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2019-11

宿禰慧一 「イリュミナシオン」 23 - 2009.08.28 Fri

23.
翌日、自宅に帰ると、凛一は静岡の叔母の家からすでに帰宅し、むくれた顔で俺を迎えた。
「どこへ行ってたのさ。折角、早起きして帰ってきたのに。慧は俺がいないからって、羽伸ばしすぎだよ」
「ごめん…嶌谷さんのマンションに招待されて…酔いつぶれていた」
「え?嶌谷さん宅(ち)に行ったの?嶌谷さん、元気だった?」
「うん、凛のことを沢山話したよ。とても嬉しそうだった。おまえにすごく会いたがっていた」
「ああ、俺も会いたいな~嶌谷さんは本当の親父みたいだからなあ~」
「バカ、先輩ぐらいにしておけよ。親父の立場がない」
「嬉しいよ」
「何が?」
「慧が嶌谷さんと仲良くしてくれると、俺、味方が増えた気になるもん」
「…凛は…今から沢山の仲間に出会うさ。おまえが強く生きれるように、出来るだけ友人を作る事だね。俺が行っても寂しくないようにね」
「…そうだな。半年したら慧は大学へ戻っちゃうしね…」
「二年なんてすぐ経っちまうから、そしたら俺は凛の傍を離れない」
「うん、絶対だ」
センチメンタルになる凛一を胸に抱きながら、いつまでこうして愛弟を独り占めできるのだろう…と、相当に胸が痛くなった。


凛一の高校生活が始まった。
俺の留守中に、喧嘩をして怪我をした凛一が入学式も出られず、早々に一週間ほど休学するというハプニングはあったもの、その後は順風満帆といえた。
凛一の様子を見れば判る。明らかに中学時代とは違う自由を謳歌する気概に溢れている。
あの学校の闊達な気風がそうさせるのか、凛一には居心地がいいらしい。
「好きな奴はできたか?」と、聞くと、いかにも歳相応に「まあね」と、微かに照れ隠しをしながら誤魔化す風もかわいらしい。
凛一がこうも落ち着くと、俺も自分の肉欲的な思いを煩わせなくて、平穏でいられる。

6月のうっとおしい梅雨の午後だった。
自宅の電話を取る。
電話の一声を聞いた俺は、相手が誰だかすぐわかった。
大学時代の恋人だった藤宮紫乃だ。
驚いた事に、紫乃は凛一の高校の副担任をやっていると言う。
何の縁(えにし)なのか、俺は正直困惑した。
凛一の事で話があると言う。
俺が断れないカードを出してきやがった。
渋々承知すると、受話器の向こうから苦笑する声が聞こえた。

紫乃の事を思うと俺はやりきれない想いで一杯になる。
あれだけ尽くしてくれた相手を、俺は勝手に電話一本で三行半を突きつけ、さっさと逃亡したようなもんだからな。
俺への恨みも深いだろう。
凛一の副担任だったら尚更だ。
凛一の様子じゃ、俺たちの事は曝してはいないようだが、いつかはバレるに決まっている。
普通なら弟の凛一に害を加えることも加味しなきゃならないところだが、何故だかそうは感じない。
紫乃の性格を考えれば、あいつが俺への恨みを凛一に晴らすとは思えないんだ。
紫乃は悪ぶってはいるが、心底心根は優しい。
俺は九月までしか、凛一の傍にいられない。
うまくいけば、紫乃が凛一を守る立場を引き受けてくれるかも知れない。

…そこまで考えて俺は溜息をついた。
勝手な言い草だ。こっちの都合で紫乃の感情も考えないで重荷を引き受けてくれとは、さすがに酷すぎるだろう。
だれもが凛一を俺のように思っているわけでもないんだから…

家庭訪問と称して紫乃が自宅に来た。
俺は縒(よ)りを戻すのが怖くて、玄関の外で紫乃と話した。
どうせ最上階には俺たちの一宅しかないポーチだ。誰にも聞かれることもない。

三年ぶりにみる紫乃は、髪を伸ばし、眼鏡をかけていた。聞くと先生らしく見える為の伊達眼鏡だと笑う。どう見たって色眼鏡にしか見えないと、俺は首を捻った。
眼鏡の奥の控えめな優しさは変わらず、紫乃が紫乃であり続けている事に、俺は胸のつっかえが消えた気がした。
紫乃の奴といえば、俺の頭からつま先までをしげしげと眺め、あげく口唇を尖らした。
「そんなに…俺、変わったか?」
そう言いながら俺は黙り込む紫乃に少し面食らって一歩引き下がった。
「いや…変わらんよ。相変わらず魅力的だね、慧一は」
少し躊躇いがちに言う紫乃が、なんだかかわいらしく思え、思わず手を出そうかと思ったほどだった。
紫乃は家の中に入りたがったが、俺ははっきりと断った。それに気分を悪くしたのか、くるりと背を向けると、さっさと帰ってしまった。
凛一の事は何も話さずだ。
…一体あいつは何をしに来たのだろう…

紫乃の怒った顔を思い出すと、俺は笑いが込み上げて仕方なかった。
あいつも相当俺にイカれているらしい。









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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 


● COMMENT ●

ついに紫乃が登場しましたね。
でも、慧一のリンへの愛を散々読んだあとだから、
紫乃は気の毒なキャラ、というイメージが…。
幸せな紫乃の顔が見たいです。

さくちゃん

紫乃は…今からもかなり可哀相な役回りかもしれない。
慧一のことを諦めてはいないけど、慧一自身が全くその気がないからね~
わたしゃ、慧一はやっぱどっかおかしい人間だと思う。凛以外には、それも自分を好きになる相手には非常に酷薄だね。何をしても許されると思い上がっているところがある。
これは宿禰家の特徴なんだろうね。
凛自体も慧一が思ってるほど、可哀相じゃないのに、慧一がやたら同情する風が…自分は笑えるし、かわいくもあるんだよね~
慧一を書いてるとほんと楽しいよ。


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