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2019-09

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 22 - 2009.08.26 Wed

22.
閉店後、後片付けを待って、嶌谷さんのマンションに連れて行ってもらった。
道すがら、凛一の近況などを話したら、嶌谷さんは心から喜んでくれていた。
この人は本当に凛一を愛してくれているのだろう。
俺はふと凛一という存在を不思議に感じた。
人を惹きつけ、無条件に愛してもらえる人間がこの世にどれだけいるというのだろう。
親兄弟ならともかく、こんな大して関わりのない他人にも凛一は温かく愛されている。
そういう弟を俺は見守っていかなければならない。
親愛の情と肉欲の情のふたつを天秤につりあわせ、傾かないようにコントロールする。
それが俺の凛一への愛だろう。

リビングから夜景を見る。
「新しいマンションを買う条件として凛一は見晴らしのいい最上階がいいって言うんです。嶌谷さんの家は最高にステキだってね。確かにいい眺めだ。タワーの光が一晩中眺められるなんて」
「天気のいい日は富士山も良く見える」
「…嶌谷さんはひとりで見るんですか?折角のいい景色を」
「え?一人で見ちゃいけないかい?」
「いや、だって嶌谷さんはどうみてもいい男でしょう。引く手数多ではないんですか?」
「そりゃ君の方だろう」
「…」
俺たちは顔を合わせて笑った。
「まあ、カテゴリーに区別されれば、俺たちは少数民族には違いない。それに何も生み出さないクセに偉そうにしているからまさに俗物的生き物だね」
「ああ、わかります。幸せを絵に描いたようなファミリーを見ると、自分が惨めなのにそれを認めたくなくて、ああはなりたくねえなと嘯くんでしょ?」
「俺なんかもう歳だし、厭世的になってもいいんだが、慧一くんはまだ20代だろ?良き未来を展望してもいいんじゃないかい?」
「俺の未来は…凛なしでは考えられないから…」
少し困って苦笑すると、嶌谷さんは同じような顔をする。

テーブルには店の残り物と称した酒の肴が広げられた。
マグロのカルパッチョやスティルトンチーズを乗せたクラッカーにカラスミまである。
折角だからと年代物のワインを抜いた嶌谷さんは、機嫌がいい。
「いつもひとりだからね~適当で済ますんだが、人がいるとおもてなし精神がみなぎるっていうか…楽しいね~」
「凛一じゃなくて残念でしょう」
「凛はまだ未成年だから、さすがにその点はちゃんと考慮してましたよ。でもあいつが大人になったら一緒に飲んでみたいね」
「次期大人になりますよ」
こういう本音をさらけ出せる相手がいてくれることを俺はありがたく思っている。
出来るなら嶌谷さんとは一生付き合ってゆきたい友人だ。

「…凛一は幸せそうだな~」
「え?」
「慧一君を見ていたらわかるよ。凛は本当に慧一君が好きなんだな。君といるのが一番幸せだと感じている。一回ぐらい寝てみた?」
「馬鹿なこと言わないでください。…まあ、一度めちゃくちゃ誘われましたけど…」
「あはは、凛ならやるよな~あいつ本当に慧一君と寝たいんじゃないか」
「酔いつぶれていただけですよ。俺と寝たいって理由もひとりじゃ寂しいからってだけで、本当に愛しているとか…そういう意味でじゃないんだ」
「…そういう意味でないと、君は凛一を抱けない?」
「嶌谷さん、俺たちはいつだって抱き合って濃厚なキスだって挨拶代わりにやる兄弟なんです。それが当たり前になってしまった。凛にとっては俺とやるセックスも兄弟のスキンシップぐらいにしか思っていない。だから問題なんだ」
「慧一君は凛一に恋人として自分を見て欲しいんだ」
「…見て欲しくない。俺のことはいいんですよ。凛がこれから先、どんな子を好きになろうが、俺はどっちにしろ嫉妬もするし、腹も立つ。そんなことはわかっています。でも大事なのはあの子が幸せな恋をすることだ。俺ではそれは与えられない。
他人を好きになって、相手を思いやる。そんな人間になって欲しい」
「君は大変な十字架を背負っているね~」
「十字架じゃない。俺は愛を背負っているだけです。それに…」
「ん?」
「入学する高校…鎌倉の聖ヨハネ学院高校なんですが、凛に合っている気がするんです」
「聖…ヨハネ…あちゃ~それクサレ縁があるよ」
「何が?」
「その高校の前の学長は父の親友だ。父とは関係ないがそいつはゲイだった」
「…凛一は別の学校に行かせた方がいいですかね…」
俺は冗句とも言えぬ声を上げた。

止め処もない会話は、眠気などもたらさない。
俺と嶌谷さんは何十年来の旧友のように、会話が途切れなかった。
嶌谷さんは知識人らしく、文学や歴史、世情に詳しかった。とりわけ世界各地の遺跡を巡った話など興味が尽きない。
凛一の話になると親バカのように相好を崩す嶌谷さんに同調して、俺も従来の凛一バカを披露したりする。

ふと月村の事を聞いてみたくなり、嶌谷さんに尋ねてみた。
「月村…さんは何故凛一を抱かなかったんでしょうか?俺は、彼がノーマルだからという理由だけじゃない気がするんですが…」
「凛一は例の調子で口説いたんだろうね~でも月村は凛一を抱かなかった。俺は月村は凛一に対して性的な意識は十分あったと思うよ。だけど凛一を自分の欲で汚したくなかった…結局そこだろうね。セックスしたからと言って、それを穢れと言うこと自体間違った認識だと、俺は思うけどね」
「そういうあなただって、凛一を抱いたりしないじゃないですか」
「それはあの子がそれを望んでいないからだよ。本気で抱いて欲しいって強請られたら、喜んで頂くさ…お兄さんの目の前で言うことじゃないがね」
と、嶌谷さんは悪びれる様子もなく言う。

「凛を抱く事が穢れるとは俺を思っていない。けれどあなたと俺では立場が違う。月村さんともね。彼は死に行く場に何故凛一を伴ったんでしょう。好きなら…彼が心から凛一を思うなら、ああいう死に方を選ばなくてもいいでしょうに。残された凛一がどう傷つくのかぐらいわかるはずだ。俺は…それが許せないんだ」
「…彼はやはり愛が欲しかったんだと思うよ。実は…彼の遺骨を受け取る人間はひとりもいなかった。結局、俺の檀家の寺で預かってもらったよ。
親類も誰も月村を省みる者はいなかった。彼は孤独の中、たったひとりで死のうとしたんだ。でも…凛一が追いかけて、自分を見つけてくれた。どれほど嬉しかっただろうねえ。
多分、凛一があの別荘に行った時、月村は本当に救われたと思うんだよ。…だから凛一を最後まで抱かなかった。だが、どうしても最後に…自分という存在を凛一の中に刻みたかったんじゃないのかな」
「月村の遺書には…凛一に残した手紙があったんです。それには忘れても構わないみたいなことを言っておきながら…『君の糧となりえる事を…』と言う。それが凛一にとってどういう意味になるのか知ってて書いたのなら、許せない」
「それを凛一に見せたのかい?」
「凛一宛の最後の手紙です。俺が処分するわけにはいかなかった。それに…凛一は月村の本心を知らなきゃならない。俺は凛一を何の傷も負わない人間にはしたくない。凛一を天使にはしたくないんだ」
「…慧一君ほど凛一を慈しむ人間は、いないと断言しようか」
「所詮は血族の愛情だからかもしれません。それに…心底惚れている者の成長や幸せを願うのは、当たり前でしょう」
「さあ、わからないよ。なにしろ究極の愛というものは憎しみや争い、終いには殺し合う…が持ち味だからね」
「縁起でもない」
冗談なのか本気なのか、嶌谷さんは片端だけで笑うと、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまった。
俺はその寝顔を眺めながら、凛を想った。

風邪など引いていないか、寂しさに泣いたりしていないだろうか、どうかあの子に安らかな眠りを与えたまえ。

ここまで来りゃ間違いなくきちがい沙汰だな、と自分を嗤いながら。



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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 



● COMMENT ●

カウンターまわってるから毎日覗きに来てる方はいらっしゃいますよね。
けど、テーマがかなり重いからコメントしにくいのかも。
気になるようでしたらアクセス解析つけたらどうですか?
FC2の解析はどういうのか知りませんが、来訪のあった時間帯や人数、
どこから飛んできてどの記事を読んでいったのかわかるんじゃないですか?
「自分が楽しければそれでOK」の精神からは外れちゃうかもしれませんが…。

さくちゃん

気にしてるちゃあ気にしてるけど…いや、こんな重くてすんません…って感じですなあ~
コメント仕様がない…ってことだろうけど、それもまたよしですよ。
読み手を選ぶからねえ~

自分のために書いてるけど、他の人が読んで面白いって言ってくれたら素直に嬉しいよね~
昔、学校でよく作文選ばれて読まされてたもん。嬉しかった~あの気持ちと同じかな~

結局ね~解析つけるほど気にしてないんだ~あんがとね~

大人同士の語らい

今回、大人の語り合いでしたね。
蔦谷さんカッコ良かった~。
って、こんな、ありきたりの感想でもサイさん喜んでくれますか?
リンミナの楽しくて美しい世界の裏側に、事件と近親愛と慧一さんの苦悩があるんですね。
次回、私の好きな紫乃さん登場!!
楽しみにしています。

苗場は涼しかったですよ~。

アドさん

喜ぶよ~ん\(o⌒∇⌒o)/
…そんな敷居が高いか?うち…(;´▽`A``
ま、いいけど…

大人の語り…でした?全く意識してないで書いてるんだけど…ただ成りきっているだけだからさあ~
リンミナが楽しくて美しいっていうのも凄く貴重な意見かも…
それも意識してないのよ~キャラが動いているだけだから。

志乃君、結構かわいいと思う。しかし紫乃を相手にすると慧一はおそろしくSになるんだが…これも意識しないでキャラになっているだけなんだよね~慧は基本凛意外はSだからなあ~


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