもちょっと違うかも。凛くんはもう少し繊細な感じだもん。でもあなたいい男ね~。一度付き合わない?」
「ミコシさん。いきなりナンパはご法度でしょう。ここはそういう場所じゃないんだから」
「あら、そうだったかしら~結構いい男を捕まえているけどね。ここで」
俺はゲイ専門のクラブなどもあまり経験がなく、どっちかというとシロウト相手の方が好きなので、こういう方には免疫がない。
圧倒されて黙っていると、嶌谷さんは俺のテーブルにロックの水割りを置いてくれた。

「慧一くん、久しぶりだね。元気だった?」
「え?ああ…元気です。すいません、連絡もなしに勝手に来てしまって…」
「お客様はいつでも大歓迎だよ」
暗くなったステージを眺めて、嶌谷さんを見る。
「今日は演奏は?」
「もう終わったよ。もう間も無く閉店だからね。時間は大丈夫なんだろう?」
「ええ」
「じゃあ、店が終わったら俺のマンションへ行こう。ここじゃ落ち着かないしね」
内緒話をするように手をかざして声を落として言う嶌谷さんに、隣のミコシさんが「ひどい~マスターお持ち帰りするんだ~自分だけ~」と、ひとしきりぼやいていた。







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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


● COMMENT ●

あ、お持ち帰りされちゃう・・・

旅行から帰ってきました~。
まとめ読みです。なんだかリンと慧一の関係がBLっぽいぞ!と思ったら。
慧一がお姉さん(?)に言い寄られてるー!
更に、お持ち帰りされるー!!!
慧一のひたむきなまでの凛一への愛情が、これでもかと伝わってきます。
なんだかもう、兄弟でもイイじゃない?って気になっちゃいます。
聖ヨハネには、ミナが待っているのに~。

アドさん

おかえりなさい~苗場は楽しかった?

この兄弟はいちゃついて当たり前の怖い兄弟だから、何があってもおかしくないけど、一線にこだわる慧一としたがる凛を描きたかったの~
ミナがいてもいなくても凛は好きな奴と寝る奴だよ~そこらへんの貞操観念は薄いもん。


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